悠久のインダス
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7部分:第七章
第七章
「どういう話なんだよ、一体」
「ですから。生まれ変わりですので」
「それはわかってもだよ」
「何がおわかりになられないのですか?」
「何で仏教がヒンズー教の一派なんだよ」
彼が言うのはこのことだった。
「それって滅茶苦茶な話だぞ、おい」
「そうでしょうか」
「俺はそう思うけれどな」
「私はそうは思いませんが、特に」
「特にかよ」
「はい、全く」
まさにそうだというのである。
「何処かおかしいでしょうか」
「気付かないんだったらもういいよ」
彼も次第に諦めてきた。そうしてであった。
彼等はカレーを食べてからだ。今度は別の場所に向かった。聖地ベナレスにである。
そこに着いてだ。隼士はまた唖然となった。河を見てだ。
河は汚れていた。様々なものが流れてくる。ゴミもあれば他のものもだ。しかもその河の中でだ。人々はにこやかに沐浴しているのだ。
それを見てだ。彼はまた言った。
「これも話には聞いていたよ」
「左様ですか」
「けれどな。実際に見るとな」
「如何でしょうか」
「汚いだろ、この河」
こうガイドに話す。河を指差しながら。
「誰がどう見てもな」
「いえ、ここはこの世で最も清らかな河です」
「何処がなんだよ」
「この世のあらゆる穢れを洗い流す河です」
「あんなにゴミが流れてるのにかよ」
「そうです。それがこの河です」
ガイドはここでも落ち着いて話す。
「そうなのですが」
「それもヒンズー教の教えかよ」
「その通りです。それでどうでしょうか」
「どうでしょうかって。何がだよ」
「貴方も沐浴されますか?」
温厚そのものの言葉でだ。隼士に尋ねるのだった。
「この河で」
「本気で言ってんだよな、それは」
「はい、本気です」
まさにその通りだというのだ。
「私はこれからそうさせてもらいますが」
「いいよ、俺は」
きっぱりと断った。完全な否定の言葉だった。
「別にさ」
「左様ですか」
「ああ。ガイドさんだけで行ってきたらいいよ」
「わかりました。それでは」
ガイドはだ。隼士にそう言われてだ。すぐに服を脱ぎだした。そうしてそのうえでだ。実際に河で沐浴をしてきた。そうして彼のところに戻ってきてだ。満足した顔で話すのだった。
「実は今までここで沐浴したことはなかったのです」
「そうだったのかよ」
「はい、ですから」
「満足したんだな」
「願いが適いました」
その満足した顔での言葉である。
「いや、よかったです」
「ガイドさんが満足してるんならいいけれどな」
「あらゆる穢れが洗い落とされた気持ちです」
「そうか?」
隼士はガイドの今の言葉には甚だ懐疑的だった。ガイドはもう身体を拭き服を着ている。しかしなのだった。
匂いがした。それがどうしても気になる。それで彼は言うのだった。
「匂いがするんだけれどな」
「匂いですか」
「ああ、河の匂いだよ」
何とも言えない匂いであった。
「その匂い、酷いな」
「そうでしょうか」
「そうだよ。まあガイドさんが満足してるんならいいけれどな」
「はい、とても満たされています」
「だったらいいよ」
また言う彼だった。
「それじゃあな」
「次はですね」
「何処に行くんだ?」
「街を歩きましょうか」
そのベナレスの街をだというのだ。
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