ころり転げた
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ころり転げた
先生がだ。授業中こんなことを話していた。
「時々ね。そうしたことがあるんだよ」
「自分では何もしなくてですか?」
「思わぬ出来事が起こったりするんですか」
「そうだよ。いいことか悪いことかは別にしてね」
偶然だ。何かが起こることがあるというのだ。
「そういうことはあるよ」
「いいことも悪いことも起こる」
「そうなんですか」
生徒達は先生のその話を聞いて述べる。
「偶然は起こるものよ」
先生はまた言った。
「だから何が起こってもいいようにいつもね」
「気をつける」
「そうしないといけないんですね」
「そういうことだよ」
こんな話を聞いてだった。そしてだ。
それを聞いた生徒の一人、矢作昂揚はだ。こう言うのだった。
「偶然ねえ」
「ああ、まあ世の中って色々あるからな」
「アクシデントっていうのか?そういうことってな」
「あるからな」
「何かっていうとな」
友人達もだ。その彼に述べる。今風に茶髪にして明るい顔の彼にだ。スカーレットのブレザーとネクタイに白いズボンとブラウスの制服を何処か崩して着ている。
その彼にだ。クラスメイト達は言うのである。
「例えば阪神の試合で敵チームの外野フライの時に急に風が吹いてホームランになったとかな」
「それ甲子園じゃしょっちゅうだしな」
「いつもある偶然だからな」
阪神にはよくあることだ。
「ドームだったらそんなの起こらないのにな」
「普通に起こるからな。甲子園」
「阪神だと」
風が逆に吹くからな」
そうしてホームランが外野フライになる、それが阪神である。
そんな話を聞いてだ。昂揚は言った。自分の席に背を持たれかけさせ両手を頭の後ろで組んで右足も組んでだ。その姿勢で言ったのである。
「偶然って確かに起こるけれどな」
「確かに?」
「っていうと?」
「起こすこともできるだろ」
こうも言う彼だった。
「偶然はな」
「偶然を起こすってのか」
「そうすることもできるっていうのか」
「それも」
「ああ、それもだよ」
昂揚は話していく。
「やれるんじゃないか?」
「おいおい、一体何考えてるんだよ」
「偶然を起こす?」
「何を起こすんだよ、何よ」
「風だよ」
にやりと笑ってだ。昂揚は友人達に言った。その姿勢でだ。
「風を起こすんだよ」
「風を偶然にか?」
「起こすのかよ」
「起こすさ。そう、風が起こればな」
どうなるかというのだ。それが起こればだ。
「女の子のスカートがめくれるだろ」
「おい、いきなり猥褻か」
「スケベに走るか」
「漢の夢はスカートの中にあるんだよ」
彼は言う。
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