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魔法科高校の有能な劣等生

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歩む者、立ち止まる者

 
前書き
前回の続きです!感想が聞きたいので感想ください! 

 
 夢は、夢のままだ。
 あの瞬間をあの刹那を生きた時間を彼等は忘れない。
 奪われた時間……奪われた記憶を。
 進める者は歩み続け、進めぬ者は立ち止まる。その瞬間を何度も何度も体感し何度も恐怖する。
 歩める者こそ知らぬ苦痛、それを知った歩めぬ者は歩める者を妬むより誇るより憧れた。
 何故、進めるんだ? 何故、歩めるんだ?
 立ち止まるな、立ち止まったら戻れなくなるぞ。それを知った者こそ真の《人間》…………遅かれ早かれ気付けば変われるのか? 変われる者は歩み続け、とある結論を導き出した。

「変わるのは僕じゃない…………」

 その発言の続きは冒涜だ。
 知れば呆れる程、自己中心的な言葉を少年は平然と笑顔で放った。
 誰も、その発言に興味を示さなかった。だが、それでも少年は笑顔で語り続ける。
 歩まれぬ者と歩めぬ者、どちらも等しき罪人である事は変わりない。
 なら、罪を問われても文句言えないし逆らえない。逆らえるなら逆らってみよ、抗えるなら抗ってみよ。
 抵抗を歓迎し降伏を認めない。抗え、人間よ。抵抗しろ、汝の罪を曝け出せ。

「変わるのは………………世界だ」




 «朽ちた廃墟のビル»

 残骸の散らばった足場。
 残街のエリアで魔法を行使する魔法師。
 流石、未来を見込まれた魔法師の卵……と言ってもその大半は生半可な魔法で行動不能となった有望な雛だが。
 有望すぎる雛は土壇場で使えない報告は絶えない。だが、有望な魔法師であればある程、暴走する可能性は極めて低率だ。
 無能な魔法師は有望な魔法師と比べて数は困らない。
 ある一定の状況を打開できればだが。
「なんなんだ……」
 唖然する有能で無能な雛は唖然する。
「…………なんだんだよ、お前?」
 圧倒的な実力差は見えていた。それは理解していた、負けるとも解っていた。
 だが、一矢報いる……それだけだ。
 その思惑は簡単に淡々に安安と砕かれた。
「………………なんなんだよ、お前は!?」
 認めない。
 認められない。
 信じない。
 信じられない。
 まるで悪夢を観ている様だ。
 だが、現実だった。夢であって欲しい現実で有望で無能な雛はCADを構えた。
 認められない現実を認める為に。
 初段の魔法は大地を振動する魔法。
 二発目の魔法は振動でズレた大地の一部を凹凸状態で出現させ壁を構築した。
 有能で無能な雛の最後の抵抗…………彼の最強魔法だ。
 努力で掴んだ努力で編み出した魔法。迷ったら出てこられず永遠とぐるぐると同じ道を繰り返し二度と出られない最悪の悪夢、その名を迷路。
 迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。迷路。
 魔法で創り出された迷路。
 簡易な迷路だ、何れ抜け出せる簡単な迷路。
 だが、戦場で発動すれば夢幻の迷路となる。
 一瞬、動揺する兵士達を魔法で殺す。この魔法は優秀だ、原理は容易で単純。だからこそ最強なのだ。

 まぁ、それは戦場での事で。演習の様な試合形式で発動しても無意味なんだけどね。

 その迷路は一瞬で崩壊した。
 有能で有能な雛の拳で―――その拳は魔法でコーティングされ。
 一発の拳で大地を削り二発目の拳で地面を大地を割った……実に単純な事だった。
 単純であれば単純である程、破壊力は凄まじく単純であればある程、人の思考では収まらない発想力で人間を困惑させる。
 アレは人間…じゃない。人間の形をした化物だ。

「嘘…………だろ?」

「嘘じゃないよ、現実だ」

「嘘だ」

「現実だよ、」

 瞬間移動…………と言っても魔法の効力ではない。
 自分の肉体で自分の足で自分の筋肉で移動した。
 魔法よりたちの悪い高速移動で無能な雛の背後に周り背中をトンっと触った。
 それだけで背中は砕けた。死なない程度で瀕死の程度の一撃で勝敗は決した。
 無能な雛は勝とうと思って魔法を発動した訳じゃない。ただ、証明したかったのだ。
 努力でも天才を超えられると…………無駄な足掻きで終わった。だが、有能で優秀な魔法師は無能な雛を魔法師の誇りと賞賛した。
 最後まで、最後まで抗った無能な雛に祝福を。
 さようなら、ありがとう。

 その日、無能な雛は魔法の道を諦めた。







 絶対的な勝利はつまらない。
 傍観者達は絶対的な勝利を観て無言の拍手で称えた。
 魔法を行使する者なら彼を否定する。だが、その否定を覆す程の実力をアレは兼ね備えている。
 だからこそ称えられても無心でその拍手に答えられるのだ。

「ども」

 その後は歓声の爆発だった。
 表舞台で活躍する機会に乏しいアレは恥ずかしさを覚えつつその場を去った。
 モノリス・コード初戦 勝者《第四高校一年生》劣等生 成瀬 幽歌。
 又の名を魔拳の修羅 crusher。破壊する者、破壊と再生の魔法師等の異名を付けられてるが、本人は興味を示さず殆どは没になっている
 そう、殆どは。
 唯一、幽歌が気に入った異名がある。
 その異名は幽歌自信を象徴する言葉でもあった。
 

 その名を…………………………………………。







「凄げぇ…………アレが咎人の実力」
 咎人=罪人の異名を持った成瀬 幽歌の試合は圧倒的だった。
 今期九校戦ダークホースと恐れられた最凶の魔法師の圧倒的で落胆的な格闘術。
 確かに最凶の魔法師と謳われるだけの実力者だ。真っ向から挑んでも勝てない、勝てる要素すら見当たらない。
 だが、今期九校戦ホープなら勝てるかも知れない。
 推測の話だ、負ける可能性も有りうる。それでも奴なら勝てるかも知れないと期待できるかも知れない。
 憶測と推測で根拠の無い可能性の話だ。
 勝手な期待を抱き、最終戦を期待するギャラリー達。

 一方、同時刻 九校戦ホープは………………。

「えっと……加えた機能は粒子演算処理? 魔法の発動処理速度をアシストする機能か。
 あと……《零システム》? 術者発動魔法の増幅装置? 半径20m以内で発動された魔法のサイオン粒子放出させる…………なんだこれ?」
 九校戦のホープ 無月 零は先日完成したCADの最終調整を行っていた。
 殆どは達也の改造で完成した銀刀弐時雨。完成度は現役高校の領域を超えた最高のCADだ。
 その最高メンテナンスを昨日する筈だったのだが、途中で寝落ちしてしまった。
 そんな訳で[試合中]ぶっつけ本番で実戦投入する事となった。以前から達也のメンテナンスアシストをしてたお陰で大体のCADメンテナンスは出来る様になった。まぁ、簡易な物ならの話だが。

 意味不明な原語ばかりだ。

 高スペックなCADは大会規制で禁止されてるので、それ程、高スペックって訳じゃない筈なのに。
 今回はリミッターを設けての運用試験的な感じで試合する筈が…………いきなりのピンチだ。
 一応、団体戦なので無月以外にも仲間は居る。
 だが、もぉ、やられた。
 開始勅語、敵側の爆発系統魔法でボンッ!だ。
「魔法発動補助システムOK……地形把握OK…………」
 一通り起動出来る所までイジれば勝てる…………相手はブルーム《一科生》だぞ? そんなすんなり勝たせてくれる訳ない。焦るな……調整を終えたら距離を取って地形を変えよう。重力変換魔法で地形を変形させて罠を仕掛ければ……駄目だ。相手は振動系統魔法専門の魔法師が混じってる、そんな状況で罠を張ってもバレるだけだ。
 なら、ビルの屋上から……それも駄目だ。

 空から一斉に雷が降ってきた。

 間一髪の所で回避するが、その衝撃を吹っ飛ばされる。
 空も大地も……支配さへている。
 振動系統魔法&雷系統魔法……最強のコンボだ。
 地面の振動を把握して敵の位置を補足、補足された敵の位置に爆雷を落とす簡単な作業だ。
 動けば、その振動で位置を特定される……さっきの魔法で俺の位置はバレた。
 逃げても光の速度で放たれる雷系統魔法は回避不可だ…………重力変換魔法で磁場を歪ませ雷を逸らす事も可能だろうが相手は三人だ。
 残りの一人は魔法を発動すらしていない。
 不用意に魔法を発動するのはリスキーだ。
「待てよ、リスキー?」
 …………相手は振動で俺の位置を把握するなら。
「利用出来るかも、」




「移動した……距離は300」
 振動系統魔法で今期九校戦ホープの位置を探知する少年。
 それを仲間に伝え、雷撃でトドメを射す。九校戦では殺傷ランクの高い魔法は禁止されており名目上は安全な模擬戦感覚で行われる。
 だが、殺傷ランク制度を考え直す必要が有りそうだ。
「了解」
「ポイントはAの5。廃墟の建物の地下、隠れてるつもりだろうが無駄な足掻きだ」
 振動系統魔法で動きを封じ爆雷魔法でトドメを刺すコンボは無敵だ。
 理想の攻撃パターンで敵を駆逐する、圧倒的な力でねじ伏せる。この状況で敗北はありえない。
「これでチェックメイト…………待て!」
「どうした?」
「数が増えた…………なんだ? 一つ……二つ…………増えてくぞ!?」
 馬鹿な、振動地点が増えている?
「なんだと? 本物はどれだ?」
「解らない……全部バラバラの振動数で増えたり減ったりしてて」
 振動系統魔法では宛にならない。
 利点を弱点にひっくり返されたな。
 振動で敵を位置を把握する……確かに効果的だ。だが、それは個人戦、小対戦のみの場合だ。
 数が増えたり減ったりするマジックの種は解らないが、状況が変わりつつあるのに変わりない。
「何個かの振動が近付いてくる……数は4…………いや、5」
「大体で構わない場所は?」
「Oの2…………5……Gの3…………他の振動は不規則すぎて位置を把握しきれない」
「解った、お前は引き続き振動数を測れ。
 俺は攻撃を開始する。」
 大まかな位置に爆雷を落とす。
 光の速度で放たれる雷の一撃避けられる筈ない。
 殺傷ランクC《避雷針》を応用した魔法。
 避雷針を応用すればその地点に意図的に雷を降らせる事が出来る。最も威力は制限させるが、その弱点を無くせば避雷針は最速最強の魔法となる。
 規定違反せず殺傷ランクAランク同等の高位魔法…………次の試合から禁止される可能性は極めて高い。だが、1回戦目の試合なら話は別だ。
 1回戦目から初めての試合で使えば文句を言われる筋はない。今なら何度でも、何度文句を言われても規定違反並の魔法を行使できる。
「hit……仕留めた筈だ」
 光の速度で放たれる一撃躱すのは不可能だ。
 そう、躱すのは不可能なのだ。
「ちょ、ちょっと待て!! 本当に当たったのか? 振動は近付いてくるぞ!?」
「なに? なら、もう一撃…………」
 躱した? 光の一撃を? 偶然? いや、偶然で躱せる魔法じゃない? 俺の慢心か?
 自問自答を繰り返し……真剣な眼差しで目標を凝視する。振動のある地点は砂煙を撒き散らし敵の姿を隠している。
 振動を利用した回避行動? 砂煙に紛れ距離を詰めるつもりか?
「なら、砂煙ごと吹き飛ばすまで」
 雷撃を地面に受け流す。
 避雷針の応用だ。雷の膨大なエネルギーを地面に拡散させ被害を食止める、それを利用すれば相当の破壊力を持った拡散攻撃となる。
 ちんけな建物はそれだけで崩壊する。残っているのは頑丈な廃墟ビルと元から設置されていたシールドオブジェクトのみ。あの一撃を受けて原型を留めているのは褒めるべきか…………だが、砂煙は消えた。
「振動は?」
「変わらず近付いてくる……ちょっと待て」

「敵は、この真下だ!?」

 直後、彼等は空を浮遊した。
 衝撃……爆発の様な衝突は地形まるごと吹き飛ばした。
 最後に見た物は廃墟のビルの屋上で呑気に空を眺めている劣等生の姿だった。



 振動で俺達の位置を割り出してたんなら。
 騙されも文句はないよね。地面に微弱な振動を与えて反響したその振動に当たった俺の逆算して攻撃してたみたいだけど誤算だったね。

「俺は、重力変換魔法のエキスパートなんだ」

 振動で俺の位置を割り出しても複数の振動を同時に探知すれば解らなくなる筈だ。
 しかも俺の体重で起こせる振動と体重移動を計算に入れて偽の振動を複数作れば誤魔化せるんじゃないか?
 まぁ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法で適当に運で魔法を行使していれば偶然、奇跡的に俺に当たる可能性は有ったろうに。
 まぁ、確実に虱潰しに俺を倒そうとしたのが敗因だな。







「零…………順調の様だね」
 VIPルームから観ても解る。零、退化した。
 喜ばしい事なのか素直に喜ぶべきか……悩める状況だ。
 以前の彼なら試合開始直後、試合を終わらせただろう。確信できる事実に傍観者は安堵する。
「案外、この実力なら苦戦せず勝ち進めるかもね」
「それは、無理だろ」
 無月 影は現実を現状を見定め。
「まぁ、あの程度の奴らなら勝って当然だ。そもそも勝たないと駄目だ、それはお前も解ってるだろ?」
「う~ん……解ってるつもりだけど。現実はほろ苦いねぇ」
「は?」
「いやー。うん、こっちの話だよ」
 まぁまぁの実力で安心したよ。
 繰り返す記憶改変で魔法の質はランクダウンしている。それは一目瞭然だ。
 安心できる程度、慢心するなレベルの実力で勝ち進めるかは運と仲間次第って所だ。
 曖昧な無月 零の実力を発揮するなら藤宮 介の協力が必要だけど…………彼は九校戦に参加してるのか?
 先程まで影と〔悪戯〕してたみたいだけど参加するならアレを渡さないと。
 それにしても……興味深いね。零、CADを変えたんだね。
 以前使用してたのは性能良すぎて変えたのか。あのCADもシルバーの造ったのかな? 先程の魔法発動時、シルバーの造ったCAD特有の騒めきを感じた。歪む様な蜃気楼の様なアレの正体はサイオン・ザードだと思うけどアレと合わせるってのは大胆な発想力だ。
 安全装置も組み込んでる様だし……当分、大丈夫そうだ。
「あ、そうだそうだ忘れてた」
 無月 零の数少ない理解者は胸元のポケットから紙切れを取り出し影に差し出す。
「なんだよ?」
「依頼の件だよ、まぁ、報告書って奴だ」
「…………」
「そんな疑ってる様な顔で見ないでよ、結構苦労したんだよ? 家柄から祖先まてきっちり調べたから報酬は弾んでよね♪」
 明らかに疑ってる表情で影は手渡された紙切れを受取りしぶしぶと中身を確認した。
「…………千里眼」
「馬鹿げてるだろ?」
「成程、便利な魔法だ…………俺の正体を見破る程の魔法だから。
 もしや……と思ったけど予想通りだ」
「予想通り? 目星は付いての?」
「まぁ、大体な……アイツ、俺を見て黒色って言ったんだよ」
「ほぉー」
「俺のサイオンの《色》を見破ったんだ……それ程の魔法は限れる」
 予想は的中した。
 ある程度は察してた……でも、的中してるとは思ってなかった。
 アイツも魔法科高校に入学を許可されたEXTRAnumbersだったなんて……。
「ウチの高校もケチなのか適当なのか解んなくなってきたよ。
 劣等生してなら入学を許可する手口って今、流行ってるの?」
「さぁな……だが、他の魔法科高校でも使われる手口らしい」
「らしい?」
「裏口入学って奴らしい…………何時の時代の話だよ」
 だが、そのお陰で大体の目星は付いた。
 むやむやだった奴等の存在も。これなら……利用できれは奴の首を殺れるかも知れない。
「始めるの? まだ、場は整ってないし勇者達も聖剣を探し中だし……当分は狸寝入りするんじゃなかったのかな?」
 妙な笑い方で解った様な顔で影の顔を見下ろす。

「落し物は届けるのが善人だろ? きっかけを与えて落し物を届けるさ」

「あぁ、アレを使うんだね」

「文句あるか?」

「いや、その手を使ったらどっちが悪か正義か区別が付かなくなるな~って思ってね」

「それにその手は君の希望を掠めとる、最悪の手段じゃなかったけ? 黒色君?」



「…………ッ……ア」
 軋む―――――軋む―――――軋む。
 蹲り、叫ぶ事すら叶わない。微かに口から溢れる声は絶句…………痛み。
 血……血……血…………血…………足りない。
「やはり調整は失敗の様だな」
 愚かな人工吸血鬼を見下しながら白衣の男は言った。
「貴様以外の奴らは失敗した。残ったのはお前のみ……期待はせんぞ。
 期待しても無駄な事は解っている。我々の業界では失敗は当たり前だからな。失敗を重ね、成功を掴むのも科学者として魔法師として必要なファクターなのだよ」
 と言ってもここまで生き長らえた失敗作も初めてだ。成功せずとも次の実験で成功する可能性を上げる為のデータは得られる筈だ。
 期待はしない。だが、達成感の様な感覚は感じる。
「まぁ、有意義なサンプルとして死体は活用させてもらおう」
 死ぬ事は、ほぼ確定的だ。
 死んだ後は新鮮な状態をキープしつつ一度冷凍保存し。目の前の人工吸血鬼【もどき】の情報を洗いざらい調べ上げその生涯を観察する。監視カメラで捉えた【もどき】の15年間の映像…………食事、睡眠時間、薬、それ等を調べ終えた後で解剖するとしよう。
 本来なら死後、解剖するのがセオリーだが。
 この学者はその非検体の人生を調べてから解剖する変わり者の様だ。
「さて、貴様の番号は…………非検体……0」

 非検体……0?

 確か、破格な金で買収された…………血祀の生き残り。
 なら、納得できる。非検体は生き延び過ぎた。
「貴様、血祀の……あぁ、体質で生き延びてる様だが、何時までもつものか見物だな」
 変わった白衣の学者は最近配属された。
 別に人工吸血鬼に興味など微塵も無かったが、人手の足りない部所らしく高収入を約束され学者は喜んで移動した。
 だが、その仕事内容は退屈なものだった。
 生気を感じない人間に薬物を与え、結果を上に報告するそれだけだ。
 大概の人間は薬物を摂取した瞬間、死ぬ。稀に生き残るケースも有るが、数分後死ぬので余り変わりない。
 その数分の差を生き延び過ぎた人間を解剖しバラバラにするだけで使い切れない大金をポンっと手渡される。
 現金で手渡しでだ。この時代で手渡し? 最初は偽札と疑ったが全部本物と解った瞬間、学者は自分が何者か解らなくなった。
 人生がつまらなくなったのだ。
 退屈で無意味な人生…………辞める事もできず仕事を続ける学者は取り敢えず生きるのだ。
 別に仕事が嫌いな訳ではない。楽な仕事だし大金も手に入る。だが、スリルが足りない。
 前の仕事が懐かしい。
 あの殺伐とした職場―――死ぬのは当たり前、それは今と変わらない。
 だが、死に方は天と地の差だ。
 薬で死ぬか殺されるかではこんなにも違いがあるのか? そんな疑問を抱く程、学者は腐っていた。
 元から腐ってた。だが、今の職場で余計に腐りかけていた。

「あぁ、でも生き延びるなら生き延びても構わないよ。メリットも有るし……まぁ、死ぬなら死ぬで生きるなら生き延びるで頼むよ。こんな事に時間を費やしたくないんでね」






「忘れろ!忘れろ!忘れろ!」
 恐怖で竦む足を何度も叩き、少女はゆっくりと歩む。
 後悔する…こんな所、侵入するんじゃなかった。変な色だったから興味をそそられた。
 なんでこんな事に―――最近、付いてない。本当に付いてない。
 これもそれも全部、黒色のせいだ!アイツを調査してから…なんで……こんなめに。
 不幸少女 傘彌 麻花奈は自分の不幸を呪っていた。
 だが、その不幸はこれから始まる幸運の始まりであることを少女は知る余地もなかった。












 
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