魔法少女なゼロ!
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本編
第六話
前書き
はいはい、キンクリキンクリ
このペースだといつまでたっても原作にたどり着けないからキンクリ
サイトとカリンと戦闘だとか、学院入学編だとか、あったかもしれないけど、原作に辿り着いたという結果だけがのこったよ。
「決闘だ!」
その声がトリステイン魔法学院のアルヴィ―ズの食堂に響き渡った。
「上等よ!」
先ほどの言葉に力強く答える声が、再び食堂に響き渡る。
二つの声を聴いて、食事の途中であった者達は自然と声の方向に集中した。既に食事を終えていた者や声の近くにいた者達は、その声の主達を囃し立てた。彼らは貴族であった、ただし学生という身分も持っている者達であった。必然、まだ若い盛りの彼らにとって目の前で起こった珍事は興味深い娯楽となったのだった。
「なんだこれ・・・」
そして、向かい合い決闘の声を上げる二人の間に挟まれ、周囲の者達の注目の的の一つとなっていた平賀サイトは一人、呆れたようにそう呟いていた。
「食堂を血で汚す訳にはいかない、ヴェストリの広場にてはっきりさせようじゃないか!」
「分かってるわよ、行くわよサイト」
「なんで、俺まで・・・」
「簡単なことよ、私は貴族、ギーシュも貴族、貴族同士の決闘は禁止。それでサイトは平民、平民と貴族の決闘は禁止されてない。おーけー?」
「ノットオーケーだよ! つまりお前の代わりに俺がやれってことだろ、んな阿呆みたいな話あるか!」
「阿呆も何も貴族が決闘に代理人を立てるなんて当たり前でしょ、いいから行くわよ」
2人の話し合いは、一方の意見が半ば強引に決定され、哀れなサイトは首根っこを掴まれ引きずられていく。
「話はついたようだね、サイトが相手なら不足無しだ」
引き摺られるサイトの隣を歩く、ギーシュと呼ばれた青年の容姿を一言で表すならばキザ野郎とでもなるだろう。彼は皆が制服を真面目に着込んでいる中、大きく胸元を広げ、かつフリフリとした装飾を施していた。見ようによっては女々しくも感じられる姿ではあったが、彼の首から上、つまり頭から顔に掛けての部分を共に見れば似合ってないこともないだろう。軽くウェーブが掛かった金髪に黙っていればイケメンとでも呼べる顔顔立ち、これで口に薔薇の花を加えずに、君は蝶ように可憐だ、などと誰かれ構わず口説き文句を言わない性格であったならそこそこにモテただろう。
「さあ、いくぞサイト!」
サイトを引き摺る少女、ルイズに同調するように、ギーシュはサイトの諦めとも呆れともとれる表情を一切合切無視して、意気揚々と彼らの隣を歩いていく。
彼らの進む先にいた人垣は彼らの歩みと共に割れ、その後ろには見学に訪れようと彼らの後を着いていく野次馬達が群がっていた。
やがて食堂を抜け広場に辿り着いた彼らを囲むように、そこそこの広さを開けて人垣が出来る。ざわざわと囁く見物人達の声がある程度静かになったところで、ギーシュは声を上げる。
「諸君、決闘だ!」
その声に、一度静まったざわめきは再び歓声となって広場に響き渡った。閉塞感のある学院での珍しいイベント事に、生徒達は皆盛り上がっていた。中には賭けを始める者もいた。尤も賭けはどちらが勝つか、ではなくどれくらい保つか、であった。まさか最初から本気を出すこともないだろうであったり、いやきっと瞬殺に違いないというものだったりの声がそこらから上がっていた。
「決闘には介添え人が付き物だ、だれか介添えと審判を願えないか!」
「私が、やる」
ギーシュの呼び掛けに人垣からもみ出されるように、一人の少女が出てきた。周囲の人に比べ少しばかり幼く見える少女は自らの身長程の長さの杖で人垣を掻き分け名乗り出た。透き通るような青い髪、どこか眠たそうな顔には眼鏡を載せていた。サイトが彼女を見たときの印象は文学少女であったが、その通りに彼女は本が好きで、彼女との遭遇を望むならば彼女の私室か、図書館か、はたまた朗らかな陽気の日であったらならば、中庭の木漏れ日の下で本を読んでる姿を探すのが一番手っ取り早い、そんな少女だった。
「では、ミス・タバサに頼むとしよう。それで早速だがルールの確認だ、場所はここ、時間は今、どちらかが気絶する、あるいは戦闘不能な怪我を負う、または敗北を認める、これで決着とする。ミス・タバサ、そしてルイズとサイト、異論はないか?」
「ん。そのルールで問題は、ない」
「当然、問題なんかないわ」
「俺としてはまずここに立ってることからして問題大ありなんだが・・・」
「よろしい! 皆の同意も得られたところで、早速始めよう!」
「いや人の話聞けよ」
アホらしいと考えるサイトの内心を知ってたか知らずか、ギーシュは薔薇の花で出来た杖を振る。それに応じて、地面がの一部が隆起し、縦方向に膨らんだそれは西洋甲冑の形を取る。
「僕は貴族でありメイジ、ギーシュ・ド・グラモン、『青銅』のギーシュだ。魔法を使い、彼女達ワルキューレを使役して戦う、もう一度聞こう、異論はないな?」
ギーシュの作り出した青銅人形達、ワルキューレをかつて見たことある者達はその姿が以前と大きく異なっていることに気がついた。かつては人よりも少し大きめの姿で足と手の辺りが動く程度の、実力のあるもの達からすればまさにただの人形と呼べるものであった。しかし今のその姿は人よりやや小柄な体躯になっていた、しかしその分、可動部が圧倒的に増えていた。そしてその手にはかつては無かった武器が握られていた。槍であったり剣であったりするそれらを、ワルキューレ達はまさしく体の一部、延長上の物として軽々振るっていた。
ワルキューレ達の変容はギーシュの本気を、周囲の人達に知らしめていた。
そしてその本気を受け取った人物の一人であるサイトも、一度大きく溜め息を吐き、腰に差した刀に手を掛けた。
「分かったよ、そこまでやる気ならやってやるよ。但し手加減はしないぞ?」
甲に傷一つない左手をそっと鞘に添え、右手で柄を掴み、少し腰を落としギーシュを見据えるサイトの姿に周囲の者達は圧倒された。空気が変わった、そうはっきりと認識できる程の何かがサイトから感じ取られた。
見物客達はやはり瞬殺でサイトが勝つと確信した。
「俺は剣士だ、身分は平民だそうだ、『青銅』とか『雪風』だとか『微熱』だとか『ゼロ』だとかいう大層な肩書きはねぇよ。ただの剣士、平賀サイトだ。この刀で戦う、お前のほうこそ異論はないな?」
「ない! 先手は貰うぞサイト、行けワルキューレ!」
薔薇の杖を一振りしサイトの一番近くのワルキューレを操り、ギーシュはサイトに切りかかる。人の身程ではないが金属の塊とは思えない程の軽やかな動き方でワルキューレの剣がサイトに振り下ろされる。サイトはそれを避ける素振りすら見せず、刀に手を掛けた体勢のまま、迫り来るワルキューレを見据える。青銅で出来ているワルキューレの剣をまともに受ければ、怪我どころではすまない可能性があったが、サイトもギーシュもそんなことは当然理解していた。
サイトには、その程度の障害は楽に超えることの出来る自信があった。
ギーシュには、サイトがその程度で倒れる筈が無いという信頼があった。
故に、観客達が悲鳴を上げそうになる中であっても二人は冷静に対戦相手だけに集中することが出来た。
観客達の興奮がピークに達し、気の弱い者達が思わず目を瞑った瞬間、サイトが動いた。
そして多くの観客達の目には、サイトが動いたという始点と、サイトの目の前に迫っていたワルキューレが横一文字に裂かれているという結果だけが見えた。
切り裂かれたワルキューレの上半分が持っていた剣は、サイトの持つ刀の鞘によって受け止められており、下半身はゆっくりと倒れる初めていた。そしてサイトの右手は大きく振り抜かれ、その手に持つ刀の波紋が美しく煌めいていた。
サイトの動きを正確に捉えることが出来ていた数少ない人物の中の一人、タバサは思わず息を飲んだ。タバサの目にはサイトが、多くの観客達の胴体視力を越す速さを持って、抜刀し、抜けた刀の勢いに捕らわれることなく、素早く左手で鞘を握りしめ振り下ろさる剣を受け止めた、その一連の流れが確かに映っていた。言葉にすれば、刀を抜き相手を切った、ただそれだけの事であるが、サイトと同じことをしろと言っても、実行出来るものを探すには、国に仕える騎士達を上位の者達から順に探していく必要がある。それだけの技術が今の一刀に詰め込まれているのを、タバサは理解した。
サイトが刀を振るった過程を認識出来ずとも、サイトが刀を振りワルキューレを切り裂いたことは理解出来た観客達は大きく歓声を上げた。戦争にて接近戦を得意とする騎士達のような者達でしかなし得ない高度な戦いは、彼らの心を刺激した。
最初の一体が倒され、そこから先は一方的であった。サイトは、時にワルキューレが投げてくる石を全て弾き飛ばし、時に槍を持ち突撃してくるワルキューレをその槍ごと切り裂き、ワルキューレの数を減らしていった。
ワルキューレの数が減っていく度に、大きくなる歓声。一体、また一体と一刀の下に切り裂かれ、そしていつしか、操り手であるギーシュとサイトのみがその場に残った。
「流石だねサイト、やはり僕ではまだまだ届きそうにないようだ」
「まあ、鍛錬の量が違うからな。そう簡単に越される訳にはいかねぇよ。それよりまだやるか?」
「当然!」
刀の切っ先を向けられたらギーシュは、怯えることなく再び杖を振る。ワルキューレが持っていた物と同じ剣を作り出したギーシュは、杖をそっと胸ポケットに差し込み両手で剣を持った。
それを見たサイトは刀を鞘に収め、やや腰を落としすぐに抜ける体勢を取った。受け身の姿勢、完全なカウンター狙いでギーシュの動きを待った。
二人の睨み合いが続き、観客達もその時が訪れるのを固唾を飲んで見ていた。
ギーシュにとって極限の集中状態での時間感覚は何倍にも拡大して感じられていた。時間にしてものの数十秒後、一際強い風が吹いたのを合図に、ギーシュはサイトに飛びかかった。
上段の構えに向かい来るギーシュの姿は、まるで一体目のワルキューレと同じようであったが、ワルキューレとは違い滑らかで力強さがあった。
ワルキューレの時と同じように、サイトは剣が振り下ろされるその瞬間になって初めて動いた。
やはり、驚くべき速度で抜刀された刀は、ギーシュの剣を根元から切り裂き、弾き飛ばす。驚愕し、次に納得の表情を浮かべるギーシュの首に、サイトが逆手に持った刀の鞘が添えられる。
誰が見ても勝敗は明らかであった。サイトの持つ刀と鞘が逆であったならギーシュの首は飛んでいた。
「俺の勝ちだ」
「ああ、降参、僕の負けだ」
広場に沈黙が走る、観客達の視線が審判役であったタバサに集まった。
「サイトの、勝ち」
タバサが自らの杖でサイトを指し、そう宣言すると同時に、割れんばかりの歓声と拍手が広場に響き渡った。観客達は口々に賞賛の声を上げていた。
やがて観客達の興奮も収まり、一人、また一人と広場を離れていった。広場には普段と変わりない風景が戻った。
「まったく、それなりには頑張ってみたつもりだったが、まだまだだったみたいだね」
「当然でしょ、あんたがサイトに勝には十年足りないわよ」
観客達の多くは忘れていたが、これはサイトとギーシュの決闘ではなく、正式にはルイズとギーシュの決闘であった。してやった顔でギーシュの前に出たルイズはまるで自分が直接戦ったかのように勝ち誇っていた。
「それで、負けたからにはどうすべきか分かってるんでしょうね?」
「勿論だとも、敗者は勝者には逆らわないさ」
「じゃあダブルを認める、そういうことでいいのね?」
「ああ、悔しいが認めざるを得ない。ただ敗者にこんなことを言う権限はないかもしれないが、シングルのことも忘れないで欲しい」
「いいわ、そもそもわたしもちょっと頭に血が昇りすぎてたわ。私だってシングルを無辜にしてるわけじゃない、ただダブルの良さを知って貰えればそれで良かったのよ」
「そうだったのかい? それなら心配はいらない、僕だってダブルの良さはよく分かってる。 ただ経済面においてはシングルの重要性を知ってもらいたかっただけなんだ」
ギーシュとルイズは互いに分かりあうことが出来たことを知り、固く握手をした。それを見ていたサイトは、先ほどまでの緊張感が嘘のように脱力していた。
「トイレットペーパーくらいでなんで決闘なんてしてんだろうな俺・・・・・・」
こうして、シングルかダブルか、トイレットペーパーを巡る争いに終止符が打たれたのだった。
これが、あるサイトの1日であった。
因みに、サイトは断然ダブル派であった。
後書き
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年内に投稿出来たことを喜べない
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