戦国異伝
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第二百三十五話 動かぬ者達その五
その姿になってだ、彼等は堺をひっそりと去った。それから。
利休は周りの者達にだ、こう言った。
「ではな」
「はい、我等はですな」
「これよりですな」
「芝居ですな」
「芝居を打つのですな」
「これより」
周りも応える。
「徳川殿はまだ堺におられる」
「そして楽しんでおられる」
「宿において」
「そうされていますな」
「うむ、そうじゃ」
まさにというのだ。
「だからよいな、これより大掛かりな茶会を開くぞ」
「畏まりました」
「ではとびきりの茶と菓子を用意して」
「徳川殿をおもてなししましょうぞ」
「今より」
「ではな、それで数日のうちにじゃ」
それこそとも言う利休だった。
「上様と秋田介様の吉報が伝わる」
「では都のことは」
「誤りですか」
「いや、事実であろう」
信長達が襲われたそれはというのだ。
「やはりな」
「しかしですか」
「上様はご無事でありますか」
「秋田介様も」
「あそこでどうにかなられる方々ではない」
決して、という口調での言葉だった。
「だからじゃ」
「我等はですか」
「都のことはですか」
「吉報を待つだけ」
「それだけですか」
「あくまでな。ではな」
こう話してだ、利休は茶会の用意をさせた。芝居であってもそれは本気の茶会だった。そうして家康が逃げるのを助けるのだった。
家康主従は一路駿府まで逃れていた、道は険しかったが。
一行は特に敵に襲われることなく進んでいた、賊やそうした者達はというと。
「賊はおらぬな」
「そうじゃな、山賊なりがな」
「おらぬな」
「特にな」
「獣は多いが」
「それでもな」
「確かに獣は多いです」
案内役の服部もそのことは認める。
「しかし人はおりませぬ」
「そのことが大きいのう」
「だから人知れず逃げられる」
「ではな」
「安心して駿府に行けるな」
「道中には既に伊賀者達を配しております」
その手筈もしているというのだ。
「賊も。来ぬとは思いますが」
「それれもか」
「近寄せませぬ」
「用心には用心を重ねておるか」
「はい、それに」
服部はさらに言った。
「この道は険しいですが」
「それでもじゃな」
「駿府までの近道です」
堺からそこまでの、というのだ。
「我等だけが知っている」
「忍道じゃな」
「ですから」
それでというのだ。
「この道を使えば無事にです」
「駿府に入られるか」
「ご安心を、では」
「うむ、皆で駿府まで帰ろうぞ」
家康は服部に確かな声で応えた、そしてだった。
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