FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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容赦のない男
シリルたちの戦いを魔水晶ビジョンで見ていたドムス・フラウの人々は突然のグラシアンの謎の発言にどよめいていた。
「氷の神?」
「なんだそりゃあ?」
「聞いたことあるか?」
「どこかで聞いたことあるようなないような・・・」
観客たちは老若男女問わず記憶のどこかに“氷の神”という単語があるかどうか懸命に思い出そうとしていた。
「氷の神って?」
「知らないわよ」
「聞いたことあるか?」
「全然ないわ」
レビィ、カナ、エルフマン、リサーナがそう言う。他の妖精の尻尾のメンバー、天狼組は誰1人として心当たりがない様子。
「氷の神・・・どっかで聞いたことある気はするんだが・・・」
「どこだったか覚えてねぇや」
ジェットが顎に手を当て、ドロイが骨付き肉を頬張りながらそんなことを話している。
「あぁーー!!」
すると、マカオが何かを思い出したように大声を上げた。
「どうしたの?」
「何かわかったの?」
カナとリサーナの問いにマカオは答える前に隣に立っていたワカバに話を振る。
「おい!!氷の神ってあれじゃなかったか!?」
「はぁ!?」
「ほら!!1年ぐらい前に噂になってた・・・」
「あれは単なる噂だろ!?」
何やら口論しているマカオとワカバ。最前列・・・というか応援席の岩で出来ている柵の上に胡座をかいていたマカロフがそちらを横目で見ながら話しかける。
「心当たりでもあるのか?」
「6代目たちには言ってなかったんだけどよぉ・・・実は1年前のこのくらいの時期にどこかのギルドにとんでもねぇ魔導士が現れたって噂が出回ったんだよ」
マカオの言葉を聞いて7年間ギルドに居残りになっていたメンバーたちは何かを思い出したようにざわついている。
「ものすごい魔導士?」
「それってどういうこと?」
レビィとリサーナがそう言う。マカオは1年前のことは全く知らない天狼組に教えるように話を再開する。
「うちのギルドで達成できなかった10年クエストとかS級クエストとかあっただろ?」
「何件かあったのぉ」
「あれを1、2ヶ月のうちに何件もクリアしちまったって話が流れてきたんだ」
その話を聞いた途端、妖精の尻尾の魔導士たちは驚愕の表情を浮かべる。
S級クエストとは通常の魔導士では遂行が困難なために、極限られた魔導士たちしか挑戦することが許されない。
10年クエストとはそのS級クエストのさらに上を行く、10年もの間誰1人として成功することができなかったという超高難易度の依頼のことである。実はその上に100年クエストというものもあるのだが、マカオたちの話を聞く限りそのとんでもない魔導士というのはその依頼にはチャレンジしなかったようである。
「10年クエストを何件も!?」
「そんなことできるの!?」
「僕たちもそんなのウソだと思ってたよ。それにその噂が出回った期間はほんの1、2ヶ月。誰かが面白おかしくそんな話をしていたんだと思うよ」
アルザックは冷静な口調でそう話す。他にもビスカやマックスといったメンバーたちは彼に同意見のようで、それは単なる噂で真実ではないと思っているようである。
「それで?なぜそれがグラシアンがいった“氷の神”に繋がるんじゃ?」
マカロフはなぜ『とんでもない魔導士がいる』という噂が先程のグラシアンの発言に通じるのかさっぱりわからない様子でマカオに質問をぶつける。
「その魔導士っていうのが自分の名前と所属ギルドを公表してなかったんだ。だからそいつを依頼で指名する時は必ずこう記載しなきゃいけないらしい。『氷の滅神魔導士』もしくは『氷の神』ってな」
「氷の滅神魔導士・・・」
7年前に天狼島を襲撃した悪魔の心臓に所属していた魔導士ザンクロウ、この大魔闘演舞でウェンディと仲良くなったシェリア、そして現在ラクサスと戦闘中の剣咬の虎のオルガ。彼らが今の段階で明らかになっている滅神魔導士と呼ばれるものたちである。この3人はそれぞれ炎、天空、雷の属性を操る、神を滅するために作られた滅竜魔法よりも協力な魔法。
「でもあのレオンって、確かグレイと同じ氷の造形魔法を使うのよね?」
「それのどこが氷の滅神魔法になるんだよ」
エバーグリーンとビッグスローのいう通り、レオンは滅神魔法など一切使用していない。使っているのは重大な欠陥を抱えた造形魔法のみ。
「そこだよ。それがどうにもわからねぇ」
「もしレオンが1年前に大陸に名を轟かせた氷の神なら、それを使わないわけはねぇからな」
マカオとワカバもいまいちピンと来ていないようで、歯切れが悪い。
「どう思いますかな?初代」
マカロフは妖精軍師と呼ばれ、様々な魔法の知識を幅広く持っている初代マスターメイビスに話を振る。
「わかりません。ですが、あのレオンという少年の魔力。シェリアにもリオンにも似た何かを感じてはいます。ただそれがどういうことなのかは私にもわかりません」
メイビスもレオンが氷の滅神魔法を扱う魔導士なのかわからないようで、自分の感じたものを話すのが精一杯である。
「そうですか・・・」
「今は見届けるしかないようですね。この戦いが終わらないことには、シリルが動くことができませんから」
グラシアンがレオンと戦う上で邪魔をされないために異空間へと閉じ込められてしまったシリルとソフィア。妖精の尻尾の全員は自分たちの仲間が戦っている映像を見ながら、その試合にも意識を向けることにした。
シリルside
「氷の神・・・」
俺は全く聞いたこともない単語に?マークを頭に浮かせているしかない。俺がそうやって頭を抱えていると、隣で捕まっているソフィアが何かを思い出したように手をポンッと叩いた。
「そうだ!!氷の神だ!!」
「知ってるの?」
聞き覚えがあるらしいソフィアに問いかける。ソフィアは俺の方に顔を向けて説明してくれる。
「1年前にね、難しい依頼を次々に達成している魔導士がいるって噂が流れたの。その人に依頼を出す時は『氷の神』って記載しなきゃいけないっていう都市伝説みたいなのがあったから、もしかしてそれかなって」
ソフィアも確証があるわけではないようで、ただこれくらいしか他に思い当たる節がないらしく、もしかしたらと思って話してくれたようだ。
「難しい依頼ってS級クエストのことだよね?」
「もちろんそれもあるけど・・・10年クエストとか、一部の噂だと100年クエストも成功させた、とか色々な話が流れてたよ」
「100年クエスト!?」
俺はそれを聞いて驚き以外の感情がどこかにふっとんでしまう。100年クエストって7年前にギルダーツさんが失敗したクエストのことだよな?あんなに強い人が3年かけても成功できずに帰ってきてしまうような依頼を・・・レオンが達成したっていうのか?
「100年クエストはやってないよ。俺がやったのは10年クエストまで。まぁ、そんな昔のことあんま覚えてないけど」
レオンは俺たちの会話が聞こえていたらしく、いつも通り飄々とした表情でそう答える。でも今、レオンは否定することが全くなかった。つまり、難しい依頼を次々に成功させたというのは事実ということなのだろう。
「なんで氷の神なの?」
「どこからか流れた噂で『氷の滅神魔法を使う』っていうのがあったから、みんなその話を真に受けて“氷の神”って呼んでたんだよ」
滅神魔法ってことはシェリアと同じ魔法を操っているってことか。
「あれ?でもそれだとおかしいよね?」
「シリルちゃんもやっぱり気付いた?」
ソフィアと俺と同じことを思っていたらしく、グラシアンさんがレオンを氷の神と言ったことのおかしい部分を挙げる。
「「レオン氷の造形魔導士じゃん!!」」
レオンは氷の魔導士ではあるが決して滅神魔導士ではない。彼のいとこのリオンさんとうちのグレイさんと同じ造形魔導士だ。もっとも、レオンは動の造形と静の造形ができるんだけどね。
「そうだな。それでレオンを“氷の神”というのは間違っていると思うだろ。俺もお嬢に言われた時はそう思ってたからな」
どうやらグラシアンさんも俺たちと同じことを考えていたらしい。お嬢ってミネルバさんのことだろうし、彼女なりにはレオンがそれと言われる理由に何か確信でもあったのだろうか?
「だが話を聞いて納得もした。レオンが氷の神であるという理由に」
グラシアンさんはそう言うとレオンの方を指さす。
「理由その1、黒い氷を使うこと」
レオンの造形魔法はグレイさんの水色の氷とリオンさんの薄緑色と違い、黒い氷を使用している。今まで見てきた滅神魔導士はみんな黒いその属性の魔法を使っているのはよく知っている。だけど、それだけで滅神魔法を使えると断定するのは無理矢理すぎじゃないだろうか?
「氷が黒いからって滅神魔導士とは限らないじゃん!!」
ソフィアがそう言う。それに対しグラシアンは更なる見解を述べる。
「3日目のMPFでこいつが使った氷の色、覚えてるだろ?」
3日目に俺とエルザさんが伏魔殿を完全制圧したせいで他のギルドに順位をつけるために行われたMPF。魔力の大きさを測定する機械を用いての競技ということらしいけど、その時のレオンの氷と言われても眠ってた俺にはさっぱりわからない。
「赤色だったね」
「だろ?つまりレオンが造形魔法をする時の氷の色は“赤”なんだよ。だが何かが混ざっているために普段の造形が黒くなっているんだ」
まぁ、なんであの時赤色の氷を使ったかは知らないがな、と付け加えるグラシアンさん。そこまで言うと彼は指を2本立てて次の理由を言う。
「2つ目、噂が流れ始めた時期とお前がギルドに加入した時期が重なること」
フィオーレ全土に名を轟かせるほどのすごい魔導士となれば加入したと同時に話題になるのは一般論として正しいと思う。俺はいつ頃その噂が流れたかは知らないけど、その時期にギルドに加入した人がいるならその人が有力候補として上がるのはよくわかる。
グラシアンさんの言葉にここは誰も反論することなく、すんなりと話が進み、先と同じように指を3本立ててグラシアンさんはレオンを見据える。
「それで最後、お前が造形魔導士としての重大な欠陥を抱えているのにこの大魔闘演舞に・・・昨年まで2位にチームを導いてきたシェリーなどのメンバーを押さえて出場していることだ」
レオンはこの大会が初出場なのは今までの話でみんなわかっていると思う。確かに造形の速度が遅く、さらにはバランスが悪いという弱点を持っているレオンが出場しているのは普通に考えるとおかしい。
MPFで4000点代を出したパワーを差し引いても彼がいい魔導士であることはわかるんだけど、弱点が露呈した時点でメンバーを入れ換えてもおかしくないと思う。蛇姫の鱗は1度もリザーブ枠を使っていないわけだし。
「だけどそれなら尚更おかしいでしょ?」
「うん?」
俺は一瞬納得仕掛けたけど、やっぱりグラシアンさんの考えが間違っているように感じる。
「レオンが氷の神って奴だったら、去年の大魔闘演舞に出れたんじゃないの!?」
噂が流れたのが1年前というなら、時期的に大魔闘演舞に参加できたはず。何度も言うけどレオンは初出場だから、去年とかは出ていないんだ。大魔闘演舞が終わってから加入したなら話は別だけど。
「その通りだ、シリル。すごい魔導士の話が流れたのが去年の5月から6月頃・・・大魔闘演舞は7月だから本来なら出場しているはずなんだよ。出場できるならな」
この発言を聞いた時、レオンの表情が明らかに歪んだ。いつも無表情で、飄々としているレオン。入場の時にタクトに突っ込んだ時くらいしか冷静さを崩した記憶が俺の中ではない彼が、明らかに顔を・・・誰の目から見てもわかるくらい歪ませた。
グラシアンさんはそれを見ると不敵な笑みを浮かべ、右手を体の前に持ってきて何かを作り出す。
50センチ程度の大きさの、オレンジの毛の色をしたセシリーやシャルルたちより一回り歳を取っているような印象を与える猫。どことなくその面影は、レオンやシェリアと一緒に蛇姫の鱗に所属しているエクシード、ラウルに似ているように感じる。
「ぐっ・・・」
レオンはそのオレンジ色の猫を見ると同時に頭に手を当て、顔をうつ向かせる。グラシアンさんはそれを見て作戦がはまったと確信を持ったのか、嬉しそうにしていた。
「どうやらお嬢の言ってたことは本当だったらしいな」
グラシアンさんはミネルバさんからレオンについての何かを教えられていたらしい。それがあのラウルに似ている猫に繋がるっていうのが俺には解せないけど、あのレオンの様子から察するに相当な心理的攻撃を受けるほどの何かがあるのだろうな。
「聞いたぜ、レオン・バスティア」
レオンはグラシアンさんの声を聞きたくないのか、耳に手を当て、さらには彼の作り出した幻を見ないために目を閉じて静かに呼吸を繰り返している。
しかし、いくら耳を塞いでいても多少の音は聞き取れてしまうものである。それにグラシアンさんなら念話が出来る魔導士に変化すれば直接頭に語りかけることが出来るわけだし、ほとんど無意味だと思う。だけどレオン的にはそうせざるを得ないほど、心に余裕がないのであろう。
グラシアンさんはそんなレオンの様子などお構い無しに話を続けている。
「クエストの最中に目の前に出てきたこの猫を殺して以来、氷の滅神魔法が使えなくなったらしいな」
「うるさい!!」
レオンは両手を合わせると冷気を纏った魔力を溜めていく。
「アイスメイク・・・・・スノーホーク!!」
彼の出来る最大限の速度で作り出した鷹をグラシアンさんの口を封じようと放つ。それを見るとグラシアンさんは赤い帽子を被った1日目の競技パートでその高い能力を見せた魔導士へと変身する。
「スノーホーク・・・記憶。そして忘却」
ルーファスさんへと変わったグラシアンさん。彼の目の前まで来ていた鷹の群れはグレイさんが盾を忘れさせられたのと同じように姿を消してしまう。
「くっ・・・」
「記憶しておきたまえ。君の造形魔法では私の元には届かない。私に攻撃を当てる方法はただ1つ・・・」
グラシアンさんは元に戻るとレオンの方を口角をあげた、余裕綽々の表情で見つめる。
「氷の神と呼ばれた滅神魔法を使うだけだ。もっとも、それができないからお前はこの魔法に頼らざるを得ないんだろうがな」
レオンの辛い思い出を容赦なくついてくるグラシアンさん。卑劣な彼の策略がじわりじわりとレオンを追い詰めていく。
後書き
いかがだったでしょうか。
なんだかグラシアンが日々悪い奴になっていっている気がする・・・
本当は仲間想いのいい奴なんですがね。
次は回想的な話になるかもしれません。
次回もよろしくお願いします。
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