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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life22 転生天使!転生麻婆!?前編 ~新たなる仲間~

 
前書き
 ではどうぞ。 

 
 「――――まったく、貴方と言う人は何度言えば解るのですか?」
 
 人間界に全員で帰って来てから1週間後の昼前に士郎は、リアス達とは別行動をとっていた。
 此処は、藤村家からそこまで離れていない藤村組の傘である料理店の一番奥の客室だ。
 そこには士郎の他に、パラケルスス(フィリップ・アウレオールス)ケイローン(ケイン・クロス)の2人もいた。
 如何してこのメンバーでこんなところに居るかと言うと、士郎の軽率な行動への説教のためだった。
 何時もなら何かあればフィリップの自宅兼工房からほど近い何処かを利用するのだが、サーヴァントを用いる敵が露骨に士郎を狙ってくるようになったので、単独で長時間行動させるわけにはいかないと言う理由から士郎の自宅近くのこの店を今回の説教&報告会の場として挙がったのだ。
 因みに、説教が始まってからかれこれ1時間以上は経過していた。

 「むぅ」
 「何がむぅ、ですか。もうほんとに、心配する私たちの身にも――――」
 「フィリップ、その辺にした方が良いと思いますよ?気持ちは判りますが、どれだけためになる説教であろうと、長時間聞かせてもあまり効果は望めません。士郎の場合、筋金入りです」

 あまりに長い説教だったため、ケインが止めに入った。
 ケインの助言にさすが熱を入れ過ぎていたのかと反省したフィリップは、自重して説教を辞める事にした。

 「兎に角、次やったら私にも考えがありますので、宜しく」
 「な、何をする気だ?」
 「それはその時のお楽しみですよ。当然では?」

 何で容疑者に答えなければならないのですか?と満面の笑顔で答えるフィリップに気圧される士郎は、それ以上踏み込むとヤバイと言う事を経験で察知して、大人しく引き下がった。

 「そう言えば聞きましたよ?灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)に所属している魔法使いのある少年が、霊体化状態のサーヴァントを連れていたとか?」

 話の方向性をこれ以上泥沼化させないために、ケインが切り出した。

 「あ、ああ、そうなんだ。と言っても気づいたのは李書文()だけど」

 そのケインの切り出しに士郎は便乗する。
 そんなあからさまな話の切り替えにフィリップも一応乗っかる事にした。
 説教を辞めると決めた以上は、もう無駄だと言う判断からだろう。

 「それは私の方でも聞いています。敵意が無い以上迂闊な行動に出るべきではありませんが、情報を集めないと言う選択肢もあり得ないので、長期に成るかもしれませんが出来るだけ穏便に探りを入れておきますから、如何か任せて下さい」

 その言葉にその内容が終わってしまので、少しの間しんと静まり返った。
 そこでまたケインが別の話題を上げる。

 「天界側にスタッフが、今日来るそうですね?」
 「ああ、そうなんだ。・・・・・2、人程・・・な」
 「ずいぶんと歯切れが悪いですね?如何したんです?士郎」
 「・・・・・・・・・・・・」

 ケインは、天界側がこの地で働くスタッフの人選が漸く決まり、今日挨拶に来る事ぐらいしか知らないのだ。
 ホントなら士郎も一応居なければならなかったのだが、その2人とも表側の協会の神父とシスターとして藤村組に挨拶しに行くので、纏めて挨拶すればいいかと・・・・・・と言う言い訳で逃げたのだった。
 そんな士郎の内心をよく理解してるフィリップが言う。

 「世界が違えば人の人格も違います。その程度の事、理解しているのでしょう?」
 「・・・・・・・・・解ってはいるんだけど、な」
 「何の話ですか?」

 2人だけ事情を察していたので、話に付いて行けないケインが聞く。

 「天界側のスタッフのメンツについてです。2人の内1人は、この(・・)世界での士郎の幼馴染兼妹分のいい娘なのですが、もう1人の方は士郎の本当の故郷にて最初に手を掛けた敵の邪悪神父だったのですよ。勿論この世界の“彼”は、邪悪とは程遠い神に仕える高潔な傑物と言う人格者ですがね」
 「なるほど。理屈上では似て非なる人物であると分かってはいても、心の何処かで納得しきれていないと言う所ですか」
 「・・・・・・当たりだ」

 士郎は、ケインの言葉を否定できないので素直に認める。

 「貴方らしくも無いと言いたい所ですが、それだけ根深いのでしょうね?それでその人物は何という名前なのですか?」
 「ああ、それは――――」


 -Interlude-


 ちょうど同じ頃、リアス達とソーナ達は事前にアザゼルからの連絡で天界側のスタッフが今日のそろそろ来ると言う事で、オカルト研究部の部室内で待っていた。

 「それで部長、肝心の先生はいつ来るんですか?」
 「少し遅れるかもしれないと聞いてるわ。あのKraって奴の情報収集に忙しいみたい」

 テロ対策のための会談に集まった中の主神らに尋ねると、全員がKraと顔見知りだと言う事が解ったのだ。
 しかしそれ以上の情報は出てこなかったが、各主神たちとの繋がり等も含めて自分なりの情報収集中との事だった。

 「あれだけの事を起こしたテロリストに加担してるんだ。指名手配に成るのかい?」
 「それが難しいみたいなのよ。Kraは今も昔も顔を隠しているから、もし本人が出て来てもテロを起こした人物が当人とは言い切れる証拠がないのよ」
 「あれだけの事をしたのにですか?」

 同じような説明をしているソーナに、元士郎も憤りながら驚いていた。

 「ええ、恐らく本人が我々の前に出て来ても、はぐらかされるのがオチでしょう。聴取をするにしても、任意でしょうから」
 「そんな・・・」
 「ため息が出てしまいますね」
 「どちらにしてもその件については私たちの仕事ではありませんし、お任せするしかないでしょう」
 「だから私たちは私たちの務めに集中しましょう」
 『はい!』

 ソーナとリアスがそう締めくくると、少し遅れて部屋の外からドアをノックする音が響き渡った。

 「如何やら来たようね。どうぞ」
 『失礼します』
 『ん?』

 男女の声が重なって聞こえたが、女性の方の声に聞き覚えのあった者達は首を傾げた。
 そんな者たちの疑問をよそに、入室して来た2人の内の女の子を見て驚いていた。
 彼女はシスター服――――ではなく、駒王学園高等部の夏用の制服に身を包み、栗毛のツインテールをした美少女。
 コカビエル襲撃時前に、ゼノヴィアと共に奪われたエクスカリバーの奪還任務で訪れた戦士であり、一誠と士郎の幼馴染でもある紫藤イリナその人だった。
 リアス達とソーナ達の前にで止まると、一呼吸してから前を向いた。

 「この度、駒王町の天界側のスタッフとして派遣されて来ました、紫藤イリナです。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いいたします」
 『イリナ!!?』

 イリナが元気良く挨拶したところで、ゼノヴィアと一誠が彼女の前にでて来た。

 「ヤッホー、イッセー君。久しぶり!それにゼノヴィアも!」

 そんな2人の内1人であるゼノヴィアに思い切り抱き付く。
 周囲は多かれ少なかれ驚いているが、当のゼノヴィアもイリナとの再会に嬉しそうに受け止めて、成すがままに抱きしめられた。

 「話には聞いていたけど、元気そうで良かったわ。そしてごめんなさい」
 「ああ、イリナ・・・・・・も?」

 ゼノヴィアが応じ掛けるも、首をひねる。何故謝罪されるかが、解らないからだ。
 当のイリナは一度ゼノヴィアから離れてから、謝罪するために首を垂れる。

 「別れ際には貴女にあんな酷い事を言って・・・・・・それにアーシアさんには魔女だなんて。謝っても許されるかは判らないけど、本当にごめんなさい」

 それが心の底からの謝罪と受け止めたのか、2人は優しい微笑みを浮かべた。

 「気にしてなどいませんよ?これからも同じく主を敬愛する者同士、仲良くしていきましょう」
 「私の場合はふて腐れてこうなったのだ。だから気にする必要などない。だがあるとすれば、価値もよく解らない絵画を買って周囲を巻き込むのを自重して欲しい所くらいかな?」
 「あ、有り難う2人とも・・・・・・って、まだ覚えてたの!?もう忘れてよ、任務中に絵画を買って、懐が一気に消え去った事(あの話)!!」

 ゼノヴィアの皮肉気味な思い出にイリナは顔を赤らめながら抗議する様は、じめっとした空気が明るくなり少なからず笑いを誘った。
 そこで、ある事に気付いた一誠は祐斗に耳打ちする。

 「なぁ、木場。イリナには神の消滅について黙ってた方が良いのかな?」
 「ん~、如何なんだろ?その件に――――」
 「大丈夫よ、イッセー君。我らが主の崩御については、ミカエル様から直に聞いてるから」
 『!?』

 一誠と祐斗の会話が聞き逃さなかったイリナが答えた。

 「そうなのか?」
 「その割にはショックを受けてそうには見えな――――」
 「ショックだったわよぉおおおおおおおぉぉおおおぉおおおおおおお!!!」

 祐斗が言い終える前にイリナが泣き叫んだ。

 「世界の中心であり、全人類の心の支えであった我らが主の崩御が、既にあったなんて、おかげで七日七晩寝込んでしまったわぁああああああああ!!あああああああああ、主よ!!!」
 「よくわかるよ」
 「とてもわかります」

 号泣し続けるイリナに対して、アーシアとゼノヴィアの2人だけは同意しているモノの、他の悪魔たちは若干引いていた。そのうち何人かは大げさすぎじゃないかと口にしそうになったが、それを言ってしまうと地雷を踏みそうな気がしたので全員黙った。

 「・・・・・・・・・兎に角。グスッ、私はヒック、その悲劇については認ズズ、識してるから心配しないでイッセー君・・・・・・・・・グスッ」
 「わ、わかったよ」

 とても大丈夫そうには見えなかったが、祐斗は一応、応じるように了承した。
 イリナは完全に涙を拭いた後、でもと付け加えた。

 「七日七晩寝込んでいた影響から激ヤセしたのよ。その反動でたくさん食べたら激太りして、そこから元に戻すまでが大変だったわ。しかも元に戻ったら胸のサイズが1センチ・・・・・・いえ、2センチ増えちゃったみたいで、今迄付けていたブラジャーは全替え状態で大変だったわ」
 『・・・・・・・・・・・・』

 そのカミングアウトのような説明に、それぞれが別々に反応する。
 胸に自信のある女性たちは、あらあら♪と言う風に微笑ましく見つめ、逆に自信の無い女性はイリナの困った仕草に贅沢者!或いは呪殺してあげましょうか♪とそれぞれにジェラシーを感じていた。
 そしてそれ以外のギャスパー以外の男3人組は、イリナの天然な色気に当てられて、ゴクリと喉を鳴らした。
 一誠と元士郎の2人については前かがみ状態になっていて、好意を密に寄せられている女性陣の何名から足を蹴られるなどの暴力を受けていた。
 因みにギャスパーは顔を赤くするだけだった。
 そんな彼らに構わずに、元凶たるイリナは別のショッキングな事実を口にする。

 「それにもう一つで・・・・・・・・・シロ兄の事はショックだったわ。まさか魔術師だったなんて」

 イリナの言葉に何人かはオヤ?とした。
 此処に居る全員がイリナと士郎が幼馴染だと知り得ている訳では無いからだ。

 「紫藤イリナさん。シロ兄とは士郎君の事ですよね?貴女は士郎君と親しかったんですか?」

 知らない者達を代表して、ソーナが聞いた。

 「はい。シロ兄とは幼馴染なんですよ。イッセー君ともですが。その割にイッセー君は、私やシロ兄事を忘れてましたけどね」
 「わ、悪かったって・・・」
 「あっ、ごめんごめん!そんな意味で言った訳じゃないんだよ?――――ところで、シロ兄は?」
 「士郎さんなら用事で遅くなる、或いは来れないよ」
 「あっ、そうなんだ。けど、如何してゼノヴィ――――」
 「そろそろいいかな?シスター・イリナ」

 イリナの疑問にいち早く答えたゼノヴィアに対して疑問をぶつけようとしたが、彼女の後ろからある男性が言葉を遮った。

 「え?あっ、はい・・・・・・・・・って、居たんですか!?」
 「君と同時に入室したじゃないか?ただ、戦士ゼノヴィアらとの再会に水を差す要素にならない様に、気配を消していただけだよ」

 その事自体にイリナだけじゃなくほぼ全員が驚いていた。
 確かにイリナと同時に入室していた事は覚えていたが、途中から出て行ったのかと思っていたからだ。なのに気配を消すだけでその場から居なくなるように感じるなどと、襲撃後の再度の三大陣営の会談時に士郎が連れてきた謎の護衛や、士郎レベルだ。
 ただ、これを士郎本人に直接言えば、自分程度がと謙遜する事は言うまでも無いだろう。

 「さて、自己紹介が遅れたな。聖書から外れた善き心を持つ悪魔諸君。私は――――」
 「――――教会所属の司祭枢機卿、言峰綺礼猊下です!」

 イリナは元気よく自分の事のように誇らしげに、言峰綺礼と言う神父の自己紹介を奪い取った。
 そして受けた側のリアス達の視線は、イリナから綺礼に移った。

 「・・・・・・・・・・・・シスター・イリナ。責めるワケでは無いのだが、自己紹介位は自分で名乗らせてほしかったのだが?」
 「え?・・・・・・・・・・・・ああっ!!?す、すいません!つい興奮してしまって!」

 綺礼の指摘にイリナは、猛烈な勢いで謝る。
 勿論綺礼は、そん謝罪をすんなり受け止める。

 「いや、本当に攻めているのではないのだよ。ただこれからは如何か注意してほしい。――――それにしても息災そうで何よりだ。戦士ゼノヴィア」
 「有り難うございます、猊下。ですがそれは私のセリフでもありますよ?投獄同然の謹慎扱いに処された猊下が、こうして私の前で立っていられるのですから」
 「謹慎・・・・・・ですか?」
 「投獄って!?」

 ゼノヴィアのセリフに椿姫と元士郎がいち早く反応した。

 「ああ。猊下はとある理由により、今年の春前に投獄同然の謹慎処分に成っていたんだよ。しかし今思えば猊下の考えは正しかったんだなと、しみじみ思えるな」
 「何をしたんだ?随分と信仰深そうな人に見えるけど・・・」

 ゼノヴィアが感慨深くしてる顔が気になったのか、一誠が質問をする。

 「今年の春ごろと言えば、イッセーとアーシアが悪魔に転生るる前の事だろう?つまり、アーシアの件さ」
 「アーシアの?」
 「私の・・・ですか?」

 ゼノヴィアの言葉にキョトンとする一誠とアーシア(2人)

 「そうなのよ。アーシアさんが異端と見做された時に、実はごく少々数だけど表立って教皇様などに異議申し立てした人たちがいたのよ」
 「それがこの人、猊――――」
 「先ほどから猊下と一々つけなくて構わないぞ?私はこの駒王町にて、天界側のスタッフとしてきた一介の神父に過ぎん」
 「そうですか?畏れ多い事ですが、猊下――――言峰神父がその様に仰られるなら、解りました!」

 皆に言い含めるように言ったはずの言峰だったが、返事を返して来たのはイリナだけだった。
 その理由は彼女の後ろにある。
 当人であるアーシアを含めて、悪魔たちが続きを聞きたそうにしていた。
 特にリアス及び眷属たちが。

 「あの、それで、言峰神父はアーシアのために?」
 「彼女のためと言うのは少し違うな。私は私の信仰心に従っただけに過ぎん。今でこそこのように我々が敵対しなくなっているが、矢張り悪魔を治療したのだからそれには注意すべきだとは、私も考えたさ」
 「では何故?」
 「その誰隔てなく慈しみ、怪我人を癒したいと言う優しき心は、尊重されるべきだと考えたからだ。少なくとも追放はやり過ぎではないかと何度も奏上し続けた結果、謹慎処分を受けたのだ」

 淡々と述べる綺礼の説明に、朱乃が口を挿む。

 「ですがミカエル様は、神の消滅と言う事実を隠すためにしかなく――――」
 「それについては私も最近知り得たばかりでね、ミカエル様を悩ませたことについては心から反省している」
 「最近知ったばかりなんですか!?その割にはショックを受けてるようには思えませんが・・・」
 「確かにそれなりに堪えたがね、側近であったミカエル様を始めとする四大天使の方々のこれまでの苦悩を鑑みれば、私自身の動揺など大したことはないと思えたのだよ」
 「何と言う強靭なる精神・・・!言峰神父、私は改めて猊下の信仰心に感服いたしました!」

 綺礼の考えに、大げさすぎるのではと言う疑問が残る程にイリナが感動する。
 そのイリナの大げさぶりに馴れてきた綺礼は、なんなく受け流してアーシアに再び向き直る。

 「報告書で知り得ていたが、こうして確認できてうれしく思う。聖女アーシア」
 「あ、ありがとう御座います」
 「え、でも、ミカエル様を困らせた事には反省しているのではなかったのですか?」

 綺麗の言葉に対して、小猫が当然の疑問を口にする。

 「それについては無論、思慮が足らなかったと反省しているが、アーシア・アルジェントの異端追放に対して異議申し立てした件については後悔してはいない。そして申し訳なかった」
 「え?えっと・・・・・・」
 「今でこそ幸福そうに見えるが、当時は追放されて寂しい思いもしただろうし、怖い思いもさせてしまっただろう。私の力足らずに、異端追放取り消しをできずに本当に申し訳なかった」
 「そ、そんな事ありません。私などのために神父様こそ辛い思いをさせてしまい、本当にすみませんでした」

 お互いに謝り返す2人を見る周りは、何とも言えない感じだった。

 「謝られる筋合いはないのだがな。そして、現赤龍帝の・・・・・・兵藤一誠君」
 「呼び捨てで良いですよ」
 「では兵藤一誠。君がアーシア・アルジェント騎士なのだな」
 「騎、騎士!?」

 一誠は、呼ばれた事も無い例えに驚きの声を上げる。

 「今でこそ眷属を大事に思っていると知る様になったリアス嬢の下で転生悪魔になりたての君が、我が身を顧みずアーシア・アルジェントを救ったのだ。これが騎士では無く何だと言ううのだ?」
 「・・・・・・・・・そんな風に表現してくれるなんて嬉しい様な気恥ずかしいような感じですけど、俺は結局あの時、間に合いませんでしたよ?」
 「確かに・・・・・・。だが私が称しているのは“心”がだ。どれだけ強がることが出来ても異端追放されて、さぞ心細かった事だろう。そんな折に彼女の心を救ってくれたこと、本当に心から感謝する」
 『・・・・・・・・・・・・』

 真摯に頭を下げる神父の態度に、その場にいる悪魔たちのほとんどが意外感を示した。
 いくら和平協定を結んだからと言って、下の者たちの考えまでそうであるとは限らないからだ。
 しかも協定締結からまだ1月ほどしか経過していないのだから。
 つまりそれだけ目の前の神父が、アーシア・アルジェントの身を案じていたことが窺えた。
 その事に一誠は素直に嬉しかった。
 アーシアは誰かからも庇われずに魔女扱いされたんじゃないと。

 「俺の方こそありがとうございます。アーシアを心配してくれる人が教会に居るなんて知らなかったですから、素直に嬉しいです」
 「イッセーさん」
 「イッセー・・・」
 「アーシア・アルジェントの騎士たる君のその言葉、素直に受け取ろう。そしてこれからも如何か彼女をお任せしたい」
 『もちろんです!』

 綺礼の言葉に口を合わせて任された悪魔たち。
 そこで一拍置いて、祐斗が綺礼にある事を聞く。

 「すみません言峰神父、皆殺しの大司教――――バルパー・ガリレイの捜索の経過はどうなっているか判りますか?」
 『あっ・・・・・・』

 祐斗の綺礼への質問に仲間たちの言葉が漏れた。

 「最近になって謹慎を解かれた身故、済まないが詳しい事は・・・。ただ矢張り、渦の団(カオス・ブリゲード)が関わっていると言うのが確実の様だ」
 「そう・・・・・・ですか」
 「済まないな、期待に沿えることが出来ずに」
 「いえ、此方こそ無理を聞いてすいません」
 「祐斗・・・」

 そんな祐斗を心配そうに見つめるリアスを始めとする仲間の眷属たち。
 それに気づいた祐斗は笑顔を浮かべる。

 「大丈夫です、部長、皆。僕はもう、復讐に囚われているワケではありません。ただけじめと、皆の無念を晴らしたいだけです」

 祐斗の言葉にある程度の含みもあったが嘘では無いと判断したようで、彼を見る無数の目が明るくなった。
 それを見ていた綺礼は、その光景を微笑ましく思った。

 「よき仲間に恵まれたな木場祐斗。これからも彼らとの絆を大切に育むと言い・・・・・・と、そろそろ昼食時かな?」

 時計が12に針を刺したところで、古めかしく懐かしい音を響かせた。
 それを鳴る前に気付いた綺礼にリアスが続く。

 「そうね・・・・・・お2人の歓迎会的なモノと言う所で、何処かへ食べに行きま――――」
 「此処は私が手料理をふるまおう」
 『・・・・・・・・・え?』

 リアスの言葉を遮り自分が料理を作ると言いだした事に、ほとんどの者たちが虚を突かれたように驚いた。
 しかし教会組の3人は目を輝かせる。

 「言峰神父の手料理だと!!」
 「やったわ!噂でしか聞いた事なかったから、すごく得した気分ね!」
 「そうですね。私もお話で聞くくらいでしたので、楽しみです!」
 「・・・・・・・・・言峰神父の手料理はそんなに美味しいのですか?」

 3人の反応に小猫が聞く。

 「ええ!言峰神父の中華料理は絶品だって噂されているわ!」
 「持ち上げ過ぎだ、シスター・イリナ。しかし多少は自身があるのでね、如何か任せてほしい」

 リアス達は歓迎する側なのにいいモノかと話し合った結果、教会3人組の反応に期待を膨らませたのか、任せる事にした。

 「それで、何を作るんですか?」
 「麻婆豆腐だ。仕込みは済んでいるのでね、キッチンを借りるよ」

 そう言うや、服の中から麻婆豆腐に使うのであろう大量の食材と調理器具、そして何所に仕舞ってあったのか摩訶不思議な中華鍋を取り出した。

 『!!?』
 「では楽しみにしてくれたまえ、諸君」

 綺礼は周りの者達の驚きをよそに、とっととキッチンに向かった。
 そして残された者達は戸惑う悪魔たちと喜ぶイリナ1人に分かれていた。

 「服の中から食材を取りだしたわよ!?」
 「何所に入っていたのかしら?」
 「それより一番の問題はあの中華鍋ですわ。言峰神父は何所から中華鍋を引き出したのか・・・」
 「確か此処には中華鍋なんて置いてなかったはずですが・・・」

 非常識な現象に戸惑う3年生組(お姉様ズ)
 転送魔法を使ったならわかるが、綺礼は服の中から全部取り出したのだから驚くのも無理らしからぬ事だ。
 そんな美少女たちをよそに、此方もまた美少女であるイリナは興奮していた。

 「言峰神父の麻婆豆腐!!?ついてるわ!猊下の作る麻婆豆腐は辛みと旨みを極限にまで引き出されたと謳われるほどで、四大天使の御1人であるガブリエルさまも絶賛していたほどよ!!」
 「あのガブリエル様が!?それは期待できそうだ!」
 「すごく楽しみですね?イッセーさん!」
 「そうだなアーシア!」

 興奮を抑えきれないイリナに他の悪魔たちもその気に当てられて、期待度をグングンと押し上げる。
 しかし彼らは自らの意思で開けてしまったのだ。
 これから起きる惨劇を。
 阿鼻叫喚地獄必死の禍々しい釜を。
 そうとも知らずに皆嬉しそうに、無邪気に笑顔を作っていたのだった。 
 

 
後書き
 長くなりそうなので3つで分ける事にしました。
 私にもっと文章力が有れば、もっとコンパクトにまとめられたんでしょうけどね?
 天使化につきましては次回です。

 ではでは~。 
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