魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico45-B嬉し悲しも想い次第
私立聖祥大学付属小学校。チーム海鳴のメンバー全員が通う小学校。2月の寒空の下、その小学校の閉じられた正門に、ダッフルコート、タックスカート、編上げブーツと言った出で立ちで、両手を腰に当てて仁王立ちしている少女が1人。肩にはポシェットを提げている。髪色はまるで雪のように真っ白で、瞳は青空のように透き通った水色をしている。
「待っててね、マイスター・・・!」
彼女はアイリ・セインテスト。八神家の一員として過ごし、ルシリオンの融合騎として彼を支え、そして彼の隠す真実を知る数少ない少女。アイリはキョロキョロと周囲を見渡している。どうやら敷地内に入ろうとしているようだ。さすがに真正面からは悪手だと判断したのか駆け出し、その場から離れた。
「むぅ。抜け道とか無いんだね・・・。しょうがない・・・!」
小学校の周りをぐるっと何周化した後、アイリは何かを決心したのか敷地の裏へと移動して両膝を軽く曲げ、「よいしょっと」跳んだ。アイリは一度のジャンプで3m近い塀の上と飛び乗った。通行人に目撃されるのを避けるためにすぐさま敷地内へと降り、「マイスターの魔力反応は、っと」木陰に隠れた上で目を閉じた。
――魔力探査――
魔力反応を探す魔法を発動した。サーチの熟練度が高ければ、魔力パターンまでも解析できて個人を特定することも可能。アイリはこの何百年とレンアオムで鍛えられたことで「見つけたっ❤」ルシリオン独自の魔力パターンの完治に成功できるまでの熟練度を有していた。
「アイリ・セインテスト、行っきま~す♪」
そうしてアイリはルシリオン達の居る校舎へ向かって駆け出す・・・が、「っと、大人に見つからないようにっと」すぐに立ち止まり、近くにあった焼却炉の側に積まれていた段ボールを1箱拝借し、某CIA工作員の如くダンボールを被って、カサカサと慎重に向かい始めた。
†††Sideはやて†††
お昼休みなって、いよいよ本番。ルシル君のところに他のクラスの女の子たちがチョコを渡しに来始めた。ルシル君は「ありがとう!」お礼を言って、女の子の学年とクラスと名前を訊いて、それをノートに書き記してく。ホワイトデーにお返しをするためにや。
(中には本命チョコもあるんやろうけど、ほとんどはホワイトデーのお返し目当てなんやろうな~)
去年のホワイトデーは、ルシル君お手製ラスクを贈られた女の子たち大騒ぎやったからなぁ。その日の放課後にはルシル君のお菓子作りの腕はプロのお菓子職人って話が女の子たちの中に流れた。そやから今年はそのお返しを目当てにしてチョコを贈る女の子が増えたんや。
気持ちは解らへんでもない。あのラスクはホンマに美味しかった。チョコ、ココア、ハチミツ、キャラメル、オレンジ、ストロベリー、6種類の味のラスクはルシル君も自信作って言うんが解るほどの美味しさやった。今年もあのラスクを食べられるかと思えば今から楽しみや。
「ル~シル~」
「へっへっへ~」
「ハイエナ共め。このチョコは俺が貰った物だ、渡すわけにはいかないな!」
「そう堅いこと言うなって」
「俺たち友達だろ」
「そんなにたくさんあるんだし、少しくらい分けてくれよ」
「虫歯になっちゃうぞ~。太っちゃうぞ~。せっかくの可愛い顔や細い体が、俺にみたいに縦に横に太くなっちゃうぞ~」
チョコをたくさん貰って満足そうなルシル君の側にクラスの男の子たちが空き箱片手に迫る。その視線はルシル君が貰った数々のチョコ。去年も軽く争奪戦が起きてたもんな~。まぁ、ルシル君は魔法なんて使わんくても身体能力が高いから、その日の休み時間はチョコを持って逃げ切ってたからなぁ~。
『はやて。なのは達の教室に行く前に・・・』
『うん、そうやな。今のうちにあげよか』
思念通話でシャルちゃんと頷き合って、保冷バッグを手に取る。そんでシャルちゃんと一緒に教団の前にまで行って「男子ちゅうも~く!」教卓をパンパン叩いた。今まさに席を立ってダッシュをしようとしてたルシル君、それに男の子たち、ルシル君を逃がそうと男の子たちを威嚇する女の子たちが一斉にわたしらを見た。
「わたしとはやてから男子たちに、手作りチョコを贈ろうと思う!」
「えっと、一列に並んでくれるかな? 1人1個やけど、勘弁してな」
わたしらがそう言うと男の子たちは「うぉぉぉぉぉぉ!」雄叫びをあげた。そんで1列に並んだ男の子たちに、シャルちゃんと順番にチョコを渡してく。チョコを受け取った男の子の中には泣いて喜んでくれる子や、わたしらからチョコを貰った証拠として携帯電話で写真を撮ってほしいって子も出てきた。シャルちゃんはノリノリで2ショット写真を撮るんやけど、わたしはルシル君の視線の中で別の男の子と2ショットなんて撮りたないってゆうのが本音や。
「ヘイヘイ。わたしが撮ってあげるよ。ほら、横に並んで」
わたしが困ってると、シャルちゃんが男の子から携帯電話を借りて2ショット写真を撮った。
『シャルちゃん・・・その、おおきにな』
『んー? わたしは好きで撮ってもらってるから気にしないで良いよ?』
それから男の子たちにチョコを配っていくと、「亮介君と護君は、彼女ちゃんに許可取らないとね」シャルちゃんが残る男の子2人の方を見た。亮介君は刀梅ちゃんからチョコもらったみたいやし・・・。
「おーい、耀っち~! 護君にもチョコあげて良い~?」
真神護君の彼女・・・とゆうよりは幼馴染の火照耀ちゃんを呼んだ。耀ちゃんはハーフアップにされた綺麗な夕陽色の髪を揺らして「護は欲しいんでしょ? 貰えばいいじゃん」ルシル君より女の子っぽい顔してる栗毛の男の子、護君をじろっと見た。
「えっと・・・」
「もう! そんな意地悪しなくたっていいじゃん。はい、護君!」
「あ、ありがとう、シャルちゃん!」
シャルちゃんと護君が微笑み合って、ちょう不機嫌そうな耀ちゃん(ツンばっかでなかなかデレへんのやね)は自分の机の中をチラッと覗いた。どうやらチョコだけは用意してるみたいや。そやけど渡すタイミングが掴めてへんようやな~。
「はやて。わたしのチョコ無くなったから、はやてのを亮介君にあげて~」
「あ、うん。えっと・・・」
刀梅ちゃんをチラッと見ると「私は良いよ。亮介君も、貰うチョコが1個だけよりは嬉しいでしょ♪」って、亮介君に背中をバシッと叩いてわたしの前に押し出した。わたしはちょう照れてる亮介君に「はい、どうぞ」チョコを手渡した。
「よしっ。次は女子のみんなに、友チョコfor you!」
「今から配るな~♪」
男の子の次はクラスメイトの女の子に友チョコ配りや。みんな「ありがと~!」喜んでくれたし、中にはハグしてくれる子も居った。男の子にも女の子にも喜んでもらえたし、作って来てホンマに良かったって思うた。
「そんじゃあ、ルシル君。1組に行こか」
「お弁当箱を持ってね」
「ああ、判った」
そんでいざ、わたしらチーム海鳴の大半が居る1組の教室に向かうために、弁当箱とすずかちゃん達にあげる分のチョコを持った時、「なんか廊下が騒がしいな」ルシル君がそう言うた。確かに、「誰かの妹?」やとか「しっろ!」やとか「可愛い♪」やとか、廊下の方が騒がしい。
「なんだろう、何か嫌な予感というか・・・」
「ルシル君・・・?」「ルシル・・・?」
ルシル君が廊下へ向かって歩き出したその時、「近い、近い、近いよ!」本来、学校では絶対に聞かへんはずの声が廊下の方から聞こえてきた。ルシル君らと顔を見合わせて、「まさか・・・!」教室の出入り口に視線をやった。その直後・・・
「ここからルシルの反応あり! ・・・ほら、やっぱり! ル~シル~~~!」
「「「アイリ!!」」」
女の子が教室に飛び込んで来た。やっぱりアイリやった。ルシル君の姿を視認したアイリは満面の笑顔を浮かべて、ルシル君に飛び付いた。
「その子、誰!?」
「わぁ、綺麗な髪~♪」
「うわっ、しっろ!」
「ちくしょう! またルシルかよ!」
「どれだけモテれば気が済むんだ!」
「祭りじゃ~」
「男だけのお祭りじゃ~」
「いま始まる~」
「モテない男たちの~」
「ルシルに贈る~」
「怒濤の~」
「フェスティバ~」
ルシル君とアイリの周りに集まったクラスメイト(特に男の子たち)が大騒ぎ。ううん、そんなことより今のアイリは私服姿や。先生に見つかればこんな騒ぎだけでは済まされへん。
「ルシル~。一緒に寝てたんだから起こしてほしかったよね。チョコをあげるチャンスは朝だけしかなかったんだから。明日はもうバレンタインじゃないから、来ちゃったんだよ学校まで❤」
「一緒にぃぃ~~~!?」
「寝ただとぉぉ~~~!?」
「もしかしてお風呂も一緒に入ってないだろうなぁぁ~~~!?」
「ん? 一緒に入ったことあるよ♪」
「きゃぁぁぁぁ♪ シャルちゃんとはやてちゃんに新たなライバル出現?♪」
「ていうか、はやてだけじゃなくてその子とも一緒に暮らしてるってどんな関係!?」
「もしかしてもう恋争いに決着済み!?」
「なんやそれぇぇぇーーーーー!」「ちょっとルシルーーーーー!」
わたしとシャルちゃんがルシル君に詰め寄る。聞いたことあらへんよ、ルシル君とアイリが一緒にお風呂に入ってたなんて。わたしが家を空けとる時、基本的にルシル君も家を空ける。アイリと一緒にお風呂に入る時間なんて無いはずやのに。男の子たちの「なんて羨ましい!!」ってゆう大騒ぎを「ちょう黙ってて!」黙らせる。
「ま、待て。違う、入ってない、風呂、入ってない。こら、アイリ! どうせ夢でも見たんだろ! な? そうだよな! そうだと言ってくれ!」
ルシル君が脂汗をダラダラ流しながら、願うようにアイリにそう言うた。するとアイリは「??・・・あっ、うん、夢! 夢だよ! あはは! 入ろうとしたらはやてにいっつも邪魔されるもんね!」何かを誤魔化すかのようにそう言いだした。怪しい・・・。
「ねえ、ルシル? ホントに夢なのぉ~?」
「まさかホントは入ってる、なんてことはあらへんよね~?」
「ヒィ・・・!」
割と本気で怯えるルシル君の姿にゾクッとした。どこか懐かしい感覚や。そう、ルシル君を初めて家に招いて、わたしの服を着せて女装させた時の、あの感覚や。あぁ、アカン。もっとルシル君をビクってさせたくなってくるわぁ~。
「ちょっと~! シャルもはやてもルシルも遅い! いつになったら1組に来んのよ?」
「なんか騒がしいけど・・・」
「って、アイリが居る!」
「え、どうして!?」
「というか、シャルとはやてがメッチャ怖いんだけど・・・」
すずかちゃん達がやって来た。アイリが学校に来た理由、そんでルシル君に詰め寄ってる理由をシャルちゃんが伝えると、すずかちゃん達が反応するよりも早く「きゃぁぁぁぁ、委員長が!」そんな悲鳴が聞こえてきた。そっちを見れば咲耶ちゃんが白目向いて倒れてた。
「ルシル君と・・・お風呂・・・白い子が・・・お風呂・・・寝る時も・・・一緒・・・ふふ、うふふ・・・ふふふふふ・・・」
「しっかり! 傷は浅いぞ、委員長!」
「いやぁ、これもうダメでしょう」
「メディックはどうした! メディ~~~~ック!」
「ねえねえ、メディックってなに?」
「あ、保健委員のことです」
うちのクラスや騒ぎを聴きつけてやって来た他のクラスの子で大騒ぎ。ルシル君は「どうしてこんなことに!」文字通り頭を抱えて、「ルシル。はい、バレンタインチョコ❤」アイリはこの騒ぎをものともせんかった。
「アイリ、とりあえず今は帰れ、な?」
「やっ。ルシルがアイリのチョコ食べてくれるまで帰らない!」
アイリがピタッとルシル君に寄り添うと、女の子たちからは「きゃぁぁぁぁぁ♪」黄色い声が、男の子たちから「うぉぉぉぉぉぉ!」なんや黒い感情が籠った叫び声が上げられた。わたしらの視線を一手に受けながらもルシル君は焦りか恐れか、手を震わせながら包装紙を綺麗に剥がして、箱の蓋をそっと開けた。そこにはアイリお手製のハート型のバレンタインチョコ。女の子たちが「おお!」って歓声を上げて、男の子(ry
「はやてとリインに協力してもらって作ったんだよ! さ、食べて、食べて♪」
「・・・・い、いただきます」
チョコを一口齧ったルシル君はもぐもぐ咀嚼。そんで「美味しい・・・!」パァっと表情を輝かせた。するとアイリも「やったね❤」万歳した。それで満足したんか「それじゃあルシル、アイリは帰るね♪ はやて達にもバイバーイ♪」アイリはわたしらに大手を振った。
「えっと、それでは。ルシルとはやての御同輩の皆様方。大変ご迷惑をおかけいたしました。これにてアイリ・セインテストは失礼させていただきます♪」
アイリは窓をガラッと開けて、ここ3階から飛び降りた。当然「きゃあああああ!」悲鳴が上がるわけで・・・。慌てて窓の側に寄って地上を見るクラスメイト達が「すごい!」やとか「マジか!」」やとか「めっちゃスキップしてる!?」やとか「どんな身体能力!?」って、アイリにすごさっぷりに驚きを見せた。
「セインテスト・・・、アイリ・セインテスト・・・、ハッ、まさかもうルシル君と入籍済みなのですか!? わたくしは神に見放されてしまったのですね!!」
咲耶ちゃんがそう叫んだから「飛躍し過ぎ!」クラスメイトから総ツッコミ。他の子からは「兄妹なんでしょ?」や「姉弟じゃ・・・?」って話が出る。となると「あぁ、だから・・・」どうゆうわけかみんなが納得し始めた。
「ルシル君の家族ならあの身体能力も当たり前かな?って♪」
「お前、人間やめてるもんな♪」
「うっせぇよ亮介」
「兄妹か姉弟かどっちか判らないけど、家族なら一緒に寝たりお風呂に入ったりする・・よな?」
「ん~、ちょっと年齢的にアウトじゃね?」
「でも良かったじゃん、委員長。ルシル君の相手がまだ決まってなくて」
「そ、そうですわね!」
和やかになる教室やけど、ルシル君とアイリの関係を知ってるわたしらはそうそう和まへんよ。アイリのチョコを美味しそうに食べてるルシル君の肩に、わたしとシャルちゃんとで手を置いて・・・
「話の続き・・・」
「しようか、ルシル」
「ま、待て、待ってくれ。入ってない、入ってないから。アイリとは一緒に寝ているだけだから!」
ホンマはルシル君とアイリが同じベッドで一緒に寝るんも嫌やなんやけどなぁ。
「ま、それはお昼ご飯の時に追求しようか。ね? はやて」
「うん、シャルちゃんっ」
「勘弁してくれ・・・」
†††Sideはやて⇒アリサ†††
学校の後は管理局の仕事ね。それぞれ自分の家に帰って、自宅のトランスポーターを使って本局へ向かうことになってる。あたしも学校の制服から局の制服に着替えて、庭に作った小屋――トランスポーターを使って本局は第零技術部――通称、スカラボに転移した。
「アリサが最後だね」
「ちょっとぶり、アリサちゃん」
スカラボの応接室には、なのはとすずかとフェイトとアリシア、シャルとルシルがすでに居た。はやてとリインとアイリはちょっと遅れるって話だからまだ来てないわね。チーム海鳴の他には、ここスカラボの主であるジェイル・スカリエッティ技術部長、階級は少将、通称はドクター、あとロリコン。その技術力は次元世界最高だって話で、実はすごい人。でもマッドなサイエンティストって印象が強い。
他にはドクターの秘書を務める、シスターズの長女のウーノ二尉。優しいけど起こった時はかなり恐い、次女のドゥーエ二尉。伊達眼鏡をかけて結構軽い口調の四女のクアットロ三尉。そして・・・
「やっほ~♪ あたしとは初めましてだよね。スカリエッティ家の六女、セイン・スカリエッティだよ♪」
見知らぬ人が居た。とにかく「初めまして、アリサ・バニングスです。えっと、セインさん・・・?」お辞儀して自己紹介。
「そんなに堅くなんないで良いよ♪ セインさんはそうゆ~堅っ苦し~ことが嫌いだからさ♪ ウーノ姉たちのことも呼び捨てなんでしょ? だったらあたしも呼び捨てでオーケー♪」
人懐っこい笑顔を浮かべるセイン。上の姉たちとは違って取っ付きやすいかも。
「アリサ様もお時間があればどうぞお茶を」
「あ、ありがとう、ウーノ」
ウーノがあたしの分のお茶も用意してくれたから、ロングソファに腰掛ける。そして「ルシル。コレ、バレンタインチョコ」向かいに座ってるルシルにあたしお手製のチョコを渡す・・・んだけど「何かあったの?」ルシルの元気のない顔に、あたしは小首を傾げた。
「いや、ありがとう、アリサ。嬉しいよ・・・」
「だったらもっと嬉しい顔を見せなさいよ」
「あのね、アリサ。ルシル、ちょっと胃にダメージ負っちゃってて」
アリシアが話してくれた。ハラオウン家に向かうルシルと違ってそのまま自宅に帰るはやてに、ルシルは今日貰ったチョコがしまってある保冷バッグを預けたんだけど、その時にいくつかチョコを抜いて来たんだって。んで、ハラオウン家に着いて、トランスポーターの設定を終えるまでの時間でそのチョコを食べたと。そして・・・
「いきなりぶっ倒れたんだよ。痙攣もしてるし、チョコに毒でも盛られたのかってさ」
「あの時はビックリしたよ。ルシルも、誰かが俺の命を狙ってる、なんてうわ言を言い始めるし」
「フッ。しかし全部いただいぞ。ごちそうさまでした」
「1咀嚼1痙攣してたよね、ルシル。見てるこっちが辛かったんだけど」
「どんな単位よ、それ」
どうやら結構な失敗作が紛れこんでたみたいね。それでもルシルは律義にそのチョコを食べ切った、と。ウーノから出されたお茶を啜りながらルシルは「なのは達のチョコをもう頂いたけど、美味しかったな~」満足そうに微笑んで、「お返し、しっかりしないとなぁ~」まった~りしだした。
「それにしても君たちの世界には面白いイベントがあるものだね。バレンタイン、だったかな?」
ドクターもウーノのお茶を啜りながら、あたしがルシルに渡したチョコを眺める。
「憶えておいて損は無いよ、シスターズ。バレンタイン。それは乙女が想い慕う男の人にチョコをあげる聖なる日。好きな人、大切な人への本命チョコをあげて秘めた想いを伝ええる日! あー、想い人にあげるのは本命チョコ。基本的に1人の男の人だけにあげる物ね。仲の良い男の人には義理チョコ。これはいくつでも何人でも大丈夫。あと、同性には友チョコ。この3種類ね、憶えておくことは」
「素晴らしい日ですね!」
「そんなイベントがあるなんて、目から鱗です!」
「良いですね~ん♪」
「ちなみに本命と義理は、翌月のホワイトデーの見返りを期待しての先行投資としてでもあるね♪」
「ホワイトデー、ですか?」
「ふむふむ。先行投資とは?」
ウーノとドゥーエは目を輝かせながらシャルの話を一生懸命メモして、クアットロは何を想像してるのかうっとりしてる。セインは混じらずに「ウーノ姉のお茶とクッキー、今日もうんめ~」のんびりお茶を啜りながらお茶菓子を頬張ってる。なんか可愛い、年上なのに。
「ホワイトデーはね、バレンタインに貰ったチョコへのお返しを男の人がする日なわけ。お菓子でも良いし、別の贈り物でも良いから、チョコをくれた人へのお返しを第一とする日。重要なのは、その日にはバレンタインデーにないルールが存在してるの。その1つが3倍返し!」
「「「3倍返し!?」」」
「そう! 男の人はね、女の人から貰ったチョコの3倍のお返しをしないといけないんだよ。それは量じゃなくて質での3倍! 女の子から貰ったチョコが安かろうが、ルシルみたく毒のような不味いチョコであろうが、貰った物以上に価値のあるお返し3倍、さらにもっとなお返しをしないといけないルール!」
シャルの力説に「それはちょっと嫌なルールだね~」ドクターが苦笑。そしてルシルは「毒チョコって、作ってくれた女の子に失礼過ぎるだろうが」お怒りの様子。痙攣するほどのチョコを贈られたのに、それでも相手を責めないその気持ち・・・、格好いいわよ。
「あながち間違っていないから反論できないな・・・。っと、長居している暇がないな。監察課の研修に遅れる。それじゃあ、なのは、フェイト、アリシア、アリサ、すずか。チョコ、ありがとう!」
そう言ってルシルは走ってスカラボから出て行った。ルシルを見送った後、「じゃあ話の続きね」シャルがそう言って、コホンと咳払い。
「必ずしもそのルールを厳守しないといけないわけじゃない。お返しする女の人から幻滅されてもいいならね。お返しが凄ければ凄いほど、その評価は高くなる。場合によってはそれがきっかけで特別な関係になるかもしれない。ホワイトデーとはそう、男の人の度量が試されるイベント!」
「「「なるほど~」」」
「じゃあ他のルールはなんなの」
「よく訊いてくれたセイン! ホワイトデーのお返しをする男の人に課せられるさらなるルール! お返しがお菓子の場合に発生するの! ドクター、しっかり覚えておいてね!」
「ホワイトデーって何気に男に厳しくないかい? 3倍返しとかお返しのルールとか・・・」
「チョコをくれた人に自分をアピールする最大のチャンスなんだから、そんなこと言ってる暇はナッシング! いい? マシュマロは絶対にダメ!」
「マシュマロの何がダメなんだい? 私も娘たちも好きなんだが・・・」
「普通の日なら良いよ。でもホワイトデーの時だけはダメ! マシュマロのお返しの意味は、あなたが嫌い、なの! ウーノ達、想像してみて。大好きなドクターにチョコをあげた。でもお返しは、嫌いです、なんて意味のマシュマロだったその時を!」
「それは・・・悲しいですね・・・」
「胸が張り裂けそうになったわ・・・」
「あーん、ドクターの意地わるぅ~」
三者三様のその落ち込みようにドクターは「判った。マシュマロはやめよう」そう堅く決意した。で、「ふ~ん。じゃあ他は?」セインからの話の促しに、シャルは他のお返しの意味を話した。クッキーは友達でいよう、キャンディはあなたが好きです、マカロンは特別な人、とか。
「ドクターはキャンディか、もしくは花束とか高級アクセサリーとかブランド服やバッグとか、そういうので良いと思うよ?」
「ドクター。お返し、楽しみに待っていますね」
「最近、新色のバッグが出たので・・・それでお願いします。たったの28万クレジットなので」
「ん~、じゃあ私は~、特別に想われたいので~、マカロンで良いですぅ~」
「待ってくれ、娘たち。私はまだバレンタインチョコなる物を貰った覚えが・・・」
ウーノ達からのリクエストにドクターがそう返すと、3人はテーブルの上に置かれた茶菓子を見詰めた。そして「クッキーは私が焼きました」ウーノ、「マシュマロは私が買ってきました」ドゥーエ、「キャンディは私が~」クアットロがそう言って笑顔を浮かべた。
「まさか、これを私へのバレンタインチョコとして贈るということなのかい?」
「「「はい!」」」
「・・・・・・」
これは酷い。あたし達へ出した茶菓子を、ついでみたくドクターへのバレンタインチョコとして贈るなんて。ガックリ肩を落とすドクターをこれ以上見ていられないからあたし達は「失礼しま~す」そっとスカラボから撤退した。
そして、ここ技術部区画の入り口へ向かうことになった。あたし達からのチョコを受け取るためにユーノとクロノがそこに居るからね。歩いて数分、約束通りユーノとクロノが談笑しながら待っていた。あたし達に気付いたユーノは手を振ってくれて、クロノは小さく手を上げた。
「「「「「ハッピーバレンタイン!」」」」」
そんな2人にあたし達は日ごろの感謝の気持ちを込めて作ったチョコを渡した。
この後日談として、シスターズから伝播したバレンタインデーとホワイトデーっていうイベントが本局内にて大いに盛り上がっちゃって、女性局員が男性局員に本命や義理のチョコをあげる事態が大量発生。それだけならまだ良いのよね。だけど、3月のホワイトデーには破産一歩手前まで追い詰められた男性局員が数多く出た、という話も小耳に挟んじゃったりした。なんていうか、ごめんなさい?
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