忍具を扱う少女
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第2話
アカデミーにはイルカの言う通り、テンテンのように利用するこどもたちはいなかった。向上心ある者は家で修行しているだろうし、ない者は遊んでいるのだろう。
テンテンは図書室のカギを開け、中へ入る。何をしたらいいのかわからない以上、まずは自分を知る必要がある。彼女は『忍の心得 その1』という本を手に取り、窓に近い席に座って黙々と読み始めた。
『忍の心得 その1
忍とは、忍び耐える者である。目的のためならば感情を忍び、どんな結果にも耐えなければならない。忍とはチャクラを操り、忍術や体術を扱う者ではない。忍術や体術は耐え忍ぶための手段であり、耐え忍ぶ心がなければ、術を使うことができるだけの者に過ぎない。
忍の始まりは――』
それから『忍の心得 その3』までびっしりと忍の歴史だったため、テンテンは読まずに飛ばした。歴史を学ぶためにここへ来たわけではない。授業でうんざりするほど教え込まれている以上、いまは必要のないものだ。
『忍の心得』はその5まであったが、基本的にはその1の冒頭に書かれている文にまとめられている。忍とは忍び耐える者であり、その心を持つ者こそ真の忍である。そして、忍術や体術はその手段に過ぎない。
忍とは忍術や体術の才能が全て、とはさすがに思っていなかったものの、自分はまだ忍ですらないだと思った。それよりも、忍術がつかえないことで周りから落ちこぼれと馬鹿にされ、ひたすらに耐え忍ぶ彼の方がよほど忍であるといえた。
彼女が次に手を取ったのは『忍術大図鑑』。忍術がすべてではないと学んだばかりではあるが、それでもどういった忍術がつかえるかは忍の指針の一つであることは嘘ではない。『忍の心得』にも同じようなことが記されていた。
『忍術大図鑑
第1節 チャクラと忍術の仕組み
第1章 忍術の定義
忍術とは、チャクラというエネルギーを印によって術に変換された形である。印はエネルギーを変換する発動体のようなもので、術を発動するために必ずしも印は必要としない。印を必要としない術については「第2節 忍術と印の関係」で仕組みを、「第4節 その他の忍術」で種類を解説。
次に――』
忍術の仕組みや術が何なのかについてはこれまた授業で教わっていることだ。いまさら復習する必要もないため、一気に頁を捲り「第3節 主な忍術」を開く。
そこには、いま自分がつかうことができる基本忍術からありえないと思うほどの聞いたことがないまで記されている。発動のコツから印まで詳細に書かれているそれを全て読む気にもなれず、術の種類と簡単な効果だけを流して読んだ。
それから「第4節 その他の忍術」、「第5節 瞳術と血継限界」、「あとがき」まで読み終えたがつかってみたいと思う術はあったが自分の指針には繋がらなかった。
「じゃあ次は……『体術の型』はいいかな」
一瞬だけ自分が体術で敵の忍を圧倒する図を浮かべようとも思ったが、なぜか自分の代わりにマッシュルームヘアーの何だか濃い人物が出てきたため慌ててその本を棚に戻した。
代わりにいろいろな本を手に取ってみるもどれも納得がいかず、一通り読んでも参考にならないものが多かった。無駄ではないが今の彼女にとっては不要な知識だけが増えていった。
グギュル~
「お腹空いたな……」
いつの間にかだいぶ時間が経っていたようである。時計をみれば、もうお昼をまわっている。朝ご飯を食べたとはいえ、ずっと本に集中して頭をつかっていたテンテンがお腹が空くのは当然だ。
鳴りやまないお腹と財布の中に入ったお小遣いを見比べてきょうは外でご飯を食べることにした。家に帰れば父親がつくってくれるだろうが、いまから家に帰るまでお腹が保ちそうにない。幸い修行終わりでお腹を空かせたアカデミー生向けのご飯処は近くに多くある。忘れずにカギを閉め、図書室を出たテンテンはお腹がなるのをなんとか抑えイルカの元へ向かった。
「勉強は終わりか?」
クキュゥ~
「その、お腹空いちゃって。だからカギは一回返しますね!」
「そうか、悪かったな。そうだな、ちょうどいいか」
「……?」
「実はな、これからナルトと一楽のラーメン食いに行く約束をしているんだが、一緒に来るか?」
カギを預かったイルカは小さく鳴ったテンテンのお腹を聞かなかったことにしてテンテンを誘った。
「大丈夫なんですか?」
「ああ、昼時はさすがに警備の忍が変わってくれるし、わざわざこんな時間に来る生徒もいないだろう」
「そうじゃなくて、そのナルト君と一緒に私も行って大丈夫なんですか?」
「あ、そっちか。大丈夫! それよりも一緒にいることでナルトに少しでも刺激を与えてくれればいいと思ってな。アイツはいつもイタズラばかりで、その気持ちを少しは勉強に向けてくれればいいだがなぁ。もしかしてラーメン嫌いだったりするか?」
「い、いえ。じゃあ、一緒に行ってもいいですか?」
財布の重さも変わらず、大好きなラーメンも食べられる、いまの彼女に断るという選択肢は存在しなかった。
「ということで、やってきたってばよ!!」
「ナルト、先に行くな!! 全くもう、しょうがないな」
「イルカ先生とテンテンも早く来るってば! 早くしないと一楽閉まっちゃうってばよ
!!」
「いや、いくらお昼とはいえ、こんな時間から一楽閉まるなんてありえないから!! でも、早く行かないと混んじゃうし、なによりもうお腹が……。イルカ先生、行きましょ?」
「ああ、そうだな」
イルカとともにナルトと合流したテンテンは自己紹介を終え、さっそく一楽へと向かった。
オレンジの服に少し赤みがかった金髪の少年はテンテンが噂に聞いていたほど悪い子でないことがすぐにわかり、前評判なんて関係なく好ましく思った彼女は普通に接することに決めた。むしろ、何故こんないい子をまわりが避けるのかが不思議でならなかった。
対するナルトは最初、初めてあったばかりのテンテンに警戒心を抱いていた。いつものように化け物扱いされるかもしれないから、という理由ではない。単に自分の食べるラーメンの量が減るのではないかと危惧したからである。イルカがそんなことはないと言ってからはにこやかにあいさつをしてきたが。
「それで本当にあいつ嫌なんだってば。いつもスカしちまってよー。サクラちゃんも少しくらい振り向いてくれてもいいと思うんだけどなぁ」
「そう思うんなら、少しくらい真面目に授業を受けろ!」
「だってつまらないんだってば。テンテンもそう思うよなー?」
「いや、わたしは……」
ラーメンを食べながらナルトの愚痴を聞いているうちに話は同学年の天才の話になる。彼は天才と名高いうちはサスケに敵愾心を抱いているようで、その胸のうちは止まることなく出ていく。
「あのなあ、お前とテンテンを一緒にするんじゃない! お前と違って勉学も優秀、休校日まで勉強にしに来たんだぞ。お前もイタズラをしている暇があったら勉強したらどうだ!」
「おっちゃん、ラーメンおかわり!! もう説教は聞きたくないってばよ。テンテンはどうしてあんなにつまらない勉強できるんだ?」
「どうしてって……」
そんなこと言われても彼女にはわからなかった。勉強することは好きではないが特に面倒なことと思わなかったから。必要なのだからしていただけだ。きょうに限っては何か参考にすることがあればいいな、と思う程度のことだ。
「火影になりたいと思うのなら少しは勉強しなきゃだめだぞ、全く」
「そんなことしなくても俺はパーッと立派な忍になって火影になるんだってばよ!!」
「はぁ……全く」
「火影? ナルトは火影になりたいの?」
「そうだってばよ! いつか火影になって里のみんなに俺のことを認めさせるのが俺の夢なんだってばよ!!」
「どうして?」
テンテンは不思議でならなかった。話を聞いていればナルトが噂に違わない落ちこぼれといってもいいくらいの実力しかないことがわか。それでも彼は天才といわれるうちはサスケをライバルと呼び、いつかは火影になると言う。どうしてそんなに真っ直ぐでいられるのか不思議だった。
「どうしても何も、一度言った言葉は曲げねえ。俺のその忍道に従って火影になる、それだけだ。そこに何か理由が必要なのか?」
「そうだな、ナルトの言う通りだ。少し話をしていいか?」
ナルトの純粋なその言葉に何も返せないテンテンをみたイルカは、何かに悩んでいることを察した。
イルカの話は彼の過去だった。アカデミー時代、イルカ自身もナルトのように人からの注目を集めるために馬鹿をした。しかしナルトとは違い特別な目標もなく、いつまでたっても表面的な自分しかみられなかった。彼が生徒たちに親身になるのは生徒のことを認めたいと思う気持ちがあるからなのだろう。そして、苦悩していくうちに彼は忍として生きることよりも教師になることを選んだ。もちろん、教師になってからも苦悩は続いた。生徒に教えることは楽しいと思えても、本当にこのままでいいのかと悩むこともあった。なりたい姿がみつかったのはある生徒との出会いだった。まわりから煙たがられ、馬鹿にされる生徒。最初は自分も他の者と同じく関わらないようにしていた。けれど、次第にそうする自分に違和感がでるようになった。
「なりたい姿がみつかったのはそれからなんだよ。だから、ナルトのようにこどもの頃から夢が決まっているのは稀なんだ」
「へっへーん、すごいってば? すごいってば?」
その話を聞いたテンテンはすぐにそのこどもが目の前にいるナルトだということに気が付いた。しかしその話を聞いても自分の中の悩みが止まることはない。
「悩みは……解決しなかったようだな。でも、悩むことも大切だぞ。午後からも図書室、つかうか?」
食事を終えた後、ナルトは昨日いたずらをして汚した小屋の掃除に駆り出され、イルカとテンテンはアカデミーに戻ってきた。
イルカから図書室のカギをまた預かったテンテンは、再び図書室にこもり、悩み続けるのだった。
そして――
「これだ! わたしがなりたいのはこんな姿だったのよ!!」
ついに見つける、彼女がなりたい忍の姿を。
その日をきっかけに彼女は大きく変わることになる。
後書き
綱手ね。そんな存在もいましたよね、ええ。しかし彼女が憧れるのは綱手ではありません。
彼女が憧れるのは――
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