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野獣

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13部分:第十三章


第十三章

「どうも匂いますね」
 色が違う部分を叩く。音が異なっていた。
「よく調べてみましょう」
 その周りも調べてみた。するとやはりあった。
 何とそこが外れたのだ。そして中から階段が現われた。
「行きますか?」
 医者は僕達の顔を見て尋ねた。
「当然です」
 ここまできてそれを断る者もいない。僕達は意を決した。
 階段を降りて行く。その後ろに警官達が続く。
 全て降りた。そこは鉄の扉であった。
「いけますか?」
 僕は医者に顔を向けた。
「任せて下さい」
 彼はそう言うとその前に行った。そして鍵の前で作業をはじめた。
 すぐに開いた。そして僕達はその扉をゆっくりと開けた。中から炎の光が見えてきた。
 ゴクリ
 喉が鳴った。僕達は扉の中に入った。
 そこは何かの祭壇であった。炎で部屋中が照らされ部屋の中央にその漆黒の祭壇がある。
 その中心に巨大な木像が置かれていた。
「これは・・・・・・」
 それは巨大な豹の像であった。いや、違った。
「ムングワですね」
 館員がそれを見て言った。そうだった。確かにそれはムングワだった。
「間違いないですね」
 ガイドもその像を見て言った。
「けれど何故こんなところに」
「それは決まっているわ」
 そこで女の声がした。
「まさか・・・・・・」
 僕達はその声がした方を振り向いた。そこにあの女がいた。
 彼女だけではなかった。あの老人もいた。全身に無数の傷を負っている。
「その傷は・・・・・・」
 僕はその傷に見覚えがあった。あの時の散弾銃の傷だ。
「そうよ、あの時の傷よ」
 彼女は僕に対して答えた。
「祖父をよくも傷つけてくれたわね」
「祖父・・・・・・」
 僕は彼女の怒りに震える声を聞いて眉を顰めさせた。
「そうよ、祖父はムングワに姿を変えることができるのよ。偉大なる我等が神に」
「神・・・・・・」
 一種のシャーマニズムであろうか。にわかには信じられなかった。
「我々は古くよりサバンナで生きてきた。偉大なるムングワの庇護の下」
 どうやらムングワというのは彼等の神のようだ。話からすると彼等は元々はサバンナで暮らしていた部族だったのであろう。
「しかしそれはあの愚か者達により壊された」
「愚か者!?」
 僕はどうせ白人とでも言い出すのだろうと思った。だが違った。
「あの隣の部族の者達が我等が住処を奪ったのだ」
 部族同士の抗争のようだ。これもよくある話だ。アフリカは多くの部族が分かれて暮らしている。中には今だに激しい抗争を繰り返している部族もある。
「我等のとる方法は一つ、血には血で清めるだけ」
「それがタンザニアで昔起こった事件か」
「そうだ」
 これであの時の事件の謎が解けた。彼等は復讐を行なっていたのだ。
「ええ、ここにもないかな」
 ガイドも館員も化粧鏡や服を調べている。だが結局何も見つからない。
「ベッドには結局何もないな」
 懐中電灯を使って調べたが結局何も見つからなかった。今度はその下を調べた。
「ここにもないかな」
 僕はその下にも光を当てた。やはり何もなかった。かに見えた。
「ん!?」
 少し色が違う部分があった。
「床の色が違うのか?」
 僕は最初はそれを単に貼りかえるありしたものだと思った。だが違うようだ。
 ベッドをどかしてよく見ることにした。すると四角くその部分だけ色が異なっていた。
「どう思いますか?」
 僕は他の三人をその場に集めて問うた。
「そうですね」
 医者はその部分を手でコンコンと叩いていた。
「だが一つ聞きたい」
 僕は問うた。
「何故貴様等はここにいる?貴様等の故郷はサバンナではないのか」
「知れたこと。ここにも仇がいたのだ」
「こんなところにも!?」
「そうだ、奴隷として売られる筈であった者達がな」
「奴隷・・・・・・」
 それを聞いてガイドも医者も館員も顔色を暗くさせた。
 かってアフリカ西海岸は黄金海岸と呼ばれていた。それは何故か。奴隷貿易で潤っていたからである。
 アフリカは長い間奴隷の供給地であった。多くの黒人達が奴隷として集められ売られた。アフリカ系アメリカ人達もその祖先は奴隷であった。彼等の多くは抗争により敗れ勝者に売られた者達だ。アフリカは決して一つの血で支配されていたわけではなかった。
「だが彼等に罪はないだろうに」
「そうだ、彼等が君達に何をしたというのだ!?」
 僕達は反論した。幾ら何でも奴隷としてここまで連れて来られていた者達の子孫に罪があるとは思えない。
「それは貴方達にはわからないことだ」
 彼女は言った。
「血の報復は永遠に続くものなのだ」
「血の報復か」
 僕はそうした考えはあまり好きではない。あからあえて皮肉を言うことにした。
「では何故僕達を襲った」
 最初の襲撃のことを問い詰めた。
「それは決まっている」
 彼女は落ち着いて言い返した。
「私達のことを嗅ぎ回っていたからだ」
「確かに」
 僕もムングワに興味をもちここまで来た。それを否定するつもりはない。
「復讐を完全に終わらせる為に。邪魔立ては許さん」
「・・・・・・そうか」
 ここまでくると最早狂気である。どうやら殺戮そのものを目的とするカルト教団ではなかったが考えようによってはそれよりも性質が悪いかも知れない。
「そして偉大なるムングワに傷をつけたその罪は重い」
「襲われて反撃するのは当然だと思うが」
「ムングワの手により死ぬ。この上ない名誉だとは思わないのか」
「全く」
 正直狂ってると思った。そんなもの有り難いと思う人間がいるのだろうか。
 
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