戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百三十話 本能寺へその十三
「所詮流れ者じゃった、しかしその流れ者をじゃ」
「はい、上様は見出され」
「重く用いられてです」
「一介の幕臣からです」
「四十万石の大名にまでして下さいました」
「この丹波も預けて下さっていますし」
「言葉に尽くし難いですな」
斎藤と秀満も言うのだった。
「その上様にですな」
「殿はあくまで忠義を尽くされるおつもりですな」
「そのつもりじゃ、母上も奥もおる」
明智が特に大事にしている二人だ。
「わしは何の不満もない」
「たま様も細川家で幸せに過ごしておられますし」
「他のご息女の方々も」
「それではですな」
「何の憂いもありませぬな」
「そうじゃ、天下は間もなく完全に落ち着く」
明智はこう見ていた。
「少し牛助殿、新五郎殿達のことが気になるがな」
「ですな、何故追放となったのか」
「安藤殿といい」
「お三方に失態はありませんでした」
「それで何故」
「そこがわかりませんな」
「そうじゃ、しかしな」
それでもと言う明智だった。
「上様には上様のお考えがあろう、それにな」
「はい、牛助殿新五郎殿もですな」
「安藤殿も」
「もう暫くしましたら」
「許されますな」
「そうなろう、お三方もまた天下に必要じゃ」
明智はこうも言っていた。
「それではな」
「はい、では戻られた時に」
「その時にですな」
「お三方を祝われ」
「共に酒か茶でもですな」
「そうしようぞ、さてではこれよりな」
ここでだ、明智は。
その彼が最も頼む二人にだ、こうも言った。
「茶を飲むか」
「おお、茶をですか」
「それをですか」
「うむ、そうしようか」
こう言うのだった。
「これよりな」
「はい、さすれば」
「共に飲みますか」
「殿と共に」
「我等も」
「そうしようぞ、茶はわしが淹れるか」
明智は上機嫌になって言いだ、それからだった。
明智は傍に控えていた小姓にだ、こう言った。
「ではこれよりな」
「はい、茶室にですな」
「入る、よいな」
「わかりました、では茶人を呼びます」
「いや、わしが茶を淹れるが」
「それがです」
難しい顔でだ、小姓は明智に答えた。
「昨日から城の茶人の方がどうもです」
「わしに茶を淹れたいとか」
「そう言われています」
その茶人がというのだ。
「実は」
「その茶人は何という者じゃ」
「中谷堂順殿です」
「中谷?妙じゃな」
その名を聞いてだ、明智は最初怪訝な顔になって言葉を返した。
「あの者は確か近頃」
「はい、病でして」
「胸の病であったな」
「それで床に伏しておられたのですが」
しかしとだ、小姓も話す。
ページ上へ戻る