大切な一つのもの
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36部分:第三十六章
第三十六章
「それでそれが手に入るのですか」
「そう」
美女はまた述べます。
「それだけで。いいわね」
「ええ」
何が何なのかわからないまま頷きました。
「それでは」
「そうよ。目を閉じるの」
言われるがまま目を閉じます。すると。
目を閉じた彼の唇に何かが触れました。それは美女の唇でした。
「え・・・・・・」
騎士は驚いて目を開きます。美女はその潤った目を閉じて騎士の唇に己の唇を重ね合わせていました。それと共に彼の首に両腕を巻きつけていました。
「これは一体」
「これこそこの世で最も貴いもの」
騎士から唇を離しました。そうして言うのでした。
「これが」
「これはまさか」
騎士は今まで触れていた美女の唇の感触を確かめていました。それと共に心の中に湧き上がってくる感情が何なのか確かめていたのです。
「わかるわ。すぐに」
美女はまた言います。
「さあ、聖杯の騎士よ」
「はい」
「私は今からある場所に向かいます」
騎士から離れて告げます。それと共に何処かに導くように告げるのでした。
「そこが何処か。貴方はわかる筈です」
「はい」
騎士もその言葉に頷きました。確かに彼にはそれがよくわかっていました。もっと言えばわかるようになってきたのです。心の中で。
「さあ。今からそこへ」
美女の姿が消えました。
「来られるのです。その心と共に」
「わかりました。それでは」
騎士もその言葉に頷きました。そうしてすぐに城を立ち去りました。美女を追い。それと共にこの世で最も大切なものを追い。そうして向かうのでした。
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