RSリベリオン・セイヴァ―
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十四話「モンド・グロッソ」
前書き
すみません! ラウラ戦は次の回になります。
放課後、寮にて
ヴォルフと俺たちが、二つのベッドで向かい合わせに座っていた。
俺は、ヴォルフをお客として、彼に缶ジュースと適当な菓子をあげて軽くもてなした。
「へぇ……コイツが、ドイツの筆頭RS装着者か?」
と、珍しい目つきで太智はヴォルフを宥めた。
「ドイツのベルリン支部から来た、ヴォルフ・ラインバルトだ。呼び名は好きにしてくれて構わない」
「そうか……じゃあ、ヴォルフさん? どうしてIS学園に来たんだ?」
俺は単刀直入に問う。
「すまんが、任務ゆえに話すわけにはいかない……と、言いたいがそちらの二人は既に見てしまっている。この際、隠しても無駄だろう? 俺の任務は、ドイツの黒兎部隊の隊長ラウラ・ボーデヴィッヒの抹殺のために派遣されたRS装着者だ」
「ラウラを?」
すると一夏は、そんなヴォルフにこう尋ねた。
「なぁ? ラウラの詳細な情報とか知らないか?」
「あ、ああ……奴の詳しいデータファイルならそちらも持っているはずだが?」
「アイツ個人について、もっと詳しい情報だよ? 何だか……あのラウラってチビ、過去にウチの姉貴と関係があるんだ」
「過去のことか……そこまで詳しくはないが、織斑千冬の元教え子らしいな? それも軍だ」
「そうか……やはり軍人か?」
何やら、ラウラに関して気になる様子の彼に、ヴォルフは尋ねた。
「……その様子からして、何かあったのか?」
ヴォルフが一夏を見て俺たちに尋ねた。
「ああ、実は……」
俺が、その一部始終を説明した。
「ほう……そのようなことが? 確かに、初対面でいきなり平手打ちとはキツイな? 全く、祖国に恥をかかせおって……さらに、相手の了解も得ずに行き成り攻撃してくるとは、武士道や騎士道に反する外道と見える」
ラウラの暴挙に、ヴォルフは呆れた。彼は女でも容赦はしないが、それは相手が戦士だということを認めているからだ。そんな戦士に対して手加減をして戦うことは、その戦士に対して非常に無礼である。それが彼にとっての武士道こと、騎士道でもある。
「しかし、ヴォルフも運が無いな? 千冬の奴が邪魔なんかしてきやがって……」
清二が、そう残念がった。
「なに、何事にも冷静に行えばチャンスは必ず訪れるものさ?」
「けど……その、ラウラっていうのがどうして一夏に恨みを持っているんだろう? 千冬の先公と面識があるってことは大体でわかったが……」
と、俺は腕を組んで考えこんだ。しかし、そんな俺に一夏がゆっくりと口を開けた。
「あの……たぶん、それには心当たりがあります。きっと、モンド・グロッソだ」
「……そういえば、一夏君はモンド・グロッソの観戦に出向いていなかったよね? もしかして、その時に何かあったの?」
情報データで見たと、清二が一夏の隣に座って尋ねる。そんな彼と問いに、一夏は静かに俺たちへ語りだした。
「ええ……今から三年前の出来事です」
*
三年前、一夏が中学生の頃だった。姉の千冬が海外で行われるISの世界大会に出場するというからと彼女から観戦チケットと飛行機のチケットを貰ったが、当時思春期の真っただ中である一夏はその誘いをキッパリ断った。前々から、厳格な姉を毛嫌いしており、女尊男卑になってからさらに千冬のことを嫌うようになったのだ。また、チケットを渡す際に発した彼女特有の命令的な口調が一夏の機嫌を損ねたのも一理ある。
そして、お互い口論が生じて千冬の放った平手打ちが一夏に当たり、彼はそのチケットを千冬の前で破り捨てて部屋へ駈け込んでいった。
それから両者は翌日まで口を利くことなく、千冬は一夏と顔を見合わせることなくそのまま空港へと向かった。一方の一夏は休日のため親友の自宅へ遊びに行った。
しかし、千冬が日本を離れてから数日後、何者かの視線に気付き、監視されていることに薄々気付き始めた。テレビでは見ていないが、親友によると千冬は近々決勝へ突き進むらしい。そんな姉が、次々と決勝へ進むにつれて一夏に対する監視は多くなり、そしてある学校の帰りのことだった。
一夏は、謎の黒スーツの男たちによって誘拐されてしまったのだ。
人気のない暗いトラックのコンテナへと閉じ込められ、ドラム缶に縛り付けられて監禁されていた。おそらく、自分を人質に取って千冬の決勝を諦めさせようというのだろう? どこの国かは知らないが、なんとも卑怯な考えだ。
しかし、彼が監禁されてから数時間が経ったある出来事だった。外で警備している男たちが、何者かの襲撃にあって、次々と悲鳴を上げながら倒れていく。声と音だけでわからないが、見知らぬ誰かに、黒スーツの男達が次々と叫びと命乞いをしていた。
……そして、コンテナのハッチがスパッと切り刻まれ、そこから日の光と共に現れたのは、
――姉貴?
そう、呟いたが違った。姉の千冬ではない。それは着物を羽織り、そして日本刀を担ぐ侍の姿だった。しかし、顔つきは日本人とはいえず白い肌に束ねた金髪、青い瞳で彼を見つめる顔の整った美男の白人、つまり西洋の人間であった。
――侍の……外国人?
「怪我はないか?」
外人とは言えない上達した日本語で一夏に話す白人の侍は、刀で一夏を縛る縄をドラム缶ごと切り裂いて、共に脱出した。
日の光を見て、安心を取り戻した一夏は、白人の侍へ礼を述べた。
「あ、ありがとうございます! 助かりました……」
「いいってことよ? それよりも、危ないところだったな?」
華麗に刀を鞘へ納刀する白人の侍に、一夏は見惚れていた。ただ、「カッコいい!」という感想しか今の彼にはない。
「自宅まで送り届けてやりたいが、長居はできない。時期に君の姉さんが来ると思うが……」
と、彼は一夏へ背を向けた。
「あ……あの、お名前だけでも教えてください?」
呼び止め、名を尋ねた。
「俺、織斑一夏って言います! さっきは、本当にありがとうございました!」
目を輝かせ、一夏は白人の侍へ自己紹介する。すると、相手が名乗ったのにそのまま立ち去るのも無作法と、白人の侍は振り向いて微笑みながら己の名を名乗った。
「……ジャックスだ」
「ジャックスさん……助けてくれて、ありがとうございます!」
「ああ……達者でな?」
そして、ジャックスと名乗る白人の侍は風のように去っていった。しばらくして、血相を書いた千冬が、ISで太平洋を横断して一夏のもとへ駆けつけに来たが、時すでに遅く一夏は何者かに助けられていたようだった……
――俺も、いつか……あんな「侍」になりたい!
「……と、いうわけです」
それが一夏の話す過去である。そんな彼の話を聞いていたヴォルフは、一夏が話す「ジャックス」という名の男に聞き覚えがあった。
――ジャックス? はて、どこかで聞き覚えのある名だ。確か、アメリカの……
そんな、ヴォルフの隣で太智は興奮していた。
「カッチョいー!! なぁ一夏、またそのジャックスって言う人と会ったか?」
「ううん? もう会うことはなかったけど、今まで生きてきた中で本気で憧れた人って感じだったな?」
「くぅ~! 益々カッコいいな?」
「けど、いったいそのジャックスっていう侍は何者だったんだろうな……?」
と、清二がボンヤリと天井を見ながら呟いた。
「すると……ラウラは、一夏が説明した例の世界大会と関係してんのかな?」
俺は、そう推測する。確かにその可能性はあるな?
「千冬公は、その二回目の大会で二連覇することができなかったのか?」
太智が一夏へ尋ねる。
「確か……そうだと思う」
「ラウラってチビが、千冬公を恩師って呼ぶんなら、アイツの決勝放棄に何か関係してんだろ? はっきりとは言えんが、千冬が決勝に出れなかったことで恨んでるとか……?」
ふいにそう呟く太智。
「どっちにしろ、あのラウラは再び君を襲いに来るだろう? 俺も護衛には協力できるが、彼女の抹殺とはいえ暗殺のようなものだ。同胞である君達の前ではともかく、IS側の大衆が目立つところでは派手に身動きは取れない」
そう、ヴォルフは申し訳ないと述べた。
「任しとけ! どんなことがあっても、一夏には指一本も触れさせはしないぜ!?」
と、太智は胸を張って言う。
「はは、よろしくお願いします」
一夏は苦笑いした。
そのあと、俺は一夏達と別れて自室へ向かった。部屋に入るまで、俺は今日転校してきたラウラとヴォルフのことしか考えておらず、室内がどういう状況なのかも、ドアを開けるまでには何も考えていなかったのだ……
ガチャ……
無意識に扉を開いて、俺は「ただいま」を独り言で言うと、そんな独り言に対して返答する少女の声が聞こえた。
「あ、おかえりなさい?」
「ああ……へっ?」
俺は、目を点にして室内を見渡した。そこには、本来いるはずもない存在が目の前に立っている。
「や、や……弥生ちゃん!?」
「遅かったですね? どこへ行っていたの?」
「ど、どうして……君が!?」
「あら? 聞いていませんでしたか? ヴォルフさんが転校してきたから止むを得ず私と同室になったんですよ?」
「そ、そうなの!?」
「私とじゃ……嫌、ですか?」
悲しい顔をして俺を見つめる……そんな顔で俺を見るな!! と、激しく首を左右に振り回して否定した。
「ちがう! ちがう!! むしろ、仕方がないさ? それに、もし同室になる女の子なら弥生ちゃんが一番望ましいよ?」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、弥生ちゃんは俺たちの仲間だし、お互い良いルームメイトになれるよ! これからも良い友達でいようね?」
「と、友達……ですか」
なぜか、彼女は少しションボリしてしまった。俺、何か悪いことでも言ってしまったのだろうか?
「え、あ……うん」
俺は気まずくなって静かに頷いた。その後、彼女はいつもと変わらない明るい態度で俺に接してくれた。先ほどのことで気にしていないといいのだが……
「狼君、さっきお夕飯を作りましたから一緒に食べましょ?」
「え、いいの!?」
ふいに驚いた俺に、弥生は首を傾げた。
「あ、もしかして食欲がありませんか?」
「い、いや……女の子にご飯作ってもらったのって、初めてだからさ? ましてや、女の子と一緒に飯食うのも初めてだし……」
俺って、学生時代に案外無意識にやっている癖を見らえて、女子に嫌われたことがあった。それが怖くて、あまり女の人と肩を並べて食事をするのは遠慮があった。
「御気になさらなくても?」
「俺、飯食う時って結構行儀が悪いって言われるんだ……相手が女の子と食うと尚更さ?」
「では、私がご指導して差し上げます。作法に関しては自信がありますので」
「じゃ、じゃあ……遠慮なく?」
そこまで言われれば、俺も流石に断ることができず、しぶしぶと彼女が置いた卓袱台に座った。
――き、緊張するな~……!
期待と不安がよぎりながらも、俺は弥生が運んでくる料理を待った。
「……はい、出来ましたよ?」
しばらくして、彼女は美味そうな温かい食事を皿に盛って運んでくる。
「うわぁ~ 美味そうだ!」
「まずは、手を洗ってきてくださいね?」
手を洗い、うがいも済ませて卓袱台へ戻り、俺は勢いよく「いただきます!」と、叫んだ。
夕食を食べる過程で、弥生に豆知識として作法も教わりながら食事を楽しんだ。
「おお! この肉じゃが凄い美味い!!」
「母から教わった、私の得意料理です」
「へぇ? 弥生ちゃんは凄いよ……料理や家事全般こなせるんだからさ? 不器用な俺なんかと大違いだ」
「そんなことありません。狼君だって……」
「ま、こんな俺でも最低限居場所があればそれでいいさ? それ以上は何も望まないよ?」
「……」
居場所があるなら他は望まない。それを聞いて、弥生は恐る恐る彼にこう尋ねる。
「あの……狼君、お尋ねしたいことがあるんですけど?」
「え、なに?」
ヤバいことでも聞いたか? そう、俺は焦った。
「その……御好みの女性は居ますか?」
「え、御好……?」
俺は首を傾げた。
「その……ちょっとお尋ねしてみようかと?」
「好みの娘か……そうだな? しっかり者で優しい人かな? でも、俺に彼女なんて贅沢だよ?」
「そんなことありません!」
いきなり、怒る弥生に俺は少しビクッとした。
「えっ? ど、どうしたの?」
「あ……いえ、いきなりすみません」
――どうしたんだろう?
いつもの優雅な彼女とは違う。いったい何があったんだ?
それからお互い黙りながら食事を終えて、弥生は食器を片づけ、俺はシャワーを浴びて寝巻に着替えた。
「あ、先にシャワーつかって悪いね?」
寝巻に着替えた俺は、これからシャワールームへ向かう弥生に軽く詫びた。
「いえ、別にいいですよ? 明日も実技授業のため、お早めに休まれてください?」
「うん……」
俺は、先にベッドに潜った。けど、弥生のシャワーを浴びる音を聞いて胸がドキドキし、眠ろうにも眠れなかった。
「あら? まだ起きてたんですか?」
「う、うん……ちょっと寝付けなくて」
本当は、彼女がシャワーを浴びる音に興奮して寝れなかっただけ。さらに、その彼女が隣のベッドで可愛らしい寝息をたてて寝るのを想像しただけでさらに眠れなくなる。今夜は緊張する夜が続きそうだ。もう、明日の実技授業どころじゃないよ?
「おやすみなさい?」
「ああ、おやすみ……」
部屋の明かりが消え、俺は彼女と一夜を共にした。緊張は長く続いたが、流石に緊張することすら疲れて、いつの間にか俺は瞼が重くなっていった。
*
一夏と同室になったヴォルフは、消灯時間になってもベッドで眠る気配は無かった。彼は、部屋から出ると、寮の中を歩き回った。無論、ラウラの暗殺を行うために彼女の部屋の様子を窺おうとするのだ。寮長の千冬が巡回していないことを確認して、彼はラウラの部屋まで来ると、小型カメラをドアの錠穴へ差し込んだ。だが、室内にラウラの姿はどこにも見当たらなかった。
――居ない?
しかし、寮の中に彼女の姿は見なかった。もしや、こちらの気配に感づいて隠れた? いや、このカメラには生体反応を示すシステムも搭載されている。熱源はルームメイトのしか感じ取れない。
「外か……?」
その感を頼りに、ヴォルフはふと寮長室へと向かった。すると、そこには彼の予想通り千冬の姿が見当たらない。
――千冬も居ないとすると……
自販機で缶コーヒーでも買いに行ったか? いや、きっと寮の外だ。
「……」
彼は寮周辺を歩き回った。やがて、寮に近い広場から話し声が聞こえてきた。ヴォルフは、気配を殺すと隣の木々に身を潜め、耳を傾けた。
「……考え直してください!」
「……」
何やら、ラウラは必死に千冬を説得しているが、千冬は聞く耳を持たないでいる。
「ここは、教官が居るに相応しい場所ではありません! ここに居る連中は、ISをファッションか何かと勘違いしています……」
「だからといって、教員としてここを離れるわけにはいかん」
「こんな極東の国に居座り続けたら、貴女の本質が発揮されません!」
――あのチビ!
ヴォルフは、先ほどからラウラが発言する言葉に苛立ちを覚えた。誇り高いドイツ軍人であるなら、ISの発祥国である日本を「こんな極東の国」と見下す発言はしないはずだ。まだ、彼女が若いというのはいざしらず、国を守る戦士達は祖国に恥じぬよう関係に悪化のない他国に対してそれなりの弁えを持たなくてはならない。それが、大人だろうが子供だろうが関係ない。
「いつからそんな立派な口を叩けるようになった? 小娘……」
勿論、千冬も出過ぎたラウラの態度に苛立った。
「し、しかし……!」
「とにかく、私はこの学園の教師を続ける。それをお前に否定される筋合いはない!」
「きょ、教官!」
「ここに居る時の私は教員だ。『教官』ではない!」
と、気を悪くしたのか、千冬は先に寮へ戻った。
――なるほど……そういうことか?
ラウラが、何故このIS学園へ来た本当理由が何となくわかった。しかし、いくら恩師の教官とはいえ、今のラウラは単なる乳離れのできないヒヨッ子だ。
――ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツの代表候補生であり、IS配備特殊部隊「黒兎」の隊長を務める優秀にして冷酷な「生体兵器」。しかし、ブリュンヒルでこと、「織斑千冬」の存在により所々に難があり。軍人として、否……誇りを持つ戦士としての存在は「無用」なり。よって、これよりラウラ・ボーデヴィッヒを「戦士の面汚し」と改め、早急に抹殺する……!
戦士としての名誉と誇り、そして何よりも騎士道と武士道を重んじるヴォルフにとってラウラの存在は許しがたいものであった。
彼による、ラウラ抹殺はすぐそこまで迫ってきていた……
後書き
予告
セシリアと凰、二人の代表候補生を圧倒するドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒ。
トーナメント戦で狼と一夏を待ち構え牙を向く! しかし、そんな彼女に突如異変が!?
そしてついに動き出す「ベルリンの黒狼」、ヴォルフの活躍はいかに!?
次回
「その憧れは、歪みとなる」
ページ上へ戻る