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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターンEX-5 真紅の竜と『真紅の』竜

 
前書き
確かに2期最終回とは書いた。
3期でまた会いましょうとも書いた。
だがしかし次回、つまりこの話が3期1話であるとは言っていない……!みたいなノリ。
そんなわけで、EX組の補足回です。
前回のあらすじ:2期最終回。 

 
 これは、遊野清明が斎王とそれを操る破滅の光を打ち破り、レーザー衛星『ソーラ』が遥か上空で静かに爆発した……その、少し前の話。誰も知らない、異邦人たちの戦いの話。

「さて、と。この封印も、そろそろ焼き切れるかな?」

 三幻魔の封印された祠の近くで、適当な岩に腰を下ろしてそう満足げに1人ごちる人影……(あそぶ)。1度様子を見に行こうかと立ち上がったところで、ふと森の一点を注視した。野生動物とは違う、れっきとした人間の足音を聞き分けて意味深な笑みを浮かべる。

「ふーん、へー、ほ~。なーんだ、結局邪魔しにくるんだ。いいよー、こっちの方はどうせ暇だったし」

 怒り心頭といった様子でそこに立つのは、転生者狩りの富野。これまでにも散々煮え湯を飲まされた相手に対しても、その目の闘志はいささかも薄らいでいない。

「うるせえ!どうやって生き返ったかは知らねえがな、いったんやられた奴が2回も3回も出てくんじゃねえよ」
「自分だって散々やられたくせに、よく言うよ。それで、もう1人の方はどうしたのかな?」

 もう1人、とはそこにいるはずなのに姿の見えない相手、つまりユーノのことだ。まだユーノの洗脳が解けたことは知らないはずだと内心踏んでいたが、どうやら遊の様子を見て一発で何が起きていたのかの察しがついたらしい。その勘の良さに内心舌を巻きながら、それでも表向きは平然とした様子で吐き捨てる。

「知るかよ。お前がわかっときゃいいのはただ1つ、今から俺に叩きのめされるってだけだ」
「ふうん?言うようになったねえ、負け犬クンが」

 実際、遊の言葉はあながち妄言でもない。彼と富野の実力差は明白であり、例え新たに手に入れたスカーライトの力をもってしてもその差を覆すことができるかどうかはかなり分の悪い賭けだ。しかし、それでもやらねばならないのだ。それだけの理由も、覚悟もある。

「言ってやがれ……」

 2人の間の緊張が徐々に高まり、空気が次第に張りつめていく。そのときたまたま、アカデミア上空を飛んでいたカラスがしわがれた声で鳴いた。その音がきっかけになったかのように、2人して同時にデュエルディスクを構える。

「「デュエル!」」

 先攻を取ったのは、遊。

「僕のターンはー、これかな?幻影王 ハイド・ライド!」

 ぼろぼろの幽鬼のような馬に乗ったこれまたぼろぼろの騎士……チューナーモンスターでありながら他のチューナーとシンクロを行えるという、まさに幻影の王にふさわしい効果を持つカードだ。

 幻影王 ハイド・ライド 攻1500

「ターンエンドー」
「俺のターン、ダーク・リゾネーターを守備表示で召喚!さらにカードをセットして、ターンエンドだ」

 音叉を持った小柄な悪魔が、富野のフィールドに現れる。1ターンに1度の戦闘破壊耐性のあるモンスターで、まずは壁を作ったというところか。

 ダーク・リゾネーター 守300

 遊 LP4000 手札:4
モンスター:幻影王 ハイド・ライド(攻)
魔法・罠:なし
 富野 LP4000 手札:4
モンスター:ダーク・リゾネーター(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「特に動きはなし、かー。まあいいや。手札を1枚捨てることで、THE() トリッキーは手札から特殊召喚できるよー」

 ハイド・ライドの隣に現れたのは、緑のファッションに身を包んだ謎の奇術師。クエスチョンマークをあしらったシルクハットで帽子というより兜のように首から上全体を覆っているため、その素顔を見ることはできない。

 THE トリッキー 攻2000

「シンクロ召喚~、といきたいところだけどね、生憎と僕の琰魔竜は守備表示モンスターには特に有効打がないからねー。バトル、ダーク・リゾネーターに……」
「させるかよ!トラップ発動、スクリーン・オブ・レッド!このカードが存在する限り、相手は攻撃宣言できないぜ!」

 大量の鏡が上空から落ちてきて、遊とそのフィールドの周りを取り囲む。トリッキーとハイド・ライドの攻撃はあちら落ちらに移る自らの姿に幻惑され、ダーク・リゾネーターに届かなかった。

「二重の守り、ってわけね。面白い面白い、ターンエンド」

 攻撃が封じられても、余裕の態度は崩さない。あえてシンクロをせずに素材となるモンスターを残したことを怪しみつつも、富野にこれ以上相手ターンでの動きに干渉する手立てはない。

「俺のターン!相手フィールドにモンスターが2体以上いる場合、このカードはリリースなしで召喚できる!パワー・インベーダー召喚!」

 パワー・インベーダー 攻2200

「お、そろそろ来るかなー?」
「望み通り、見せてやるぜ。レベル5のパワー・インベーダーに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!赤き王者が立ち上がる時、熱き鼓動が天地に響く。防御に回る臆病者に、生きる価値など欠片もない!シンクロ召喚!叩き潰せ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」

 レッド・デーモン使い同士のこのデュエル。先に現れたのは、富野の操る元祖レッド・デーモンズだった。まさに悪魔と呼ぶにふさわしい眼光で遊のフィールドのモンスターを見下ろし、口から蒸気を吐き出した。

 ☆5+☆3→☆8
 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000

「バトルだ、レッド・デーモンズ!ハイド・ライドに攻撃、灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→幻影王 ハイド・ライド 攻1500(破壊)
 遊 LP4000→2500

「くっ……」
「カードを1枚セット。エンドフェイズ時、スクリーン・オブ・レッドは俺に1000ポイントのダメージを強いる。これでターンエンドだ」

 富野 LP4000→3000

 相手からの攻撃を完全にシャットアウトするという強烈な効果と引き換えに、エンドフェイズごとに自らのライフを削るデメリットを持つスクリーン・オブ・レッド。それでもまだ富野の方がライフ自体は優位に立っているが、それが安心できる理由にはならないのは本人が一番よくわかっていた。

 遊 LP2500 手札:3
モンスター:THE トリッキー(攻)
魔法・罠:なし
 富野 LP3000 手札:3
モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻)
魔法・罠:スクリーン・オブ・レッド
     1(伏せ)

「それじゃあ、ハンデはもうこれぐらいにしてあげようかなー?僕のターン、僕もダーク・リゾネーターを召喚!」

 遊のフィールドにも、音叉を手に持つ悪魔が現れる。よく見ると富野が使用したそれとは音叉を持つ手が逆になっていたが、だからといってテキストまで違うわけではない。

 ダーク・リゾネーター 攻1300

「おっと、だったら手札から増殖するGの効果を使うぜ」
「レベル5のトリッキーに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング。圧倒的な黒色が、世界の色を塗りつぶす。シンクロ召喚、琰魔竜 レッド・デーモン!」

 富野のレッド・デーモンズよりもより筋肉質な体が目立つ、それとは似て非なる悪魔のドラゴン。体には何かを暗示するような漆黒のラインが走り、よりがっしりとした体を印象付けている。

 ☆5+☆3→☆8
 琰魔竜 レッド・デーモン 攻3000

「出やがったな……だが俺はここで、増殖するGの効果を適用!このターンお前が特殊召喚を行うたびに1枚、デッキからカードをドローするぜ。まずは1枚!」

 あのモンスターは1ターンに1度、場の自身以外の攻撃表示モンスターをすべて破壊する効果がある……それを、彼は思い出していた。だがそこで、と思考は先ほど自らが伏せたカードにたいして向かう。俺の伏せたカードはモンスターを除外し、破壊された時に帰還させることができるディメンション・ゲートだ。これを使ってレッド・デーモンズを一時的に逃がし、スクリーン・オブ・レッドを突破してこないならばそれはそれでよし。万一何らかの手段で突破されたなら、このカードのさらなる効果によりレッド・デーモンズを帰還させる。完璧だ、そう彼は自分に言い聞かせた。
 実際、彼の作戦は間違ってはいなかった。遊の持つレッド・デーモンから受ける被害を最大限に減らす手段としては、何も間違っていなかったと言えよう。
 彼に落ち度があるとすればたった1つ、遊のデュエリストとしての能力が去年の時点ですでに完成していることを無意識のうちに前提としていたことだ。

「さあ、かかってきやがれ!」

 その安い挑発に、余裕の笑みで返す。遊のターンは、まだ始まってすらいなかった。

「魔法カード、死者蘇生発動ー。墓地からチューナーモンスター、シンクローン・リゾネーターを蘇生させるよー」

 シンクローン・リゾネーター 攻100

「トリッキー召喚の時に落としてたカードか……だが、なんでこのタイミングで……?」

 すでに増殖するGの効果は適用されている。みすみすドローさせることになるだけなのに、なぜここで死者蘇生してまで戦闘向きでないステータスの弱小チューナーを?富野の疑問は、いささか遅かった。そして高速化する実戦では、その遅れが致命的なミスとなる。

「レベル8のレッド・デーモンに、レベル1のシンクローン・リゾネーターをチューニング!」
「なっ、なんだと!?レッド・デーモンを捨てて出すレベル9のシンクロモンスターだと!?そんな馬鹿な!」
「君の反応は、想像通りのいいリアクションだからこっちも見ていて楽しいよー。塗り潰された黒き世界を、憤怒の黒が重ね塗る。シンクロ召喚、琰魔竜 レッド・デーモン・アビス!」

 レッド・デーモンの体が、一回り大きくなった。元々筋肉質だったボディにはさらに筋肉が内から湧きあがり、頭に生えた3本の角はより長く、鋭く伸びてゆく。胸からは溢れ出るエネルギーが骨の形すら変化させ、それでもなお止まることを知らないほどのパワーが光となり、まるで巨大な顔のような模様を形作る。大きくなった体を支えるために必然的に翼の形状も変化し巨大化し、全身からは弱い皮膚を突き破って補填するかのように無数の棘が生えていく。そしてその両腕には、大斧を思わせる巨大な刃が装着された。

 ☆8+☆1→☆9
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス 攻3200

「レッド・デーモン・アビス……?ク、クソッ!ドローだ!」
「そう、僕にだってまだ進化する余地はあったんだよねー。まずはシンクローン・リゾネーターが墓地に送られたことで、効果発動。墓地のリゾネーター1体、ダーク・リゾネーターを手札に戻すよー。バトル、レッド・デーモン・アビスでレッド・デーモンズ・ドラゴンに攻撃!」
「さ、させるかよ!スクリーン・オブ・レッド、奴の攻撃を止めろ!」

 低空飛行で突っ込んでくる悪魔の竜の前に、再び無数の鏡が立ちはだかる。しかしアビスがそれを一睨みすると早回しでも見ているかのようにその輝きがくすんでゆき、飛来するアビスの巻き起こす風圧だけでいともたやすくその全てが割れてしまった。

「嘘だろ!?」
「アビスはお互いのターンごとに1度、表側表示で存在するカードの効果を無効にできるのさー。さあ、その伏せカードを使うのかなー?」
「くっ……」

 確かに、アビスは既にスクリーン・オブ・レッドに対して無効効果を使っている。ディメンション・ゲートを発動させれば、少なくともレッド・デーモンズだけは逃がすことができるだろう。だがそれは、アビスの攻撃がモンスターを失った富野のライフを直撃するということに他ならない。
 普段の彼ならば、勝負の行方よりも自らの相棒を取っただろう。だが今回は、それでは駄目なのだ。悲壮な覚悟と共に主が目を伏せたのを見て、レッド・デーモンズも自らの運命を感じ取ったらしい。それでも王者として雄々しく大空に吠え、勝ち目のない迎撃に赴いた。そして放たれるレッド・デーモンズ渾身の一撃が、アビスのより重く、より速い一撃の前に散っていった。

 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス 攻3200→レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000(破壊)
 富野 LP3000→2800

「はい、深淵の怒却拳(アビス・レイジ・バスター)。さらにアビスが戦闘ダメージを与えたことにより、もう1つの効果発動ー。墓地からチューナーモンスター1体、ハイド・ライドを守備表示で蘇生してっと」

 悪魔の竜が地面を殴りつけると、そこを中心に大きく大地が陥没する。その穴の底を突き破り、再び幻影の王が一騎駆けてきた。

 幻影王 ハイド・ライド 守300

「ドローしようが問題ないね。このハイド・ライドには、それだけの価値があるのさー。カードをセットして、ターンエンドー。どう、僕の新しいレッド・デーモン?」
「クソッたれが……!俺のターン、ドロー!俺は今ドローしたカード、死者蘇生を発動!甦れ、レッド・デーモンズ!」
「しぶといねー。それは通してあげるよ。で、それからどうしてくれるのかな?」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000

「勝負はまだこれからだ!チェーン・リゾネーターを召喚し、効果発動!このカード以外にシンクロモンスターがいるならば、召喚成功時に更なるリゾネーターをデッキから特殊召喚できる!」

 体から鎖を伸ばすリゾネーターが、その一端を富野のデッキめがけて投げつける。しかしそこにも、悪魔の竜が立ちふさがった。

「無駄だねー。そこにアビスの効果発動、その発動と効果を無効にするよー」

 アビスの剛腕が唸り、鎖を引きちぎらんとばかりに襲い掛かる。だがその腕がちっぽけな悪魔に届く寸前、その姿が鎖のみを残して瞬時に消えた。

「悪いな、俺はその発動にさらにチェーンしてトラップカード、ディメンション・ゲートを発動させてもらったぜ!チェーンの効果が無効になるより前に次元の隙間へ逃げ込んだ、つまりアビスの効果は無駄打ちってわけだ!さあ、改めてチェーンの効果を使わせてもらうぜ!デッキより出でよ、フレア・リゾネーター!」
「へえ?」

 体の後ろに火を灯した、赤を基調とするリゾネーター。辺りを照らす赤い光は、果たしてどちらに向けての勝利の暗示なのか。

 フレア・リゾネーター 攻300

「さらにマジック・プランターを発動!永続トラップのディメンション・ゲートを墓地に送り2枚ドローするが、俺の狙いはそこじゃねえ。このカードが墓地に送られたことで、次元の狭間に逃げ込んだチェーン・リゾネーターは再びフィールドに特殊召喚される!」

 チェーン・リゾネーター 攻100

 満を持してフィールドに揃った、レッド・デーモンズ・ドラゴンと合計レベル4のチューナー2体。合計レベル12、ダブルチューニングを駆使して呼び出されるあのシンクロモンスターの名を高らかに宣言しようとした時、彼の視界がすべて黒に染まった。

「てめえ、一体何しやがった!?」
「別にー。あえて言うとしたら、君が馬鹿なのさー。どうしてアビスの効果で僕がシンクローン・リゾネーターではなくハイド・ライドを蘇生させたのか、そのことを1度たりとも考えてみなかった、ねー」

 その言葉にふと思い当たることがあり、黒く染まった世界の中で遊のフィールドに目を凝らす。その名が示すように深淵(アビス)の底からこちらを眺めるレッド・デーモン・アビスと、その周りを取り囲んで封印するスクリーン・オブ・レッド……だが、他には?守備表示で存在するはずのハイド・ライドの姿が、ない。

「トラップカード、闇の閃光。攻撃力1500以上のモンスターをリリースすることで闇の閃光がフィールドを眩まし、発動ターンに特殊召喚されたモンスターは全て破壊されるよー」
「そうか、だからわざわざ攻撃力1500のハイド・ライドの方を……」
「2体破壊できれば上々のつもりだったけどねー。感謝感謝だよー、まさかディメンション・ゲートを自分で墓地に送ってわざわざチェーン・リゾネーターまで特殊召喚で出してくれるなんてねー」
「ぐ……」

 少しづつ、闇が晴れてきた。周りの風景もまた見えてくる。だが、そこにもうレッド・デーモンズ・ドラゴンの姿はない。2体のリゾネーターも、その姿を消してしまった。このターンに特殊召喚されたからだ。

「頼みのモンスターは全滅、召喚権も使い終わった。さ、何か言うことはー?」
「速攻魔法、非常食を発動。スクリーン・オブ・レッドを墓地に送ることで1000ライフ回復し、ターンエンドだ……!」
「ふーん、ちゃんとスクリーン・オブ・レッドのコストは回避するんだー」

 富野 LP2800→3800

 遊 LP2500 手札:2
モンスター:琰魔竜 レッド・デーモン・アビス(攻)
魔法・罠:なし
 富野 LP3800 手札:5
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 絞り出すように吐き捨てられたターンエンド宣言に嫌な笑顔で頷き、颯爽とカードを引く遊。そのカードを見て、ますます顔がほころんだ。

「もう九分九厘勝負は決まったって言っていいかもだけどー、どうやらさらにこの先をこのデッキは君に見せたいみたいだねー。僕のターン、グローアップ・バルブを召喚ー。レベル9のレッド・デーモン・アビスに、レベル1のバルブをチューニング!」
「レベル9のアビスを、さらにシンクロ素材にだと……お前、一体どこまで」

 進化するつもりなんだ。問いの最後は言葉にならなかったが、それでも遊には通じたようだ。

「さーて、ねー。木を火を土を金を水を染め上げて、漆黒よ我が世の理を包め。シンクロ召喚ー、レベル10!琰魔竜 レッド・デーモン・べリアル!」

 アビスと化したレッド・デーモンがさらなる戦いを求めた結果、その体にもう1度進化が起きた。体の表面に飛び出た骨はさながら鎧のように全身の弱い肉の部分を覆い、それでもなお溢れ出るエネルギーはまたも体に光の模様を刻みつける。角は長さこそあまり変わらないもののより鋭く固くなり、ついには金属的な光沢を放つようにすらなり始めた。両腕の刃も急激なパワーアップに伴いさらに巨大化するが、それでいて本体の機動力を損ねないよう全体的には鋭角化する。悪魔の中の悪魔、べリアルの名を関する新たなるレッド・デーモンの爆誕した瞬間である。

 ☆9+☆1→☆10
 琰魔竜 レッド・デーモン・べリアル 攻3500

「アビスの効果を捨てて出したのが、攻撃力3500……?」

 富野の疑問を鼻で笑うと、地面から何やら植物のようなものが生えてきた。

「墓地のグローアップ・バルブの効果発動ー。このカードはデュエル中1度だけ、デッキトップを墓地に送ることで特殊召喚できるよー」

 グローアップ・バルブ 攻100

 そのまま成長を続け、すぐに全体が地上に出てくるバルブ。それをべリアルがいきなりつまみ上げると、一瞥すらくれることなく問答無用で握り潰した。

「はあ?」
「べリアルは1ターンに1度、場のモンスターをリリースすることで墓地からレッド・デーモンを1体蘇生できるのさー。甦れ、アビス!」

 握り潰されたバルブの魂が地の底へ流れてゆき、1瞬の間の後にアビスが大地を割って再び現世へと翼を広げ飛び立ってきた。

 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス 攻3200

「バトル、2体のレッド・デーモンで……」
「まだだ!バトルフェーダーは直接攻撃宣言時に特殊召喚され、このターンのバトルフェイズを終了させる!」

 いかに悪魔の竜といえどもバトルフェーダーを止める手段は持ち合わせておらず、いかにもしぶしぶといった様子で振り上げた拳を下ろす。
 一方、その主たる遊はその妨害にも特に驚いた様子は見せなかった。

 バトルフェーダー 攻0

「やっぱり引いてたんだー、バトルフェーダー。だけど、そのカードは所詮使いきりのカード。次の1ターンで何をするのかなー。カードをセットして、ターンエンド~」

 歯噛みする富野。だが事実バトルフェーダーは使い切りであり、これ以上の猛攻をしのぐカードは彼の手札にはない。しかし、ここで諦めたら世界は、数多の次元は一体どうなってしまうのか。そんな最悪の未来を防ぐため、転生者狩りは戦うのだ。

「まだだ、まだ終わっちゃいねえ!俺のターン、ドロー!」

 もはや何年になるか、もう本人ですら覚えていない。延々使い続けてきて、これまでにも幾度となく彼を転生者狩りたらしめてきたそのデッキは、またしてもその期待に応えた。

「手札からパワー・ジャイアントの効果発動!手札のレベル4以下のモンスターを捨てることでこのカードを特殊召喚し、さらにその捨てたモンスターのレベルの数値だけこのカードのレベルを下げる!」

 パワー・ジャイアント 攻2200 ☆6→5

「そんな壁を作ったところで、今更……」
「甘いんだよ!さらに俺は墓地から、今コストとして送ったミラー・リゾネーターの効果を発動!このカードは相手フィールドにのみエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、特殊召喚できる!」

 その名の通り鏡を背負ったリゾネーターが、アビスとべリアルの姿をその身に映し出してにんまりと笑う。

 ミラー・リゾネーター 攻100

「ミラー・リゾネーターはシンクロ召喚に使用するとき、そのレベルを相手モンスター1体に合わせることができる。俺はこの鏡に、お前のアビスのレベルを映させてもらうぜ」
「レベル9をチューナーにコピー?そんなことをして、出せるモンスターなんて……」
「いないと思うか?」
「……」

 遊はこの一瞬で、自らの知識をフル回転させる。レベル9となるこの効果を通した場合、普通に考えればさらなるレベル変動なしでシンクロ召喚できるモンスターは星態龍、神樹の守護獣-牙王、天穹覇龍ドラゴアセンション、ブンボーグ・ジェット、そしてあと1体、さらにミラー・リゾネーターの属性を変化させ、条件を満たす素材モンスターを召喚することでようやく呼び出せるようになるとあるモンスターしかいないはずだ。そしてこの中でこのアビス・べリアルの布陣を突破する可能性を秘めているのはその、最後の1体のみ。残りたった1枚の富野の手札の中に、その召喚を成功させるための鍵が隠されているという可能性は低い。それにあのモンスターは、転生者狩りの中でも『彼女』しか持っていなかったはずだ。だが、万に一つの可能性として富野がそれを持っているとしたら?その場合、遊はなすすべなく負けるだろう。

「くっ……アビスの効果を発動ー!ミラー・リゾネーターの効果を無効にする!」

 鏡の中のアビスの目が光り、本体の動きと関係なく拳を繰り出す。表面に激突したそれは、一瞬で内部から鏡を叩き割った。

「……これで満足?望み通り、アビスの効果は使ったよ。さあ、これからどう出るのかなー?」
「ああ、俺は賭けに勝ったぜ!お前のことだ、必ず無効効果はミラーに使うって信じてたからな」
「それじゃあ、やっぱり……!」
「その通り、完全なブラフだぜ。もし今の効果が通ってたら、さすがの俺もどうしようもなかったからな。魔法カード、下降潮流を発動!このカードの効果で、俺のパワー・ジャイアントのレベルは1から3の任意の数字になる。俺が選択するのは、レベル3だ!」

 パワー・ジャイアント ☆5→3

「3体で合計レベル、5……?」
「いいや、8だ!バイス・バーサーカーを召喚!」

 バイス・バーサーカー 攻1000

「そのモンスターは……まさか!」
「そのまさかさ。レベル4のバイス・バーサーカーとレベル3になったパワー・ジャイアントに、レベル1のミラー・リゾネーターをチューニング!見せてやるよ、レッド・デーモンズが手に入れた新たな力!赤き王者の研磨の果てに、紅蓮の鼓動が天地を焦がす。力持ち得ぬ臆病者に、戦う価値など微塵もない!レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!」

 傷だらけの赤き悪魔の竜が、表裏一体の存在であるもう1つの悪魔の竜のカタチと対峙する。本来戦闘能力ではアビス、べリアルに劣るはずのスカーライトだが、その全身から実力差を補って余りあるほどの異様なオーラを放出することで逆に2体を威圧していた。

「バイス・バーサーカーをシンクロ素材にしたモンスターは、俺に2000ポイントのダメージを強制的に負わす代わりにエンドフェイズまで攻撃力を2000ポイントアップさせる!」

 富野 LP3800→1800
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻3000→5000

「攻撃力5000……だけど、バイス・バーサーカーの強化はエンドフェイズまでだよねー?」
「ああ、その通りだ。だがな、このターン中に全部ぶっ潰す!スカーライトは1ターンに1度、このカードより攻撃力の低い特殊召喚されたモンスターをすべて破壊した上で、1体につき500ポイントのダメージを与える!アブソリュート・パワー・フレイム!」
「そんな……!」
「アビスの効果を使ったのを恨むんだな!俺のバトルフェーダー共々焼き尽くせ、スカーライト!」

 遊 LP2500→1000

 つい先ほどユーノに決めたときよりも異様に出力の上がった地獄の炎に呑まれたアビスが、べリアルが、傷つき倒れてゆく。そしてフィールドに立っているのは、スカーライトただ一体のみ。

「バトルだ、スカーライト!とどめの一撃を食らわせてやれ、灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング!」

 再び放たれた真紅の炎が、遊の視界を埋め尽くす。そして……。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻5000→遊(直接攻撃)
 遊 LP1000→1000

「馬鹿な!?スカーライトの攻撃が、効いてないだと!?」

 そこにいたのは、攻撃力5000もの直撃を受けてなおぴんぴんしている遊の姿だった。よく見ると炎は彼のもとにたどり着く前に見えない壁に阻まれ、ただの1欠片たりとも届いていない。

「ハー、ハー……ざーんねんでしたー、今の攻撃宣言時、ガード・ブロックのカードを発動していたのさー。この効果により1度だけ戦闘ダメージは0、しかもカードを1枚ドローするおまけつきね」
「ったく、今の攻撃さえ効いてりゃ……エンドフェイズに強化が消えて、ターンエンドだ」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻5000→3000

 確実だったはずの勝利をあと一歩のところで逃し、富野の表情にも焦りが出てくる。遊の手札、1枚はクリエイト・リゾネーターで回収したダーク・リゾネーターなことはわかっている。だがもう1枚、今ガード・ブロックで引いたカードと次のドローで引くカードは、1体何が来る?

「僕の……」

 ゆっくりとデッキに手を掛ける遊。その様子を、かたずをのんで半ば睨みつけるように見ていた。

「ターン……」

 あまりの集中の結果、周りの時間の流れがひどくスローモーに感じる。それは遊も同じようで、その表情からもいつもの余裕は消えていた。

「ドロー!……おやー?」
「な、なんだ?」

 カードを引いた直後、不意に地響きが始まった。地震かと辺りを見回すが、どうもすぐ近くのアカデミア本校は揺れていないらしい。今富野たちが立っているこの近辺のみが、ピンポイントで揺れている。

「そうか。残念だけど、今回は時間切れかなー?」
「待ちやがれ!逃げようったってそうはいかねえぞ!」
「まったく、やってくれるよ。もう1人、ユーノがいないと思ったら先に封印解除を邪魔しに行ってたなんてねー」

 デュエルを強制終了させてその場を立ち去ろうとする遊に、それを引き留めようとする富野。だが遊の次の言葉を聞き、その違和感になぜか背筋が冷たくなった。

「それにしても、彼もかわいそうに、ねー。大人しくこっちに来てればよかったのに、よりによってあっちに行っちゃったかー」
「かわいそうに……?」

 聞き返した次の瞬間、かすかな声が2人の耳に届いた。ユーノの声で……あれは、悲鳴?

「い、一体何が起きてやがる!俺にわかるように説明しろ!」
「やだねー。ただあえて1つ言ってあげるなら、多分今頃彼は、ねえ。頑張れば死ぬまでにあと1回ぐらい会うチャンスもあるんじゃなーい?まあ、こうなった以上とりあえず今回は僕も身を隠させてもらうよー。レッド・デーモンの真の戦いは次回にお預けだねー」
「ふざけんな!テメーのアビスもべリアルも、俺のスカーライトが焼き尽くしたじゃねえか!」
「確かに、そうだったね。正直驚いたよ、まさかあの2体を倒すなんてさー。でも、僕もまだ本気は出してないってことさー」

 アビス、べリアルにはまだ上がいる。衝撃の告白を前に言葉に詰まったその隙を見逃さず、瞬時に遊の姿は消えうせた。
 残された富野もなんとか痕跡を探してその後を追おうという衝動に駆られるが、すぐに遊が残していった不吉な言葉を思い出す。

「ったく、手間がかかる!」

 身を翻し、三幻魔の封印地へ走る富野。走りながらもその脳内には、最悪のビジョンがちらついて離れない。振り払おうとしてもなくならないそんな光景は、果たして現実のものとなった。彼がそこに着いた時、そこには誰もいなかったのだ。他の敵もいないかわりに、とっくに先回りしているはずのユーノの姿もない。ただひたすらに、最初から誰もいなかったかのようにがらんとしている。

「おーい、誰かいねえのかー!」

 しかし、その声に対する返答はどこからも来ない。そして一番不思議なことに、あれだけの揺れがあったにもかかわらず封印もいまだ残ったままだった。

「一体ここに誰がいて、何が起きたってんだ?」

 思わず誰も聞いていないことは百も承知で一言つぶやく。無作為に歩き回りながら、せめて何か少しでも手がかりになるものがないかと見回してもみたが、その場には本当に何ひとつ痕跡が残されていないことがはっきりするまでに、さほど時間はかからなかった。

「一体……」

 最後にもう1度だけ呟くも、やはり誰も応えない。せめてこの次元を離れる前に、ユーノに何が起きたのかを何も知らない清明にできる限り説明しに行こうと振り向いたところで、いきなり目の前の空間が歪んだ。

「アンタは……どうしたんです?」

 転生者狩り独特の次元移動法でその場に現れた人影に一瞬警戒するも、すぐに緊張を緩ませる。その男は、初代ライバルと名高い青眼(ブルーアイズ)を変幻自在に操るデッキを使いこなす富野の仲間であり、転生者狩りでも古株の男だ。

「よう、こんな所に居やがったのか。ようやく見つけたぜ、ちょっと手伝ってくれよ。いやな、他の次元なんだけどな。1つの場所に思ったより大勢の転生者が飛ばされてるせいで、ちょっと俺1人じゃ手が回らねーんだわ」
「え?でも俺、まだこっちでやることが……」
「頼む、それは後に回してくれ!このままじゃ俺がどやされちまうんだ、恩に着るからよ。な?それにこの次元なら大丈夫だろ、よっぽどのことでもない限りほっといてもきっとどうにかなるさ」
「え、ちょ、うおあっ!」

 そして、また静寂が戻る。もうそこには、誰1人として生者の姿はなかった。 
 

 
後書き
最後の転生者狩りは新キャラじゃないです。
熱心で、しかも美男美女な読者の方ならこれまでにも2回ほど出番があった彼のことだとわかるでしょう。そうじゃない人は前作ターン33と今作ターン18を読み直そう(ステマ)。
それと、次回こそ3期やりますので。 
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