殺戮を欲する少年の悲痛を謳う。
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2話 情が消えた狂暴(バーサーク)
アーシャがコーチする射撃練習を終え、僕は拠点の最上階に上り、寝そべって星を見ていた。星は好きだが、星座や、星の名前に関する知識に乏しいので、ただ空をみあげていた。一度アメリカに住んでいた事が有ったが、街灯などでかき消され、ここまで綺麗な星を眺めることはできなかった。
「カリヒさん。隣、いいですか?」
ハーブを奏でたような声がして、その方向を見てみると、すぐにその声の正体がリーナだとわかる。彼女は小声を出していたので、僕は音だけで人物を判断することができなかった様子。それ以前に、いろいろと過去のことが過ぎって来たためそれどころではなかった。
「ああ。リーナ。どうしたの?」
「ちょっと…怖くなって」
僕が大の字で寝っ転がっている左腕に彼女は頭を載せてきた。
「奴隷をやっていた頃。私、ずっと1人でした」
彼女は奴隷時代、中身がわからないダンボールをただひたすらにトラックに積む仕事をしていたらしい。そのためか、彼女は力が強かった。カイさん曰く、だから操縦士をさせた。
「私を見てくれる人なんてどこにも居なかった。でも此処に来てからいろいろな人と関わりを持ち、初めて他人に興味を持ちました」
彼女は泣きそうな声で続けた。
「でも…前回の大きな作戦で、改めて死を感じました」
「そうだね。あの作戦の死者は2名。ゲリラで名前も知らない男2人だ」
「これからも人の死に直面して行ったら、慣れちゃうんですかね?」
僕は寝返りを打ち、彼女を抱擁する。
僕は彼女に人間らしい心もらった。だから彼女にはこちら側の世界には来てほしくなかった。足を踏み入れてから言うのも何だけど…
「ごめんねリーナ」
彼女の頬にかぶさる長い髪を耳にかけ、唇に…
その後、僕はカイさんに通信室に来るよう言われた。
「カリヒ」
「何?」
カイさんの深刻な顔を見て、僕は直感的に胃が痛くなった。
「たった今、上から連絡があった。第一部隊エアロプラスと、第4部隊ビートルが襲撃された。目撃証言によると、アメリカ軍の“サイボーグ”と言っていた」
第一部隊エアロプラス。これは海軍のようなもので、1隻のミニッツ級航空母艦を拠点とし、日本付近の太平洋にいる部隊。搭乗員は4千人近く、艦載機はF/A-18ホーネット65機。彼らが潰されたとなると、SRAは終わりだ。
そして第4部隊ビートルは僕らより少ない少数部隊で日本を拠点としている。あまり目だった行動はしていないはず。だとすれば、アフリカに在る僕らの拠点も危ない。
いや、もう手遅れだった、ヘリコプターのプロペラ音が聞こえていた。
僕は拡張器を手に通達する。
「全員武器を持って第3射撃施設へ移動!」
射撃施設は建物からおよそ2キロ離れた場所だ急いでいたせいか、10分では全員揃わなかった。ヘリコプターから何かが拠点の屋上に落ちたのが見えた。
「取り敢えず、レッド、ブルー、イエローが揃っているのはわかった。今は何人だ?」
僕は人数を確認する。すると半分の11人しか居ないではないか。
「グリーンは3人、パープルは2人か?」
双眼鏡で確認すると、12人が武器を抱えながら走ってこちらへ向かっているのが見えた。その中にはフランカも含まれている。
「あれは?」
建物の中から銃声と光が見えた。
「はぁ。突然なんだ?」
他のメンバーが呼吸を荒げているようだ。
「敵が攻めてきた。逃げながら応戦するよ。今ある武器を確認して」
建物を見る限り、もうトラックも軽戦車も壊されているだろう。
確認が3分で終わり、コードパープル、整備班は嘆くように言葉を続ける。
「この短時間で持ってこれたのは19個のM16だ」
取り敢えず、建物を制圧し返すことだけを考える。
「ヘリは消えていった」
サジは音響センサーをかくにしている。
「皆。ありがとう。2キロも在るここまで武器をそれぞれ持ってきてくれて。さて、今回の任務だ。上からの情報によると、敵はサイボーグで、第一部隊、第四部隊が潰されたらしい、詳しい数がわからない今、僕達に出来るのはとにかく生き残ることだ。しかし、出来るのであれば武器をもう少し持って行きたい。それに、私情ではあるが、あの中にビールを置いてきた!明日から何を飲めばいい?」
緊張を和らげるように言ってみた。すると飲酒税が盛り上がる。
「しゃー!取り替えずぞカリヒ!」
ミレーナに続き、気合、モチベーションを高める男ども。
「まぁ、聞いてくれ。逃げるためにはまず足となる物が必要だ。戦車とトラック。これらも無事だったら回収したい。そしてあわよくば、アフリカに居るSRAの協力者と連絡を取り、又新しい拠点を作りたい。そうだなぁ。部隊編成だ!一からやり直すぞ」
僕は19個のM16を改めて見る。
「じゃあ、こうしよう。制圧部隊と逃亡部隊に別れよう」
突然ざわめきだした。
「逃亡部隊は主にコードグリーンとパープル。君たちは命綱だ」
グリーンは医療班。
「制圧部隊はまず、僕、アーシャ、リーナの臨時コードレッド。そしてサジ、ミレーナ、カイさんの臨時コードブルー。誰かパープルとグリーンの中から2人制圧部隊に出てくれる人はいるか?」
「じゃあ、アタシ!」
フランカは手を上げてくれた。そして続くようにパープルの榛原太一が手を上げてくれた。
「ありがとう。その勇姿に感謝する」
僕らは1人1丁、銃を握る。すると10個余るはずだ。余った小銃の内、9個をマガジンを外して、僕ら制圧部隊に1つず渡し、残りの1丁は逃亡部隊に渡す。
「制圧を確認するぞ。まず、僕ら臨時コードレッドは1階武器庫に、臨時コードブルーは通信室、臨時イエローは入り口で待機、敵がもし出てきたら、連絡を取って応戦してくれ」
「作戦前に、2人だけで話がしたい。カリヒ」
サジが僕に耳打ちをする。
「なんだ?」
僕は彼の言葉に返答する。
「どうしてカリヒはあの2人を自分の部隊に入れた?アーシャは兎も角、リーナは足手まといだろ。お前に大きな負担がかかるぞ?」
「バーカ。戦士は生き残ってなんぼだ。僕が彼女らのそばにいれば死ぬことはないさ」
「敵はサイボーグだといったな?いくらお前が人類最強だとしても敵は機械だ。甘く見るなよ」
「ああ。わかってるさ。でもねぇ。足手まといってなんだよ」
僕はサジの鼻と上唇の間にデコピンを食らわす。
「いて!」
「作戦開始だ」
僕は合図を出し、建物に皆で向かう。
予定道理、配置に付いた制圧部隊。無線で軽くやり取りをしながら確認する。この無線は特殊な周波数で送っている為、自分たち以外の人たちがジャック出来ることはまずありえない。
「さて、武器を回収しようか」
僕たちは主に、爆発物を選別して所持する。
「C4と手榴弾はまぁ基本だろ。弾薬と持って行きたい武器があれば台車に乗せよう」
「はい」
「わかりました」
僕達が懐中電灯で確認しながら武器を入れていると次第に銃声が大きくなった。さっき落ちてきたものは敵のサイボーグで、上から順番に施設を破壊している。こいつらの目的は殺戮ではなく、破壊だったのか。
「2人は此処に隠れて」
僕は入り口のドアの開く方向にしゃがみ、照準を向ける。
銃声がやんだと思ったら、足音が迫ってきた。
そして恐怖、圧迫感とともに扉が開かれる。僕はその陰に銃を乱射する。30発で弾が切れるので、すぐに弾倉を入れ替えると、男は五体満足でこちらを睨んでいた。
「っふ!嘘だろ?」
男は右手をおおぶりに殴りかかってきた。僕は屈んで回避し、外へ飛び出る。もし敵が1人だったら僕だけに攻撃が集中するはずだ。それを狙えばうまく皆を逃がせそうだ。
敵はマシンガンらしきものを乱射する。僕は階段の踊り場がある曲がり角に隠れて攻撃をやり過ごす。
「こちらレッド1!武器庫前の階段にて敵と交戦中。見た感じ1人だから、武器を持って全員退避」
敵は歩いて近づいていくる。敵が見えたら銃を撃ち、退避する。僕は踊り場にグレネードを投げる。
「駄目だ!効かないや」
傷一つつかないその金属の肉体は冷たく月光を乱反射している。
「サイボーグねぇ。これはもうすでに機械だろ!」
敵の姿をしっかり目視できた。奴の両腕はガトリングガン、右目にはカメラ。それ以外はすべて金属でできていいた。大きさは2メートルほど。
「これを作るのにどれくらいお金をかけたのか気になるよ」
「気になるか?」
機械の口からは人間の声が聴こえる。
「俺は別にお前らに恨みがあるわけじゃない。無いと言ったら嘘になるが、この体になる前は奴隷だったんだ。だが、お前らができたせいでこの体にされた!もう普通の人間の生活が何一つできなくなっていたんだ!」
逆上するように僕に向かって殴りつけてくる。
僕はそれを飛び込み前転で回避する。そしてプラスチック爆弾、C4をサイボーグの背中に取り付けた。
そして体を投げ出すように距離を取り、銃を乱射する。弾丸はうまくC4に触れ、爆発と同時にパーツの一部が破片のように飛んできたのが見えた。階段を降りようとした瞬間、薬莢に足を取られて、踊り場にそのまま体が転がっていき、敵から大きく離れる事ができた。
敵は再びガトリングガンを連射してきた。僕は踊り場から直角に隠れる。敵の足音は聞こえないものの、床が振動する大きさで敵の位置が把握できる。間違えなく奴は近づいてきている。
30秒ほど経っただろうか。銃声が消え、ガトリングが空回りをしている。
「弾切れか!」
僕は即座に前にでてグレネードを投げようとするが、空回りと言うより、ドリルのように回る銃身が僕に向かって迫ってくる。僕は階段に体を投げ出し、1階の武器庫前に落ちた。
「待て!」
機械が言葉を発しながら僕に向かって接近してくる。弾がもうないのかドリルだけが迫ってくる。
「カリヒさん!伏せてください!」
僕はその声にしたがってしゃがむ。恐らくその正体はアーシャだ。敵が思いっきり僕に近づいた辺だ、僕の隣に空き缶の様なものが転がった。逃げろといっただろ、と叫びたくなったが、彼女の成長した声を聞いてしまい、それどころじゃなかった。その声で恐怖がかき消された気もした。
「嘘!」
否。その空き缶のせいで、恐怖が上書きされたのかもしれない。グレネードだと思い、耳を塞いだ。まぁ、本物のグレネードだったら僕は木っ端微塵だったのだろうけど。
この空き缶の正体はチャフグレネード。電気で動いているものを妨害するもので、今左目のカメラを無力化した。敵は僕の左耳すれすれにドリルを撃ち落としてきた。
「今です!」
リーナが合図をすると発砲音が聞こえ、血が僕の額に落ちてきた。
「生身の右目を潰したのか!」
全く、アサルトライフルでここまで的確に1発で眼球に当てるとか、アーシャは凄いな。以前のゲリラ戦で吹っ切れたのだろうか?
「カリヒさん!標的から離れてください」
「何?」
僕はリーナに言われたとおり、仰向けの状態から転がってうつ伏せになり、クラウチングスタートでアーシャのいる位置まで下がる。するとそれと同スタートでリーナが駆け出し、サイボーグの空回りしている右ガトリングの根本を左脇で抑えた。そのまま力で投げ伏せ地面に叩きつけた。
「グレネード貸してください!」
僕は栓の抜けてないグレネードを投げ、リーナに渡す。リーナは栓を外し、サイボーグの口の中に入れる。
そしてリーナは体を投げ出し、前回り受け身で離れる。アーシャは引き金を引き、手榴弾に当て爆発させた。生身の顎がはじけ飛ぶ。
僕たちは軽戦車、トラック、オートバイを持ち運び、射撃場に行く。
「第三部隊の皆さん!無事ですか?」
「あ?えっと?」
射撃場には見知らぬ大型トラックと、背の高い成人男性が堅苦しく立っていた。その大型トラックのトランクにはテントのようで、僕らの小隊を半分ほどが生活できそうな空間になっていた。
「自分たちは第八部隊諜報部フレーム。はじめまして、隊長のフェンド・スミルノフです」
「八部隊かぁ。応援感謝する」
彼はテントの入り口を広げ、言う
「乗ってください」
フェンドさんのお言葉に甘え、コードグリーン、パープルのメンバーを乗せる。
アフリカの砂漠の隣に存在する林には獣道ができていて、丁度戦車が通れるくらいの大きさだ。ここなら見つかることも少ないだろう。
そしてそのトラックに僕達はついていく。
走行中、僕は半分眠たかった。寝ようとしたが、アーシャは僕を揺するように起こす。
「起きてください!後ろからあのサイボーグが来ています!」
「嘘だろ?」
軽戦車の最大速度と同じ時速35キロについてきている。
「コードブルー!」
僕は無線を取り出し、軽戦車部隊に連絡する。
『はい!ブルー1です!』
リーナは飛び起きたような声を上げ、答えた。
「ブルー3に繋いで!砲塔を後ろに向けて!サイボーグが追尾してきている!」
『ブルー3、了解』
サジの向けた砲塔から出た高価な榴弾は敵サイボーグの胴体を貫き炎上させる。この前カイさんが競り落としたもの。金が無い第三部隊からしてみたら相当の痛手だ。サイボーグごときに…
榴弾はかすってもダメージを与えられるものだ。それを見越してカイさんは榴弾を選んだのだが、サジは弾が当たりづらい行進間射撃でも胴体を貫く事ができた。
「軽戦車を降りろ!」
『なんで?』
「ヘリが迫ってきている!」
僕らのトラックは速度を落とし、走行しながらも、戦車に乗っている3人を引き上げる。
見つかることがないと思っていたが、敵のヘリはサイボーグに索敵させていた様で、奴の左目カメラは僕らを写してヘリに伝えていたのだろう。
「ミレーナ。RPGかして」
僕は彼女に要求するが、
「嫌だ!」
拒まれてしまったようだ。
「ロケランだったらいいよ」
「はぁ?」
「え?ソッチのほうが高くないか?」
サジは冷静に言葉を発した。
「だってカリヒが使った武器って壊れて帰ってくるじゃん!この前RPGの銃身変えた原因カリヒなんだからね!」
「ご、ごめん。まぁいいや。ロケランね」
僕はミネベアを腰のホルダーに挿し、ロケットランチャーを肩に担いだ。そして!
「じゃあ、スピードを上げてくれ!海彦さん」
「わかりました。では後はよろしくお願いします。カリヒさん」
僕はスピードが上がったトラックから飛び降りる。
「カリヒさん!?」
「どうして降りるんですか?」
リーナとアーシャの言葉に、僕はにっこり笑って返答し、振りほどくように前を見て、転がり落ちていった。
一瞬でトラックの姿が消え、残ったのは燃えたサイボーグの残骸と、蛻の殻と化した戦車と、空を舞うヘリコプター。
「さあ!始めようか!」
敵のヘリは僕に向かってチェインガンを掃射する。僕は戦車の後ろに隠れ、攻撃をやり過ごした。ヘリが回りこみ、僕を見つめた。
僕はヘリに向かってロケットランチャーを撃った。狙いは胴体。アーシャのおかげで射撃の腕は格段に上がったと豪語しているが、実際はそんなこともなく、尾翼に掠め、後部ローターを壊しただけだった。
そのヘリは右に回転しが、速度を上げる前に樹木に直撃し、動きを止めた。その中から3人出てきて、パラシュートで着地した。僕はロケットランチャーの残骸を投げ捨て、ミネベアを抜く。
パラシュートに向かって打つものの、距離が届かなかった。
「ファック!」
敵兵の声が聞こえ、こちらに中指を立ている。恐らく挑発のつもりだろう。僕は歩いてゆっくり敵の着地地点に向かう。
敵3人は僕に向かって小銃を構える。僕はまず、3発撃った。その弾は密集している敵の1人の足にあたり、2人にしがみつくように倒れる。
僕はそれを狙い、銃を乱射し、接近する。足をやられた敵の頭部に6発の銃弾が食い込み、残りは1人の敵の腹部、そしてもう1人の右腕に当たった。
その瞬間…
僕の理性は掻き消えた。
ミネベアが右手から外れ、気がついたら敵の至近距離に身を投げていた。
左腰に装備しているジャックナイフ。これで腹部を損傷した敵の喉に突き刺し、開いている左手で傷口を広げた。
残った1人は怯えながら1歩、2歩と尻餅をついて後退する。ズボンの股当たりに湿りが見える。僕はミドルキックで敵の前に出ている左足を蹴る。いい音が鳴り、ポッキリ折れたようだ。
僕はそいつにまたがり、へそ部分にナイフを突き立て上下し、喉まで持ち上げた。敵は吐血して気絶…いや、絶命した。
僕は高笑いが止まらなかった。その笑いは夜の林にいる生き物すべてに恐怖を与え、当たりがざわめきだす。
高笑いをしていると、足音が聞こえる。僕は立ち上がり、ナイフを構えた。突進し、急接近すると、リーナだった事に気づき、僕はナイフを投げ、彼女から遠ざける。勢いを殺せずに、リーナにまたがった。
「カリヒさん?どうしました…」
彼女は涙目で少し怖がっているようだ。僕は彼女の顔を見て我に返る。
「ご、ごめん!」
僕は彼女から離れる。
「だ、大丈夫です…」
彼女は僕の左手に付いている血、頭から上半身にかけてい付いた返り血を見て困惑し、死体を見て嘔吐した。
「だ、大丈夫?」
「こ、これ…カリヒさんが…やったんですか…」
彼女の表情は僕を憐れんでいる。
「…ああ。僕がやった」
彼女は沈黙する。
「…」
僕はリーナに向けての言葉が見つからなかった。しかし、自分を伝えることは出来るだろう。それが彼女にとってどれだけ残酷な…それは僕にとってどれだけ酷い仕打ちだとしても報いとして受け入れよう。
「僕には奴隷時代からの殺戮願望が有った」
彼女の目は一瞬険しくなったが、すぐに情にあふれたいつもの目に戻った。
「カリヒさんはいつもそれを押し殺していたんですね」
やつれた顔でにっこり笑うリーナ。彼女は聖女のように僕を抱擁した。
「今まで、辛かったですよね?」
僕はもう理性を切り捨てた。彼女の抱擁に甘え、求めた。
撤退後、僕たちは第八部隊の拠点に居座らせてもらっている。彼ら第八部隊は8人の小編成で、武器も全然持っていないグループである。
しかし、諜報部と言うこともあり、SRAの情報だけでなく、アメリカの動きやその他の国の経済情勢、株などを取り仕切っていた。
「カリヒ隊長。上層部に、先ほど起こったことを報告いたします。抽象的で良いので、説明してください。」
僕はもう眠かった。報告は明日にして欲しいところだが、この堅苦しい男、フェンドはまず報告が先と言って、僕を眠らせてくれない。
「攻めてきた敵を撃退した。建物が無くなった。第八部隊と合流した。情報が漏れている。以上」
「わかりました。報告をします」
僕はやっと仕事から開放され、もう日が昇っていた。
第3部隊カラーズのメンバーは林の中に在るテントで雑魚寝している。
僕もその後、寝た。
「カリヒ隊長!」
「何だ?」
フェンドは資料を持って、寝起きの僕に差し出してきた。
「上層部から命令が下りました!」
僕は身体を起こし、資料を眺めた。
資料というより。手紙や伝令に近かった。
『第三部隊隊長 矢渕カリヒに次ぐ
第八部隊隊長を第三部隊の傘下に置く。それから3人の人員をそちらへ向かわせている。
3ヶ月後、2901年9月3日に、矢渕カリヒ、アーシャ・K・東、リーナ・カーミを第零部隊と任命する。それまでに、残りの兵を強化せよ。』
「何だこの上から目線のクソ伝令は?」
僕はガラガラ声のまま、ぼそっと呟く。
そしてフェンドを見る。
「君さあ。どれくらい戦える?」
「戦術と戦況を教えていただければ」
こいつは戦闘に出さないほうがいい。次の隊長はカイさんに任せるか。
僕は全人員を集め、集会を行う。
拡張器を手に取り、
『先ほど、上層部から指示があった。第三部隊カラーズと、第八部隊フレームを合同させ、新第三部隊を編成せよと言われた』
群衆は静まり返る。
『で、これから新しいメンバーがこちらに向かってきているらしいが、上層部は君らを鍛えあげるよう言ってきた。まぁ、体力トレーニングを重点的に行い、あわよくば近距離銃撃戦の訓練も行いたい』
最後まで静かだった。
2週間が経った。3人の男性が、1千発以上のNATO弾と、30発を詰め込めるマガジン50ダース以上と一緒にやってきた。
今日は、コードグリーン、コードパープルが、その3人の男性に依るコーチを受け、それ以外は、弾倉を詰める作業を行っている。マガジン詰めの作業は、僕、アーシャ、リーナ、カイさん、サジ、ミレーナの6人で行っている。海彦さんは持久力が無いため、トレーニングに無理矢理参加させた。
新しく配属された3人の男性は元傭兵で、かなり教えるのが上手だった。やはり初めは基礎体力トレーニングを教えている。
「あの…カリヒさん」
弾倉の中に弾丸を入れながらリーナは問う。
「第零部隊ってなんですか?」
「あ。アーシャとリーナに言うべきだったな。ひとことで言うと暗殺部隊だ。これは最終手段として最後まで取り扱われなかったけど、もう第一部隊が潰れたんだ。だから今回は政治権の略奪よりも、政治家の暗殺を優先したんだろう」
僕は30発入れた弾倉を木箱に投げ入れ、空の弾倉を取り、再び入れ始める。
「どうして私達何でしょう?」
アーシャは弾倉を丁寧に木箱に入れ、空の弾倉を入れる。
「サイボーグを足止めしただろ?あの連携をフェンドさんは大げさに伝えたんだろ。本来なら君らにも、この訓練に出て欲しかったんだけどな」
10発入れた辺りで、ケースを開ける。
「暗殺部隊と言っても、そこまで面倒なことはしないさ。大統領を殺してそれで終わりだ」
僕は軽く言ったつもりだったが、彼女たちの手が止まった。するとサジは慰めか、または僻みかわからないが、言葉を発した。
「君ら2人はなにもしないだろ?カリヒは1人で十分なほどに強い。全部こいつに任せな」
サジは2つのマガジンを同時に持ち、効率よく入れている。
「サジは偶に空気よめないよな」
僕は彼に向かってつぶやいた。
「空気に文字が書いているわけでもないのに」
サジはムカつくほど落ち着いた対応をする。
「なあ。ところでカリヒ」
今度はカイさんが言葉を出す。カイさんは新兵時代、よくこんな単純作業を無理矢理やらされていたみたいで、この中で、最も素早くマガジンをセット出来ている。
「次の隊長は誰にするか決めたのか?カリヒ以外にこの部隊をまとめられる奴は居ないと思うしな」
「今のところ、候補はカイさんだ。でもあまり負担はかけられないだろ?そこで、サジも候補に入れてある」
「海彦にやらせる気はないのか?」
海彦さんは勢い良く迫ると、身を引く性格だ。この個性派部隊の指揮は向いていないだろう。
「俺や海彦さんやカイさんよりもミレーナが良いと思うな」
サジは2つのマガジンを木箱に投げ入れた。
「そう言えば、この作業を始めてから、ミレーナはしゃべらないな」
と思い、ミレーナの手を見てみると…
「死ぬほどトロいぞ」
サジはまたしても的確に状況を言う。
そう。1秒に約1発の銃弾を込められるとしたら、ミレーナは30秒に1発のペースだった。
「話しかけないでくれるか?」
ミレーナは2日酔いと似た感じの辛そうな声で続ける。
「あ、すまんカリヒ。さっきの言葉は前言撤回だ」
サジは珍しく自分の意見をねじ曲げた。
「俺が隊長やるわ」
「ああ。それがいい」
利害の一致だ。
そんなこともあり、新隊長はサジ・レードボルグに決定したわけだ。
この第三部隊に未練を残しながらも、次の戦闘へと火蓋が切って落とされた。
「カリヒ隊長」
新入退院のレンジさんが僕を呼んでいる。彼は身寄りがなく、コードネームとしてレンジと呼ばれている人だ。まあ。この人達がいれば安心だろう。
続く?
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