インスタントラーメン
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1部分:第一章
第一章
インスタントラーメン
八条大学の男子寮はとかくむさ苦しい。何処の男子寮も同じであるが。
部屋の中どころか廊下も便所も台所も何もかもが散らかり汚い。鼠やゴキブリが出てもおかしくはなく夏になればすっぱい匂いや腐った匂いがしてくる。
そんなペストの発生源になってもおかしくない様な場所のある一室でだ。これまた何日も洗濯をしていないシャツにトランクスだけという男子寮ならではのラフな格好の男達が深刻な顔で車座になり向かい合っていた。
そしてだ。こう話し合うのだった。
「参ったな」
「ああ、ちょっとな」
「食うものはあるにしてもな」
「これ何だよ、一体」
「ばらばらじゃないか」
こうだ。難しい顔で言い合うのである。見ればだ。
彼等がそれぞれ出し合っているもの、それはだ。
カップラーメンだ。全部で四十はある。しかしどれもがだった。
「種類全部違うな」
「こんなのどうすればいいんだよ」
「何だ?誰がインスタントラーメン大会しようって言ったんだよ」
「カップラーメンばかりじゃねえかよ」
見れば袋のラーメンはない。見事なまでに全てカップ麺である。
そのラーメンを見てだ。彼等は言うのである。
「どうするよ。鍋に入れてそれでやるんだって?」
「カップ麺でか?」
「しかも種類全部違うじゃねえかよ」
「どれも種類違うって何なんだよ」
その四十はあるラーメンのだ。どれもだった。本当にそれぞれ種類が違う。メジャーなものもあればローカルなものもある。その中には。
カップうどんもあった。彼等はそれを見ても言い合う。
「これもそれだけなら美味いんだよな」
「ああ、これいいよな」
「けれど全部違うからな」
「ラーメンとうどんなんて一緒にならないだろ」
「どうするんだよ、本当に」
「野菜はあるぜ」
鍋に入れるだ。それはあった。もやしやらキャベツやら白菜はもう置かれている。しかも丁寧に既に切られており後は鍋に入れるだけだ。
ついでに言えば鍋ももうあった。大きく頑丈そうな鍋がだ。彼等の脇に野菜と共にでんと置かれている。しかしそれでもなのだ。
肝心のラーメンだけがその有様だった。カップ麺ばかりだ。その状況でだ。彼等は困っていた。一体どうするべきかとだ。
しかしだ。その中でだった。中の一人が言った。
「まあこうなったらな」
「こうなったら?」
「どうするっていうんだよ」
「いいだろ。もうカップから出してな」
それでだというのだ。彼は。
「いっしょくたにして鍋に入れちまうか」
「おい、それまずいだろ」
「そうだよ。どうなんだよ」
その提案についてだ。周りはこぞってクレームをつける。
そうしてだ。こうその彼に言うのである。
「味滅茶苦茶になるぞ」
「スープだけでなく麺の種類まで違うんだよ」
それこそ細いものもあれば太いものもある。インスタントラーメンと一口に言っても本当にそれぞれだ。そのことは彼等もよくわかっている。
だからだ。その案にそれぞれ言うのである。
「駄目だろ、本当に」
「問題だろうに」
「どんな味になるんだよ、それじゃあ」
「おかしくなるに決まってる」
こう言ってだ。否定する。しかしだ。
その彼はだ。あくまでこう言うのだった。
「まあそう言ってもな」
「入れるしかないか?カップから出してそれで鍋にまとめてぶち込んで」
まず麺をだというのだ。
「それでそこからスープ入れてな」
「で、野菜も入れてか」
「そうするんだな」
「ああ、そうするぞ」
こう言ってだった。彼等は。
その案に頷きだ。カップの麺を開けていってだ。
それからだ。スープの封を切ってそれも入れていき野菜も入れる。そうしてだった。
「じゃあ食うか」
「全く。どんな味になるやら」
「美味いのか?本当に」
「どんな味になるんだ」
「一体な」
こう話してだった。遂にそのラーメンを食べはじめるのだった。
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