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女と友情

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1部分:第一章


第一章

                   女と友情
 井出由紀子と石黒幸枝の二人は親友同志だ。
 幼稚園ではじめて同じクラスになってそれからずっと一緒だ。高校も一緒でしかも同じクラスだった。
「二人共仲いいね」
「本当にね」
 クラスメイト達も半分呆れる程仲がいい。女同士であるが怪しい仲にも見える程だ。
 だが容姿は正反対だ。由紀子は背が高く髪は茶色がかっていて少し日に焼けている。顔はいつもにこにこしていてジャッキー=チェンに見えなくもない。そんな顔だ。
 幸枝は小柄で色が白い。髪は三つ編みにしていて優しげで少し垂れた目をしている。そんな正反対の外見だがそれでも仲がいいのだ。
 その二人が同じ制服でいる。しかもいつもだ。
「ねえ由紀子」
「何?」
「最近ピッチング波が乗ってない?」
 こう彼女に言うのだった。
「どうなの。最近」
「そうね。最近確かに調子がいいわ」
 にこりと笑って幸枝の言葉に応える。学校の帰り道で。
「それもかなりね」
「そうよね。何かあったの?」
「ちょっとトレーニングの方法変えてみたの」
 こう幸枝に答えた。
「少しね」
「っていうとどういう調整方法なの?」
「ピッチング練習減らしたの」
 そうだというのだ。
「それでその分ランニングとかに向けてるの」
「そういうふうにしたのね」
「ええ。それがかえってよかったみたい」
 にこりと笑って述べた。
「今までピッチング練習もかなりしてきたから」
「そうね。私から見てもあれはやり過ぎだったわ」
 幸枝は由紀子を見上げながら言った。
「あそこまでやったらかえって身体に負担がかかるから」
「それでそれよりも走るようにしたの」
「それでいいと思うわ」
 幸枝もそれに賛成した。
「やっぱりね。足腰が一番大事だから」
「ええ」
「特にピッチャーは」
 こう由紀子に話す。
「大事になるからね」
「そうよね。そう思って私もね」
「そういうふうにシフトしたのね」
「ええ。それでいいわよね」
 あらためて幸枝に問う。
「トレーニングの方法は」
「いいと思うわ。今言ってることだけれどね」
「有り難う」
「私もね。最近色々考えてるのよ」
 今度は幸枝が言う番であった。
「ほら、私ショートじゃない」
「ええ」
 実は同じソフトボール部の二人なのだった。由紀子がピッチャーで幸枝がショートという違いはあっても。同じソフトボール部なのである。
「ショートってフットワークが大事だから」
「どうしてるの?」
「最近家で反復横跳びとか縄跳びしてるのよ」
 練習するのはそれであった。
「動きがよくなるようにってね」
「そうなの」
「どうかしら」
 そのことを由紀子に尋ねる。
「それで。いいと思う?」
「そうね。幸枝の守備はね」
 幸枝の守備について話す。
「それでいいと思うわ」
「いいの」
「もっと動きがよくなれば余計にね。ただ」
「ただ?」
「バッティングだけれど」
 由紀子が幸枝に言うのはこのことだった。
「流し打ちとか勉強してみたら?」
「流し打ち?」
「そうよ。幸枝が二番バッターじゃない」
 実は彼女はチームでは二番バッターなのだ。ちなみに由紀子は五番である。一発長打を狙うことでは定評がある。そんなタイプのバッターだ。
「だから。流し打ちとかそういう技をね」
「身に着けろってことなのね」
「そうよ。どうかしら」
「そうね」
 由紀子の言葉を聞いて少し考える顔を見せてきた。
「流し打ちね」
「幸枝器用だから多分いけるわ」
「実はスイッチヒッターになろうかなって考えてたのよ」
 ここでこのことを由紀子に告げた。
「右ピッチャーには左、左ピッチャーには右ってね」
「それ考えてたの」
「そうなのよ。けれどどうかしら」
「それも悪くはないけれど」
 一応は認めて頷くがそこには言葉が続いていた。
「難しいわよ、あれは」
「わかってるわ」
「一兆一夕に身に着けられるものじゃないし」
「ええ」
「それはどうかしら」
 あらためてこう言う由紀子だった。
「スイッチヒッターは。それに幸枝特に右でも左でもどっちでも苦労していないじゃない」
「そう?」
「そうよ。別にね」
 このことも幸枝に対して話した。
「苦労してスイッチになるよりはね」
「流し打ち?」
「どうかしら」
 そのことを尋ねるのだった。
「勉強してみたら。どう?」
「そうね。それじゃあ」
 幸枝もまた由紀子の言葉に頷いた。
「やってみるわ、流し打ちね」
「そうして。守備は別にいいから」
「守備はいいの」
「動きも肩もいいじゃない」
 それはいいのだった。少なくとも由紀子は彼女の守備には何の不満もないのだ。
 
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