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神の贖罪

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11部分:第十一章


第十一章

「串!?」
「それでは」
「そうだ」
 ブリアンは右手にあの槍を持っている。両手にそれぞれのものを持ちつつ二人の弟達に対して答えるのだった。
「フィンカーラ島はあった、やはり海の底にな」
「そうだったのか」
「ではその焼き串こそ」
「島の妖精達から貰った」
 また言うブリアンだった。
「今な」
「やはり海の中にあったのか」
「まさかと思ったが」
「これで最後の一つだな」
 ブリアンは船からあがってから二人の弟達に述べた。
「いよいよな」
「そうだな、その最後は」
「ロッホランだ」
 ヨッハルヴァが真剣な顔でその場所を言った。
「ロッホランの丘だが」
「今度ばかりはな」
 ヨッハルは険しい顔になっている。その険しい顔での言葉だった。
「どうなるかわからんな」
「兄者、それでもいいのだな」
「覚悟はしてある筈だ」
 ブリアンは意を決した顔で弟達に告げた。
「既にな。違うか?」
「いや、その通りだ」
「この旅に出た時からな」
 これが二人の返答であった。
「既に覚悟はしていた」
「それではだ」
「うむ、行くか」
「よしっ」
 こうして三人はそのまま船で最後の場所に向かった。それはロッホランの丘、果てしなく遠い場所にあるその丘にようやく辿り着いた。するとすぐに不気味な雄叫びが聞こえてきた。
「殺せ!」
「殺せ!」
 彼等は口々にこう叫んでいた。
「侵入者を殺せ!」
「誰であろうとも!」
「もう来たか」
 ヨッハルは彼等の声を聞きながら呟いた、荒れ果てた荒野に上陸している。
「早いな、やはり」
「それはもうわかっていたことだ」
 だがブリアンは驚いてはいなかった。
「もうな。違うか?」
「そうだな」
 それに頷いたのはヨッハルヴァだった。
「では。行くか」
「ああ」
 三人はあの槍や剣を手にその雄叫びをあげる不気味な者達に向かおうとした。するとここで思わぬ声が不意に聞こえてきた。
「フォウォールか」
「むっ!?」
「ここにもいるとはな」
 そこにいたのは龍だった。ヘスペリデスにいたあの百の頭を持つ龍だ。その龍が今ここにいたのである。
「案外色々な場所にいる連中だ」
「どうしてここにいる?」
「しかもだ」
 三人は彼等を怪訝な顔で見つつ問うた。そこにいたのは龍だけではなかったのだ。
 ヘスペリデスの騎士や乙女達もいたし各国の王とその騎士達もいた。アサルもトゥイスもドヴァルもいた。ペルシア王もいればイローダ王もいた。今まで三人が巡った国の王とその騎士達だった。
「何故貴殿等まで」
「どうしてだ」
「何、気が向いたからだ」
 龍が彼等を代表してこう三人に告げた。
「それでだ」
「気が向いただと?」
「思えばあれだけではこちらも気が済まぬ」
「だからな。今こうして助太刀に来たのだ」
「貴殿等に対してな」
「馬鹿なことを」
 ブリアンは王達の話を聞いてまずはこう言った。
「今度の相手は尋常ではないぞ。フォウォールの中でも最も凶悪だ」
「それにだ」
 ヨッハルも言う。
「数もこれまでになく多い。そのうえ」
「ここの守護者ミズケーナは我等神々でさえ恐れる男。それでもか」
「そうだ、それでもだ」
「ここにいるのだ」
「愚かな」
 ヨッハルヴァはあらためて彼等に告げた。
「命を捨てるというのか。それで」
「大丈夫です」
「それは」
 ここでヘスペリデスの乙女達とフィンカーラの妖精達が三人に言う。彼女達もここに来ていたのだった。
「私達もいます」
「それに貴方達が今まで手に入れた傷も病も癒す宝が」
「林檎に豚肉か」
「そうです。それです」
「豚の皮も」
「武器もあるではありませんか」
 それについても言及してきた。
「馬車に子犬、槍に焼き串」
「それ等もまた」
「しかも我は不死身だぞ」
 龍はこのことを強調してきた。
「不死身の我がだ。だからこそ」
「戦えるか」
「あの者達にも」
「少なくとも臆することはない」
 龍がまた三人に言う。
「これだけの事、者が集まっている。そういうことだ」
「よし、ならばだ」
「行くぞ」
 龍が三人に声をかける。
「これが最後だ」
「ならば」
 こうして彼等は姿を現わした夥しい数のフォウォール達に向かった。傷は豚の皮や肉、それに林檎で癒していき子犬が放たれる。馬車に乗ったブリアンはその手に槍を持ちヨッハルは焼き串を手にしている。ヨッハルヴァは船に乗っている。三人を中心に縦横無尽の戦いをはじめた。
 
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