魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
105話:機動六課防衛戦線(中編2)
前書き
久しぶりの更新です。また一カ月以上かかってしまい、ほんとすいません……
迫りくる殺気に、すぐさま銃を構えた。
瞬間的に懐に入った三色の戦士―――オーズ・タトバコンボは、腕で銃を退かしつつ拳を繰り出す。
鈍い音と共に後退するディエンド。そこへ追い討ちをかけるように緑の戦士―――オーズ・ガタキリバコンボが襲い掛かる。
タトバの肩に手を置き、それを支えにタトバを飛び越え蹴りを繰り出す。が、ディエンドはその蹴りを弾き、自ら距離を取る。
〈 ATACK RIDE・BLAST 〉
ディエンドはそこでアタックライドを発動。シアン色の無数の弾丸が、二人のオーズに襲い掛かる。
爆炎に包まれるタトバとガタキリバ。しかし二人は自らの脚部―――“バッタレッグ”の能力を発動。驚異的な跳躍力を利用し、爆炎の中から飛び出した。
「くッ…!」
〈 WEAPON RIDE・IBUKI --- REPPU 〉
〈 WEAPON RIDE・BIRTH --- BIRTH BASTARD 〉
飛び出した二人がそれぞれ爪と双剣を構えるのに対し、ディエンドは二枚のカードをバックルへ通し二つの武器を手に取った。
トランペットを模した金色の拳銃―――“音撃管 烈風”、特殊な形をした携帯型火器―――“バースバスター”。その二種類の銃を向け、引き金を引いた。
圧縮された空気弾とメダル状の弾丸が飛び交う。そんな中をタトバはライドブッカーで防ぎながら進み、ガタキリバは跳躍によって避けディエンドへ襲い掛かる。
落ちながら振り下ろしてくるガタキリバの攻撃を二つの銃で逸らし、蹴りを腹部へ。未だ空中にいたガタキリバは体勢を崩し、地面に叩き落とされる。
「この…ッ!」
「だあああぁぁぁぁぁ!!」
二つの銃口をガタキリバに向けるディエンド、それを阻止しようとタトバは剣を構え走り出す。しかしディエンドは右手に持つバースバスターをタトバへ向けた。
思わず足を止めるタトバ、そこへ放たれたメダル状の弾丸。タトバの体から火花が散り、タトバの体は吹き飛ばされる。
「はぁぁッ!」
「ぐぅ…!」
そこへ立ち上がったガタキリバが再びディエンドへ。双剣によってディエンドの装甲は切り裂かれ、火花が散った。
よろよろと後退するディエンド。ガタキリバは更に蹴りと剣の攻撃を仕掛け、追い打ちをかける。ディエンドは全てを避けようとするも、数回攻撃を受けてしまう。
傷つけられたディエンドは、後ずさりながら距離を取る。その隙にガタキリバとタトバが並び合うように立った。
「くッ……やはり、やるな…」
「二丁拳銃とは…やり難いな」
「だけど、戦えないことはない」
それぞれが体勢を立て直し、武器を構える。どうやらディエンドとタトバ、ガタキリバの戦いは互角のようだ。
うって変って、他の戦況はというと……
「シャマルさん、大丈夫か?」
「え、えぇ……」
膝をついていた彼女に手を差し伸べるのは、青色の戦士―――オーズ・シャウタコンボ。
彼は戦いが始まってすぐにシャマルの下へやってきていた。
「っていうか、士くんそれ―――」
「はい、結構無茶してます」
シャマルは彼の現状を聞こうとするも、それを察した士は彼女の言葉にかぶせるように答えた。
以前士の能力について一同に話された際、『人の常識を超えるようなものほど、その対価は大きい』と説明されたのを、シャマルは憶えていた。
それが本当なら、こんな50もの分身を作りしかもこんなことまでやったとなると、彼の体は……
「とにかく、今はほとんど防衛。シャマルさんは今まで通り隊舎の方を、ガジェットは俺らでなんとかします」
「で、でも……!」
「大丈夫、無茶してますけど、これぐらいなら何ともないですから」
仮面の奥で笑ったのだろう、そんな雰囲気が感じられる声色だった。これにはシャマルも少し驚くが、すぐに反論に移ろうと……
瞬間、目の前のシャウタがいきなり腕を振り、鞭を突き出した。電気を帯びた鞭はシャマルの横を通り―――その奥のガジェットに巻き付いた。
流石に驚き振り返るシャマル。シャウタはそんな彼女を他所に捕まえたガジェットを振り回し、別のガジェットと衝突させ爆破させた。
「それじゃあ、ここお願いします!」
「あ、ちょっと……!」
シャマルはシャウタを引き止めようとしたが、彼の耳には入らなかったようだ。そのまま走って、ガジェットの群れへと向かって行ってしまった。
一斉に放たれるレーザー、その全てはガジェットから放たれた物だ。
それらはまっすぐに六課隊舎へと向かっていたが、結果隊舎に当たることはなかった。
阻んだのは、茶色の壁。少し透けて見えるそれは、まさしく亀の甲羅を模していた。
もうお分かりだろう、この壁を生み出したのは隊舎の前に立つ茶色の戦士―――オーズ・ブラカワニだ。
彼は両腕にある、亀の甲羅を模した盾―――“ゴウラガードナー”に魔力を通わせ、合わせることでこの障壁を生み出しているのだ。
これは本来のオーズにはない能力―――士が変身するディケイドにのみ発現する能力だ。
普通の人間が持つ筈のない“リンカーコア”というものを体内に持ち、その魔力を己が武器に纏わせたり、通わせることでその能力を強化することが、士には可能なのだ。
以前空港火災において、鎮火時に“仮面ライダーウィザード”となり行ったことと原理的には同じものだ。
ただこの能力にも欠点がある。それはライダーによって魔力との“適合率”―――つまり相性の良し悪しが存在するという事。
しかし今回使っているオーズは、多種多様な能力を保有する所為か、魔力との適合率がよく、特にコンボとなるとその比率は高くなる。
ブラカワニで言えば、魔力を付加することで巨大な障壁を作り上げることができるし―――
「トリス、並列複数展開!」
〈了解!〉
今のようにサイズを少し小さくし、障壁を複数展開し広範囲にわたる攻撃を防ぐことも可能となる。
また、現在空中でガジェットⅡ型を殲滅している赤き鳥―――オーズ・タジャドルで言えば……
「はぁぁぁ―――はあああッ!」
左腕に装備された武器―――タジャスピナーに魔力を通わすことで、自らの周りに複数の火球を作り出し、打ち出すことができる。
「だぁぁあああああッ!」
地上で鞭を振るうシャウタは、その電気を纏った鞭―――“電気ウナギウィップ”の帯電量が跳ね上がり、鞭に触れさせずともガジェットを機能停止(ショート)させることが可能となっていた。
隊舎の守りはブラカワニが、ガジェットⅠ型・Ⅱ型はタジャドルとシャウタが制し、スカリエッティの木偶人形(おもちゃ)の数はみるみるうちに激減していくのだった。
一方、先程まで攻めに転じていた戦闘機人の二人―――オットーとディードはと言うと、
「はぁぁぁぁぁ!」
「くっ…なん、だ、これは…ッ!」
灰色の波動を受け、混乱するオットー。無理もない、彼が受けている現象はまさに、常識を超えた現象なのだから。
灰色の戦士―――オーズ・サゴーゾの、ゴリラのようなドラミングに呼応するように放たれる波動を受けたガジェットは、不自然な行動をしていた。
左右へ揺れ、上下に動き、更にはどこかを軸に回転するかのような動きをする。
そんな動きにつられながら、時々感じる浮遊感や重圧の中、オットーはある一つの答えを導きだし―――混乱していた。そんな事あり得ないと。
(“重力”を操作するなんて…ッ!)
そう、サゴーゾの持つ特殊能力は―――“重力操作”である。
胸を叩くことで放たれる波動の範囲内にいる物の重力を、自在に操ることができるのだ。
サゴーゾの意のままに動かされるオットー、自らの能力すらまともに使用することができず、さらには目の前の現象があまりに非現実的なものだからか、しっかりとした思考ができずにいた。
「―――IS・“ツインブレイズ”…!」
そんな同胞(なかま)の危機を見てか、瞬間加速でサゴーゾの背後を取ろうとするもう一人の戦闘機人―――ディード。
しかしそんな加速の中、彼女と並走するかのようなスピードで迫り、黄色い爪を振るってくるものがいた。
ディードは反射的にその爪を、自らの双剣で防ぐ。瞬間ディードは強い衝撃によって弾かれ、瞬間加速の世界から無理矢理引きずり出された。
「いい反応だ―――だが、まだ遅いな」
片膝をつき剣で体を支えるディードに対し、爪を見せながらそう言うのは、黄色の戦士―――オーズ・ラトラーター。
彼はその圧倒的な加速力を行使し、見事ディードと同じ瞬間加速の世界に―――いや、音速にも及ぶ世界に入ったのだ。
「さぁ、お前の相手は俺だ……勝手に“逃げる”なよ?」
「……ッ!」
このように、二人の戦闘機人には、サゴーゾとラトラーターが相手取り、その行動を制限していた。
「ハッ!」
「フンッ!」
タトバの突きを銃でいなし、さらに銃身で相手の顔面を殴りつけようと腕を振るう。
これをタトバはしゃがんで避け、その奥から飛び蹴りを放ってくるガタキリバ。彼の蹴りは少し突き出したディエンドの胸部に見事に命中。ディエンドは後ずさりする。
追い討ちを掛けようと、オーズの二人は爪と鎌を構え、ディエンドへと突撃する―――が、
「ッ…!」
「ぐッ…!?」
「がはッ…!」
二人の攻撃は見事に空を切り、代わりに二人の腹部と背中に衝撃が走った。
すぐに体勢を立て直し、振り返る二人。そこには先程蹴りが命中した胸部を片手で押さえているディエンドの姿があった。
「今のは…!」
「ディエンドの加速か!」
どうやら彼が変身するディエンドは、少しの間なら目にも止まらぬ速さで動けるようだ。その動きに付いて来れなかった二人に、ディエンドは攻撃を加えた、そんなところだろう。
先程までディエンドが使っていた二丁の銃は既になく、彼は自らの武器を構える。
が、流石に慣れてきたのか、飛来してくる弾丸をそれぞれが防ぎながらディエンドに迫る。
それを見たディエンド、小さく舌打ちをすると新たにカードを取り出し、バックル部分に通す。
〈 WEAPON RIDE・ACCEL --- ENGINE BLADE 〉
カードは光となり形を形成、ガラスのように割れると、白を基調とした刀身を持つ剣―――“エンジンブレード”となる。
轟音を立てて振るわれる剣。それをタトバは飛び込むように剣の軌道の下を転がり、ガタキリバは両手の鎌を構え防ぐ。
重い一撃に思わず「ぐッ…!」と声を上げる。当然だ、推定20kg程ある剣が自分を襲っているのだから。
しかしその攻撃をなんとかいなし、ダメージを受けずにすんだガタキリバ。だがそこにディエンドの銃口が向けられ、弾丸が胸部を撃つ。
その隙を狙ってタトバが剣を振るう。だがディエンドもそれにすぐに対処、エンジンブレードでタトバからの攻撃を防ぐ。
「お前…なんでスカリエッティに従っている!」
「………」
声を大にして叫ぶ士。しかし彼の言葉に、ディエンドは―――エクストラは何も答えなかった。
その代わりに、というつもりなのか、ディエンドは銃をタトバの懐に向ける。それに対しタトバは即座に手首を捻り、持ち手を当てて無理矢理銃口の向きを変えた。
引き金が引かれ、射出される銃弾。それらはタトバの脇腹をギリギリで掠めて、しかしそれ止まりで何もない空間を穿つ。
互いに距離を取る為、己の得物に力を籠め互いをはじき出す。弾かれた二人は、地面を削りながら武器を構えなおす。その背後から襲い掛かろうとしていたガタキリバを銃で制し、三人は足を止めた。
「…お前はその力を得て、何を思った?」
「……?」
「全てを救えると思ったか? 助けを求めてくる、その全てを」
“彼ら”のように、救世主にでもなれるとでも? 口を開くディエンド、その一言一言が二人の心に突き刺さっていた。
確かにあの時―――ディケイドの力を得られると知った瞬間、どれだけ喜んだことか。“彼ら”のような活躍ができるんだと、戦えるんだと……救えるのだと。
「―――だが、そんなの結局妄想だよ」
「「ッ!」」
「全てを、世界を救えていたのは、“彼ら”がフィクションだったからだろう? 現実(リアル)で全てを救おうなんて、できる訳がない」
救えたのは“彼ら”が主人公だからだろう? ハッピーエンドで終わらないと、話にならないだろう?
ディエンドの言葉に、二人は思わず武器を下ろしてしまう。対しディエンドも少し武器を下ろしつつ、更に続ける。
「力を得られたからと言って、救える訳ではない。ましてやここは現実(リアル)だ、奇跡は起きない」
「「………」」
「結局は僕達の力は紛い物なんだ。決して人を救える力じゃない…」
「―――それでもお前は、全てを救おうと思っているのかッ…!」
声を荒げて叫ぶ。怒声にも近いその言葉に二人は……
「―――フフ…」
「…ッ?」
「「ハハハハハッ!」」
―――笑いをこぼした。
「何が可笑しい。気でも可笑しくなったか?」
「いやぁ、改めて言われるとそうだよな~って思ってさ」
彼らの様子に思わずムッとするディエンドは言うが、タトバは仮面を抑えながら笑いを堪える。
だってそうだろ? お前の言う通り、“彼ら”はあくまでフィクションだ。結末がハッピーエンドになるのは、人々が“そう望んだ”からだろ?
「俺だって望んださ、全てを救ってのハッピーエンドを」
「ただ、やっぱり“彼ら”のようにはいかなかった。当然だよな、俺は“彼ら”じゃないんだから」
プレシア・テスタロッサ、リインフォース。彼女らの、幸せであった筈の未来。他にも、救えなかった命は、幸多き筈の未来は多くある。でも救えなかった、それは多分俺自身が“弱い”から。
だけど、じゃあ“彼ら”と同じような強さがあったら救えたか、と問われれば―――YesともNoとも言えない。
確かに力があれば救えた命もあろう。
だけど俺は―――“彼ら”ではない。
“門寺 士”という一人の人間なのだから。
「俺には“彼ら”のような力のない、確固たる決意も、それを与えてくれる過去も。
―――だけど、こんな俺にだって救えるもんがある。“彼ら”から借りてるようなこの力でも、助けられる命が確かにあるんだ。だったら救えなかった命も未来も、その思いも全部背負い込んで……その分戦って、救えるもんを救っていくしか…守れるもんを守っていくしかないだろ」
それが救えなかった俺の負うべき責任で、俺がするべき事だ。
まっすぐに、ディエンドを―――その奥にあるエクストラの瞳(め)を見つめながら言った言葉。それは彼が経験してきたこと全てをつぎ込んで、導き出した……士の“力を持つ者”としての答えだった。
「俺はこの力で、戦うことしかできない。戦うことでしか守れない、救えないんだ。不格好だろうと何だろうと、戦って前に進むしかないんだ」
「………」
士の言葉に、押し黙るエクストラ。
しばらくの沈黙の後、士はある変化に気がつく。
―――ディエンドの、エクストラの手が…震えていた。
「―――だったら…」
「……?」
「だったら、なんで……」
「なんで俺を―――助けてくれなかったんだ…ッ!」
「―――ッ!」
震え交じりに放たれた言葉、その言葉で士の中にあった考えが、確実なものとなる。
「やっぱり、お前はッ…」
「―――黙れッ!!」
士の言葉を遮るように、ディエンドは引き金を引く。咄嗟に剣を盾に、飛んでくる弾丸を防ぐ。
ディエンドが銃を撃つ隙を狙い、ガタキリバが背後から狙う。だがやはりというべきか、ディエンドは銃と剣を用いてガタキリバの攻撃を防ぎ、逆にダメージを与える。
そしてガタキリバの腕を掴み、肩へ―――一本背負いで、ガタキリバをタトバの下まで投げ飛ばした。
「ぐ…ッ」
地面に転がるガタキリバ。ディエンドは牽制すべく、二人に銃口を向ける。
ゆっくり立ち上がると、少し構えるガタキリバ。しかしその横に立つタトバは、剣を構えることなく口を開いた。
「……やっぱりお前は、俺と同じ…」
「………」
―――“転生者”なのか?
その言葉に、エクストラは息を飲む。その雰囲気を感じ取り、やはりと苦い顔をする士。
以前言っていた、自分と“同じ”という言葉。あれは自分と士が、同じ“転生者”なんだということを示していたのだろう。
「……あぁそうだ、僕は“転生者”だ。お前とは違う形の」
「違う形…?」
「僕は意識体で転生し、この体に宿った。望んでもいないのに、な」
気づいたときにはそこにいた。自分が作られた存在だということは、すぐにわかった。ショッカーの実験で作られたことも。
そして自分の足で立ったとき、このディエンドライバーも渡された。
「歓喜したさ、彼らの力を得られたのだから。これを使えば、ショッカーから逃れられるんじゃないかとも思った」
だが、そう簡単にうまくいく訳がなかった。
相手は世界を、次元世界全てを股にかけ、それらを自らの手の内に収めようとする連中だ。自分一人では、何もできなかった。
始めは嫌だったさ、何せ“彼ら”の力がショッカーに利用されているようなものなのだから。でもどうすることもできなかった、相手が強すぎたんだ。
「そんな時、お前の存在を知った。お前を倒す為に、この存在(からだ)が作られていたことも」
心底願ったよ、いつかお前が僕の下に来てくれることを。お前が全てを救ってくれる、救世主(ヒーロー)であることを。
けどやっぱり無駄だった。何度願ったところで、何も変わらなかった。何一つ、変化がなかった。
「…だから従うというのか、あんな奴らの―――世界を支配するという目的に!」
「他に方法があるというのか!? あの強大な力を前に、一人ではどうすることもできない! 何も変わらない! 僕はそのことに…気づいたんだ…ッ!」
仮面の奥から、ギリッと音が聞こえる。二つの武器を握る両手は、強く…固く握られていた。
そんな様子から、心の内が見て取れる。余程の苦汁を、飲まされてきていたのだろう。
「世界は残酷だ、何処かの誰かが苦しんでいようと誰もそんな事は気に留めない! それは正しい世界と言えるのか!? 奴らの作る世界が、それよりもマシな世界なら……僕はそのために戦う!」
「奴らの作った世界に、人としての幸せがあるとは思えない! 人が人として生き、時にいがみ合っても、時に争い合っても……夢があって、笑顔があふれる世界―――それが本当により良い世界なんじゃないのか!?」
奴らの作る世界が、そんな世界だとは思えない!
相容れない二人の理想、そのどちらも確かに間違ってはいない。エクストラの言う主張はあながち間違いではないし、士の言う主張も世界の究極の在り方と言えよう。
しかし、両者ともに短所と言える部分がある。
エクストラの主張で言えば、支配の上で成り立つ世界が本当に正しいのか否か。また士の主張は、その理想の実現がほぼ不可能であろうことが言える。
「……やはり、お前の考えを受け入れるのは、難しそうだ」
「だがエクストラ、お前は…!」
「黙れッ! もはやこれ以上の問答は不要だ、どちらの理想が正しいのか―――決めるのは、自分自身の力と、信念だけだッ!」
タトバの言葉を遮り、ディエンドは一枚のカードを取り出す。それは金色に輝く彼の紋章。それは決着を付ける為の合図。
「僕はお前を打ち倒し、世界を変える! お前はどうする!? この僕を―――殺してでも払いのけて、この世界を救う覚悟があるか!?」
「……あぁ、あるさ…」
ディエンドの質問に、静かに答える。と同時に、二人のオーズはそれぞれカードを取り出す。自分達(オーズ)の紋章が描かれたカードを。
「お前を―――お前達を“救って”、この世界を守る覚悟がな」
「ッ…なん…ッ!?」
しかし返された返答は、エクストラにとって予期していなかったものだった。
当然だろう、死ぬまで止まらないつもりでいたエクストラに対し、士は“倒す”や“殺す”ではなく―――彼を“救う”と行ったのだから。
「救う…? は、ははは…バカな、それで僕が止まるとでも―――」
「止めるんじゃない。お前が言ったんじゃないか、『心底願ったよ、お前が僕の下に来てくれることを』ってさ」
「なにを、言って……」
「お前本当は、誰かにこんな状況から助け出して欲しかったんじゃないのか? 自分が憧れた力が、悪の手の平で操られるのを、見たくなかったんじゃないのか?」
―――うる、さい…
「世界を壊そうとする敵と、本当は自分の力で戦いたかったんじゃないのか?」
―――黙れ…!
「自分の力を、誰かを守る為に使いたかったんじゃないのか!?」
「黙れえええぇぇぇぇぇッ!!」
〈 FINAL ATTACK RIDE 〉
士の言葉にエクストラが返したのは、今までにない程の怒号。
それと同時に、先程取り出したカードをディエンドライバーへと装填する。
「僕は変えるんだ、この世界をッ! 今の残酷な世界から、新たな世界へ! その邪魔をするというのなら……お前を、倒すッ!」
〈 de de de D-END !! 〉
「……あぁそうさ、この世界は残酷だよ。それは確かだ」
「でもそんな世界の中でも、人々は必死に夢を追いかけ、生きてるんだよ。てめぇ一人で出した独りよがりの答えが、何もかも正しい訳じゃないだろうが…」
〈〈 FINAL ATACK RIDE 〉〉
エクストラの怒りに呼応するかのように、ディエンドライバーの銃口の先に光が灯る。それを中心に、ホログラム状のカードがグルグルと円を描く。
対しタトバとガタキリバは、それぞれ取り出したカードを、バックルへと装填。ほぼ同時に同じ音声が鳴り、待機音が鳴り響く。
「はぁぁぁぁぁ……ッ!」
「「まずはその、世界に対する憎悪を―――破壊するッ!」」
〈 o o o OOO !! 〉
「「はッ!」」
砲撃を撃つ準備を進めるディエンド。バックルを回転させカードを発動した二人は、強化されたその跳躍力で、空高く飛び上る。
飛び上った二人の前に、赤・黄・緑のリングと、三つの緑のリングが現れる。その先に見えるのは、銃を構え今まさしく引き金を引こうとしている、ディエンド。
「食らえ、“ディメンションシュート”!」
〈 Dimension shoot !! 〉
〈 Tatoba kick ! 〉〈 Gatakiriba kick ! 〉
「たあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「セイヤァァァァァァ!!」
衝突する三人の必殺技、その衝撃は戦闘をしていた他の面子にも伝わる程だった。
撃ち抜こうとする砲撃と、打ち砕こうとする蹴り。一見すると、均衡しているようにも見えるそれらも、遂にはその均衡が崩れることになった。
―――砲撃が押し負ける、という形で。
「なッ、バカな!?」
「「はぁぁぁぁ、セイヤァァァァァ!!」」
タトバとガタキリバの蹴りはディエンドの砲撃を打ち破り、ディエンドライバーの銃口に命中する―――直前で、衝突するエネルギーが暴発し、三人を爆炎で包み込んだ。
「―――ぐはぁッ!」
「グッ…!」
「いでッ!」
爆発によって弾かれた三人。しかしその身に受けたダメージは、ディエンドの方が大きいようだ。爆発地点より大きく飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていく。
飛ばされはしたがすぐに起き上がったタトバは、ディエンドの方へ視線を向ける。変身は解けていないようだが、余程のダメージがあるのだろう。すぐには立ち上がれそうにない。
そんな彼を見て士は、「エクストラ…」と彼の名を呼びながら近づく。
そして手を差し伸べ、彼に声を掛けようと―――
―――ゾワリッ…
「ッ…!?」
背筋を凍らせるような、冷たい視線を感じ、タトバはバッと顔を上げた。
視線を感じた、その先には―――あの灰色のオーロラが、そびえ立っていた。
「なん、で…!?」
予想だにしていなかった状況。思わず言葉を漏らす士だったが、次の瞬間そのオーロラから飛び出したものを見て、更に驚愕することとなる。
「―――ザフィーラ!!」
そう、六課が襲撃されると分かった時点で、士がヴィヴィオを守る為に一緒に行かせた“盾の守護獣”―――ザフィーラが、オーロラから飛び出してきたのだ。
それを見たガタキリバが、自慢の跳躍力で飛び出し空中で受け止める。人型であった彼の体は、既に血まみれだった。
「おい、しっかりしろよザフィーラ! 何があった!?」
着地したガタキリバは、脈があることを確認した後叫ぶように声をかける。
しかし、否やはりというべきか。彼からの返答はなく、出血の量からして危機的状況にあることは間違いない。
誰がこんな事を…。そんな疑問を覚えるが、その答えはすぐにわかった。灰色のオーロラに、何者かの影が映ったのだ。
すぐさま構えるタトバ。ガタキリバは急いでシャマルを呼びつつ、視線だけはオーロラへと向け、敵の姿を確認しようとする。
コツ…コツ…と響く足音が、オーロラの奥から聞こえる。その音に、更に警戒心を強める士。他の場所で戦闘をしていたオーズも、意識をそちらに向ける。
そして、オーロラの奥からその人物が現れる。
「―――え…?」
視認したタトバ―――士は、思わず声を漏らした。しかし、これは至極当然の反応だろう。
―――何故なら、
現れた人物は、小脇にブロンド髪の少女―――ヴィヴィオを抱えており……
―――その姿はまさしく、
―――自分自身(ディケイド)であったのだから…
後書き
てな訳で、中編終了です(笑)
次回から後編、新たに現れたディケイド(?)と戦います。結果は……お楽しみに。
次は多分、デジモンの方を投稿すると思います。
二ヵ月も放置してますし、丁度Chapter2の終わりですから。
そんなこんなで、また次回。お楽しみに~
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