クイラク
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第一章
クイラク
ウズベキスタンは中央アジアにある国だ、中央アジアはかつてシルクロードがあった地域でありこの国また然りだ。
そのせいか今も広大な砂漠に点在するオアシスの傍に街がありそこを商人達が行き来している。それはオムール=イザシャーンも同じである。
彼は弟子のカザル=ホムルズにだ、砂漠の中を歩きながら言った。二人は五頭の駱駝達の背に荷物を乗せている。
「何かこうしてな」
「こうしてとは」
「いや、砂漠を駱駝を連れて歩いてるとな」
黒い髭だらけの顔で言うのだった。服は砂漠の日光と砂で独特の傷みを見せている。
「昔と同じだな」
「ああ、車じゃないですから」
「そうだ、車はな」
「お師匠車動かせないですからね」
「ああ、そういうのはな」
どうにもとだ、まだ二十歳になったばかりの弟子に言うのだった。カザルは若々しい顔をしている。
「俺は出来ないしな」
「それに車は」
「砂漠だとな」
「動けないらしいですからね」
「だからこうしてな」
「今もですね」
「砂漠はやっぱり駱駝だ」
これで行き来するものだというのだ。
「これが一番だ」
「そういうことですね」
「それでだ」
「それで、ですか」
「次の街まで行ってだ」
「そしてですね」
「そこで売ってだ」
駱駝達の方を見た、彼等の背にある荷物を。
「全部売れたらな」
「それで、ですね」
「俺達の街に帰るか」
「そうしますか」
「全部売ればな」
それでというのだ。
「もう帰るぞ」
「そうされますか」
「そしてだ」
そのうえでとだ、また言ったのだった。
「次の街で土産でも買うか」
「お師匠の娘さんに」
「御前もだろ」
オムールは笑ってカザルに言葉を返した。彼の彫があり高い鼻を持っている顔を見ながら。
「今度結婚するんだろ」
「はい、親同士が決めてくれまして」
「それならな」
「俺もですか」
「ああ、何か買えばいい」
土産ものをというのだ。
「嫁さんに土産ものを買うのは義務だ」
「義務ですか」
「こうした仕事をしているとな。その義務を怠るとな」
その時のこともだ、オムールはカザルに話した。
「その嫁さんに逃げられるぞ」
「離婚ですか」
「寝ている時に離婚すると三回言われたとか言われてな」
ウズベキスタンもムスリムが多く二人もそうだ、イスラム教では妻に離婚すると三回言えばそれで離婚が成立するのだ。
「離婚させられるぞ」
「それ本当にあった話ですよね」
「ああ、しかもな」
「それを法学者が認めて」
「それで離婚になってな」
話はまだ続いた。
「一生面倒を見ないといけなくなった」
「そうですか」
イスラム教は離婚した女の面倒を一生みないといけないのだ、そうした意味で女性の権利が認められているのだ。
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