魔法艦娘Reinforce
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第三話 その機体、艦載機にして白い悪魔
金剛と時雨の提督自慢から解放され、入渠から出たリーンホースは、時雨に案内され、艦娘の暮らす寮に来ていた。
「これからリーンホースにはここで生活して貰うよ。多分、重巡寮に回されるんじゃないかな?」
「重巡寮?何故だ?」
「リーンホースは艦載機を運用出来る航空巡洋艦みたいなものだからね。明石が言っていた通り、航空巡洋艦は重巡を改装した艦だから、重巡寮に住んでいるんだ。」
「なるほど、そう言う事か。」
時雨の説明にリーンホースは納得する。するとそこへ、小豆色のセーラー服を着た艦娘がやって来た。
「やあ時雨。新入りの案内?」
「うん、そうだよ。」
「時雨、彼女は?」
「航空巡洋艦の最上。艦だった頃、僕と一緒の艦隊に居た事があるんだ。」
「航空巡洋艦の最上だよ。確かリーンホースだっけ?君も航空巡洋艦なんだって?」
「ああ。こちらの区分ではそうなるかもしれないな。」
「あれ?どう言う事?」
「私の居た所では巡洋艦や戦艦に多数の艦載機を積むのは当たり前になっているんだ。」
「へ〜。それじゃあ、航空巡洋艦とか航空戦艦が主力になっているって事かな?」
「航空戦艦と言うのが私の想像しているものならばそう言う事になるな。」
そう、リーンホースが言った時だった。
「それは素晴らしいな。」
1人の艦娘が会話に割り込んで来た。
「お前は?」
「そう警戒するな。私は日向。伊勢型航空戦艦だ。」
「別に警戒はしていない。驚いただけだ。」
「そうか。ところで、君も航空巡洋艦ならば艦載機を持っているのだろう?見せ合いっこしないか?」
「構わないが、何故だ?」
「航空戦艦が主役の世界の艦載機を見たいだけさ。早速行こうではないか。」
そう言うと日向は1人先にドックの方に向かった。
「・・・時雨、私はどうすればいい?」
「まあ、明石と話す約束をしてるんだし、そのついでに行くのなら構わないんじゃないかな。」
「それもそうだな。」
そして、リーンホースと時雨もドックへ向かった。
リーンホース達がドックへ着くと、そこで1人の艦娘とばったり会った。すると、日向が彼女に声をかける。
「やあ、瑞鳳。これから艦載機の手入れか?」
「はい。日向さんもですか?」
「いや。私は彼女と艦載機の見せ合いっこをしようと思ってな。」
「彼女?」
瑞鳳は日向と一緒にいるリーンホースを見た。
「新入りの方ですか?」
「スペースアーク級巡洋艦のリーンホースだ。ここでは航空巡洋艦と言う区分になるらしい。」
「私、軽空母の瑞鳳っていいます。航空巡洋艦って事は、リーンホースさんも艦載機を持っているって事ですか?」
「ああ。それで、何故か日向に同族意識を持たれてしまってな。」
「艦載機の見せ合いっこをする事になった訳だ。瑞鳳もどうだ?」
「はい、是非!」
艦載機マニアである瑞鳳はリーンホースの艦載機に興味があったため、日向の誘いを受け入れた。
そう言う訳で、瑞鳳を加えた一行はドックに来たのだが・・・
「リーンホースさん!!」
いきなり、明石が飛びついて来た。
「ど、どうしたんだ明石?」
「何ですかあの艤装!未知の技術が一杯で空飛んでよく分からなくて!!!」
明石は興奮していて言っている事がよくわからなかった。
「落ち着け。」
「あたっ!」
すると、日向が彼女の後頭部を軽くチョップした。
「落ち着いたか?」
「はい、何とか・・・って、あれ?何で日向さんがリーンホースさんと一緒に?瑞鳳さんまで?」
「リーンホースと艦載機の見せ合いっこをしに来たんだ。」
「なるほど、そう言う事ですか。なら、お先にどうぞ。」
「ありがたいが、いいのか?」
「はい。見たらきっと驚くと思いますよ。」
そう言う訳で、3人は艦載機を持って作業台を囲むように集まった。
「それでは、まずリーンホースの艦載機を見せてくれ。」
「ああ、分かった。」
そう言ってリーンホースはVガンダムヘキサとガンブラスター、それにガンイージとセッターを1機ずつ作業台の上に乗せた。
「これが私の艦載機だ。順番にVガンダムヘキサとガンブラスター、それにガンイージとセッターだ。」
「これは・・・」
「ロボットですか?」
それを見た日向と瑞鳳、それに時雨は目を丸くした。
「ああ。私の居た世界ではこの巨大人型機動兵器“モビルスーツ”が戦場の主役になっている。お前達の世界では違うのか?」
「ああ。私達の居た世界の主役は、航空機だったな。」
「そうか。」
それを聞いたリーンホースは、彼女達の居た世界の技術力は一年戦争以前といった所だと予想した。だが、彼女達が出した艦載機を見て、リーンホースは彼女達がそれよりもさらに昔の艦だと知る事になる。
「これが私の艦載機の瑞雲だ。」
「零式艦戦52型に、天山と99艦爆よ。」
「なっ!?」
日向と瑞鳳が見せた機体を見てリーンホースは驚愕した。彼女達が出した機体はどれもレシプロ機(プロペラ機)だったからである。ジェット機やヘリコプターが出てくるのを予想していた彼女は、自分の目が信じられなかった。
「どうしたんだ、リーンホース?さては、私の瑞雲の素晴らしさに言葉を失っているな。」
「違います!きっと私の99艦爆の足の可愛さにズキューンと来ちゃったんですよ!」
日向と瑞鳳が互いの艦載機を自慢し合う。そんな中、リーンホースは時雨に尋ねた。
「時雨。彼女達が居た世界の技術力は、航空機がレシプロなのが主流なレベルなのか?」
「うん。と言うか、僕も含めた全ての艦娘がそのレベルの技術の世界から来たんだ。」
「つまり、私がイレギュラーと言う訳か・・・」
「そうなんです!リーンホースさんは凄いんです!!」
すると、明石が話に入って来た。
「どう言う事、明石?」
「リーンホースさんの艤装を見せてもらって、更に妖精さんの話を聞いた結果、リーンホースさんは海上航行はもちろん、飛行も可能な宇宙巡洋艦だと言う事が分かったんです!!」
「「「宇宙巡洋艦!?」」」
明石の説明を聞いた時雨達は驚きの声を上げた。
「つまり、リーンホースは宇宙戦艦が実現された未来の世界から来たって事!?」
「ああ。だが、お前達の居た世界はともかく、この世界では宇宙艦は実用化されていないのか?」
「うん。まだだよ。あ、そう言えば提督は元パイロットって言ってたけど、航空機じゃなくてこう言うのに乗ってたのかな?」
そう言うと、時雨はガンイージの1機を手に取った。その時・・・
「どうやら、ちゃんと艦隊の皆と仲良く出来ているようだな。」
提督であるカムナ・タチバナがドックにやって来た。
「提督!」
それを見た艦娘達は姿勢を正す。そして、明石が尋ねた。
「提督、今日のご用件は建造ですか?開発ですか?それとも装備の改修ですか?」
「いや、今回はリーンホースに搭載されているモビルスーツを見に来ただけだ。」
「でしたら、丁度作業台の上に置いてあります。ご覧になって下さい。」
明石に言われた通り、提督は作業台の上のモビルスーツを見た。
「見た事の無い機体ばかりだな。まあ、30年も経てば新型が開発されているか。む?」
すると、Vガンダムヘキサの姿が提督の目に留まった。
「この白い機体は、まさかガンダムか?」
「はい。Vガンダムヘキサといいます。」
「Vアンテナの代わりに特殊なセンサーを積んでいるように見えるな。」
「それは指揮官用の機体なのでセンサーが特別なのです。通常タイプはVアンテナになっています。」
「その話からして、この機体はガンダムなのに量産型なのか?」
「はい。」
「まさか、君の時代では連邦がスペースノイドへの弾圧を強めているのか?」
連邦の旗印とも言える機体、ガンダムを量産する事を提督はそう考えた。
「いいえ。むしろ連邦の力は弱体化していますし、そもそもその機体は連邦のものではありません。」
「そう言えば、君はリガ・ミリティアと言う組織の所属と言っていたな。どう言う事だ?」
「その件は話すと長くなるので、また後程。」
「そうだな。ではリーンホース。鳳翔の居酒屋で待っているぞ。場所は時雨に聞いてくれ。」
そう言うと、提督はドックから去って行った。
提督が去った後、リーンホースは明石に気になっていた事を聞いた。
「明石、先程話に出て来た妖精と言うのは何だ?」
「あれ?知らないんですか?彼らの事ですよ。」
すると、明石の肩の上に二頭身にデフォルメされた小さな人間が2人のっかった。それを見たリーンホースは驚いたが、リインフォースは小人の様な姿の融合騎を何度か見た事があるので、さほど驚かなかった。
「それが妖精か?」
「はい。船と言うのは元々大勢の人間に動かされますから、私達艦娘が戦うには彼らの力を借りる必要があるんです。もちろん、リーンホースさんにも居ますよ。」
「私にもか!?」
今度ばかりはリインフォースも驚いた。
「はい。ちょっと艤装の所まで来て下さい。」
明石に連れられ、リーンホースが艤装を置いた場所に着くと、そこでは妖精達が整列していた。見ると、皆リガミリティアのノーマルスーツや緑色のつなぎを着ており、顔もどことなくリーンホースにとって見覚えのあるものばかりであった。
「これが私の妖精達か。」
「はい。妖精と言うのは艦娘の大事なパートナーですから、仲良くしてあげて下さいね。」
「分かった。これから、よろしく頼むぞ。」
リーンホースはしゃがむと、ゴメス艦長に良く似た妖精の前に人差し指を差し出す。すると妖精は握手するようにそれを握った。
「リーンホース!そろそろ次に行くよ。」
「分かった。では、また後でな。」
時雨に呼ばれたリーンホースは妖精に別れを告げると、ドックを後にした。
残りの施設の案内が終わると、丁度提督の執務が終わる頃になった。
リーンホースは時雨に案内されて鎮守府の角にある“居酒屋 鳳翔”に辿り着く。
「ここがか・・・」
「そう。提督とお酒を飲む艦娘にとっては憩いの場なんだ。」
「そう言う時雨は酒は飲むのか?」
「飲め無い事はないけど、食べる方がメインかな。リーンホースはどう?」
「私は・・・分からないな。元になった人間も酒を飲んだ経験は殆ど無い。」
「そうなの?まあ、今日は試しに飲んでみて、無理かどうか判断するようにしようか。」
そう言って時雨は先に入って行った。リーンホースもそれに続く。
居酒屋鳳翔は鎮守府の中にある限られたスペースを利用して作ったためか、中はそれ程広くは無い。だが、雰囲気はかなり良い。
そんな店のカウンターに、母性を感じさせる穏やかな表情をした艦娘が居た。
「いらっしゃいませ。ここの店を取り仕切らせていただいている軽空母の鳳翔といいます。あなたが新入りのリーンホースですね。提督から話は聞いていますよ。」
リーンホースと時雨がカウンター席に座ると、艦娘、鳳翔が挨拶をした。
「ああ、よろしくたのむ。」
鳳翔の穏やかな笑みから、リインフォースはどことなく自分の最後の主を思い浮かべた。
(本当に、未練がましいな。)
「どうかしたんですか?」
「いや、何でも無い。」
尋ねてくる鳳翔にリーンホースはそう言って誤魔化す。その時、2人がけの小さなテーブル席で飲んでいた2人の艦娘が話しかけてきた。
「よお、あんたが噂の新入りか?」
「そうだが、お前達は?」
「商船改装空母の隼鷹さ!」
「水上機母艦の千歳です。」
「航空巡洋艦のリーンホースだ。これからよろしく頼む。」
「ああ。せっかくだから、このまま一緒に飲まないか?」
隼鷹がそう誘ってくるが、リーンホースは断った。
「済まない、先約があるからまた今度にしてくれ。」
「そうかい?それじゃあ、仕方ないねえ。」
隼鷹と千歳は再び2人だけで飲み始めた。すると、居酒屋に新たな客がやって来る。
「あら?時雨とリーンホースさんも来てたの?」
「これから2人で飲むっぽい?」
時雨の姉妹艦の村雨と夕立だ。
「リーンホースはこれから提督とちょっと話すんだ。僕は案内したついでに付き合いでちょっと飲もうと思ったんだ。」
「じゃあ、夕立達もご一緒していいっぽい?」
「もちろんだよ。」
時雨に許可を貰い、夕立と村雨は並ぶように時雨の横に座った。
この時、リーンホースはある事に気付いた。
「白露は居ないのか?」
「うん。白露姉さんはお酒飲めないから。」
「お子様っぽい?」
そんな感じに他愛のない会話をしていると、提督がやって来た。
「すまない、待たせたな。」
そう言って提督はリーンホースの隣に腰を下ろした。
「いえ、そんなに待ってはいませんよ。」
「そうか。リーンホース、もう何か頼んだか?」
「いえ、酒の事はよくわからないので・・・」
「うむ。なら、とりあえずビールでいいだろう。鳳翔、ビール2つと適当なつまみを頼む。」
「かしこまりました。」
「じゃあ、僕と夕立もビールで。村雨はいつもワインだったよね?」
「それでいいわよ。」
提督に続いて、時雨達も注文をした。暫く待つと、鳳翔が中ジョッキに入ったビール4つとグラスワイン、つまみに枝豆の塩茹でとチーズの盛り合わせを持って来た。
「それでは、リーンホースの鎮守府着任を祝って乾杯といこう。」
「はい。」
『乾杯!』
5人は乾杯し、頼んだ酒をそれぞれ一口飲んだ。
「どうだ、初めてのビールは?」
「これが美味しいのかと言う事はよく分かりませんが、口に合わないと言う事はありません。」
「なら良かった。」
そう言うと、提督は枝豆を1つつまんだ。
「さて、そろそろ教えてくれるか?私がこの世界に来てから、宇宙世紀がどうなったのかを。」
「はい。」
リーンホースはコスモバビロニア戦争の終結後に起こった“木星戦役”、そして彼女が戦った“ザンスカール戦争”について説明した。
「そして、私は敵の艦隊の旗艦に特攻を仕掛けて沈みました。なので、ザンスカール戦争がどのような結末を迎えたのかは知りません。」
「リーンホースの最期って、壮絶だったっぽい?」
「そうだね。でも、その話は北上や58の前でしない方がいいよ。あの2人は特攻に嫌な思い出があるから。」
「そうなのか?なら、気をつける事にする。」
時雨の注意を聞いて、リーンホースはビールをもう一口飲んだ。
「しかし、連邦もついに衰退する時が来たか。」
「残念ですか?」
「いや、永遠に栄え続けるものなどは無い。だからその辺りは仕方ないとは思う。だが、軍の代わりに市民が戦争をしているとはどう言う事だ!!」
そう言って提督は拳をテーブルに打ち付けた。
「守るべき市民に代わりに戦争をさせるなど、軍人として存在する意味が無いではないか!!」
「・・・耳が痛い話です。」
「いや、別に君を責めている訳では無いぞ。」
「もう。提督のせいで雰囲気が悪くなっちゃったじゃない。」
村雨が提督を責めた。そんな中、リーンホースは言う。
「ですが司令、覚えておいて下さい。連邦軍にもゴメス艦長やムバラク提督のような方々が残っていた事を。」
「・・・分かった。怒鳴って済まなかったな。」
「いえ。連邦軍の全体としての有様は司令がお怒りになるのももっともな状態でしたから。」
「それでも、志を失わなかった者が居たのは良かった。さて、ここから先は楽しい思い出話としよう。何かあるかね?」
「そうですね・・・」
リーンホースは“艦”としての思い出に、何か楽しい事が無かったか思い浮かべた。
続く
後書き
《ボツネタ》
「ところで、妖精の中に変な物が混じっているのだが・・・」
リーンホースは整列する妖精達に混ざるあるものを指差した。それは、信楽焼の狸の置物であった。
「私もこんなのは初めてだから分からないんですよ。」
「そうか。いや、待て・・・」
リーンホースは自分に乗っていた“置物の狸”と呼ばれていた男の事を思い浮かべた。
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