普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
115 炙り出し
SIDE 《Teach》
――コンコンコン
≪異界竜騎士団≫本部の執務室。……〝件の面談〟についての方向性が決まったので、メンバー全員に[〝殺人者狩り〟について話したい事がある。折を見て執務室に呼ぶから、その時は来てほしい]と送った。
どうやら、呼んだ人物が来てくれた模様。……ドアをちゃんと〝3回〟ノックしているので育ちの良さが窺える。
「どちら様?」
――「アスナです」
「アスナか、鍵は開いているからそのまま入ってくれ」
呼んだ人物──アスナが入室してくる。そのままアスナを用意していた席に着席するように示唆する。……所作の一つ一つに気立ての良さも散見されるあたり、〝さすが社長令嬢〟と云うべきなのだろう。
「そこらに適当に座ってくれ。……さて、まずは謝罪だな。いきなり呼んで悪いな。この面談について〝他の誰か〟からアスナは何か聞いたか?」
「……ううん、聞いてないよ? ……それがどうかしたの?」
首を傾げながらアスナは答える。……これはアスナがハブられている──とかそういうイジメ染みた事ではなく、〝アスナが一番最初〟なので〝他の誰か〟からは聞けるはずが無い。
「……いや、質問の前に註釈を説明する手間が省けるか省けないかの違いだよ。……さて、アスナにはこれからちょっと気分を悪くするような事を聞いてしまうかもしれないから、この紅茶を飲みながらでも聞いてくれ」
「〝気分を害す様な事〟…? ……っ!? ごめんメッセージが入っちゃったみたい」
「……〝時間〟はあるんだ開いても構わないよ」
アスナは〝何か〟に驚いた様な表情の後に、メッセージが届いた事に断りを入れるが俺はその言葉を許可する。
「……っ」
アスナはメッセージを目で追ってき──そのメッセージが不快なものだったのか、眉間に皺を深めていく。……そしてそのメッセージに思うところがあるのか、〝そのメッセージの送り主〟を──俺を睨む。
[アスナ、声を出さずにこのメッセージを読んでくれ。単刀直入に言おう。俺は≪DDD≫に〝殺人者〟のスパイが居ると思っている。この面談はそのスパイを炙り出すという側面もある。“聞き耳”のスキルを気にしてのこんな措置だ。了解したなら会話しまま返信してくれ]
……こんな風にアスナへと送った。この前のユーノとの暗談みたく、転移結晶を使うと云う案も有ったが、結晶系列のアイテムはやたらと値が張るので、こんな措置を採用した。
「ああ。……まずは面談を始める前にこれだけは承知してくれ。……俺の質問には〝はい〟か〝いいえ〟で答える事。……いいな?」
――ピコン
[了解しました。面談と並行する形でメッセージを返せばいいのね?]
「……はい」
俺を胡乱な目付きで見ながらも、アスナは頷く。アスナが頷いたそれを機に質問を始める事にて──メッセージの方でもアスナと会話する事にした。
「アスナは〝殺人行為に及んだ〟こと──または〝意図的に殺人行為に携わった事は〟あるか?」
[大体そんな感じだ。……ちなみに現状、〝ほぼ〝白〟確定〟はギルド創設時の6人で、残りが〝白に限り無く近いグレー〟と云ったところだ]
「……いいえ」
アスナは口頭での質問に一瞬目を見開いたが、直ぐ様きっぱりと俺の目を見ながら否定する。……女性は嘘を吐く時──いつぞやのマチルダさんみたいに、相手から目を逸らさない様にするらしいが、アスナの瞳には──〝あの時の〟、追い詰められていたマチルダの様な〝焦燥〟は感じられない。
(……やはりと云うべきか──アスナは〝白〟、か…)
ホッと一息撫で下ろす。弟の恋人が善人だったので、余計な気を揉まずにすんだ。
[取り敢えずアスナが〝白〟だということが再確認出来た。一応言っておくが今回の面談についての周知は〝どうしても必要と思わない限り〟控えてくれ。……アスナなら判るよな?]
「……うん、アスナに訊きたい事は終わったよ。これで面談終了だ。……〝決行日〟は追ってメッセージを送らせてもらう」
「……失礼します」
――ピコン
[……予想だけど、ティーチ君曰く〝羊の皮を被った狼〟が1匹だとは限らないから──かな]
アスナが退室した後のそのメッセージに[その通り]と返事をするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――コンコン
「……どちら様?」
――「コレンだ」
2回ノック──トイレのノックをされたので、聊か微妙な気持ちになりながら誰かと問えば、呼んだ人物──コレンが執務室へとやって来た。
コレンの為人を一言で云ってしまえば、〝某世紀末な漫画に出てくる雑兵さん〟とな感じだ。……素行は良くないが、〝実り〟の無いMobでも〝虐殺〟出来る──割りと稀有な人物だったりする。
「よし、始めようか」
アスナの時と同様に着席する様に示唆して、適当に面談を始める。
コレンはアスナ、キリト、リーファ、ユーノ、エギル、シリカ──〝白に限り無く近いグレー〟な人達の面談が終わって、更には〝グレー〟な人達の4人目の人物で──そして、俺が〝一番怪しい〟と目している人間だ。
……ちなみに今のところ〝黒〟は出ていない。……居なかったら居なかったで、取り越し苦労になるだけだ。それで俺に信を置けなくなると云うのなら、どんな苦言でも甘んじて受けるつもりである。
閑話休題。
「……さて、まずは謝罪だな。いきなり呼んで悪かったな。……でコレンはこの面談について〝他の誰か〟からコレンは何か聞いたか?」
これはアスナ──だけではなく、ユーノ達にも聞いた定型文的な設問で、〝ふるい〟の役割を果たしてもいる。……この〝ふるい〟の意味と──そして、どんな風に〝ふるわれる〟のかとな説明はと云うと…
「アスナから聞いた。……どうにも、〝人を殺した事があるかどうか〟とか…」
「……大体そんな感じかな。まぁ、それは後で改めて聞くが」
(……ビンゴ)
どんな風に〝ふるわれる〟のかとな説明はと云うと──こんな風にボロを出してくれると云う訳である。……コレンの悪手はリーファやシリカならまだしも、思慮深いアスナの名前を出してしまったところだ。
アスナはこの面談の意味をきちんと理解していたので、〝アスナがバラした〟──とかは、まず考えていない。……大方コレンがアスナの名前を出したのは、この面談会の一番手がアスナだったからだろう。……それかアスナしか聞き耳を立てていなかったか。
“聞き耳”のスキルは、その習熟度如何で聞こえてはいけないはずの──プライベートな音すら盗聴が可能だ。その特質上、どうしても〝花形〟のスキルとは云い難いので、“聞き耳”のスキルを好んでとっている人間は多くない。
……が──それだけに、悪目立ちもする。面談の為に入室した後を尾行して、その部屋前でこそこそとしていたら、〝〝殺人者〟の討伐〟を憚らずに明言しているのもあるので、〝面談を盗聴しているのでは?〟と対外的に思われ、痛い腹を探られる可能性が高い。
「……まぁ大体そんな感じだな。……でも、これだけは承知してくれ。俺の質問には〝はい〟か〝いいえ〟で答える事。……いいな?」
「はい」
「〝殺人行為に及んだ〟こと──または〝意図的に殺人行為に携わった事は〟あるか?」
「いいえ」
俺の問いに、淀み無くコレンは返事をする。そんなコレンの態度とは反比例に俺はコレンへの疑いを強くしていく。そこで、〝コレンがどう反応をする〟か気になった俺は、定型文から外した質問──アスナ達にはしていない質問をする事にした。
「アスナからこの面談に関して聞いたんだよな。……で、〝アスナ以外からこも面談について何か聞いたか?〟」
「っ! ……い、いいえ」
漸くコレンの顏から澄ました色が消え、吃りながらも〝否定〟が返ってきた。そしてコレンの口から、蚊の鳴くような声量で──〝うっかり〟が聞こえてきた。
「……アスナからしか盗聴してないからか…」
ぼそり、とそんな──〝迂闊〟としか云いようがない呟きが聞こえたが、そこは敢えてスルー。……ここで問い詰める事も可能だったが、ここでそれを問い詰めたらコレンの動きが読みにくくなるので敢えてスルーする。
「ん? 何か言ったか?」
「い、いいえ…」
コレンは胸を撫で下ろしたかの様な態度を採る。先ほどの迂闊なボヤきが聞かれてないと勝手に安堵したのかもしれない。……それは〝団長が暗愚である〟とも取られている可能性があるので、聊か業腹でもあるのだが、そこも持ち前の──中途半端なスルースキルでスルーした。
「……うん、コレンに訊きたい事はこれにて終了だ。これで面談も終了。時間を取らせて悪かったな。……ああ、〝決行日〟は追ってメッセージを送らせてもらう」
「……判った」
(……〝羊の皮を被った狼〟はコレンだけっぽいな…)
そんな事を考えながら、先ほどの失言を呪ってか──やたら煤けているコレンの背中見送るった。
「……あとはクラインのところとディアベルのところか」
そんな風に憂鬱になりながら溢した呟く。……結局のところ、ソロやギルドのごった煮──総勢40人の〝俺から見て本当に信頼出来る〟プレイヤーの協力を取り付ける事に成功した。
……ただ1つ──リュウに連絡が着かなかったのが、唯一の懸念だった。
SIDE END
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