リリカルな正義の味方
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3話
あれから、彼の喫茶店もとい、バーにはよく客が訪れている。なんでもイケメンの店主と、その店主のふるう料理が人気のようだ。彼はもちろんそんなことは知らないが。そんな彼にもこの店で問題はある。どんな店にもあり得る事だが、クレーム客や、いちゃもんをつける客というのはいるもので、彼も例外にもれずいちゃもん客の応対をしていた。
「飲食する店の店員が、そんな髪色していいと思ってんのか!」
もちろん、染めたわけではない。魔術の使用により色素が抜け落ちただけだが、そんなことと知らないそのお客は彼に文句をつけている。
「申し訳ございません。ですが、これにはちゃんとした事情がございまして」
彼は事情を説明する。もちろん、魔術の使用による結果などと言えるわけでもなく、『生まれつき』という事にしている。魔術と言われても、このミッドでは魔法と勘違いされるのが当然の事だ。他人はそんなことにならないのに、何故こいつだけ?と問われるのは明白。とは言ってもその管理局員にすら変わった髪色の奴はいるが…。ここで例を挙げるとすれば、金髪、青髪、ピンクなんてものもいる。そう考えると、白がいてもおかしくはないのだが…。
「そうなのか…。勝手に文句をつけて済まなかった。実は少しムシャクシャしてたんだ」
なんでも彼は、地球の出身らしい。彼の行っていた学校や会社では髪色は暗い色と定められていたらしく、このミッドに来てそれが許されていることに憤りを感じていたとか。
正直…管理外世界の、魔法なんてものが存在しない惑星のルールしか知らないのだから、しょうがない事だとは思うのだが。そのことでオレに当たるのはやめてほしいものだと言うのが彼の正直なところだ。そういえば、と彼は思い返す。中学生の頃、テスタロッサは金髪で通っていたが、特にそんな髪について問題が挙げられたことはなかった。なんなら髪を褒められていたぐらいだ。これが、美少女との差なんだろうか…と彼は思うが、自分も一部白色の髪があったことを思い返し、自分も何も言われてはいなかったと思い出し、ただの環境のせいか。と結論づける。
そんな少しお酒の入った客の話し相手をし、閉店時間も迫ってきた頃、店の扉が開き、1人の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが当店は…ってなんだ。お前か」
「なんだって酷いなぁ。ちょっとだけ話がしたかったから来ただけなのに」
「それが一児の母のセリフとは思えないな。子供はどうした。放っておいていいのか?」
「今はフェイトちゃんが見てくれてるよ。ところで白夜くん、話なんだけど…」
「会わんぞ。」
「ヴィヴィオに会って…って早いよ!もう…どうして会ってくれないの?」
「…前にも言ったが、オレが彼女を助けたのは本当の偶然で、自分から助けるつもりなどないし、彼女はオレのことを覚えていないだろう。なのに、高町はオレをなんと説明するつもりだ?」
「そんなの決まってるよ?『正義の味方』のお兄さんだよ。」
「…」
「うそうそ、冗談。でも会ってあげてほしいんだ。」
彼女はまっすぐオレの眼を見て言う。
「…いいだろう。少しだけだ。…で?今になって何故会いに来いと?」
彼がそう言うと彼女は心底嬉しそうな顔をした。
「実はね、今日ヴィヴィオの四年生進級お祝いなんだ。だから…」
「なるほど。理解した。別に行くのは構わんが、本当にすぐ帰るぞ。」
「うん。わかってる。」
彼女は実のところ、彼を帰すつもりなどなかった。彼女の親友フェイトと、あることを彼に言う必要があったからだ。
「店じまいをする。少し待て」
彼はそういって店の戸締りをし、表に待たせている彼女のもとへと向かった。
「すまない、待たせたな。」
「大丈夫だよ。それじゃ行こっか」
彼女の家に向かっている途中、彼女は終始笑顔だったが、彼はそんな彼女を見て、不思議に思っていた。
家の前につき、彼女が玄関をあけると、テスタロッサが出迎える。
「おかえり、なのは…って白夜!?」
「…突然邪魔をする。」
リビングにて彼らは向かい合っている。彼女が話した内容については、彼の予想を裏切ってきた。
「昔のように名前で呼べと?」
「そうだよ。ね?フェイトちゃん」
「うん。また昔みたいに一緒にいたいな…」
彼は一度瞑目し、彼女らに険しい視線を送る。
「オレにその資格はないだろう。お前たちの前から姿を消しお前たちと戦ったオレには…」
彼女たちはそんなことはないと否定する。彼は確かに戦いはしたが本質は変わってはいなかったのだから。
その後も彼女たちはあきらめもせず、彼を説得し続けた結果、彼はついに折れた。
「わかったよ。フェイト、なのは。オレはお前たちの言う通りにしよう。」
彼が諦めとともに口に出したその言葉に彼女たちは喜んだ。やっと念願かなって、彼の説得に成功した。
そして彼は彼女たちの娘であり、自身も助けたヴィヴィオと再会を果たした。そんなヴィヴィオが放った一言が彼自身を追い込むことになるとは…
「もしかして、パパ?」
この一言により彼が返したことはひとつ。
「君のママ二人とは別に恋仲というわけではないし、そこまで深い仲でもないさ」
それを聞いた2人は見合わせ、名案だとでも言うように彼に提案する。
「白夜くん!ヴィヴィオのパパになろう!」
「なにをトチくるったことを言っている。正気で言っているのなら今日は休むことを勧めるぞ」
彼はまったく相手にしなかった。どころか、頭のおかしい人扱いである。これには同情を感じ得ない。
「…パパじゃないの?」
「ヴィヴィオ、すまないがオレは君のパパじゃない。先程も言った通りだ」
「残念…。じゃあママとの関係って?」
不意をつかれた質問に無言になってしまう。事実、彼女達との関係はなんだろうか。仲間…では無いし、友達…は彼女達が嫌だろう。となると…
「学校に通っていた頃の同級生だな。少々特殊な出会いではあったが…」
「同級生…同級生かぁ…」
「友達ですら無いんだね…」
2人がショックを受けている事にも気づかず、ヴィヴィオに続けて話す。
「2人共優しく、強い人だからな。その2人に並び立てるようにはなりたいと思っている」
それを聞いた2人は顔を上げ、彼を見る。彼は2人を見て口元に笑みを浮かべていた。
「白夜…」
「まぁ少々抜けているところもあるがな」
彼の放った一言に2人は「うっ…」と苦い顔をする。
「君の母親は、信頼に値する人物だ。安心していい。彼女達に教わっている限り、君が母親を護れる程度には強くなれるだろうさ」
そういって彼はヴィヴィオの頭をなでる。そしてうなだれている二人のほうを向き、
「じゃ、そろそろ帰るよ。今日はありがとう」
「あ…。うん。またね、白夜!」
「ああ、またな。フェイト、なのは」
彼が帰ったあと、二人は彼について話していた。
「白夜くん…私たちのコトあんなふうに思ってたんだ…」
「まさか…私達の想いに気付いてなかったなんて…」
「「はぁ…」」
これでも過去、彼女たちはさんざん彼にアピールしてきたつもりだった。お互い二人きりで遊んだり、プレゼントをあげたり、バレンタインにはチョコを上げたりetc,etc…
もしかして彼は鈍いのだろうか…。そう思ったことも過去にはあったが、確信した。彼はこと戦闘においては右には出るものがいないほどには強いが、彼は自身のことに関しては必ずと言っていいほど後回しにする。他人のことばかりを優先してしまうのだ。そのため、困っている人がいたら助けてしまうなど、いいところではあるのだが、少しお人よしすぎるのだ。そのため中学時代は大変だった。何せ、彼のその優しさのせいで、勘違いする女子生徒が後を絶たなかった。
ちなみに彼女たち二人はお互いに彼のことが好きだと打ち明けている。どちらが彼と恋仲になっても恨みっこなしだと。だが、彼はそのアピールすらも気づかないので可哀想なのは彼女たちだろう。
「もしかして、正義の味方の時に何かあったのかな…?」
唐突にフェイトが口にした。各世界を回り、人々を助けてきた正義の味方。彼はその時のことを話したがらなかった。
「ゆっくりでいいから、いつか話してほしいね…。そして背負ってるものを私達にも分けてほしいな…。」
「うん…。」
彼女たちは彼のことを想うが、果たして彼は何を想って戦っているのか。それは彼にしかわからない。彼は何のために戦っていたのか。それを知るのは彼だけである。
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