戦国異伝

「問題は後詰じゃが」
「それでしたら」
　幸村がすぐにだ、信長に言って来た。
「それがしの家臣達の」
「十勇士か」
「あの者達にお任せ下さい」
「そうじゃな、あの者達ならばな」
　信長も幸村の言葉を聞いて確かな顔で頷いて答えた。
「大丈夫じゃな」
「後詰を務めてくれて」
「そしてじゃな」
「はい、皆無事に逃げます」
「あの者達ならばと思って連れて来たが」
　信長もそう考えてだ、彼等を傍に置いて本能寺にまで連れて来たのだ。
「一人一人が一騎当千、しかもです」
「あの強さならな」
「後詰を務めた後皆逃げ延びられます」
　だからだというのだ。
「後詰はあの者達にお任せ下さい」
「ではな」
「はい、ではその様に」
「それではな」
　信長も頷いてだった、幸村の言葉をよしとした。
　その話をしてだった、信長はあらためて三人に言った。
「ではな」
「はい、それではですな」
「これより我等は」
「何時何者が来てもいい様に」
「備えておいてですな」
「休むのじゃ、何者が来ようともじゃ」
　信長は笑いつつもその目を鋭くさせて述べた。
「対するぞ」
「はい、しかしです」
　ここで言ったのは兼続だった。
「その者達のことですが」
「怪しいか」
「そう思えてなりませぬ」
　こう言うのだった。
「全く以て」
「そう思うのはわしもじゃ」
「天下を乱して血を流させてですな」
「それでな」
「そこからですか」
「あの者達の天下を目指しておるのじゃ」
「まつろわぬ者達の天下を」
　兼続はこうも言った。
「左様ですか」
「そうなのじゃ」
「そして古来より表の者達と争ってきてですな」
「今に至るのじゃ」
「そして上様は」
「その者達を完全に倒しな」
　そのうえでというのだ。
「天下を真の意味で安泰にしたい」
「それ故に今もですな」
「ここにおるのじゃ」
「上様御自ら」
「そうしておるのじゃ」
　こう兼続にも話した。
「備えもしてな」
「左様ですな、しかし上様は以前より察しておられましたといいますが」
「確信はなかった」
　それは信長にもなかった、しかしというのだ。
「それでもな」
「察しておられたのですな」
「あの津々木という者の時からな」
「勘十郎様に憑かれていた」
「あの者からじゃ」
「随分と前から織田家に仕掛けていたとは」
「むしろわしにな」
　信長自身にというのだ。
「そうしておったのじゃ」
「そうなのですな」
「うむ、わし自体にな」
「上様に何かあるのですな」
　蘭丸がその目を鋭くさせて述べた。