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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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14話 ソロモンの悪夢 UC0080 1.1

 
前書き
ちゃんと書けたかな。不安だ(笑)

 

 
* サイド1 宙域 ティアンム艦隊 UC0080.1.1 10:00


ティアンム艦隊の新年は戦場で迎えられた。艦隊司令のティアンムは度重なる敵コンスコン艦隊の妨害により、進軍が止まっていた。ティアンムのフラストレーションは爆発寸前だった。

「何故!・・・敵を撃退せしめない。我が軍はこれだけの大兵力だぞ。各分艦隊は何をしている!」

ティアンムは旗艦の艦長席でモニターに映る分艦隊司令を怒鳴りつけた。
各分艦隊司令らはこう発言をした。

「司令・・・敵は薄いようだが柔軟なゴムのような艦隊運動です。我々が各艦連携して動くに余りに大所帯過ぎて・・・」

「そうです。我々が目標地点に到達するときに敵は既にいなかったり、側面へ回り込まれたり・・・」

ティアンムは唸った。分艦隊司令らに功績を立たせるために、ソロモン攻略への士気向上を図るために各分艦隊の戦術レベルでの勝利を委任したことが裏目に出ていた。

最初は我慢した。そこまでの損害もなく、敵の迎撃艦隊もさほどの戦力でもなかったからだ。
敵迎撃艦隊の規模はティアンム艦隊の三分の一の戦力でも数の上では壊滅するに容易かった。よって前線指揮官にその撃退を委ねた。

コンスコンは大軍ならではの弱点を付いていた。少数精鋭で一撃離脱戦法を取り、それを10数隊に分けては継続的にティアンム艦隊の先方に餌を巻き誘い込み打撃を与える。違う隊はその伸びたティアンムの先方を側面から攻撃した。

ティアンム艦隊の個々での艦隊連動が悪すぎた。戦端を切ってから13日経つ。その被害もそろそろ軽視できないものになっていった。このままではジャミトフに笑われかねない。

ティアンムは全権を自分に戻し、艦隊を並行陣にして進軍を開始した。
最初から正攻法でこれでいけば良かった。

コンスコンもこの陣形で来られては奇兵奇策を弄す隙がなかった。
コンスコンは副官に「これまでだな」と言い、ソロモンへ後退していった。

ティアンムはホッと一息つけた。すると通信士よりティアンム宛に連絡が入った。

「司令。ジャミトフ提督からです」

「ジャミトフからだと・・・繋げ」

すると、正面の大型モニターにジャミトフの顔が映った。

「大分手こずったようですな中将。敵もそこそこやるということですかな」

「ふん。そうだな。貴官申す星間旅行というのは少々骨が折れるみたいだ」

ティアンムはジャミトフからの科白に嫌味で返した。

「そうですか・・・そこで中将。ひとつ私がプレゼントしたいものがありまして、ソロモン攻略にきっとお役に立てましょう」

「プレゼント?・・・まあ、くれるというのにもらわん訳にはいかんだろう。して何をだ」

「ソロモンはジオンの重要な拠点です。大兵力が待ち構えているでしょう。まあ中将の艦隊ならば勝てるでしょうが多少の痛みを伴います。それを軽減してくれる代物・・・まあ光の矢と申しましょう」

「ほう。新兵器というやつか。有り難く頂戴しよう」

「ええ、ぜひご活用ください」

そうジャミトフが言うと通信が切れ、代わりにそのプレゼントの座標が送られてきた。
サイド1宙域、ティアンム艦隊すぐそばだった。

「よし、数艦がその贈り物を受け取りにいけ。本隊はそのままソロモンへ進軍する」

ティアンムは艦隊を隙を見せない陣容でゆっくりソロモンへ進ませていった。


* 宇宙要塞ソロモン 司令部 1.01  15:00

司令部でドズルは本国の兄ギレンに通信会話をしていた。
ドズルはここがジオンの一大決戦の場にしようと主張していた。

「兄貴!連邦がこのソロモンへ向かっている。兄貴の艦隊で後背を突き、またあのルナツーのように艦隊を撃滅すればこの戦は勝てる」

ギレンは首を横に振り、ドズルの作戦を採用しなかった。

「ドズルよ。アレは2度は無理だ。敵も2度は失敗をしないだろう。それよりも良い方法がある。その時までソロモンで出来るだけ敵を引き付けてもらいたい」

「なっ・・・良い方法だと・・・。戦は数だ兄貴!数がモノを言う。本国からの援軍で連邦を追い払える」

「・・・無論だとも。数が勝負の分かれ目だ。最終的に敵がいなくなれば良いわけだからな。ドズル、お前にはビグザムを5体都合してあったが、それでソロモンは守れるだろう。時間をできるだけ稼げ。今はそれしか話せん。ドズル、ソロモンを支えてくれればジオンは勝つよ」

そう言うとギレンの方から通信を切った。
ドズルは唸り、「言われるまでもない」と呟いた。

その後ドズルは自室のいる妻ゼナに会いに行った。
ゼナは生まれたばかりである娘ミネバをベビーベットの上で世話していた。
ドズルが部屋に入って来たのに気づき、ゼナはドズルの方に振り向いた。

「ゼナよ・・・今回は生きて帰れるかわからん」

ゼナは夫の言葉に沈痛な顔で「そうですか」と一言言った。

「しかし、お前とミネバだけは守らねばならない。戦闘が起きる前にソロモンを出てアクシズへ向かうのだ」

ゼナは驚いた。何故本国でなくそんな辺境の地に行かねばならないかを。

「どうしてです貴方・・・何故あんな日の当たらないところなんかに・・・」

ドズルは俯いてゼナの質問に答えた。

「済まない・・・今のジオンはオレでもコントロールし切れない。お前も知っての通り、兄妹間の仲が最悪だ。兄は独裁体制を取る上でオレも含めて邪魔者だと思っている。良くても単なる駒にしか思っていない。そんな兄貴の下にお前らをやる訳には行かん」

すると部屋のインターホンが鳴り響き、ドズルがその訪問者を確認した。そしてその訪問者を招き入れた。

「ゼナよ。こちらはアクシズ先遣隊指令ユーリー少将だ。アクシズ統括官のマハラジャ・カーンの腹心でもある。この者がお前を安全な場所へ案内する」

すると、ユーリーがゼナの前に立ち自己紹介をした。

「ユーリー・ハスラーと申します。ゼナ様を無事アクシズまでご案内致します」

ゼナは不満に思った。いっその事夫も一緒に行くことができないかと訴えたがドズルが拒んだ。

「ゼナよ。オレはザビ家の男だ。戦争の発端になったものだ。それが逃げたとなっては兵士達は戦えない。願わくばお前たちは地球のガルマに委ねたかったが、ガルマも地球にほぼ閉じ込められた形であり、よからぬ噂も耳にする」

ドズルは可愛がっていた弟について複雑な心境だった。

「ガルマは・・・実にいい弟だ。あの清廉、実直さはオレには到底持ちえないものだ。何事も正義を貫こうとする志。それが兄ギレンに不信感を与えていた。地球での統治が仇になった」

ドズルは柔和な顔でミネバの頬に手を触れた。

「兄貴は地球に未練がなく、コロニー落としなど行った。ガルマは地球での統治を実施し、地球に関わりを持った。兄貴とは違ったジオンの思想を導こうと思っているらしい。兄貴は非情な男だ。自分とは少しでも違う思想を持つ者、つまり地球に毒された弟を認めはしないだろう」

ゼナはガルマのことを知っていた。確かに彼は優しい男だ。彼の優しさが他の兄妹達との温度差になっている。そのことにドズルは危惧していた。

「そしてガルマは地球に独自の組織を興そうとしている。そこでスペースノイドの重要さを世間に訴えるために。ガルマは本国を・・・ザビ家を裏切ろうとしている」

「しかし、ガルマ様は先日貴方との通信で自ら派閥を興してジオンを改革するとおっしゃったじゃないですか。それに貴方への協力を要請していた」

「・・・だが、オレは断った・・・オレは今のザビ家の、ジオンの将軍だ。ジオンはこの戦争で一枚岩となり、連邦に打ち勝たねばならん。内紛など目先の問題が片付いてからすれば良い。しかしガルマはどうやら理想に酔っているようだ。そんな状態で兄貴やキシリアに勝てる見込みなど全く感じられん」

「そんな・・・だから貴方はガルマ様を見捨てようとするのですか」

「そうだ。戦争は非情だ。大事な局面で見誤る将に軍を率いる資格はない。ガルマはそれを失っていた」

ドズルは落胆した面持ちでガルマへの想いをゼナに伝えていた。
ドズルはミネバの寝顔に見入り苦笑していた。

「オレにも子供を持つ資格があるとは思わなかった。こうして妻、娘と戦場でも安らぎのひと時を持つことができる。このオレはつくづく果報者よ」

「・・・いいえ、このゼナこそ幸せです。貴方のお蔭でミネバに恵まれたのですから。できることなら貴方と一緒に・・・」

「それはできない。わかってくれとは望まん。これはオレのエゴだ。済まない」

「・・・わかりました。でも、後から来てくれますよね」

「ああ、勿論だ。連邦をこの手で粉砕してからお前を迎えにゆく」

そうドズルが約束を交わし、ゼナの額に口づけをしてから再び司令部へ戻っていった。


* ルナツー 宙域 ワイアット艦隊 同日 16:00


ワイアットは旗艦の中の艦長席において紅茶を嗜んでいた。
ワイアットの下に数々の戦況報告が入る。全てが良い報告だった。

各分艦隊司令の話によれば、ルナツーからのジオンの迎撃艦隊を撃退した、そして掃討作戦と合わせて1月3日にはルナツーの制圧が完了するだろうという報告が入っていた。

「うん、良い話だ。貴官らの働きに満足している。この残存戦力ならばティアンム艦隊の後詰ができると思う。まあ焦らず目の前の皿を上品に平らげるとしよう」

ワイアットがモニターに映る分艦隊司令らにそう告げると皆了承し、持ち場にて最善を尽くしていた。
ワイアットはルナツー攻略中もティアンムの状況を通信士より逐次受け取っていた。戦友でありライバルである指揮官の動向を知りたかった。

ティアンムの戦闘詳報に目を通したワイアットは少し眉を潜めた。

「・・・少数の迎撃艦隊に翻弄された。そしてジャミトフからソーラーシステムの受領・・・。意外と苦戦を強いられているようだ。宇宙戦力の半分がティアンムが持っている。これが万が一失われることになったら、連邦の人材渇枯が必至だ」

ワイアットはその詳報を副官に預け、再び紅茶を口にした。

「機械など作るのは容易い。だが、人材はそうはいかん。戦場に出せる兵士を作るのにはそれなりの年月が必要だ。ティアンムの戦力がソーラーシステムと伴ってソロモンの攻略には十分なのだが、窮鼠と化した敵は何をしでかすかわからんからな。ましてやあのドズル・ザビが守る要塞だ」

そうワイアットが周囲にぼやくと、その意見に反応した。そして今攻略中のルナツーにおいても敵が窮鼠と化すことについては動揺の話であった。そして皆に徹底した。

「隙を見せてはならない。各自、各艦、敵動向をキメ細やかにチェックしていけ。降伏する艦艇にも自爆する危険性ら、工作員らなど想定して確認するように」

その命令はワイアット艦隊全艦に通達され、ワイアット艦隊は1割に満たない被害にて1月3日にルナツーの攻略を完了した。


* ソロモン 宙域 1.02 9:00

ティアンム全艦艇がソロモンを半包囲するように展開し、モビルスーツ隊も発進していた。
そしてティアンム艦隊の中央部後方に新兵器のソーラーシステムを配備していた。

「これより目標ソロモンの攻略を開始する。各自の健闘を祈る」

ティアンムはオープンな無線にて戦場にその旨を伝えた。
そしてまず艦艇の砲撃の嵐がソロモンを襲っていった。

ドズルは要塞内司令部にてその衝撃を受けていた。
司令部もグラグラと揺れた。その攻撃に対しドズルは声を荒げ迎撃命令を下した。

「各要塞の砲台に告ぐ。連邦の艦隊に我が武威を示せ!砲台の撃ち方の後、モビルスーツ隊を発進。敵前面の艦艇を突き崩し、両翼の分断に務めよ」

このソロモン攻略戦の戦力比は連邦:ジオンが3:1であった。地理的な面でジオンに分があるためその戦力比を補っていた。

互いの砲撃による弾幕の応酬により、互いがモビルスーツ戦が挑める程の近距離まで連邦軍が到達すると両軍とも砲撃戦を控えモビルスーツによる近距離戦に変わった。

連邦軍中央マゼラン艦内カタパルトデッキにて、

ジム・カスタムに搭乗しモビルスーツ大隊の隊長として先陣を切るスレッガー・ロウ中尉は次々と発進していく味方を見送りは自身の発進の順番を待っていた。

「やれやれ・・・圧倒的戦力と言いながらも激戦になりそうじゃないの。まあジオンは重要拠点の陥落をどうしても阻止したいだろうから死に物狂いでくる訳だ。切なくやりきれないんだけどこれが戦争なんだよね・・・」

そうスレッガーがぼやくとオペレーターの若い女性より発進の指示が下った。

「スレッガー中尉!発進お願い致します」

「OK!・・・なあ、これが終わったら一緒にご飯でも行かないかい?」

そのオペレーター少し顔を赤らめて満更でもない表情でスレッガーに答えた。

「いいわよ。その代り生きて帰ってきてちょうだい」

「了解した。レディの約束を反故にするほどオレは野暮じゃない。スレッガー・ロウ出るぞ!」

カタパルトに乗ったスレッガーは急速発進してソロモン宙域へとその身を投じていった。


* ティアンム本隊 旗艦内 1.04 11:00


ティアンムはソロモンを半包囲の態勢で攻めていたが攻めあぐねていた。
無理に出血を強いる戦い方はティアンムの思うところではなかったので正攻法で攻めていた。

中央より敵の迎撃隊が中央部の分断を図ろうと猛攻が続いていた。そのため中央部を多少後退せざる得ない。

その分両翼が潤沢な戦力により着々と攻略していたがピタッと止まっていた。
両翼に識別不明の4機の巨大モビルアーマーが防衛に出てきて、連邦両翼の進撃を食い止めていた。

ティアンムもその状況に歯ぎしりをしていた。

「やはり、ジャミトフの土産を使わなければならんか・・・時間をかければ被害も抑えての攻略も可能だがそれではワイアットが来てしまう」

ティアンムはルナツーのワイアットの活躍を報告で受けていた。
このまま行けば砲撃とモビルスーツ戦でソロモンに攻略の楔を打つことも可能だが、ワイアットが来ると両艦隊による攻略戦を余儀なくされる。

これだとティアンムの功績自体がかすむ。自分でも戦争は協力し、被害を最小限に収め目標を達成することが良いことが分かっているが自分のどこかにそれを許容できない自分がいた。

しかし、無理な戦闘を仕掛ける訳にもいかない。それは愚将のやる行為だ。兵の命を預かっている以上自分の功績の為に死ねと命令することはできない。後々の名声に響くことになる。

「・・・副官。ソーラーシステムのスタンバイは」

「はっ。命令後30分でソロモンを焼くことができます」

「そうか・・・已む得まい。ジャミトフより頂いたものを有り難く使わせてもらうとしよう。それでより少ない被害で済ますことも良将と呼ばれる所以だからな」

「かしこまりました。後方に通達!ソーラーシステムスタンバイ。中央部は敵に崩されたと偽装し両翼に軍を分配する。移動は20分で済ます。急げ!」

副官の命令により、ティアンムの本隊とその中央部が敵の攻撃による分断されたと思い込ませ、敵を油断させた。その動きにドズルが妙に思った。

「・・・おかしい、手ごたえがないように感じる。しかし、うまく連邦を2つに分断できた。これでビグザムで片方を抑えながらもう片方で火力を集中させることができる」

ドズルは司令部にて戦況モニターを見て一抹の不安を感じながらも各部署へ適切に防衛指示を出していた。

ドズルは連邦を犠牲を払ってもソロモンを防衛し切れば良いと考えていた。しかし物量の観点から長期戦ともなると弾薬ともにジオンにかなりの分の悪さを感じていた。

「ルナツーも同時攻略されていると聞く。兄貴からの増援が不明で、キシリアからの増援も要請したが、連邦の我が軍の中継基地の防衛に各軍が分散されて軍が出せないと言う。孤軍奮闘とはまさにこのことだ」

ドズルはそう愚痴をこぼした。
ドズルはなるべく短時間で効率よく各個撃破することに期待を込め戦端を開いた。

艦隊運用というものは半数近く失われれば指揮系統や士気の具合が途端に悪くなる。
ましてや連邦は陣容としても勝ち戦できている。そんな戦いに死にたいと思う兵士はいない。つまり無理な戦が連邦にはできない。する気がない。そこに付け入る隙があると睨んでいた。

そんな連邦に無理な戦をするような状況を作る。それには敵を分断し、一方の敵に火力を集中し出血を促す。それで決着が付くとドズルは考えた。

「まあ、一番なのはやはり先のルナツー攻略戦のように敵旗艦を捕捉、撃沈が一番効果的なのだがな」

ドズルはそう呟いた。ソロモンのジオン軍は既に退路を断ち、皆死兵と化していた。その士気の異常さ、苛烈さが連邦軍に恐怖を与えていた。

ティアンム本隊は不運にもビグザムに足止めされている分隊とは違う、ドズルの猛攻に晒される方へ艦隊を移動させていた。

ジオンの中で際立って活躍を見せていたのがアナベル・ガトー大尉が率いるモビルスーツ大隊であった。その全機が最新鋭モビルスーツ「ゲルググ」が配備され、連邦のモビルスーツを翻弄していた。

その中のカリウス軍曹が油断を生み敵機に後背を取られた。

「やられる!」

カリウスは死を覚悟したその時、ガトーのビームナギナタが後背に付いたジム・カスタムを縦から切り裂いた。ガトーはカリウスに声を掛けた。

「カリウス・・・宇宙では全方位に神経を配れと伝えてあるはずだ」

「すみません大尉・・・」

「一瞬の油断が死を招くことを忘れるな。ケリィ!」

ガトーが自身の部隊の副隊長ケリィ・レズナー中尉に通信連絡を入れた。

「なんだ、隊長」

「お前は部隊の半数を連れて右側面から敵部隊へ急襲を掛けろ。オレは残りで敵の注意を正面より引く」

「了解だ」

ケリィは部隊の半数を連れて激戦の最中、連邦軍の側面へ転進していった。
その状況を確認したガトーは残りの部隊で正面より突撃を開始した。

「よし。ここがジオンの踏ん張りどころだ。ドズル閣下の、ジオンに恩報いる絶好の機会ぞ!各自の健闘を祈る」

この20分間の戦闘は連邦軍にとって正に修羅場と化した。前方より死兵と化した部隊が連邦の弾幕を恐れず立ち向かい、その姿に連邦軍は浮足だった。その絶好の機会でのケリィの別動隊の側面攻撃が連邦の先発のモビルスーツ大隊を戦線崩壊寸前まで追い込んだ。

ガトーがナギナタを振るい、次々と浮足立つジム・カスタムらを薙ぎ払い、連邦艦隊の艦艇ら目前まで部隊を進めることに成功した。

しかし、ガトーの後背より連邦のモビルスーツがライフルで牽制していた。

「!!・・・よくぞ、持ちこたえた。敵ながら天晴だな」

ガトーは連邦の艦艇の前で救援に来た連邦の先発隊が統制を取り戻し後退してきたことにガトーの強襲作戦はここまでと踏み、各自ソロモンへの補給のために帰投命令を出した。

ガトーは来た道をそのまま戻ることにしたがその前に牽制してきたジム・カスタムが立ち憚った。
ガトーは鬼気迫る勢いでジム・カスタムに叫びながら斬りかかった。

「邪魔だー!」

そのガトーの切り込みは凄まじかった。しかしそのジム・カスタムは紙一重で交わし、逆にサーベルでガトーのナギナタの持ち腕を切り取った。

「!!なんと・・・」

ガトーはその動きに驚きながらもその失った腕よりナギナタを奪い、そのジム・カスタムに再度斬りかかった。今度は慎重にだった。

「へえ~。やるじゃないの奴さん」

ガトーに応戦したのはスレッガーだった。
ガトーのナギナタ捌きは応戦すればするほどスレッガーに分が悪いことが本人でも自覚してきていた。
そのためスレッガーは接近戦を嫌い、バルカンとライフルでガトーの接近を避けながら戦った。

ガトーはスレッガーの受け流しながらの攻撃に苛立ちを覚えたが自身も部隊との孤立を恐れ、「どうやらここまでか・・・」と言い、ソロモンへ帰投していった。

スレッガーはその姿を見て敵の攻撃がひと段落したことに安堵した。

「ふう・・・かつてない猛攻だったな。お~い皆生きてるか。一度帰投するぜ」

スレッガーは残存部隊を集結させて補給と部隊の編制のため一時帰投していった。

この戦いでアナベル・ガトーは「ソロモンの悪夢」という異名で両軍共に畏怖されたが、本当の悪夢はこれからだった。


* ソロモン宙域 連邦軍 後方部隊 同日 11:30

ドズルの攻撃とティアンムの思惑により、連邦艦隊は正面を境に両翼へ分断していた。
その正面後方に無数の太陽光パネルを配置していた。

ソーラーシステム。

このパネル一つ一つは大した出力でないが沢山集まるとあらゆるものを融解させるほどの高熱を放射できる決戦兵器だった。

そのコントロールする制御艦にはジャミトフの腹心のバスク・オム中佐が艦長として鎮座していた。
バスクはジオンによる拷問により視覚障害を患い、ジオンを含めたスペースノイドを嫌悪していた。
そのためジオンを焼き払えると聞いたバスクはジャミトフへ希望を出し、それをジャミトフは了承した。

「ソーラーシステム出力臨界まであと30秒です」

オペレーターがバスクへ報告すると、バスクはニヤッと笑みを浮かべた。

「よし。これで積年の恨みを晴らせる。ジオンめ、このオレをこんな姿にしやがって。覚悟するがいい」

「臨界まで10秒です。・・・5・4・3・2・1・・・艦長、臨界です」

バスクは立ち上がって手を前に振るった。

「よし!ソロモンへ照射。味方に当てないように注意しながらジオンを焼き殺せ!」

そしてソーラーシステムがソロモンへ向けて放たれた。


* ティアンム本隊 旗艦内 艦橋 12:00

ティアンムは目の前の光景に唖然とした。
ソロモンの外にいたジオンが全て壊滅し、ソロモンの各ゲート、各砲台が焼かれて使用不能に陥っていた。

ティアンム艦隊もソロモンからの悲鳴が暗号通信でなく一般回線で傍受できていた。すべてが悲鳴だった。一般回線で拾えてしまうほどソロモンは混乱の極みにあった。

「・・・なんとも言い難い。これは戦闘とは言えん。ただの虐殺だ」

ティアンムが自分で選択しておきながら苦虫を潰したかのように言った。その意見に艦橋のクルー全てが同意した。そして副官がティアンムに進言した。

「とりあえずこれで決着でしょう。降伏勧告を出してソロモンを占拠しましょう」

「ああ・・・そうだな。向こうの指揮官へ通信を送れ。降伏を勧めると」

ティアンムは降伏をドズルへ勧めたがドズルはそれを拒絶した。

ドズルは残存兵力をまとめ上げ、無傷で残っていたビグザムに搭乗しティアンム本隊へ特攻を仕掛けてきた。通信によりドズル側にティアンムの位置が分かってしまったため、一縷の希望での出撃だった。

ティアンムはため息を付いた。もはや大勢は決していたが、ドズルの武人としての本懐を同じ武人として遂げさせてあげることが彼への手向けとなるだろうとティアンムは考えた。

そしてティアンムは全艦隊をドズルの突撃に対して縦深陣を組み、削りながら包囲していった。
ドズルの決死隊は次々と撃墜されていった。

その頃、ガトーは補給と部隊の再編でソロモンより出遅れていた。
ガトーは整備班に急がせた。

「えーい。ドズル閣下が玉砕覚悟で出ているのに我々はなんたる不始末」

ガトーはモニターを見ながらドズルの決死隊の奮闘ぶりに自分が加われなかったことに自責の念を感じていた。その直後モニターが白くなった。

「?・・・なんだ、モニターが壊れたのか・・・」

モニターの白さが解けて暗がりの宇宙に映像に変わったのは20秒後だった。そこに映し出されたのは敵味方含めた多くの残骸だった。

「何が・・・何が起きた・・・」

ガトーは茫然と立ち尽くしていた。


* ア・バオア・クー 近隣宙域 ソーラレイⅡ 同日 12:10


ギレンがソーラレイの管制室にて照射の結果の報告を聞き満足していた。
その傍にフル・フロンタルが立っていた。

ギレンはフロンタルにお礼を伝えた。

「フロンタルよ。キシリアの紹介だから警戒をしていたが、このソーラレイをここまで仕上げてくれるとは感謝の言葉がいくらあっても足りないな」

「いえ、総帥閣下が御満足いただけたということならば微力ながらお手伝いしたかいがあったというものです」

フロンタルは笑みを浮かべギレンに答えた。ギレンはソーラレイの連射ができないことに決戦兵器としての不十分さを感じていたがフロンタルの持ち寄った技術により、次の照射時間までのインターバルをわずか30分という短時間を可能にした。

「これでいくら連邦が大艦隊で押し寄せようともいとも容易く焼き払える。月の周囲よりこちら側が我がジオンの勢力圏となった。これで私の野望にも一歩近づいたということだな」

ギレンが含み笑いをしてご機嫌だった。フロンタルはその様子をギレンに語り掛けた。

「では、私はこれにて。ギレン総帥の大望を私も期待しております」

フロンタルは振り向き、艦橋を後にした。その姿をギレンは目で追った。

「ふん、キシリアの懐刀なのか。何とも得体の知れないやつだ。まあいい。首尾は上々なのだからな」

傍にいたトワニング准将がひとつ追加で報告をギレンに入れた。

「総帥。あの照射でドズル閣下のビグザムの信号も消失しました」

「・・・そうか。ドズルには悪いことをしたな。しかし、あれだけ敵を引き付けて一網打尽できたのだ。武人として本懐を遂げたのであろうよ」

ギレンはドズルについて少し哀悼の意をみせただけだった。トワニングは理解していた。
隙あれば排除しようと思っていた。ギレンはドズルに対してガルマ絡みで不信感を持っていた。

事実最近、ガルマとドズルの通信履歴を確認していた。
発射前にドズルの連邦艦隊への特攻確認がとれていた。しかしギレンは躊躇わず発射した。

ギレンは油断せず常々用心深く考えて動く。怪しいと思うもの、その対象は親族も含む。その冷徹さにトワニングは身震いをした。

その後ギレンはエギーユ・デラーズを呼びつけた。
1時間後、ソーラレイの管制室へデラーズがやってきた。

「お呼びでしょうか閣下」

「来たか。まず貴様にはソロモンへ行き残存兵力の取りまとめをしてもらいたい。1人でも多くの兵が今後も必要だからな。兵器などお金で簡単に用意はできるが人材はそうはいかん。このソーラレイで連邦に人的損失をもたらし、少し休んでもらうとしよう」

「はっ、かしこまりました」

「デラーズよ。少しその場で待て。面白いものを見せてやる」

ギレンがデラーズにそう言うと、デラーズは首を傾げ言われるがまま管制室へ残っていた。

2時間後通信士よりこのソロモンへ向かう艦隊発見の報が入った。
ワイアット艦隊だった。ルナツーを制圧したワイアット艦隊がティアンム艦隊の敗北を知り、確認のため艦隊をソロモンへ率い向かっていた。

ギレンは再び含み笑いをし、オペレーターへ質問した。

「次の照射はできるか?」

「問題ありません」

「よし、目標はソロモンへ向かう連邦艦隊だ」

そしてソーラレイはすぐワイアット艦隊へ照射され、艦隊の半数を消し去った。
幸いワイアットは難を逃れ、その場を急速離脱した。

ギレンがその報告を聞くと高らかに笑った。

「見たかデラーズよ。あの連邦の醜態を!」

「はい!今、ジオンの正義が奴らを貫き、屈服せしめました。しかし素晴らしい兵器ですな」

「そうだろう。この兵器が今後の戦況を左右する。ジオンと連邦の国力差を埋めるに絶好の機会だ。そのうちお前にも連邦を潰すために働いてもらうぞ」

「はっ、仰せのままに・・・」

「フッ、しかし今ではない。今までの戦いで我が軍も人材を失い過ぎた。我々も少々休むとしよう」

ギレンは少々はしゃぎ疲れたのか管制室の座っている席に腰を深く下ろし、モニター越しに宇宙を見つめていた。

・・・

アクシズへ向かうチベ級の艦艇の中でソロモンの戦闘の結果がユーリーよりゼナにもたらされた。
ユーリーがゼナの私室前へ一呼吸した。その後ノックをした。

ノックの音を聞いたゼナは抱いていたミネバをベビーベットに戻し、「どうぞ」とユーリーの入室を促した。

「失礼いたしますゼナ様・・・」

ゼナはユーリーの沈痛な表情に覚悟した。

「・・・ソロモンはどうなりました」

「はい、戦闘は終わりました。形としては勝ちました。しかし、特攻に向かったドズル閣下はギレン総帥の決戦兵器に巻き込まれる形で名誉の戦死を遂げられました・・・」

ゼナは悲鳴に近い叫びを上げて周りの調度品に当たり散らした。その取り乱した姿にユーリーはミネバのベビーベットへ急いで駆け寄り、ミネバを守った。

「・・・どうして!・・・何故貴方が死なねばならないの!・・・総帥は何故!あのひとを犠牲にしたの!」

ユーリーは答えられなかった。真偽が不明なためである。
そして失意のままゼナとミネバはアクシズへ向かった。

・・・


ソロモンの悪夢。


それはギレンの用意した決戦兵器ソーラレイⅡにより、連邦の宇宙艦隊のほぼ8割を損失した連邦にとって悪夢と言えるほどの絶望だった。

その損失は人的被害の方がより深刻であった。この被害の回復まで連邦はこれから2年間要することとなる。

ギレンのソーラレイの照射範囲は月の周囲までに及ぶ。
いくら大艦隊を率いて制圧に乗り出そうが辿り着く前に全滅が必至だった。

連邦はその兵器制圧のために少数でいくつも部隊を分けて攻略に今後乗り出そうとするが、それを凌駕するジオンの部隊により幾度も撃退されていった。
それにより連邦軍の戦力はさらに減退した。

連邦政府与党は戦争の継続を決定し、軍拡に努めた。それは民衆への負担である税の徴収を増やし、中間層並び貧困層の生活に直撃していた。

厭戦気分が高まる中、政府与党への反発も増えてきていた。そのため連邦政府は軍にその抑えとしてティターンズを結成し、反発する民衆を抑えるようにと組織した

しかし実態はティターンズによる反発する民衆の弾圧だった。人々はそれに恐怖し、中にはそれに対抗する者が出てきた。

政府野党内にも与党を牽制する上でエゥーゴという団体を結成。各地の民衆弾圧の動きの保護に密かに努めていた。

2勢力が直接関わり合うのは少し先の話になる。

UC0081.6月に連邦政府は第2次ビンソン計画を立案。2年間で最新鋭の艦艇を揃え宇宙艦隊の再建と志願兵と徴兵を行い、来るべきジオンとの決戦に備えるべく各地で兵士育成と新型兵器研究・生産が盛んになっていった。


* アメリカ ニューヤーク セントラルパーク内 UC0081.6.6 10:00


ガルマは式典を開いていた。ニューヤーク市のエッシェンバッハ氏ら保守派勢力との和解がガルマの懸命な努力の末達成され、それによりガルマの治める一帯の基地以外を民間へ戻した。それについての歓迎式典だった。

妻であるイセリナの功績も大きかった。彼女が社交界を通じ、有力者を説得し、および連邦政府にも交渉を促した。

ガルマは連邦へアメリカにおけるジオンの敗北を宣言し、政府間ルートを通じガルマ含むジオン兵にはお咎め一切なしということと、ガルマが持ちうるジオンの基地と生産拠点の独立維持の権利を獲得。全てが政治ならではの曖昧な決着で終わった。

その翌年2月にはガルマはニューヤーク周辺を基盤としにて選挙で連邦の議席を獲得し、ジオンのギレン総帥批判とスペースノイドの権利、地球に残る貧困層の救済を志し訴えた。

ここまでのガルマの思想と政治的、精神的な変化はシャアによる入念な説得によるものであった。並びランバ・ラルもそれを支持、補佐し、少数派ながらも人々から支持を得ていた。

ララァの願いでオーガスタに研究機関が設立された。ララァがシャアへ直接頼み込んできたため、意味あることなんだろうとシャアが思い、ガルマへ打診し決定され設立された。

オーガスタ研究所。ある医薬品会社の研究施設をそのまま買い取り、ララァの要求する機材等を揃え、そこでララァの望む研究が行われていた。

研究と言っても、空調システム等利用し、植物や動物など用意して一見サナトリウムのような環境でララァは日々過ごすという形であった。そして週に1度とある装置の中に入り脳波の測定を取る。そのデータをララァが確認しまたくつろぐとの繰り返しだった。

ある日シャアは様子を見にその場所へ訪れていた。
研究員も数人しかいなくその一人であるナナイ・ミゲルが若手ながらララァの世話をしていた。

「どうですかララァは?」

シャアがナナイにララァの様子を伺った。

「ええ、気楽に過ごしていますよ。あの装置の中でも今のところ変化が見られません」

「あの装置とは?」

「ええ、何かアナハイムより取り寄せたらしいですが<サイコフレーム>という代物でグラナダから流出してきた技術素材らしいです。何でも人の脳波・感応波を直接的に受け取りテレパシーなど扱える眉唾ものですが・・・」

「そうか。テレパシーねえ・・・ホントに眉唾物だな」

シャアはララァの行為に依然見たあのイメージからその再現を目指しているのかなと予測した。
ララァのサナトリウムにシャアが入ってくるところを見かけるとララァは周囲の戯れていた動物たちから離れシャアに近寄って行った。

シャアはその姿、立ち振る舞いを見てララァの事をもはや人ではないように感じ少し可笑しく思えた。

「・・・大佐。何か可笑しいですか?」

ララァがシャアの笑みに対して疑問思い、そのことについてシャアは謝罪した。

「いや、失礼した。ララァが物凄く神々しく見えてね。神なんてもの信じていないんだがな」

「あら、まあ・・・フフフ・・・」

ララァもシャアの返答に対して可笑しくて笑った。その後ララァは真顔になりシャアにサイコフレームの重要性を説いた。

「この研究は・・・来るべき時に必ずや役立つでしょう。そしてこれが世界を救う鍵にもなります」

そうララァがシャアに伝えた。シャアはそのララァの気迫に少したじろいだ。

・・・

そして、UC0083.3.1

トリントン基地にてビンソン計画の一端である兵士育成が行われていた。
ブレックス准将が拠点の司令官を務めていた。グレイファントム隊も准将の勧めと根回しにより、新兵の指導役として基地に入港していた。

そしてビンソン計画の一端として新型量産機導入のための試験機を搭載したアナハイムの新型新造船アルビオンが入港してからまた新たな局面を迎えることになる。




 
 

 
後書き
*ということでGPシリーズが出てまいりますので宜しくお願い致します。
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