戦国異伝
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第二百三十四話 燃え落ちる寺その三
「我等は近くの廃寺に身を潜めよう」
「それでは危ういのでは」
「ははは、都に近いからか」
「都は」
親父は本能寺と二条城の方を見た、どちらからも煙が上がっている。
その有様を見てだ、長益に言った。
「今はとても」
「そう思うな、しかしじゃ」
「それでもですか」
「あの者達は兄上と奇妙は探すが」
「貴方様はですか」
「そうではない、わしは後回しじゃ」
探されるにしてもというのだ。
「何処かの廃寺の中に潜んでいればな」
「難を逃れられますか」
「そうした寺も見付けてある」
既にというのだ。
「いざという時は潜むつもりじゃった」
「そして今が、ですか」
「そういうことじゃ、ではな」
「これよりですか」
「わしはこの者達と潜む」
従者達を見ての言葉だ。
「茶器も持ったしな」
「では」
「兄上と奇妙はじゃな」
「はい、帰蝶様も」
親父は帰蝶のことも述べた。
「既に」
「ならよい、後は本能寺の茶器は蘭丸達が持って来るが」
「そちらもですな」
「蘭丸は切れ者、何とでもするわ」
「それでは」
「うむ、それではな」
こう話してだ、そしてだった。
長益は己の従者達を連れて抱え背負っている茶器達と共に何処かへと消えた、その本能寺においては。
幸村と兼続がだ、蘭丸に言っていた。
「蘭丸殿、では」
「そろそろです」
「はい、それがしがですか」
「中に入られよ」
「傷を負った者は既にですな」
「はい、助からぬ者は腹を切りました」
蘭丸はこのことから二人に答えた。
「そして傷が軽い者はもう逃げました」
「では後は」
「残りの者を連れて」
「それがしがですな」
「中に入られよ」
「その様に」
こう言ってだ、蘭丸に寺の中に向かう様に言うのだった、そして。
二人は十勇士達と共に戦いつつだ、蘭丸に言った。
「後詰は我等がします」
「十勇士達と共に」
「ですからお気遣いなく」
「行かれて下さい」
「頼み申す、さすれば」
蘭丸も寺の中に入った、その時に共に入った者達に茶器のことを言った。
「既にあらかた持って行っておるか」
「はい、皆に少しずつです」
「持たせています」
「ですから後はです」
「我等の持って行く分だけです」
「ならよい、では我等も去るぞ」
こう言ってだ、蘭丸も去るのだった。しかし彼は抜け穴の中で躊躇を見せて周りの者達にこう言った。
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