普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
117 黒白剣舞(モノクロ・ダンス)
SIDE 《Teach》
紆余曲折──かつてのトラウマを掘り起こされたりした〝≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫討伐戦〟。結果は概ね〝上々〟と云える着地点だった。
……しかし──やはりと云うべきか、〝見せしめ〟とは云え、無抵抗となっていた《PoH》の命を奪った事はそれなりの顰蹙を買ったが、その不満や不信を訴える声も〝仕方無かった派〟により沈静化している。
……ちなみに、コレンの処断については〝≪異界竜騎士団≫からの除籍+観察処分〟という着地点に落ち着いた。その処分について──とりわけ〝監視〟を付けられる事について、コレンは怒り心頭の様相を見せたが…
―……≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫の残党に怨みを買ってるんじゃないのかねぇ? ……なぁ、〝≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫の裏切りものさん〟よぉ…?―
……なんて囁いたら、コレン手の平を反した様な態度で〝観察処分〟を受け入れた。
閑話休題。
「さて、今日も攻略するか!」
「「おっしゃあ!」」
最前線は73層を突破したばかりの74層。【ソードアート・オンライン】が開始されて以来1年半以上の月日が経過しているアインクラッド内には、何となくではあるが──〝焦燥〟の色がある様に感じた。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 《Kirito》
「あ゛~っ、死ぬかと思ったぁ…」
「……やっぱ二人だけじゃ無理だったか…。〝アレ〟には壁を充実させて次々にスイッチさせていく様な感じが一番安全パイだよねぇ…」
74層の攻略に乗り出して1週間。俺とアスナはボス部屋から最寄りの安全エリアで疲労困憊──と云った体になっていた。……≪異界竜騎士団≫──うちのギルドがボス部屋を見付ける事は多分にあるが、それは大体ティーチの班が見付ける事が多い。
今回は珍しくも俺とアスナのペアが見付けたので、〝好奇心半分偵察半分〟でボス部屋の中を覗いてしまった。
……それがこのザマである。
「……まぁ、詳しいレイドの構成はティーチ君とお姉ちゃんも交えてまた改めて相談しなきゃね」
アスナはボス戦での展望についてそう締め括った。フロアボス戦の攻略会議の主導権を握れるのは、そのボス部屋を発見した事を一番に≪鼠のアルゴ≫に届け出たギルド──またはプレイヤーで、その旨の文も明文化もされている。
……ちなみこれを決めたの〝アインクラッド内二大攻略ギルド〟の団長であるヒースクリフとティーチで、≪鼠のアルゴ≫な理由は〝アルゴは一番中立的に動けるから〟──だそうだ。
閑話休題。
≪DDD≫が攻略の主導をする時は、アスナが大まかな作戦決めで、ユーノがその作戦の肉付け。ティーチが他のギルドとの折り合いを付けるための交渉役──と、痒い所に手が届く様な采配で、それでいて危なげがない。
……なので、他のギルドからの心象も悪くないだろう。
「……そろそろお昼にしよっか」
「ああ!」
「あはは…。料理は逃げないからね?」
思わず即答。そんな俺を見てアスナは苦笑するが、アスナの手料理は最近の俺の癒しタイムだったりするので、そこは笑って欲しくはなかった。
……“料理”のスキルを完全習得しているだけあって、アスナの料理は美味い。余計な修飾なんて付けられないくらいに美味いのだ。……いつの間にやら、俺はアスナに──見事に胃袋を掴まれていた。
――「おっ、キリトとアスナさんじゃねぇか!」
アスナに手渡されたサンドイッチにいざかぶりつこうと云う時に、〝ガチャガチャ〟と鎧が噛み合わさる時の音ともに横合いから無遠慮な声が掛けられた。
「クラインか。……今からちょっと遅めな昼飯なんだけど」
「あ、クラインさん」
無遠慮な声の主──クライン+≪風林火山≫の皆さんを、少量の怨嗟の色を込めながら見ると、俺の視線台頭して受けていたクラインは肩をすくませる。……アスナも、声の主を認識したのか適当な挨拶をする。
「かーっ! 羨ましい! キリトは良いよなぁ、自分の為に手料理を作ってくれる可愛い彼女が居てよぉ…」
「……俺はお前に〝お義兄さん〟なんて云われる様な展開になっても困るんだがな」
嫉妬のあまり肩を揺らそうとしてくるクラインに、そんな事を言い放ってやる。
「おいおい、そりゃ無いぜキリトよぅ…。……リーファちゃんの事は引き合いに出さないでくれ」
リーファはクラインと──〝“カタナ”使い〟繋がりなのか、仲が良かったりする。……それこそ、リーファがクラインの世話を甲斐甲斐しく焼くくらいには。
他の≪風林火山≫のメンバーも「うわぁ…リーダーって、ロリコンなのかよ」「Yesロリータ、Goタッチは犯罪だぜリーダー」「ちょっとリーダーとの付き合い方を改めて考えさせていただきますね」──とな、冷やかし混じりの野次が飛んでくる。
……よくよく≪風林火山≫のメンバーを見れば、にやけ顔なのでそこまで本気で心配している事でもないのだろう。
………。
……。
…。
「協力、感謝する」
俺とアスナは昼食を終え、クラインへの冷やかしもクラインの大噴火で収まった頃合いに1人──否多数の、団欒を乱す者が現れた。
25層フロアボス──クォーターボス戦で大損害を受けて幾久しい、≪アインクラッド解放軍≫の一団らしく、階級は〝中佐〟だそうで──名をコーバッツと名乗った、〝堅物〟を絵に描いた様なプレイヤーだった。
「……良かったの、キリト君?」
「アスナさんの云う通りだぜ。……ありゃあ下手したらボスに…」
「……なんか俺も気になってきた。行こうっ」
「うんっ!」
「へへっ…そうこなくちゃな。……テメェらも行くぞ!」
「「「押忍!!」」」
アスナとクラインからの、コーバッツ達を慮る声に急激に心配になってきた俺は、アスナ達を引き連れてコーバッツ隊の元へ向かう事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クライン達を連れてボス部屋まで来てみれば、そこは正しく地獄絵図だった。
……俺の予想は悪い意味で当たっていた。
《ザ・グリーム・アイズ》──〝輝く眼〟と云うネーミングは伊達ではなく、ゆらり、と目が輝く度に振るわれる凶撃は1人──また1人と〝軍〟の人間の命を無情に奪っていく。……一も二もなく〝撤退〟の選択肢を選ばざるを得ない様な状況だった。
――「怯むな…っ! 全軍突撃ぃぃぃいっ!」
「馬鹿野郎っ!! とっとと転移結晶を使いやがれ!」
「ならんっ! 立て! 立ち上がるのだ!」
〝不退転〟の指示を出すのはコーバッツ。クラインはそのコーバッツの指示に激昂して撤退するように提示するが、そんなクラインの厚意をコーバッツは踏みにじる。
(……今更出し惜しみも無し、か)
「アスナ、もう駄目だ〝アレ〟を使う」
「キリト君…。……うん判った」
コーバッツの態度にそう思い立った俺は〝ソレ〟を知っているアスナにそれだけ告げるとメニューを操作する。……アスナには〝ソレ〟について前以て教えてあるので、軽く逡巡した様子を見せるが、〝命〟に代えられるものが無いのを知っているのか、ハッキリと頷いてくれた。
……そうこうしている内に、その輝く双眸は指示を出している人間に──コーバッツに向けられる。
(まだかまだかまだかまだかまだかまだか…っ!)
時間が惜しい。
〝ソレ〟がちゃんと装備されたと判った刹那、俺の傍に何が飛来してきた。……コーバッツだった。ボスの凶腕でここまで飛ばされてきたらしい。
「……む、無念…っ!」
――パキィィン…
「……っ!!」
最早聞き馴れた小気味の良い音。コーバッツの辞世の句は、俺の心を焚き付ける。
「クライン達は〝軍〟の連中を頼む…っ!」
「キリト、おめぇ…。……後でみっちりと聞かせて貰うからな!」
「アスナは…」
「私の〝HPバー(いのち)〟は君のものだよ」
「行くぞっ!!」
アスナの言葉に返事を返さず、〝二振りの剣〟──“二刀流”のスキルでもって、74層フロアボス──《ザ・グリーム・アイズ》との死闘の幕を開けた。
SIDE END
………。
……。
…。
SIDE OTHER
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
“ヴォーパル・ストライク”──片手剣重単発攻撃ソードスキルが《ザ・グリーム・アイズ》のHPバーを削る。キリトとアスナがボスに突撃してから幾ばくが経過していた。
熾烈な戦いではあったが、そこは長年コンビを組んでいたアスナとキリトである。《ザ・グリーム・アイズ》のHPバーを一番最後の半分のところ──〝討伐〟を視野に入れられるキルゾーンにまで削っている。
「……くそっ!」
キリトが剣を振ればアスナが身を引く。アスナが突っ込めばキリトが弾き(パリング)──そんな〝阿吽の呼吸〟とも云える状況に蚊帳の外なクラインは臍を噛む想いで悪態を吐く。
〝結晶無効化空間〟。それがキリト・アスナのコンビに援護出来ない最大の理由だった。〝攻略組のTOP5〟に入るキリトとアスナが〝二人で〟相対している状況だからこそ、優勢を保てている。……少なくともクラインにはキリトの〝見たことのないスキル〟とどうやって連携をとれば良いかのかは判らない。
……だからクラインには悪態を吐くしかなかったのである。
「……あっ…」
そんな声を漏らしたのはアスナだった。キリトが剣を振ればアスナが身を引く。アスナが突っ込めばキリトが弾き(パリング)──そんなコンビネーションは、軈て〝馴れ(ルーティーン)〟になり、綻びを生じさせた。
……アスナの身体が《ザ・グリーム・アイズ》の尻尾によって弾かれた。アスナは甚大なるダメージを負ってしまい──取り残されたキリトは1人きりでボスを相手取らなくなってしまった。
「ア…スナ…っ!」
そんな苦境に立つ羽目になったキリトは、あえて〝撤退〟を選ばず、立ち止まり〝抗戦〟を選択した。……〝抗戦〟と云う無謀とも思える選択肢を選んだキリトの胸中には、〝その選択肢〟を選んだ大きな2つの理由が有った。
1つ目は〝背中を見せれば間違いなく殺られる〟と云う獣染みた──理性的な思考を否定した〝直感〟。
2つ目は〝最愛の女性を殺されそうになった〟と云ういかにも人間らしい──感情の爆発である〝憤怒〟。
「“スターバースト・ストリーム”…!」
《ザ・グリーム・アイズ》のHPも後僅かになっていた。キリトはボスに対する手向けの技を“スターバースト・ストリーム”──“二刀流”の、計16連撃の上位ソードスキルに決めた。
「速く速…っ! もっと速く…っ!」
譫言の様に呟くキリト。1つ…2つ…3つ…4つ…5つ…、と《ザ・グリーム・アイズ》を斬り付けて確実にダメージを与えていく。しかし“スターバースト・ストリーム”は〝足を止めて〟展開しなければならないので、キリトもダメージを負っていく。
“スターバースト・ストリーム”の16撃目が《ザ・グリーム・アイズ》を叩き込まれる。しかし〝あと一撃で無くなる〟という程度のHPが残ってしまった。
「ごめん、アスナ」
技後硬直。動けなくなっている身体で──《ザ・グリーム・アイズ》から唐竹割りに振り下ろされる凶撃を見ながら、キリトは〝最愛の女性〟──アスナへと謝罪する。
「駄目ぇぇぇえっ!」
そんなアスナの絶叫を聞きながらキリトは意識を手離した。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 《Kirito》
(俺は…生きてるのか?)
最後の記憶はボスから振り下ろされる攻撃──そして、アスナの絶叫だった。
「……□リ□□ん…! ……□リトくん…!」
(この声はアスナ──か?)
「ア…スナ…?」
「……キリト君っ! 目を覚ました! キリト君、生きてる…っ!」
「そうか…俺は…」
状況を把握。アスナには顔を覗き込まれる様な恰好で膝枕をされている。そして近くには≪風林火山≫の皆が居た。残り僅かしかなかったHPバーも満タンになっていた。
……どうにも話を聞けば、回復し終わったアスナが俺が死ぬ前にボスへのラストアタックが間に合い──そして、先ほどまでの〝結晶無効化空間〟はボスの討伐と共に消えたらしい。
………。
……。
…。
「………」
「………」
ボス戦の余韻も覚めて──クライン達に礼を言いつつ75層の解放を頼んだ頃。俺とアスナの間には得も云われぬ沈黙が流れていた。
「ねぇ、キリト君」
「何だ、アスナ」
「……1週間で良いの。……攻略から離れよう? ……キリト君が死んだと思った時、すっごく怖かったの」
「……そうするか」
沈黙を破ったのアスナで──アスナからそんな提案があった。アスナの声音含まれる感情が理解出来たので、承諾。
(そろそろ、進んでいいよな?)
「……俺もアスナが飛ばされるのを見た時は、気が気じゃ無かったよ。……アスナ、今夜一緒に居て欲しいんだ」
「……はいっ」
俺の頼みに、アスナは快く頷いてくれた。……そして今夜、漸くアスナと〝色んな意味〟で結ばれたのだった。
SIDE END
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