真田十勇士
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巻ノ二十一 浜松での出会いその九
「のどかでかつ平和に治められていて。上方程豊かではありませぬが」
「よく治まっているというのですな」
「はい、それを見ますと」
「徳川殿にも天下人の資質がある」
「そう思います、ただ天下の流れは羽柴家に傾いています」
彼にというのだ。
「そのことはです」
「覆えりませんか」
「少なくとも秀吉殿がおられる間は」
「ですか」
「しかしその後は」
秀吉の後、その時はというのだ。
「わかりませぬ」
「そうなりますか」
「羽柴殿には多くの優れた家臣の方がおられ」
そしてとだ、幸村はこうも言った。
「特に弟君の秀長殿がです」
「優れ者とのことですな」
「あの方が秀吉殿を支えておられるので」
「あの方がおられるなら」
「羽柴家は安泰です、秀長殿の支えを受けて」
そして、というのだ。
「秀次殿が跡を継がれますが」
「若し秀長殿がおられぬなら」
「わかりませぬ」
その時はというのだ。
「ですから後は」
「秀吉殿の後はわからぬものがある」
「どうにも」
「拙者はそう思います」
「左様ですか」
「天下はまずは羽柴殿のものになります」
幸村は確かな目で浪人に答えた。
「しかしその後は」
「わかりませぬ」
そうした状況だというのだ。
「そしてです」
「若しも、ですか」
「徳川殿にも機会があるかも知れませぬ」
天下人になるそれがというのだ。
「これからは」
「左様ですか」
「そう思いまする」
「では貴殿はどうされますか」
浪人は幸村に目を向けて問うてきた。
「どちらにつかれますか」
「羽柴か徳川か」
「はい、どちらの方に」
「それはわかりませぬ」
幸村は浪人の問いに静かに答えた。
「拙者は二つ従いたいものがありまして」
「従いたいものとは」
「家、そして義です」
「義にもですか」
「はい、従いたいです」
こう浪人に言うのだった。
「そう考えています」
「義ですか」
「この戦国の世にも義はありますな」
「はい」
その通りだとだ、浪人も答えた。
「それがしもそう思いまする」
「戦国は裏切りが常、しかし」
それでもとだ、幸村は浪人に話した。
「不義の者はこの戦国の世においても」
「その果てはですか」
「必ず因果が巡っています」
「そしてよき結末を迎えていない」
「確かに。斎藤道三殿も松永久秀殿も」
俗に当世きっての悪人と言われていた者達だ、ここに備前の宇喜多直家も入れて三悪人と呼ばれている。
「その果てはよくありませんでした」
「ですから」
「天下も義があってこそ」
「そう思いまする、義がなければ天下は定まりません」
「だからこそ義をですか」
「大事にしたく従いたいと思っています」
「ですか、義ですか」
その義についてだ、浪人は幸村に応えて言った。
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