ヒマティオン
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第一章
ヒマティオン
天空の神にして雷神であるゼウスはこの時深刻な顔になっていた。そのうえで兄弟である海神ポセイドンと冥神ハーデスに円卓の場で言った。
「困ったことだ」
「何だ?また女か?」
「今度はどの女に横恋慕したんだ?」
それぞれが治めている世界から来た二神はそのゼウスに素っ気なく返した。
「ヘラにはばれないようにな」
「ばれたらまたことだぞ」
「違う、今回はそうしたことではない」
ゼウスは兄弟達にむっとした顔で返した。
「女の話は女の話だが」
「そうか、そんなか」
「横恋慕の話ではないのか」
「わしもいつも女の尻を追いかけ回してはおらん」
自覚があるのでこうも言うのだった。
「女の話でもだ」
「そうした話でないとなると」
「どうした話だ」
「実は今オリンポスの女神達が服に凝っていてな」
それでというのだ。
「それぞれ服の出来を競い合っているのだ」
「ヒマティオンのか」
「それをか」
「そうなのだ、ヘラが光り輝くヒマティオンを着れば」
まずは自身の正妻でありお産を司るオリンポスの第一の女神の名前を出した。
「アフロディーテが虹色のヒマティオンを着る」
「ヘラに対抗してか」
「そのうえでか」
「そして今度はアルテミスが月光の輝きを放つ膝までの丈の動きやすいヒマティオンを着る」
今度は月の女神である彼女だった。
「そしてアテナが自分の知性を表した黄金のヒマティオンだ」
「それで他の女神達もだ」
「そろぞれか」
「デメテルは大地の緑のヒマティオンでな」
そしてだった。
「ヘスティアは竈の火の赤のヒマティオンだ」
「個性が出ているな」
「それぞれの女神のま」
「それでか」
「どの女神達もか」
「それぞれのヒマティオンが一番だと言い張ってだ」
そしてというのだ。
「わしにも色々言ってくるのだ」
「ふむ、それは困るのう」
「ここで誰が一番かと言うとな」
「他の女神達から恨まれるな」
「当然としてな」
「こんなことで恨みを買ってはだ」
それこそというのだ。
「わしもたまったものではないわ」
「いつもの浮気でヘラに怒られるのならともかくな」
「そんなことで恨まれてはな」
「幾ら御主でも困るな」
「そうなるな」
「だからこうして悩んでおるのだ」
こう兄弟達に言うのだった。
「わしもな」
「女は何かと張り合うからな」
「顔だのスタイルだのでな」
「当然服でもだが」
「それでか」
「服なぞどれも同じと言うとだ」
それこそというのだ、ゼウスも。
「最悪だな」
「そんなこと言ってみろ、御主全ての女神達から恨まれるぞ」
「デリカシーがないとみなされるぞ」
「自分の女房や娘達にそう思われるとだ」
「夫、父親として大きなマイナスだぞ」
「そんなことはわかっておる」
ゼウスにしてもというのだ、伊達に女遊びを繰り返してはいない。
「女にも美少年にも詳しいつもりだ」
「ならだ、いいな」
「そんなことは口が裂けても言うな」
「ここは何とか知恵を出せ」
「そして乗り切るのだ」
兄弟達はそれぞれの杯で葡萄ぼ美酒を飲みつつ言った。
「いいな」
「そして誰からも恨まれるな」
「わかっておる、どうしたものか」
腕を組み深刻に考えての言葉だった。
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