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闇を祓う者~他人の恋愛見てニヤニヤし隊~

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原作開始
クラス代表決定戦
  おばあちゃんが言っていた……ひとっ走り付き合えよ

 
前書き
一日遅れのメリークリスマス 

 
「おいおい、手を出すには早いんじゃないか!?」
『まだISに慣れていない内に始末しておこうとかいう魂胆なんじゃない?』
「やめてくれよ……」

 ルナの推測に彼方は苦い顔をする。しかし、更識家の四人を幼い時に始末しようとしたくらいだ。やりかねない。

「あれ、彼方? ……そんなに走ってどうしたの?」
「!? ……かん、ざし?」
「う、うん。私だけど」

 走っていた彼方を呼び止めたのは簪だった。内心で彼方は焦っていた。

「今日って確か試合じゃなかった?」
「ああ、そのために少し身体を動かしとこうと思ってさ」
(拙いぞ……明らかに気配が近付いている。このままじゃ簪の目の前で戦わざるをえなくなる。そんなことになれば、正体がバレちまう。それ以前に簪の身に危険だ)
「そっか。私も試合見に行くから頑張ってね」
「あ、ああ。それじゃ」
「うん」

 彼方はもう一度走り出すかと思ったが、何故か簪を押し倒した。

「え、……ええ!? どうしたの彼方!?」

 すると、先程まで簪がいた横の壁が吹き飛んだ。

「な、何なの? まるで……」

 あの時みたい。簪は彼方に押し倒されたままの体勢で彼方の耳元で呟く。
 煙の中から現れた人影は、彼方にとって聴き覚えのある声で言い放った。それは奇しくも簪にとっても聴いたことのある声だった。

「おいおい、《闇》じゃなくてお前なのかよ!」
「また会ったな」
「あいつって確か鎌田? ディケイドに出てきた……でも今彼方に、『また会ったな』って……もしかして!?」

 簪の頭に浮かんだ一つの映像。自分達を救ってくれた彼の手掛かりだと言って四人で見た映像。そこには創作の世界であった筈の戦い。仮面ライダーアビスと仮面ライダーディケイドの戦い。自分達を救ってくれた彼、仮面ライダーディケイドの姿だった。

「あーあ、これはバレちゃったか。まさかこんな早くに明かすことになるとはねぇ。そんで、個人的にはもう二度とお前には会いたくなかったよ、鎌田。お前のせいで秘密もバレちまったしな」
「つれないな。あんなに激しくしたのに」
「気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ。お前まさかそっちの趣味があるのか?」
「それこそとんでもない」
「そりゃ安心したよ。背後を気にしながらなんて戦いにくいからな」
「それにしてもあの時とは少し印象が違うな。2年前は確か金髪だった筈だが」
「まあ、こっちにも色々とあるんだよ。それに、それはこっちのセリフだ。お前ってそんな砕けた口調だったか?」
「俺の場合、こっちが素だよ」
「それは俺もだよ。まあ、あの時の姿になってやるよ。簪いいか?」

 彼方は頭を一つ掻くと、簪に声をかける。

「な、何?」
「これから見ることは俺と簪の秘密な?」
「え、どういうこと?」
「説明しなくても、すぐに分かるから。あ、後あのストラップのこと誤魔化してゴメンな。元々バラすつもりは無かったんだよ。いくぞルナ」
「はいはーい」

 簪から離れた彼方の隣に人影が現れる。
 美女である。まっすぐな長いプラチナブロンドに素晴らしいプロポーション。そして、見る者全てを魅了してしまうような美貌。それだけならば、ただの絶世の美女という言葉で片付けてしまえる。しかし彼女は突如として彼方の隣に現れたのだ。ただの人間ではない。と言うよりは、人間ではない(・・・・・・)ことを簪は理解した。

「久々のユニゾンだ。大丈夫か?」
「任せといて、これでも私神様だから」
「それもそうだな」

I you(私は貴方)
You me(貴女は俺)
It is one of God in fellowship here now(今ここに交わりて一つの神とならん)

 光が収まると、金髪の彼方ではない男性。いや、彼方によく似た男性がそこにいた。

「遥さん……やっぱりあの時私たちを助けてくれたのは……」
「あっれ? 何で簪がその名前知ってるんだ? まあいいや、確かにあの時簪たちの目の前でセンチピードオルフェノクを倒したのは俺だよ。ディケイドになってな」
「そっか……」

 納得したような何とも言えない声を零す簪。

「さて、鎌田。始めるとしようか、あの時の続きだ」

 彼方は顕現させたディケイドライバーを腰に当て、ライドブッカーからディケイドのカードを取り出す。

「変身!」
 《KAMEN RIDE DECADE!》

 幾つものディケイドのヴィジョンが重なり、ディケイドの姿を形作る。マスクアーマーにマゼンタのボードが装着されると、ディケイドの身体にもマゼンタ、黒、白と色がついていく。Xなどの10をイメージした意匠。その名は仮面ライダーディケイド。平成ライダー10人目の戦士。幾つもの異世界を巡り悪を滅する。彼方が転生する際に《闇》と戦う術としてルナから貰った力だ。

 「さあ、お前もアビスに変身しろよ」
 「いや、今回は本当の姿で戦おうと思ってな」
 「なんだと?」

 鎌田は完全に姿を変えた。全体的に刺々しい印象だ。右腕と右脚には金のアーマー。左が銀、右が金の触角。そして目を惹くのは、両下腕部にある鋭利な鎌。

「そっちの姿を相手にしなきゃいけねえのかよ……。鎌田……いや、パラドキサアンデッド!」

 アンデッド。仮面ライダー剣における怪人ポジションのキャラだ。その総てが地球上の生物の始祖であり、如何なる方法を用いても死ぬことがないことからその名がつけられた。鎌田の正体であるパラドキサアンデッドもパラドキサカマキリの始祖だ。
 全てのアンデッドにはスート(記号)カテゴリ(番号)が決められていて、それはトランプによって表される。その中でもパラドキサアンデッドはハートスートのカテゴリーKである上位アンデッドだ。
 パラドキサアンデッドは、鎌田が変身する仮面ライダーアビスと同様に本編でその姿が登場することはなかったが、本編における非常に重要な役割を担っている。
 カテゴリーKはカテゴリーQ(アブゾーブ)の力を介して、ライダーを強化形態にすることを可能にする。それをブレイドが利用して生まれたのがブレイドの最強形態、キングフォームだ。カテゴリーKによって強化形態が発現したのはブレイドだけではない。ブレイドに変身する剣崎一真の親友であり、バトルファイトのイレギュラー、53体目の何の始祖でもないアンデッド、ジョーカーアンデッドである相川始が変身する仮面ライダーカリスもカテゴリーKを使ってワイルドカリスになることが出来る。
 つまり、カテゴリーKは本編における強くなるための最後の1ピースだ。ということはそれだけ強敵だということになる。

「まあ、幸いなことにディケイドは世界の理に囚われないからな。ラウズカードなんて物を使って封印しなくても、お前を倒せる」
「勝てる気でいるのか?」
「んなの、当然だろ」

 ライドブッカーをソードモードにして刀身を一撫でするとともに駆け出す。パラドキサアンデッドも両刃の鎌を取り出す。ライドブッカーの刀身とパラドキサアンデッドの鎌が交差する。

「くっ……あの時よりもパワーが上がってるじゃねえか!」
「これが本来の姿だからな。喋ってるのはいいが、こっちの刃を忘れてないか?」
「ぐぅっ!」

 剣であるライドブッカーソードモードとは違い、パラドキサアンデッドの鎌は両刃。くるりと鎌を捌き、ライドブッカーの刀身を受け止めていた鎌とは反対側の柄の鎌で斬りつけられ、吹き飛ばされる。

「ふぅ……厄介だな」
「息なんか吐いてる暇があんのかよ!」
「がっ!?」
「彼方! な、なんで?」

 吹き飛ばされたことによって彼方とパラドキサアンデッドには間が空いていたにも関わらず、何故か彼方にダメージが入る。

「おら、もう1個だ!」

 パラドキサアンデッドが腕を振ると、目に見えない何かが空気を震える音と共に迫ってくる。

「見えないんじゃ避けたくても避けれねぇ。……迎え撃つしかないか!」
 《ATTACK RIDE BLAST!》

 ライドブッカーをガンモードにし、幾重ものビジョンと共に弾丸を撃ち出してソレを相殺する。

「くっそ、忘れてた……思い出したぜ。パラドキサアンデッドは腕から衝撃波を放てるんだったな」
「ああ、そういうこった」

 さっきも口に出したが厄介だな。彼方はそう考えていた。間を取ったとしてもあの衝撃波で攻撃されては元も子もない。接近したらしたで、あの両刃の鎌に捌かれる。剣と長物では一度の手数が違う。それならば相手の一度の手数分だけ動けばいい。そして、あることを思い出す。

「確かブレイドには『マッハ』があったはず……。って、なんでだ!?」

 ライドブッカーから抜き出したブレイドのカードはシルエットだけになっていた。そう、まるで……

「世界を廻る前のディケイドと同じだ」
「何をボーッとしている?」
「うおっと!」

 呆然としている所へパラドキサアンデッドの衝撃が襲う。間一髪で避けた彼方はライドブッカーをガンモードにしてパラドキサアンデッドを牽制しながら他のカードを取り出す。

「それじゃあ、こいつの性能を試してみるとするか!」
 《KAMEN RIDE DRIVE!》

 黒とマゼンタを基調としていたディケイドの姿は赤と黒の違うシルエットに変わった。全体的なイメージは正に車、フェイスシルエットは車のフロントだ。そして、肩から襷掛けになった車のタイヤだ。その名は仮面ライダードライブ。仮面ライダー史上初の、車をメインビークルとした仮面ライダーだ。

「さあ、試運転だ。ひとっ走り付き合えよ!」
「ふざけてんのか?」
「黙って一先ず味わえよ!」
 《FORM RIDE MIDNIGHTSHADOW!》

 襷掛けになっていたタイヤが何処かに飛んでいき、別のタイヤになる。そのタイヤは紫の手裏剣を模している。そして、彼方の手には半透明の紫の大きな手裏剣が現れていた。

「さあ、行くぜ!」
 《ATTACK RIDE MIDNIGHTSHADOW!》

 彼方は手に持った手裏剣を投げていく。その手裏剣は投げる度に次々に現れる。その手裏剣をパラドキサアンデッドは両刃の鎌で捌いていく。

「この程度!」
「その割には結構苦戦してるように見えるけどな!」
「言ってろ!」

 パラドキサアンデッドは次々と投げられる手裏剣の間隙を縫い、鎌で彼方を切り裂いた。



 ……かのように思われた。


「残像だ。ってな!」
 《FORM RIDE FUNKYSPIKE!》
 《ATTACK RIDE FUNKYSPIKE!》

「何だと!? グッ、ガアッ!」

 何時の間にかパラドキサアンデッドの背後に回っていた彼方はさらにタイヤを変える。紫の手裏剣から無数の(スパイク)がついたタイヤへ。
 そのまま彼方はパラドキサアンデッドに接近したままアタックライドのカードを使い、襷掛けになっているタイヤを回転させることによってその(スパイク)で攻撃した。

「いやぁ……まさか『残像だ。』を現実に自分の口で言う場面に出くわすことになるとは。人生何があるか分かんねえな。まあ、1度死んでるんだけど」
「グッ、ふぅ……。見た目によらず強いじゃねえかよ」
「だろう? 個人的に結構気に入ってるんだよ。まだまだあるぜ?」
 《FORM RIDE MAXFLARE!》

 彼方はさらにタイヤを変える。黄緑の(スパイク)がついているタイヤからオレンジの火焔を模したタイヤになる。

「行くぞ!」
 《ATTACK RIDE MAXFLARE!》

 前の二つと同じようにアタックライドを使う。が、特に目立った変化はない。それにも関わらず、パラドキサアンデッドは一切の油断を廃していた。先程の二つのフォームの性能を実際にその身に受けていれば、見た目だけで判断出来ない、いや判断してはいけないことが分かる。あの鎌で牽制しつつ性能を探りたい所だったが、その肝心の鎌は彼方の攻撃の衝撃によってパラドキサアンデッドから離れた場所へ吹き飛ばされてしまっていた。そのため、予想だけで対するしかない。面には出ていないものの、パラドキサアンデッドは焦っていた。
  彼方はそのまま接近戦へと持ち込んだ。パラドキサアンデッドは次々と繰り出される彼方の打撃を受け止めることは一切せず、全て受け流していく。逸らした拳の周りの空気が揺らめいているのを認め、パラドキサアンデッドは自分の予想が当たっていたことを確信した。

「予想通り。焔を宿してるな?」
「やっぱバレるか」

  彼方が右拳を握ると、ボゥッと音を立てて拳が焔を纏う。

「あー……これ以上ドライブじゃダメージは与えられなさそうだな。タイプフォーミュラなら大丈夫だろうけど、今の俺に扱いきれる気がしない。はあ、どうしたもんか」

  そう零しながら彼方はドライブからディケイドに戻る。そこで何を感じたのか、2枚のカードを取り出した。

「この2枚もブレイドと同じか……」

  それはWとウィザードのカードだった。ブレイド、W、ウィザード。まるで共通点のないこの3人の戦士が何故シルエットのままになっているのかは、彼方には分からなかった。ただ一つ理解出来たのは、この3人の戦士の力をしばらく借りることが出来ないということだった。

「どうする? 試合までもう時間が無い……一気に決めるしかないか! おっと」

 彼方はカードを取り出しながら迫ってくる衝撃波を躱す。

「チッ、流石にもう衝撃波での攻撃は避けられるか」
「さっきからそれにやられてるからな! 対策ぐらい考えてるさ!」
 《KAMEN RIDE KABUTO!》

 真っ赤なメタリックの装甲に、フェイスマスクには大きな角。その名の通りカブトムシをモチーフとした仮面ライダー、仮面ライダーカブト。


「おばあちゃんが言っていた……やっぱ嘘。俺のばあちゃん、そんな大したこと言ってねえわ!」

  彼方が繰り出すパンチはさっきまでのマックスフレアとは全く違い、ディケイドよりも弱くなっている。
  パラドキサアンデッドは考えていた。何故、変身前のディケイドよりも力が劣っているこのライダーをあいつは選んだのか、と。あらゆるパターンを想定し、それに対抗する手段も決まっていた。万に一つの油断も無く、彼方の行動を伺っていた。
  ……そんなことをどれだけ考えていても、最早パラドキサアンデッドにはどうすることも出来ないのだが。

 《ATTACK RIDE CLOCK UP!》

  彼方の姿は一瞬にしてパラドキサアンデッドの視界から消えた。と、認識した時には既にパラドキサアンデッドの身体は痛みと共に宙へ浮いていた。

「ガッ!? グフッ! なっ……ぜだ! どうなっ……ゴッ、いる!?」

  浮いている間にも次々と攻撃が加えられていく。右、左、右斜め、下、前……段々と間隔が短くなり、最終的には全方向から同時に攻撃されているように感じる程だ。それが少し続いた後に、前方へと飛ばされた。ふと気づけばその先には何時の間にか彼方が背中を向けて待ち構えていた。

 《FINAL ATTACK RIDE KA KA KA KABUTO!》

  何故だか分からないが、これは好機だ。幸いなことに、相手は背を向けて動かない。大方、さっきまでの攻撃は身体への負担が大きいモノだったのだろう。だが、これで最期だ。

「死ねぇ! 駕狩彼方ァァァアアアア!」

  彼方の右脚にエネルギーが溜まっていく。

「ライダーキック」

  彼方は飛んできていたパラドキサアンデッドへ、振り向きざまの回し蹴りでライダーキックを浴びせた。

「……………………!?」

  パラドキサアンデッドは断末魔を上げる間もなく、驚愕と共に爆散した。

「悪いな、恨みはないが……いや、色々とあったな。二年前の一夏のこと、それと今回のこと。つまりは因果応報ってことだ。
  なあ、ルナ。今回のことと、前の一夏のことを鑑みてどう思う?」
『そうだね、あまり考えたくはないんだけど……《闇》とは別に、大ショッカーがこの世界で動いてる可能性がある。でも大丈夫、怪人たちの気配は覚えたから一夏くんの時みたいなことは起こらないよ』
「そりゃ安心したよ」

  そう言いながら彼方は変身を解き、ユニゾンを解除した。そこへ簪が駆けていった。

「彼方!」



 彼方Side

  はあ、大ショッカーまでもか……。憂鬱な気分になりながら変身とユニゾンを解く。そこへ簪が駆けてきた。

「彼方!」
「おう、簪! 大丈夫だったか? 怪我とかしてn……んむっ!?」

  走ってくる簪のスピードは俺の前で減速することはなく、そのまま俺に抱きつき、キス……をしてきた。

「かんっ……ざし? んっ、何をしt……んはぁ……」

  体感時間では1時間くらいに感じたが、実際は精々30秒といった所だろう。
  更識簪。純粋にこの世界を物語として楽しんでいた時、俺が一番好きだったキャラ。転生したこの世界では、俺が初めて《闇》と対峙した時には救った4人のうちの1人。IS学園では、俺のルームメイト。
  いかんいかん。混乱しすぎて、簪について振り返ってしまった。それにしてもなんで……

「や、やっと会えた! ずっと、ずーっと探してた! あの時、私たちを助けてくれた時から……。でも、手掛かりは何処にも無かった。やっと見つけたのが、ドイツでのあの戦い」
「そうだったのか、悪いな。正体をバレる訳にはいかなかったんだよ」
「うん、分かってる。それ(仮面ライダー)は本当なら、
 現実のモノじゃないからね」
「そういうことだ。本当なら誰にもバラすつもりは無かったんだけど……あの野郎」
「そ、そっか……ごめんね、呼び止めたりなんかしたから私に正体がバレることになっちゃって」
「別に簪のせいって訳じゃないだろ。強いて言うなら、というかアイツがこんなタイミングで襲ってきたのが全面的に悪い。あのままだったら、簪が危なかったしな」

  鎌田死すべし、慈悲はない。いや、さっき倒したんだけど。ところで……

「あの、簪さん? そろそろ離れても……」
「だめ」

  首を横に振って、いやいやとする簪。そして、

「彼方は私が抱きついてるの……いやなの?」
「まさか、そんなことないよ」
「ん、そっか、よかった。えへへ、頭撫でられちゃった」

  上目遣いで訊いてきた簪を思わず撫でてしまった。しかも、突然のことにも関わらず喜んでいる。可愛すぎかな?(真顔)

「俺の簪が可愛すぎる件」
「俺の?」

  おおっと、思わず口から漏れてしまっていた。これじゃあ、ただの変態だぞ。

「いや、簪。これはだな?」
「彼方のモノにしてくれるの?」
「あるェ?」

  なんだろう、反応がおかしくないですかい?

「簪さん、ちなみに今なんと?」
「だって彼方が今『俺の簪』って言ってたから、てっきり私を彼方のペットにして……」
「いや待て、その理屈はおかしい」
「流石に冗談だから安心して。それじゃあ、改めて。彼方、私は……」
「ゴメン、ストップだ」
「どうして?」

  簪が言おうとしている言葉をストップさせる。ここまで露骨に好意を寄せられていたら、嫌でも分かる。だけど、今それを聴いたらダメだ。

「簪が言おうとしてることは、唐変木じゃないから分かってる。でも、このタイミングでソレを聴いたらダメだ。返事をしちゃうからな。そしたら、この後試合どころじゃなくなる。集中出来なくなる自信がある。だから、」
「だから?」
「試合が終わった後、俺達の部屋でゆっくり話をしよう。あそこは俺達のプライベート空間だ。誰にも邪魔されることはないからな。俺、楽しみは最後に取っておく派なんだよ」
「そっか……うん、分かった」

  俺は依然として抱きついたままの簪の背中をあやすように叩く。

「だからさ、ちゃんと試合見に来てくれよ?」
「うん。最初から行くつもりだったけど、絶対に行かなきゃいけない理由が出来ちゃった」

  簪は俺から離れると、手を握り言った。

「ちゃんと勝ってね、彼方」
「任せろ、俺にも負けられない理由が出来たからな」
「うん、信じてるね。それじゃあ私、先にアリーナに行ってるから」
「ああ、いってらっしゃい」

  簪が走り去っていく。さて、俺も控え室に行こう。とりあえずこの浮き足立った気持ちを鎮めねば……














「うわぁ、せっかく解放されたからのんびり過ごそうと思ってたのに。やっぱり戦いからは逃げられないのかなぁ。ねえ、彼方」

  一連の戦いを陰から見ていた何者かが彼方の名前を呼ぶ。水色と黒の大きな銃をクルクルと回してから虚空へ向ける。

お宝(彼方)は渡さないよ、簪ちゃん。次こそ……次こそ負けないわよ、楓」

  宣戦布告のように呟くと、その場から離れていく。ふと立ち止まり、彼方が向かっていった方向をじっと見つめた。

「もう嫌って程に休んだよ。私はね、人が傷つくのが嫌だったんじゃない。あなたが傷つくのが嫌だったんだよ、彼方。もう、彼方だけに背負わせないから……今度こそ、私も一緒に戦うから」 
 

 
後書き
ハーメルンには投稿したのにこっちに投稿するのをすっかり忘れてしまっていたよwww 
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