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RSリベリオン・セイヴァ―

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第十二話「貴公子、暴かれる」

 
前書き

↑左が清二、右が太智ね? 脇役なだけに適当な絵です^_^;

あ、ちなみにラルフのRSは双剣に変更しました。考えてみたら太智のRSと被るので……
 

 
――ん? シャルル……
放課後。寮の通路を歩いている俺は、トイレの前でソワソワしているシャルルを見ていた。
女子トイレの隣にある男子トイレ、それは一夏や俺たちの出現によってIS委員会がしぶしぶ金を出して作らせた男子トイレだ。
「シャルル、どうしたんだ?」
俺は、彼の元へ歩み寄ってふと尋ねる。
「あ、狼……?」
「男子トイレに和式とかはないぞ?」
外人だから、しゃがんで用を足す習慣はないだろう。まぁ、IS学園にはイギリスや中国などから来た生徒もいるため、男女のトイレは全て洋式だ。
「ううん? そういう意味じゃなくって……」
何やらモジモジしながら顔を赤くしている。さっきから何なんだ?
「あ、あの……実は、今まで個室用のトイレしか使ったことなくって……」
「え、えぇっ!?」
流石に驚いた。じゃあ、学校とかではどうしてたんだ? いや……過保護ゆえに大金払って家庭教師とか雇ってたんだろ? じゃあ……外出とか一切禁止? そこまで行ったら、もろ鳥籠っていうか……お城の中のお姫様? いや、王子様ってやつだな?
「そ、そうか……」
俺は苦笑いを浮かべて彼女に尋ねた。
「そういや、もう寮の部屋には行ったか?」
「それが……いっぱい部屋があって、探すのに時間がかかってさ? 探している途中でトイレに行きたくなって……」
「そうか……なら、寮の部屋なら個室のトイレがある。何なら一緒に探そう、我慢できるか?」
「あ、ありがとう!」
「よし、じゃあ行こうぜ?」
俺は、シャルルを連れて彼が探す部屋の番号が書かれたプレートを探し出した。
「……あれだな?」
俺とシャルルは、探していた番号札のプレートが書かれた部屋を見つけ出した。この部屋ならここからそう遠くはないな? しかし……
「しかし……相方は誰だ? 俺と一夏に清二や太智……シャルルを加えたら奇数になるからな?  どうするつもりなんだろ?」
「……ほら、ラルフっていう人が来たじゃない?」
「ラルフ……ああ、確かにもう一人いたな?」
「僕のルームメイトは、そのラルフさんだよ?」
授業中に乱入のごとく現れた、ラルフ・ヴィンセクトだ。ああいう登場だったから加わっていた事も忘れていた。しかし……
――何だか、あのラルフってのは妙につき合いづらそうだな?
一見、悪い奴に見えないが……どことなく油断させない雰囲気を漂わせてくる。今後は、下手に口を滑らせない方がよさそうだ。
「……トイレはシャワールームの隣な?」
「うん、ありがとう!」
俺は彼女と部屋の前で別れようとするとき、まるで見計らっていたかのように部屋の扉が開いてシャルルの後ろから例の美青年が現れた。
「やぁ? 狼君、いらっしゃい……あ、シャルル君も?」
ラルフは、俺を歓迎するなり目の前に立つ小柄なシャルルにも気付いた。
「シャルル君、今から探しに行こうとしていたところなんだよ? ニ十分経っても来ないから心配したよ……」
「ご、ごめん……ちょっと慣れないことが多くて。でも、狼が一緒に探してくれたから助かったよ」
「そうなんだ。それはよかった……狼君、あがっていかない? シャルル君を案内してくれたお礼としてお茶でもどう? いいよね? シャルル君」
「うん、もちろんだよ。狼、せっかくだから上がってよ?」
「え……じゃあ遠慮なく?」
ラルフとうまい具合に会話する自信はなく、このまますぐ自室へ帰りたいところだが……無理に断ったら何かと怖いので、仕方がない。お言葉に甘えてお茶でも呼ばれるか。
「何がいい? 狼君」
冷蔵庫を開けて、冷やしてある缶ジュースらを宥めるラルフは俺へと振り向いた。
「あ、何でもいいよ?」
「サイダーでもいい?」
「ああ……」
「シャルル君は?」
「じゃあ、オレンジジュース」
「はい」
俺たちは、三人並んでジュースを飲みながら雑談を始めた……と、いうよりは俺とラルフが喋るだけで、横のシャルルは苦笑いしながら聞いているだけであった。
まんまとラルフの話術に引きずりこまれて、彼のペースに流されてしまった俺は、べらべらと物を喋ってしまう……
「……そうなんだ? じゃあ、君はそのセシリアって言う代表候補生の娘に勝って、織斑君は凰っていう中国の代表候補生に勝ったんだ……大変だたったね?」
「まぁ……大変なのかはわからなかったな? あの時は無我夢中だったから」
「でも、最後まで諦めずに戦い抜いたのは凄いと思うよ? ね、シャルル君」
と、ラルフのスマイルがシャルルへと向いた。
「……え、あぁ! うん、凄いよ!!」
話を聞いていなかったのか、少し慌てた表情をしてから頷きだした。
しばらく雑談が続いた後、俺は二人と別れて部屋へ帰っていった。
――ラルフか……そんなに悪い奴じゃなさそうだな?

翌日、俺が見てラルフはそれほど変な行動をとることはないし至って普通の優しい好青年といった感じだ。おまけに美青年というから女子たちには人気であり、一夏と一、二を争うほどの勢いだ。
そういうわけで俺たちは、ラルフが単にリベリオンズから来た好青年というイメージで受け止め、彼に関しては何の考えもなく同じ仲間として親しく接していた。

「シャルル!」
ある放課後、一夏はテンションを上げながら学食で夕食を取るシャルルの元へ現れた。
「どうしたの? 一夏」
「さっき、山田先生が大浴場で男湯が出来たって言ってたから、シャルルを誘おうかと思ってさ?」
「え、えっ? ぼ、僕と!?」
級に顔を真っ赤にしてシャルルは驚いた。
「ああ……俺とじゃ、嫌か?」
苦笑いする一夏だが、シャルルもこれ以上変に思われたくないため、覚悟を決める。
「わ、わかったよ。でも、ちょっと誰かと一緒に着替えるのはまだ慣れてないから……」
「わかってるって? 先に着替えて入ってろよ」
「うん、ごめんね?」
シャルルは、身を決して彼と共に大浴場へと向かった。
「一夏っ!!」
と、そこへ大股で不機嫌に歩いてくる箒が現れて一夏へ怒鳴るかのように声をかける。
「一夏! 私と稽古へ向かうぞ!?」
「あ、悪い! 俺、今からシャルルと一緒に大浴場へ行く予定なんだ。また、明日な?」
「なっ……何だと!? 一夏!! 最近の貴様はたるんでおるぞ!?」
更に箒は怒って一夏に迫り来る。しかし、彼女がこのような態度を取るのは今に始まったことではない。
「本当にゴメン! 明日は絶対につき合うからさ?」
そう、何とか今日のところは引き下がってもらおうとするが、箒は何だが一夏がシャルルと親しくしていることに対して妙な嫉妬が生まれてくるため、怒りが静まりそうにないのだ。
「一夏! 昨日もそのようなことを言っていなかったか!?」
「え、昨日なんて知らないぞ?」
「ならん! 今日という今日は徹底的に付き合ってもらうぞ!?」
「や、やめろよ!」
強引に引っ張ろうとする箒の手を一夏は勢いよく振り払った。
「な、何をする!? 一夏……」
「あのな、人が嫌がってるのがわからないのか?」
「な、何を言って……!」
「そんなんだから、彼氏の一人もできないんだぞ? お前は、こう見えて結構可愛い……」
「フンッ!!」
刹那、一夏の腹部を箒の上段蹴りが襲った。そんな蹴りを喰らって、一夏は鳩尾を押えて苦しみだした。
「……いてっ~! コイツ!!」
一夏は腹を立てると、勢いよく箒の胸ぐらを掴み上げた。
「痛いじゃねぇか! 何すんだよ!?」
「な、何をそんなにムキに……」
箒は、まさか一夏がそんな行為に出るとは思わなかった。
「いやムキになるよ!? あんな上段回し蹴りをもろに喰らったら誰だってキレるわ!!」
「い、一夏……」
箒は、慌てて謝罪をしようとしたが、やはり謝る勇気がなく、そのまま一夏はシャルルを連れて大浴場まで行ってしまった。
「一夏! さっきのはちょっと酷いよ?」
「んだよ……ああやって暴力してきた奴の何処が可哀相だって言えんだよ?」
大浴場へ向かう道中、シャルルは一夏に先ほどの箒のことで抗議をしていた。
「そ、そりゃあ……手を出した箒も悪いけど……」
「それよりも、早く風呂入って温まろうぜ?」
嫌になった一夏は、話を切り上げる。
「う、うん……」
そんな彼にいつまでもしつこくすれば逆に怪しくみられと思い、シャルルは静かに頷いた。
「あ、そうか……シャルルは先に入っていろよ? 浴場もこの時間なら、がら空きだと思うから」
「そうだね。じゃあ、お先に失礼するね?」
やや抵抗があるも、シャルルは一夏より先に中へ入って服を脱ぐと、一様タオルで隠すところは隠して湯煙の上がる浴場へと入った。
「うわぁ……広ーい! あ、あれってサウナかな?」
広々とした浴場に部屋の隅にはサウナまでもが設けられている。
「オンセン♪ オンセ~ン♪」
はしゃぎながら、すぐさま湯舟へ入ろうとしたが……
「あ、シャルル君? 湯船につかる前に軽く体を洗った方がいいよ? ついでに頭も先に洗ったら面倒にならないぜ?」
「えっ?」
そのとき、聞き覚えのある優し気な口調がシャルルに呼びかけてきた。すると、横のサウナの扉が開いた。
「せ、清二さん!?」
そこから、大柄な裸体でドスドスと歩いてくる清二の姿が見えた。
「やぁ? 日本のお風呂は初めてかい?」
「せ、清二さん! し、下……!」
「え?」
シャルルは、顔を真っ赤にして清二の下半身へ指を向けた。
「あ、別にいいじゃないか? 男同士なんだし」
「で、でも……」
「あれ? その胸……」
清二は、シャルルの持つタオルに違和感を抱いた。タオル越しの彼の胸が妙に膨らみがあるからだ。まるで女性のような……
そして、いくら鈍感な清二でもこの光景を目にした途端、目を丸くしだした。
「ま、ま、まさか……!」
そして、シャルルの甲高い悲鳴が浴場に響いた。
「しゃ、シャルル君……ちゃん? え、えぇっと落ち着いて!?」
「見ないで!! 見ないでぇー!!」
「お、落ち着いて!?」
どうにかしようとするも、清二の声は今のシャルルには聞こえない。
「どうしたシャルル!?」
騒ぎを聞いて一夏がドア越し呼びかけている。
「い、一夏!?」
一夏の大声に我に返ったシャルルはとっさに湯舟へと入て身を隠した。
「何があったんだ? 入るぞ?」
「あ、一夏君かい?」
「あれ? 清二さん?」
「ごめん! ごめん! 実は先に入っててさ? サウナから出たらシャルル君が居てね? ちょっと驚かれちゃったよ?」
と、咄嗟に近くにあったタライで下半身を隠しながら清二は脱衣場に居る一夏へ説明する。
「そ、そうなのか……」
「なんだか……ちょっと、パニックになっているみたいだから、とりあえず一旦出るよ? 今はシャルル君だけにしてあげようよ?」
「そうですね……シャルル、先に風呂へ入っていろよ? 俺はその後に入るから」
「あ、ありがとう……ごめんね?」
一夏は、とりあえず脱衣場を出て一旦寮へ戻った。
「じゃあ……俺もこの辺で行くから? 知らなかったとはいえ、ごめんね?」
清二も早いとこ出て行こうとしたのだが、後ろでシャルルが呼び止めた。
「あ、待って! 清二さん?」
「な、なに?」
「その……このことは、誰にも言わないでもらえますか?」
「……」
清二は振り返った。
「あの……いろいろと事情があって、人には簡単に言えないんです」
理由はどうであれ、彼女のしでかしたことは大それたことだ。しかし、それ相応の事情というものがあってIS学園に入学してきたのだ。誰にも言えない内容なのだからきっと……そう考えるたびに清二は情が溢れ、悪く言えばお人好しになって彼……いや、彼女の秘密を守ることにした。
「……わかった。とりあえず、君が女の子だってことは秘密にしておくよ? それと、もし僕にできることがあれば何でも相談しな?」
「ありがとう……! 清二さん」
シャルルは、清二の救済に心から感謝した。
「……でも、このままだといずれは皆にバレるよ? 俺が直接、男側に話しておこうか?」
「大丈夫だよ? 自分で言えますから」
「そう? ただ……」
しかし、清二はシャルルに関して一つ不安なことがあった。
「ただ……何ですか?」
「……感違いならいいんだけど……あのラルフって人、何だかシャルルと居る時だけ妙に表情が違うんだ。ちょっと、怪しいなってね」
「……わかりました。気を付けておきますね?」
「じゃあ……俺も早く出るよ? こんなところで話しちゃってごめん!」
と、清二は下半身にタライを隠したまま脱衣場まで急ぎ足で出て行った。
「……」
最後に残ったシャルルは肩まで湯に沈んで酷く悩んだ。
――どうしよう? 正体が知れたのが清二さんだからよかったけど……でも、いずれはあのラルフって人にもバレちゃうだろうな? 清二さんの言う通り、やっぱりあのラルフって人、私を見る時の顔がなんとなく怖いよ……でも、やらなくちゃダメだよね? なんとしても、あの人たちが持っているISを何とかしないと!

翌日、清二は約束通り狼達に秘密を言わないよう黙っていてくれた。そして、一夏も今まで通りに親しくしてくれるし、ラルフという青年も相変わらずだが、それ以上の変化は見当たらない。
「ねぇ! ねぇ! ラルフさんって、狼達と仲がいいけど……どうして、あんな奴らと仲良くするの?」
休み時間にいつもラルフの元へ女子が近寄ってくるが、ラルフはニッコリと辛口な台詞で言い返す。
「……ねぇ? どうして、鎖火君達のことを嫌うんだい?」
「だって~? アイツら下品だし女性に対して口答えが多いんだよ? 男のくせして女性の前で堂々と威張ってるんだよ?」
猫を被るように言う女子に、ラルフは一瞬表情が豹変した。
「ふぅーん……でも、もしISがこの世界から無くなったらどうなると思う?」
「どうって……そんなこと、考えたこともなかったな?」
「もし、今この世界に突然ISが消え去って、君たち女性が全員ISに乗れない状態だったら……?」
「ど、どうなるのよ?」
やや態度が変わって、彼女は恐る恐る問う。
「君らは未成年だろうが容赦なく人身売買に売られて性奴隷にされるか、虐殺されるか、のどちらかだろうね? すくなくとも、君らみたいなガキビッチは性奴隷になる価値もなさそうだから、娯楽感覚でぶっ殺されるんじゃない?」
と、ラルフは肉眼にも見えぬ速さで彼女の顔面をガシッと片手で掴み上げた。
「チョーシこいてんじゃねーぞ? ISがなければ何もできないザコビッチが、『女が最強』なんて語るのは100万年はえーよ?」
掴んだ手の指が、ぐいぐいと女子の顔面に食い込んでいき、痛みと恐怖に彼女は支配される。
「い、痛い! 痛い! ご、ごめんなさい……もう言いませんからぁ!?」
「ふん……」
片手が女子を離した。しかし、その顔には爪の跡が深く刻まれている。これは、相当なトラウマとして彼女の心に残るだろう。
「ひぃ……!」
そのまま彼女は半泣きして、彼の前から逃げ去った。
「相変わらず、女に対しては激しいな?」
と、ラルフの横から太智が顔を出した。
「やぁ! 太智君……なんか、テンションが低いね?」
いつものようにスマイルを向けるラルフだが、そんな彼に対して太智は無表情だった。
「いや、ちょっと考え事をな?」
「そうなの? 悩み事なら相談してごらんよ、仲間だろ?」
「ああ、そのつもりでオメーさんのところへ来たんだ」
「ふぅん……? で、なになに?」
「……シャルル・デュノアのことで何か疑問に思うこがいっぱいあってな?」
「……」
途端、その内容にラルフは表情を険しくさせる。
「……やっぱり、君も思う?」
「ああ……何となくだがな?」
――味方とは言え、任務に関して協力をしてもらったって大丈夫だよね?
本来なら、仲間とはいえ己に課せられた任務を他者に話すことは御法度だが、仲間で同じ考えを持つものなら、協力してもらえればこちらも楽だ。ラルフは、恐る恐る太智に任務の内容を言わないが、シャルルに関しては同じ考えだと言う。
「そうだね……何となくだけど、何だか女っぽい仕草が余計に目立つようだ」
と、ラルフはさらに表情を険しくさせた。
「そうか……あ、それとだな? シャルルは最近、清二と話すことが多くなった。清二もアイツに度々会いに行くことが多い。前は、そんなに積極的な奴じゃないのに……」
「うむ……そう言えば、僕の方もシャルルに関して言えることがある」
「何だ?」
「……寮の部屋で、暇があれば僕のRSを間近で見ていることが目立ってきた。手入れをしている最中に触ろうとしたこともあった」
「アイツが……?」
太智は、それを聞いて何か嫌な予感を想定した。
「もしかすると……」
ラルフも同じことを考える。
「ああ、もしかするな?」
太智は慌てるかのようにラルフへ聞く。
「ラルフ、オメェのRSは?」
「今、弥生ちゃんに整備をお願いしている。君は?」
「俺も弥生に……もしかして、狼達も!?」
「……急ごう!」
ラルフはガタッと机から立ちあがった。
二人は、すぐさま廊下へ出て全速力で寮に戻る。今は放課後、この時間帯は生徒達が部活へ出かけていて寮の人数は指で数えるほどしかいない。
ドンッ……!
「いてっ!」
鈍い音ともに太智は、目の前の巨体にぶつかって跳ね返った。
「大丈夫? 太智君」
「太智? あ、ごめん! 大丈夫か?」
ぶつかった相手は清二だった。そんな彼の周囲には一夏と狼もいた。
「せ、清二か……いや、俺もよそ見してたから」
「そんなに急いでどうしたんですか?」
一夏が呑気な口調で尋ねる。
「そ、そうだ! 弥生はどうした!?」
太智は焦って清二達に聞きだした。
「ああ……寮の部屋で俺たちのRSの調整をしてくれているよ?」
と、俺が答えた。それを聞いて太智は益々焦りだす。そして、彼は次にあの人物の名を尋ねた。
「シャルルは!?」
「シャルル?」
一夏が首を傾げていると、隣に立つ清二は一瞬顔を真っ青にした。そんな彼の表情を、ラルフは見逃すことはなかった。
「ねぇ……清二君、何か隠し事とかしているの?」
と、ラルフは心配な顔をして清二の腕に手を添えた。
「あ、いや……別に?」
「……」
しかし、ラルフは清二の表情に疑問を抱く。
「弥生の部屋って何号室だっけ!?」
太智は、弥生の居場所を聞くと、寮へ向かって走っていった。そんな彼を見て、何かあると察した周囲も、皆が太智に続いて走った。

寮の部屋では、弥生がご機嫌に鼻歌を口ずさんで狼達のRSを整備していた。特に狼が持つ零を大切に両手に持って柔らかく零に微笑みかけた。
「狼君……」
両親の形見を、今では密かに思いを寄せている人に使ってもらっている。あの零を抜いて勇ましく戦う青年の姿は眩しく、彼女は心を奪われる。どうにか親密になりたいと彼に歩み寄ってはいるものの、そんな彼は自分の思いに気付いてくれずに顔を赤くして離れていってしまう……
「狼君……もしかして私のこと、嫌いなの?」
悲しい瞳で、彼女は零を狼に見立てて語りかけた。
「そんな……嫌だよ? だって、私こんなにも狼君のことを……婚約者なんて嫌なのに。でも、そうしないとお姉ちゃんの生活が厳しくなるから、どうしても避けられないんだよね……」
心をズキズキ痛ませる彼女は、語りかけるのをやめて静かに零を机の上に置いて整備の続きをする。
コンコン……
そのとき、誰かがノックをしていた。
「はーい」
悲しい気持ちを強引に振り払い、彼女は無理にでも笑顔をして部屋のドアを開けた。
「僕だよ? 弥生ちゃん」
そこには噂の転校生であるシャルル・デュノアが居た。
「あ……シャルル君ね?」
「入っても……いいかな?」
「ええ、いいですよ? 相方の生徒は部活中ですし」
「じゃあ、お邪魔します!」
部屋に入るシャルルだが、弥生の机の上に待機状態になった球体と、二刀の刀が置いてあった。
「あれ? これは?」
「あ、これはね? 狼さん達のISですよ?」
「でも、どうして弥生ちゃんが?」
「私、狼さん達のISの専門整備士なので、いつもこうしてあの方たちのISの調整を時折しているんですよ?」
「へぇ? すっごいね! やっぱり……」
「え?」
最後に呟いた彼の言葉に振り返る弥生だが、そこをシャルルが何でもないように言う。
「何でもないよ! それより……もっと、間近で見てもいい?」
「ええ、興味があるならどうぞ?」
「じゃあ……あ、狼達だ!」
「へっ……!?」
ふと、顔を赤くして玄関へ振り向く弥生だが、その背後から激しい衝撃が彼女を襲った。
「はうぅっ……!」
酷いめまいと共に弥生は、床に倒れた。そして、倒れた弥生の後ろにはシャルルが立っている。
「ごめんなさい……!」
女性の口調へと戻ったシャルルは、机に置いてある待機状態の球体と二刀の真剣に手を触れようとしたが、なぜか見えない壁に塞がれて触れない。たしか、弥生は制服の胸元から紙のようなものを出していた。
「えっと……これかな?」
シャルルは、弥生の胸を揉むように探り始める。
「あぁ……」
ビクンと震える弥生に、一瞬驚くも起こさないように慎重に探ると、そこから数枚の御札を手にした。
「私より胸がでかい……じゃなくて、この紙だよね?」
日本の漢字が書いてあって何の意味かはわからないが、とりあえず最初に目についた札を机に近づけた。すると、
「あ、できた!」
RSを囲う結界は解除されて、シャルルは目の前のRS全部を両腕に抱えて窓へ乗りだした。
「……!」
そして、彼女の戦用ISラファール・リヴァイヴ・カスタムIIが夜空を舞った。
「弥生! 無事か!?」
しばらくして、狼達がバタン! と、ドアを開けて目の前で倒れている彼女を見つけた。
「弥生!?」
狼は、弥生を抱え起こして揺さぶった。
「ろ、狼君……?」
「ああ、俺たちのRSがない!?」
清二が机に置いてあったはずのRSがないことに目を丸くした。
「そ、そんな……机の上に置いて……まさか!?」
弥生は、背後から襲われて気を失ったことに心当たりを抱いた。
「もしかして……シャルル君!?」
弥生の言葉で狼達は目を丸くさせる。そして、ラルフはそのあとに憎悪に満ちた顔をした。
「正体を見せたか、女狐……!」
ラルフは、風が通る窓辺を睨んだ。

――やっと、これで元の私に戻れる
夜空を飛行するシャルロットは、両腕にしっかりとRSを抱えていた。
「これをお父さんに渡せば……!」
しかし、突然彼女が大事に抱えるそれらは眩い光を発した。
「な、何があったの!?」
気付いたころには抱えていたはずのRSが腕の中になかった。
「ど、どこに!? 落としたのかな……!?」
「ソレは、常に装着者と一心同体なのさ? 主人が念じたらすぐにでも持ち主のところへ自動的にテレポートして帰ってくる。だから幾ら盗んでも無駄だ」
「!?」
シャルルが振り返ると、そこにはラルフが仁王立ちして空中に浮かんでいた。彼の両手には双剣ランスロットを手にしている。ちなみに、彼以外は誰もいなかった。
「投降しろ……」
気付いたときには、彼女の胸にランスロットの刃がつき付けられていた。
「さて……」
ラルフは、180度違った雰囲気へと豹変して、シャルルを地上の森へと共に降り、彼女からISを取り上げた。
「……シャルル、やっぱ君って『女』だろ?」
「え、へっ!?」
途端に驚く彼女は、言葉を詰まらせながら慌てて否定する。しかし、その態度自体がバレバレであった。
「ち、違うよ!? な、何を言っているのかな……? そ、それよりも僕のISを返してよ!?」
「ふざけるのも大概にしろ? お前が女だという事実は、ペアで対戦したときにわかっていた。その軟弱な『柔肌』に甘ったるい『臭い』、それに仕草や苦手とするものに対する態度など、どれを見てもその行動は女そのものだ。それと……」
突如、ラルフはシャルルの首筋にランスロットを当てた。
「……!?」
ラルフは、恐怖に見舞われたシャルルの制服とシャツをランスロットで引き裂いた。そして、彼の……いや、彼女の胸元を見下ろす。
「やはりか……?」
女性の胸なんて、さらしを巻いて隠せば単純なことだった。
「み、見ないで……!」
それでも、泣きそうになりながらさらし越しの胸を隠すシャルルに、ラルフは逆に苛立ち、腹ただしく感じた。
「チッ……女の分際で、男の真似事とかしやがって! 舐めてんのか? テメェ―!!」
シャツの襟元を掴んで怒鳴るラルフに、彼女は恐怖に襲われる。
「ちょっと待ってくれ! ラルフ!?」
そこへ息を切らして俺たちが駆けつけた。
「俺たちもシャルルと話がしたい。それからでもいいだろ?」
「……」
ラルフは、険しい顔をするも一様事情ぐらいは彼も聞いておきたいため、シャルルへ事情を尋ねた。
「まずは事情を言え? どういう目的で男子に扮し、俺達のRSを奪おうとした?」
ラルフの質問に、シャルルはしぶしぶと自分の経緯を話した。そんな彼女の人生は俺よりも可愛そうで哀れだった。まず、彼女は不倫相手の女性との間に生まれた娘である。しかし母親が早くに亡くなって、行くあてもないために父親のデュノア社へ引き取ってもらうことになった。しかし父親は、彼女を娘として見てはくれず、後に一夏の件で世界中に噂が広まり、さらには俺たちの存在も目立ってきた中、父親は一夏のデータもそうだが、それ以上に俺達リベリオンズの正体を探ろうとして彼女に男子を演じさせてSRのデータを盗ませようとしたのだ。
「そんなことがあったのか……」
清二はシャルルを可哀相な目で見つめた。
「……かといって、俺たちの正体を探ろうとしたんだ。まぁ……もう知っちまったかもしれないが、そうなった以上は生かしてはおけねぇ」
ラルフはランスロットの刃を彼女へ向けようとしたが、
「ラルフ君、シャルルちゃんに罪はないんだ。だから、許してあげなよ?」
清二は必死にシャルルを庇った。しかし、ラルフは任務に背くことは許されない。
「ごめん……これも任務なんだ。申し訳ないけど、これだけは譲れないね?」
「ラルフ、俺からも頼むよ? せめてシャルルだけは助けてやれないか?」
俺も清二と一緒に頼んだ。
「狼君まで……」
「どうする? ラルフ……」
中立的な立場で太智が割りこんできた。
「……」
ラルフは、ホログラムの通話システムを立ち上げた。
『ラルフか……どうした?』
「指令……シャルル・デュノアはやはり『女性』でした」
ラルフはそう告げる。しかし、指令は驚く表情はせずに頷いてこういう。
『やはりそうだったか……? いやはや、こちらもつい先ほど事が済んでね?』
「何かあったのですか?」
『デュノア社の件だよ? やはり、連中は我々のことを調べようとしていたらしい。彼らは、IS委員会と陰で繋がっていたのだ。当初デュノア社は倒産寸前の状況立たされており、情報を提供すれば高額の報酬が得られると知ってIS委員会に情報提供をするため『シャルロット・デュノア』という自分の娘を男装させて学園へ送り込ませたようだ……』
「……そのシャルロット・デュノアこと、シャルル・デュノアの処分は?」
『彼女は、こちらで保護しよう? いくら私でも十五、六の少女を殺すほど冷酷なことはしたくない。当分は私の『娘』ということで引き取らせてもらう』
そう、にこやかに返す指令の映像を見て、ラルフは目を丸くした。
「え!?」
ここだけの話であるが、実はこのパリ支部の司令官はラルフの保護者でもある。孤児になった彼を、司令が拾って育て上げたため籍は司令側になるのだ。つまり、シャルルが新たに引き取られるということは……
――俺に義理の妹が来るってことかぁー!? それも、こんな男装ビッチが~!?
「指令、僕は反対です! やはり、日本支部の孤島エリアの基地に引き取らせた方が……」
『これは命令だ。よって、私の言うことを聞きなさい? ラルフ』
「……了解しました。指令」
『時には言い方を変えてもらえないか? 命令だ』
と、上機嫌に指令は言うと、ラルフはしぶしぶと口を開けた。
「はい……父さん?」
『では、彼女を連れて帰投したまえ? あと家に帰ったらジェーンに``ただいま、母さん``と言うのも忘れるな?』
そう、お節介に言う指令にラルフはため息をついた。
「了解……」
彼は通信を切ると、俺たちに向けて絶望にあふれた顔を見せてきた。一様、通話のやり取りは俺たちも少なからず聞いていた。
「どうしよう~……?」
今にも泣き出しそうな顔を向けてラルフは絶望に満ち溢れていた。
「……よかったな?」太智
「幸せにね? シャルル……シャルロットちゃん?」清二
「あんまし、シャルルを虐めるなよ?」一夏
「あ、あはは……」弥生
勿論、俺たちは無責任に一言だけ言うと、それ以上は言わなかった。
「あの……清二さん?」
と、シャルルことシャルロットは清二のもとへ歩み寄った。
「シャルロット……?」
「ごめんなさい! あの時、浴場で助けてくれたのに、清二さんのISも盗んじゃって……」
「はは、いいよ? もう済んだことなんだし、幸せにね?」
「はい、ありがとうございます!」
涙ぐむシャルロット。しかし、
「そ、そんなー!? 何とかしてくれよ~!?」
ラルフだけは違う意味で涙ぐんでいた。彼の絶望に満ちた叫びが、この森中を駆け巡っただろう?


翌日、ラルフはシャルルを連れて一旦パリに帰った。そして、俺たちは宿命の期末試験との激闘に立ち向かい、死闘と苦闘の末にどうにか赤点ギリギリは免れた。
これで、心置きなく夏休みが満喫できる。蒼真さんも俺たちに夏休みをくれるらしいから、もうウキウキとハイテンションだ! さて、あとは臨海学校の合宿を終わらせればいいだけだ。
……しかし、そんなに上手くいくほど現実は甘くはなかった。現に、新たなる脅威が再び狼達に襲い掛かるのである。

リベリオンズ・ベルリン支部にて

「聞きましたか? 先輩、デュノア社による我々へのスパイ行為を」
若手の隊員が、前を歩く先輩の青年へ尋ねた。
「ああ、噂によればデュノア社の令嬢に男装をさせて学園に送り込ませたというらしいな? まぁ、デュノア社が倒産した今、もうそんなことは関係ないらしい。ただ、IS委員会だけは常にマークしておく必要はあるな? ……で、話は変わるが俺への任務というのは?」
「はい、それが今回も厄介な任務のようでして……」
「まぁ、無理なことをやらされるのは今に始まったことではないがな?」
「任務内容、黒兎のラウラ・ボーデヴィッヒの抹殺のようです」
「やれやれ……この前もロシアのエースを殺してきたばかりだというのに?」
「ははは……それでは頑張ってください!」
「ああ……」

 
 

 
後書き
予告

一難去ってまた一難……今度はラウラっていう千冬公の教え子が転校してきやがった! それも、一夏と因縁? が、ありそうな?

次回
「銀髪と眼帯とロリにはご用心!?」

 
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