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シェフはフロイライン

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3部分:第三章


第三章

「カフェ巡りが」
「では毎日カフェを回っておられるのですね」
「お金がある限りは」
 そうしているというのだ。趣味も金があってこそだ。
「そうしています」
「成程。それではです」
「それでは?」
「楽しみにしています」
 エリザベートはその優雅な微笑みで彼に話してきた。
「これからのことを」
「といいますと?」
「はい、そのままお楽しみ下さい」
 端整な姿勢で。金髪を太陽の光で輝かせながらの言葉だった。
「このウィーンのお菓子とコーヒーを」
「わかりました。それならです」
 一希はその見事な輝きを見ながら答えた。
「これからも」
「是非共」
 はじめてそのフロイラインと話ができたのだった。しかもその名前まで教えてもらった。このことにである。
 一希は夢の様な気持ちになった。それで恍惚とした顔でこう言うのだった。
「いやあ、凄いね」
「フロイラインとお話できたことが?」
「そんなに嬉しいんだ」
「本物のフロイラインだね」
 こうまで言う始末だった。
「あの人はね」
「だから普通だって」
「ウィーン、いや欧州じゃさ」
「そういうのも普通なんだけれど」
「だから貴族制度ももうないし」
 このことも話す。オーストリアが共和制になって久しい。
「確かにお金持ちで家も立派だけれど」
「伯爵家なのは確かだけれど」
「それだけだよ」
「僕達と同じ学年だしね」
「それでも。気品が違うね」
 まだこう言う一希だった。恍惚とした表情も変わらない。
「やっぱり。ああした人がいるって」
「いるって?」
「どうなの、それで」
「凄いね」
 またこの言葉を出すのであった。恍惚としながら。
「ウィーンだよ、本当に」
「ウィーンは確かにウィーンだけれど」
「だから普通なんだって」
「僕達と変わらないよ」
「だよね」
「いや、本当に何かが違うよ」
 それでだ。またしてもこんなことを言うのであった。
「フロンラインだね。正真正銘のね」
「まあ日本にはいないみたいだし」
「そう思えるのかな」
「そうかもね」
 学友達はそんな彼を見ていて遂に折れたのかこう言ったのであった。それから彼は何度かエリザベートと話をした。そうして彼女のことをさらに知るのであった。
「そうですか。趣味は音楽鑑賞と」
「お菓子作りです」
 それだとだ。笑顔で一希に話すのである。
「読書も好きですが」
「音楽もですか」
「両親が好きでして」
 その影響だというのである。
「幼い頃から。ピアノを嗜んでいます」
「音楽の都でそれをですか」
「月並みですよね」
「とんでもないですよ」
 彼女の謙遜はすぐに否定するのだった。本気で。
「それは」
「そうでしょうか」
「ですよ。フォーゲルヒルデさんは」
「はい」
「本当に素晴らしい方です」
 本気で言ったことである。
 
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