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戦国異伝

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第二百三十五話 動かぬ者達その七

「皆それまでの辛抱じゃ」
「ですな、三河に入ればです」
「それで何とかなります」
「そして駿府まで戻れば」
「その時は」
「その頃には吉報が伝わっておる」
 家康もこう言うのだった。
「吉法師殿はご無事じゃ」
「ですな、あの方は」
「生きておられます」
 徳川の家臣達も確信していた、このことは。それでここで家康に応えて言うのだ。
「我等が駿府まで戻れば」
「その時にはですな」
「もう報が届いていて」
「そのことも安心出来ますな」
「そうじゃ、奇妙殿もな」
 信忠もというのだ。
「ご無事ぞ、天下に揺ぎはない」
「はい、しかし」
 ここで言って来たのは本多正信だった。
「一つ気になることが」
「都のことか」
「明智殿の手に落ちていますが」
「そうじゃな、御所のこともな」
 家康もこう返す。
「気になるな」
「どうなったのか」
「うむ、そのこともな」
「しかしです」
 ここでまた本多が言って来た。
「御所のことも」
「吉法師殿ならばか」
「手を打っておられます」
「だからか」
「安心していいかと」
 御所、即ち朝廷のこともというのだ。
「それなら」
「そうじゃな、吉法師殿ならばな」
「はい、ですから我等はまず」
 それならというのだ。
「駿府まで無事に戻りましょう」
「そのことを考えますか」
「ではな」
 こうしたことを話してだ、そしてだった。
 家康はそのままだった、家臣達と共に険しい道を休む間もなく進んでいた。堺から誰も知らない様な山道を越えていっていたが。
 その山道を進みつつだ、服部は家康に言った。
「殿、この道は密かな道ですが」
「何かあるか」
「実は伊賀者の中でも」
 それでもというのだ。
「我等服部家の者達しか知らぬ、山の民も知りませぬ」
「山の民か」
「はい、あの者達でもです」
 知らないというのだ。
「知りませぬ、百地家の者達でも」
「百地家か、あの謎の多い」
「あの家のことは我等も知りませぬ」
「同じ伊賀ではないのか」
「伊賀でもです」
 それでもだというのだ。
「服部家と百地家ではまた血が違うのです」
「そうなのか」
「交わりもありませぬ」
「そうなのか」
「ですからこの道は百地の者達も知りませぬ」
 全く、というのだ。
「それを使っています」
「待て、何かおかしいぞ」
 石川は服部の話す様子に只ならぬものを感じてだった、彼に問うた。 
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