俺が愛した幻想郷
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俺は愛せる? 幻想郷...
甘い香りは理解力を活性化させる
第二十二話 緑と青と土の真ん中に女の子
前書き
皆様久しぶりです、体力はないのにスピードには自信のある、完全短距離型のどうもうp主妹紅です。
いやはや、最近、長く走る大会があったのですが、もう、私のせいで他のパートナーに無理をさせてしまいましてね…
ちょっと悲しいうp主妹紅です。
これは次の成功に活かしたいです。けど、もう、ないんですよね。この大会も。
まぁ、なんでないかは言わないですけど。
本編、どぞ
ここまで持ってきたマウンテンバイクを手で押し、八雲家の広い庭、芝生の上を抜ける。
芝生を地面にマウンテンバイクは漕ぎづらいからな。
硬い土の上まで手で押してからマウンテンバイクに股がった。言ってしまえば、先ほど芝生の上をこれで漕いだのだが、案の定動けなかった。だからだ。
行き先は博麗神社。
ここら辺は緑が多くて目にも身体にも優しい。空気が美味しいし、風も気持ち良いし、こんなところに妖怪なんて…… ああ、スキマの妖怪と住んでるの忘れてたわ。
などと考えていると、緑と青と土色のど真ん中に少女が座り込んでいた。
流石に俺もゲスではない、横を素通りするわけがないのだ。近くまでマウンテンバイクを漕いで止まる。
綺麗な金髪、何処かのスキマ妖怪のブロンド髪とはまた違った…明るい金髪の少女は、俺に気づき、こちらに振り向いた。
赤い布で出来た髪留めを、短い金髪につけている少女は、今にも消え入りそうな小さな声で、
「だれ…?」
と呟いた。
これは素直に自己紹介をするべきなのか、話を切り出してどうしたのと聞くべきなのか… そこに住んでる心の綺麗なお兄さんさ、と言うべきか… 正直に、そこに住んでる君のような女の子が大好きなお兄さんさ、というべきか…
「お兄さん…人間?」
物凄くどうでもいいことに悩んでいる俺に次の言葉をかけた少女は、袖の白い、黒いワンピースを揺らして身体をこちらに向けた。
「一応、人間だけども…」
俺がそう言うと、少女は鼻を鳴らして何やらにおいを嗅いでいる。
においで人か探知するのか、この子は…
え、何、この子は人間じゃないの…?
幻想郷の常識わからんよ…俺
「美味しくなさそう…」
「は…?」
「人間のにおいだけど… なんか、美味しくなさそう」
訳わかんないけどなんか傷ついた!
この肉美味しくなさそう、って言われる鶏や牛や豚の気持ちがわかった! わかりたくないですよ…
「だから、お兄さんは食べない」
でもまぁ、わかった。なるほどね、
「君は人喰い妖怪か何かかな?」
「うん」
幻想郷には妖怪が山ほどいるんだ。人喰い妖怪くらいならいても当然だろう。
これは巧妙な手口で、本当は喰われるかも知れないと思っていまだにガクブルしてる足はいい加減黙って欲しいけれど。
「お兄さん、いいよ、行っても。食べないから」
うん、わかってる、行く、行きたいんだけどさ。
俺、ビビりなんだわ。
「どうして行かないの?」
「君こそ、なんでそこで座ってたの?」
妖怪とは言え、相手は子供… 『君にビビって腰が抜けて、今歩いたら崩れる』だなんて言えない。
「お腹…減ったから」
そうか、ここを通る人間を待っていたのか。でも、ここは人間が通ることなんてほとんどないんじゃなかったのか?
「こんなところで人間を待ってたの?」
「動けないの…」
会った時から何一つ変わらない無表情で、自分の脚に指を突き立てながら少女はそう言った。
お腹が減って力が出ないってことか… でもまた、なんでこんなところで力尽きたかね…
「もっと違うところで探せばよかったのに」
他人事だが、かなり酷いことを言っていることに気づかない男子高校生の俺。
運良く俺が美味しくなさそうだったからよかったものの、美味しそうな人間だったら喰われてた。それに対し今さっき俺は、他の人を喰えと言ったのだ。
他の人…ごめんなさい。
「なんでこんなところまで来ちゃったのさ」
こんなところ、俺も正になんでこんなところにいるのさ…
俺がそう言うと、今まで変えなかった表情を少し、ほんの少し変えた。頬をほんのり赤くし、小さな口を弱く歯嚙みして、それまた小さく、少女は言った。
「迷子に…なった……」
「そうか」
そうか、ってなんだよ。澄ました言い方しやがって俺。これじゃまるで、感情も上手く伝えられない思春期の、いや、それ以前にどっかのクールキャラみたいになってんじゃねぇか!
って言うかなんだ可愛いなこの子こんちくしょう!
そしてこの道、迷子になるやつ多すぎだろ! 俺も人のこと言えないけど… だからこそ俺を合わせて、博麗ちゃんも混ぜて、この子も合わせるとこれで三人だぞ…
一日一回のペースでここには迷子が出るのか…? おい、誰か迷子センター作ってやれよ!
ふぅ…
「俺はこの道の抜け方知ってるけど…」
「着いて行く」
あ、こいつ使える、みたいな顔で俺を見るのやめていただけますかね。
「あと、行き先が博麗神社なんだけど、大丈夫かな。君、妖怪でしょ?」
「大丈夫。霊夢とは、仲良い」
ああ、そっか、妖怪退治とは言ってもそれは昔の話だし、今は弾幕ゲームで済ませてるんだっけ… 謂わば和解、と言ったところか。
「ルーミア」
少女は俺から目を逸らしながらそう言った。
「名前?」
目を逸らしたまま、こくりと頷いて少女… ルーミアは返事をした。
「俺は、八雲琥珀。少しの間だとは思うけど、よろしく」
ルーミアは先のように返事はせず。ただ単に逸らしたままだった。
まぁ、いいや。とマウンテンバイクを手で押し始めると、
「待って」
背後からルーミアの落ち着いた透き通る綺麗な声が聞こえた。
ん? と振り返ると、
「う、動けないん……だってば………」
と、畑見でわかるくらい顔を真っ赤にして、小さな右手で口を隠しながらそう言った。
この子こそ、感情を上手く伝えられない、クールな子であった。
後書き
マウンテンバイクのサドルを一番低くし、ルーミアに股がせる。
それを俺は押して行く。
「これは、なんて言う道具なの?」
「自転車って言うんだけど、その中のマウンテンバイクって種類かな」
どうやらルーミアはこのマウンテンバイクに興味があるらしい。
「力が入るようになったら自分で乗ってみる?」
「いいの?」
「うん」
優しく微笑んでそう言うと、
「じゃあ、"少しの間じゃないな"。よろしく、琥珀」
ルーミアも同じように"優しく微笑んで"そう言った。
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