竜から妖精へ………
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第2話 震天動地
場に強大な魔力の渦が発生する。発生源は、相対する2人を中心にだった。2人を中心に発生する渦は やがて1つとなり、1つの強大な魔力の渦。まるで竜巻の様に巻き起こり、空へと立ち上る。
この辺り一帯、全てが揺れる。それは まるで地震が起こっているようだ。
「……ははっ。依頼で色々と訊いていたんだが、まさか これ程のものとは思ってなかった。すげぇ……今まででも、これ程の魔力は拝んだ事がねえかもしれねぇな…。しかも ガキでなんて………よぉ?」
ギルダーツは、対峙し 目の前で突然放った魔力に 初めこそ驚愕の表情だったが。それは次第に薄れ、ギルダーツ自身も、更に魔力を解放し続け、強大な魔力に包まれていたのだ。
それが、この一帯の異常事態の原因だった。
『……オレもびっくりしたよ。……アンタは、これまでとは全然違うって思ってたけど……、それも違ったみたいだ』
少年は、目の前の男を見据えて、眼を瞑った。……そして、眼を見開いて言う。
『これは、全然どころじゃないっ 次元そのものが違うようだ……』
それが、少年の眼から見たギルダーツの強さだった。先ほどの衝撃もそうであり、更に今解放させている魔力の強さでもそうだったから。
それを訊いたギルダーツは。
「ははは……オレを評価してくれてんのか? ガキの癖に……よぉ」
一通り笑うと、魔力を更に上げた。
「よぉし……、さて こっちも力いっぱいだすぜ? だから、お前も出し惜しみすんなよ?」
『……今更 出し惜しみなんかしてたら、アンタの魔力で 消し飛んでしまうよ。もう、しない……、ほんとの本気……だ!』
互いに確認しあう。魔力の迸りが時間が増すごとに増えていく。
「……良い返事だ。行くぜ?」
最高潮に達した魔力。いや、更に2人の魔力が上昇してゆく。
『そっちこそ………。』
まるで、ギルダーツにあわせるように…少年の魔力も高まっていった。高さの果てが見えない2人の魔力は 周囲を揺らせていたのだが。
『……………………………』
「……………………………」
そして、今度は つい先程の魔力の影響の地震が嘘のように、辺りが一瞬静かになった。まるで 時間が停まったかの様に。
だが、時間が止まったのも刹那の時間。直ぐに2人の時は動き出した。
「破邪顕正……」
『オーバー・ドライブ……』
周囲の地震が収まった訳ではない。影響を与えていた力の全てを互いの拳の一点に集めていたのだ。周囲にも影響を与えてしまう程の魔力が拳1点に集中し、輝きを増した
それを、互いに構え、撃ち放つ。
「一天!!」
『マクスウェル・ロウ!!』
互いに撃ち放つその拳が合わさったと同時に。込められた魔力の全てが解放され 2人を中心に大爆発が起こった。爆発は渓谷の地形を変え、大地を抉り、空にさえ魔力の軌跡を残す。
揺れるその大きさは まるで震天動地。
光は暫く止む事はなく、そのまま 中心に輝きを放ち続けていたのだった。
~マグノリアの街・魔導師ギルド~
そこでは、いつも通り、昼だと言うのに皆が騒いでおり、半ば宴を開いていたその時に、それは起こった。
突如、大地が揺れたのだ。その地震は街全体を揺らし、街の象徴でもあるカルディア大聖堂の一面のガラス窓を数枚割ってしまう。
「ぶはっ!! な…なんだ??」
「じ…地震か!?!」
街が揺れている、と言う事は当然 魔導師ギルドも震えている。カウンターの上に置かれていたグラス類は勿論、各テーブルに置かれた料理も散らばり、何人かは突然の揺れに耐え切れず、倒れてしまっていた。
このギルドには子供たちもいる為、大変おびえている事だろう……と、思うのだが、それは違う。
「うっひゃああ! すっげーーっ! これが《じしん》ってヤツかぁ? オレ、初めてだっ!!」
突然の大きな揺れにその場で、ハシャいでいるのは 先ほどギルダーツに突っかかっていっていたナツと呼ばれる少年だ。地震を経験するのは、初めてだから、新鮮で良かったのだろう。……災害なのだけど、関係ないみたいだ。初めての事に驚くのではなく、喜んでいたのだから。
「はぁ、アホか? お前は。なんで 地震が起こって嬉しいんだよ。後片付けとかめんどくせえじゃねえか」
大笑いをしているナツを尻目に、ため息と苦言を言っているのは、半裸の少年《グレイ》だ。ナツとは犬猿の仲、とも言える相手。……喧嘩するほど仲が良い、と言ったりもするが 互いに決して認めないだろう。
当然、ナツもグレイにそんな事を言われたもんだから、突っかかる。
「ああ!? おめーこそ! 何で裸になんのが楽しいんだよ! この変態がっ!」
「誰が裸だコラッ!! 下、履いてんだろうが!!」
いつも通りの光景である。この喧嘩は。だが、ナツも確かに地震に喜ぶのはおかしいと思えるが、グレイもグレイでおかしい。確かに、履いている。でも 上半身が裸なのだ。
「も~……ナツってば……。それに、グレイだって。ほんと、いつもいつも飽きないね~」
2人の喧嘩白い髪の女の子がため息を吐きつつ、それでも笑顔だけは崩さなかった。
「あははは……。まあ、いつもの事だし。仕方ないよね? リサーナ」
その女の子の名は《リサーナ》。
そして、その隣には同じ髪の色の大人しそうな男の子がいて、笑っていた。リサーナの兄である《エルフマン》だ。
「あははっ……それもそーだよね…? エルフお兄ちゃん。仕方ない仕方なーい」
最後には、一緒に笑いながら、2人の喧嘩を見ていた。決して止めようとしないで。
当然だが、この後に起こる展開もいつも通りなのだ。2人が喧嘩して、その仲裁に、と言うより その喧嘩を止める者もいるのだ。
「やめないかっ! 2人とも!!」
2人が喧嘩を始めた数秒後に、ナツとグレイの頭上に、拳骨が降ってきた。周囲にも聞こえる程、鈍い音を発しており、一撃で悶絶してしまうのも仕方がない。
「いてえええっ!!」
「ってええええ!!」
完全に拳骨で2人をノックアウト状態だ。10カウントを待つ間でもないだろう。
「2人とも! 地震が起きたときは急いで机の下へ! だ! 本来、地震は天災。危ないし怖いものなんだぞ! 怪我するかもしれんのだぞ!」
指をさしながら、2人に説教をする赤く長い髪、鎧を着た少女、《エルザ》だ。
「いってて……エルザぁ!? このっ! 勝負しろ!!」
「エルザ! てめっ!! よくもやりやがったな!!」
2人は、頭を抑えながら エルザを睨みつけるのだが。
「 な ん だ ?」
暗い表情で、文句でもあるのか? とエルザが睨み返した。それは2人にとっては効果は抜群である。
「「な……なんでもありません!!!」」
ビクッ!!! っと身体を震わせ、2人抱き合いながらそう言っていた。
「え、エルザは じ…じしんって奴より こええよ!!」
ナツがそう言って震え上がっていた。エルザには何度も拳骨をもらっているから。主に悪さをしたからであり、お仕置きの一貫なのだが、そう思っても仕方がないのである。それ程までの威力がある睨みつけだから
「まったくだ……。地震もエルザにビビって 止まったみてぇだし……」
グレイも、こればかりはナツに同意していた。ナツ程 同じ様に繰り返してはいないが、グレイも何度も何度も拳骨をもらっているのだから。
そう意見があって、最後には互いに見合いながら。
「「にっ……」」
笑っていた。意気投合した事が何やら面白かった様だ。……だけど、すぐに恥ずかしくなったのだろうか、互いが同じタイミングで知らん振りをしていた。
「あはは……。う~ん、ここでさ? お姉ちゃんがいたら、さらにエルザと喧嘩になっちゃってたかな?」
リサーナがエルザを見ながらそう笑う。因みに エルザにも喧嘩相手は勿論いる。今は仕事でいないが、もしいたとすれば、この後の光景もいつも通りなのだ。
「あははは……。だね。だけど もう、みんな仲良くしてほしいよ…」
エルフマンは……ただただそう切実に願うだけだった。色々と、ギルドが壊れたり、巻き込まれたりするから、大変なのだ。……それでも、良い笑顔なのは 本当は楽しいからだろう。
喧嘩している時も、仲良くしている時も等しく。
「やれやれ……ほんとに元気なガキどもじゃわい…」
ギルドマスター・マカロフは、盛大に暴れている子供たちから、少し離れた場所、カウンターに腰掛けながらギルドのメンバーを見ていた。……口では 呆れている様子なんだけど、それでも 微笑みは絶えない。元気なのは良い事だからだ。後にギルドを背負って生きる子供たちであり、自分の子供でもあるのだから。
だが……その笑みもすぐに失せる。
「むぅ………」
マカロフは、ギルドの窓から、外を見た。空を、そして その先に確かに見えた光を。
――……これは、ただの 地震ではない。
それを直ぐに理解できたのだ。感じ取れる魔力の高さも。
「(……これ程……とはのぉ……)」
いまだに大地の底の方をまるで何か巨大な生き物が蠢いている様にに、ゆったりだが力強く……動いている。他のメンバー達は気づいていない様子で、いつも通り騒いでいるが、確かに蠢いているかの様に震えている。
その根源は、とてつもない…強大な魔力のぶつかり合い。
「………ふむ。あのギルダーツとここまでやり合う、か。それもガキが……」
マカロフはそう呟いた。
ギルドNo.1の魔導師であるギルダーツとやり合う子供。確かにそんな強大な魔力を持つ者が、突然現れたとなれば、不安は尽きないだろう。だからこそ、マカロフが心配してるのかと思いきや。
「まあっ、あやつなら大丈夫じゃろう! なーんも心配いらんわい」
直ぐに、考えるのをやめると、ニカッ!っと笑い出した。
「ああ? 何か言ったか? ジジイ」
丁度、そこに来たのは先ほどのナツやグレイ、エルザより僅かに歳上である少年《ラクサス》。
ラクサスも、この異常な揺れがただの地震ではない事を、薄々は感じていたようだ。
だからだろうか、ラクサスも、マカロフと同じ方向を、窓の外を見ていたのだ。
「ははっ、なんでもないわい。それよりものぉ。ラクサス。……ひょっとしたら、とんでもないルーキーが、このギルドに入ってくるかもしれないぞぃ?」
マカロフは さらに笑うと、ジョッキにまだ残っていた酒を飲み干した。
「……はぁ? 何言ってんだ? ルーキー? ボケた上、酔っ払ってんのか? ジジイ」
ラクサスは、マカロフの言っている意味がまるでわからず、いつもの酔っ払いだ。と判断すると、それ以上は何も言わず ギルドの奥へ戻っていったのだった。
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