水の国の王は転生者
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第二話 斜陽の王国
この数年、簡単な読み書きを習いつつ出来る範囲での情報収集をするといろいろなことが分かった、まず転生先はハルケギニアという名前で地図を見ると前世のヨーロッパによく似ている。
ちなみに我がトリステイン王国はというと小国と呼ぶにふさわしい国土しかなくガリア王国と帝政ゲルマニアという二大大国にはさまれる形になっている、もしガリアとゲルマニアが戦争状態になったら通り道にされるんじゃないかと不安になる・・・いやマジで洒落にならない。
父さんの実家であるアルビオン王国とは同盟を結んでいるらしいが期待しすぎるのは危険だ、有事の際、最初は一緒に戦ってくれるだろうが旗色が悪くなれば容赦なく切り捨てられるだろう、『国家に真の友人はいない』ってやつだ、いくら父さんが現アルビオン王国国王の弟とはいえ滅亡まで付き合ってくれるはずは無いのだ。
ロマリア連合皇国だが、前世で昔あった教皇領かバチカン市国みたいなものなのだろうか? みんなは口々に光の国と言ってそれ以上のことは教えてもらえなかった。
情報集めの結果、トリステイン貴族の大半はガリアはそれなりに警戒してるみたいなんだが、ゲルマニアの場合は無警戒というか明らかに馬鹿にしている。とある貴族にいたっては過去に起こった戦争をつらつらと読み上げトリステインの栄光をことさら強調し、別の貴族などは『数千年前にも勝ったのだから、もし明日にでも戦争がおこっても我々は勝利するだろう』などと正気を疑うような事を言ったやつもいた。むしろガリア・ゲルマニア以前にトリステイン貴族の堕落っぷりをどうにかしないと。
暗澹たる未来しか今のオレには見えなかった。
ちなみに子供の演技をしながら情報を集めたせいか演技力に磨きがかかった気がする。演劇好きが行き過ぎて事あるごとに寸劇をしだす両親の血のせいなんだろうか?
先日、五歳の誕生日を迎えたことから、父さんから魔法の勉強の許可が下りた。そこで今日非番のヒポグリフ隊の練兵場を借り切っての授業を行うことになったのだが、講師役の中年男がオレにヘラヘラと愛想を振りまいている。正直ウザい。
「初めまして王太子殿下、講師役を賜りました、バレーヌです。本日は基礎的なコモンマジックの習得を予定しています」
「今日はよろしくお願いしますバレーヌ先生」
「はは~っ」
子供の演技をしながら講師役の中年男を観察する。
オレの講師役を射止めるのにいったい、いくら賄賂に使ったんだろう。かなり失礼なことを内心グチる。
「まずは『ライト』から始めます」
「ライト?」
「初歩的なコモンマジックです、ようは杖が光ればよいのです」
「杖を光らせばいいの?」
「はい」
気を取り直して深呼吸をして、先日契約した杖を振るった。
「ライト!」
「・・・・・・・」
「あれっ? ラ、ライト!」
光らない!?
焦ってうろたえるオレに。
「殿下、魔法でもっとも重要なのはイメージです、先ほどの殿下はただライトと言っただけでイメージが出来てなかったのでしょう」
イメージか、もう一度深呼吸として。
・・・・・・光る、光る、光る、イメージは前世の小学生時代での理科の実験、ポッと小さな光を灯す豆電球。
このイメージ、行けるか!?
「ライト!」
すると杖の先に小さな光が灯った。
「やった! 光った!」
「お見事です殿下!」
「次の魔法を教えてよ」
「承知いたしました、次はロックとアンロックの授業をいたしましょう」
その後、鍵付きのドアのある場所へ移動し、ロック、アンロックなどいくつかのコモンマジックの練習をして本日は終了のかたちとなった。
最初は頼りない感じだったけど指導法もよかったしよい先生だった、評価を上方修正する。
「その殿下」
「バレーヌ先生、どうしたの?」
場内へと帰る途中、先生に呼び止められた。
「殿下ほどのお歳の場合はよく自分の精神力の限界が分からず精神力切れを起こし気絶する者が頻発するため、いろいろ気を使ったのですが、なにか他に身体に異常などはありませんでしたか?」
「そうなんだ、僕はなんとも無いよ」
「どうやら気苦労だったようですね」
「先生、次は何を教えてくれるの? 僕、早く系統魔法を使いたいな」
「その前に殿下の属性を調べなければいけません」
「属性?」
「系統魔法はは、火、水、風、土、そして伝説の虚無の五つの属性であるとされています。最後の虚無は始祖ブリミル以来使い手が現れていません、ので基本的に属性は虚無以外の四つで構成されているといってよいでしょう」
「それじゃ次は僕の属性を調べるんだよね」
「はい」
その後、いつものように五歳児の演技をしながら、2,3会話して別れた。
そうだった、『魔力無限』の能力のことを忘れていた。
不良神の説明では『魔力=MP』と言っていた、ハルケギニアでは『精神力=MP』という説明だったし『精神力=魔力』ってことで適応されたのかもしれない。
数日後、二回目の魔法の授業でオレに水と風の属性が確認された。
水のトリステインと風のアルビオン,二つの王家の血を引くオレが水と風の属性だということを知った両親はいつものように寸劇で喜びを表現していた。
こうも頻繁にしかも所かまわず寸劇をするので。
『そんなに演劇が好きなら王立劇場に出演してみたらどうか?』
という旨を残酷で無邪気な子供の演技で皮肉を言ったら。
『もう出演した』
と答えが返ってきた。
オレが生まれる前に二人で王城を抜け出ししかも身分を隠しての出演で観客や一部のスタッフ以外だれも気がつかなかったそうだ。後日、劇場での一件がばれてもう二度と似たようなことはしないと誓約書を書かされたそうだが、二人はよい思い出話のように語っていた。
オレは呆れつつも『仕方の無い人たちだ』と肩をすくめた。
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