花祭り
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第七章
「それならです」
「インカの神様達もですか」
「いてもですか」
「不思議じゃない」
「そうなるんですか」
「そう思われるといいかと」
あえてここでもだ、ガイドは笑って事実をぼかした。
「ここはそうした村なのです」
「ですか」
「不思議な村ですね」
「こうした村が本当にあるなんて」
「信じられないです」
二人はその不思議な存在達を見つつ言うしかなかった。
「インカの神々が祭りに降りる村」
「そんな村があるんですね」
「かつてはこうした村が沢山あったと思いますよ」
「スペインが侵略する前は」
「インカ帝国を滅ぼすまではですね」
「はい、それでそうした村は殆どなくなりましたが」
それでもというのだ。
「インカ帝国の皇帝がマアチュピチュまで逃れてです」
「こうした村もですね」
「残っていたんですね」
「それで神々もです」
インカの彼等もというのだ。
「残っているんですよ、今でも」
「キリスト教が中南米の宗教になっても」
「スペインが征服しても」
「私も最初見て信じられなかったです」
この祭りに降りる神々をだ。
「ですがそれでもです」
「こうしてですね」
「神々は実際にいるんですね」
「そうです、それじゃあ今から」
「はい、このお祭りをですね」
「神々と一緒に」
「楽しみましょう、このお祭りは朝まで続きます」
明日の朝までというのだ。
「その時までです」
「村の人達、そして神々と一緒に」
「楽しめばいいんですね」
「ほら、来られましたよ」
ガイドがこう言うとだ、三人の席に。
その白い肌と長い髭の男が来た、ケツアルコアトルが。
そのケツアルコアトルの姿を見つつだ、ガイドは二人に話した。
「では神と共にです」
「ワインを楽しむんですね」
「ご馳走を」
「そうしましょう」
是非にという口調での言葉だった。
「折角ですから」
「あの、では」
「ご一緒して宜しいですか?」
「私達キリスト教徒ですが」
「それでも」
「貴方達が望むのなら」
その神ケツアルコアトルは気高い笑みで二人に答えた。
「是非、宗教の垣根はもう越えて」
「そしてですね」
「そのうえで」
「皆で楽しみましょう」
「それでは」
「今日はお願いします」
二人は神にそれぞれ酒と料理を出してだった、そうして。
ファナとルチアーナは神とも共に祭りを楽しんだ、それは朝まで続いて。
朝になるとだ、神々は人々の前に集まって。
笑顔でだ、こう言ったのだった。
「また次に会う時まで」
「お互い元気で」
こう言って笑顔のまま消えていった、その姿を見てだった。
ファナもルチアーナも微笑んでだった、そうしてだった。
神々を笑で見送った。それから満足してガイドに話した。
「私達今日のことは忘れません」
「最高のお祭りでした」
「神々と共に楽しむお祭り」
「そうしたものが実際にあるんですね」
「この通りです、では来年の旅もですね」
「また来させてもらいます」
「このお祭りに」
二人は笑顔で答えた、そしてだった。
残っている酒と馳走を楽しんだ、もう祭りは終わっていたが余韻は残っていた。他の客達そして村の人達と共にだ、その余韻を心から楽しむのだった。神々との出会いを思いだしながら。
花祭り 完
2015・6・21
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