| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二百三十四話 燃え落ちる寺その十

「どうでもよいわ」
「大魚の前の小魚ですな」
「そうしたものですな」
「小魚は後でどうとでもなる」
 所詮はというのだ。
「大魚じゃ、わかったな」
「織田信長、天下という大魚を」
「まずはですな」
「どうするか」
「それが大事ですな」
「どちらも大魚どころかじゃ」
 それこそというのだ。
「鯨じゃ、鯨を逃す訳にはいかぬ」
「では寺、城の火が消えるのを待ち」
「そうして」
「織田信長を探すぞ、そしてじゃ」
 老人の声はさらに言った。
「このことは天下に知らせよ」
「織田信長が死んだと」
「その様にですな」
「知らせそのうえで」
「天下を乱すのですな」
「これでじゃ」
 必ず、というだ。確信している言葉だった。
「兵を起こす者が出て来る」
「ですな、武田等ですな」
「まだ天下を望んでいたりする者がいますな」
「他には織田家から離れる者も」
「一つになったばかりならば乱すのも容易」
「では、ですな」
「ここで天下の大名達に知らせ」
 そしてだった。
「大名達に兵を起こさせ」
「天下を乱れさせましょう」
「散々に」
「その時じゃ、これでよし」
 老人の声は会心のものだった、その声で言ってだった。
 そしてだ、彼は周りにあらためて言った。
「では我等も兵を起こすぞ」
「その場所は」
「前にも言ったと思うが伊賀じゃ」
 この国というのだ。
「あそこで兵を挙げるぞ」
「では」
「それではですな」
「我等は伊賀に入り」
「そして、ですな」
「挙兵ですな」
「そうじゃ、しかしその前にじゃ」
 その伊賀での挙兵の前にはというのだ。
「安土を攻める、よいな」
「明智の兵を使い」
「そうしますな」
「あの者の兵を上手に使い」
「都から安土を攻めて」
「あの城も焼きますか」
「そうするとしよう、織田信長の生死を確かめてな」
 そして信忠のそれもだ、そうしてだった。
 信長はだ、彼等はだ。そうしたことを話してそしてだった、まずは本能寺も二条城も焼け落ちるのを待った。それには時間がかかり。
 それでだ、昼過ぎになって火がようやく消えてからだった。屍を探したが。
 屍はあった、だがどの屍もだった。
「何かな」
「消し炭みたいになっておってな」
「これではな」
「誰が誰かわからぬ」
「織田信長の屍はあるのか」
「果たして」
 闇の具足を着た者達は首を傾げさせていた、そして。
 ここでだ、明智の本来の兵である青い具足の者達は。
 その彼等を見てだ、首を傾げさせて言った。
「何じゃ、あの者達は」
「あんな者達はいたか」
「兵が気付けば増えておるが」
「怪しいことじゃ」
「一体何じゃ」
「何者なのじゃ」
 こう言っていぶかしむのだった、それにだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧