花祭り
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第五章
「見られたら本当に忘れられないですよ」
「ううん、それは一体」
「何でしょうか」
「見られた時のお楽しみです」
ガイドはにこりと笑って答えた。
「その時にです」
「あっ、そこでそう仰るんですか」
「そんな風に」
「そこではっきりと言わずに」
「後回しですか」
「見られるかどうかまだわかりませんし」
それにというのだ。
「口では中々説明出来ないものですから」
「だからですか」
「それでなんですね」
「その時にお話します」
それが出た時にというのだ、そして。
ガイドは二人にだ、ワインですっかり赤くなった顔で言った。
「踊られますか?」
「この村の踊りを」
「それをですか」
「はい、踊られている人もいますし」
見ればツアー客の中にはそうした人もいる。
「ですから」
「そうですね、それは」
「かなり飲んでますし」
「ちょっとこれは」
「止めます」
「今は観るだけにします」
「足元が少し、ですから」
ふらふらしているからというのだ。
「このまま食べさせてもらいます」
「それで飲みます」
トマトやジャガイモ、唐辛子をふんだんに使った料理をというのだ。見れば肉もそうしたものの中にある。
「ですから今は」
「ここにいます」
「そうですか、ならそちらを楽しまれて下さい」
ガイドの返事は陽気なものだった。
「私もそうします」
「お酒を飲まれてですね」
「食べものも食べて」
「タンゴなら踊れますが」
アルゼンチンのそれはというのだ。
「この国の踊りは好きですが」
「実際に踊るにはですか」
「ガイドさんは」
「苦手なので」
それでというのだ。
「見させてもらうだけです」
「では一緒にですね」
「楽しみますね」
「そうします」
こう三人で話しながらだった、ファナもルチアーナも祭りを楽しんでいた。祭りは次第に盛り上がっていってだった。
花、村中の花がだった。
食事や酒にも入ってだ、それに。
村人達が踊っている若い男女にもかけていった、赤や白に黄色の花びら達がだ。
宙を舞っていた、それを見て。
ファナは思わずだ、こんなことを言った。
「何かね」
「そうよね」
ルチアーナも応える。
「お祭りがね」
「次第によね」
「現実のものじゃなくなっている様な」
「そんな感じよね」
「こんなお祭りってね」
「あるのね」
信じられないといった顔での言葉だった。
「これがペルーのお祭り?」
「インカ帝国の」
「あの国のお祭りなのね」
「そうなのね」
「そうなんです、いいですよね」
「キリスト教のお祭りじゃないんじゃ」
ファナが言った、最初に。
「これって」
「そうよね、カトリックのお祭りじゃね」
「ないわよね」
「私もそう思うわ」
ルチアーナも言うのだった。
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