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大切な一つのもの

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18部分:第十八章


第十八章

 船の中は穏やかです。王女は船室にいて侍女と共に休んでいます。騎士は外に出て従者は船乗り達にあれこれと指示を出しています。航海は順調でした。
 その順調な航海の中で。従者はふと騎士に囁きました。
「ところでですね」
「どうした?」
 騎士は従者の言葉に耳を傾けます。波は静かで風も穏やかです。海も空も奇麗に青く澄み渡っていてまるで宝石のようです。
「王様の御言葉。覚えておられますか」
「ああ、勿論だ」
 従者に対して頷き返します。
「王女様を無事叔父上の下にお届けする」
「ええ」
「そうすれば。褒美をやろうと」
 騎士は西の島に向かう前にそう王様に告げられたのです。それが何なのか。どうもわかりかねたまま航海を続けているのです。
「それだな」
「そうです。それは一体何なんでしょうね」
「さてな」
 従者に対して首を横に振ってみせます。
「それは私にもわからない。剣か宝石か」
「ですがそれは」
 従者は主の出した二つのものにはどうにも懐疑的でした。そのうえで言います。
「王様のあの何か楽しそうな御様子からして。より素晴らしいものでは」
「素晴らしいもの?」
「そうです。剣にしろですね」
 想像力を頭の中で働かせながらまた言います。
「神から授けられたものとか」
「神からか」
「ある神の持たれている一人でに動く剣とか」
 そんな武器もあるのです。だから神々は強かったりもするのです。
「そうしたものではないでしょうか」
「西の国にそんなものがあっただろうか」
「さて」
 それは誰も知りません。知っているのはそれこそ西の王様だけです。
「私に言われましても」
「わからないか」
「申し訳ありません」
「いや、いい」
 その謝罪は気にはしませんでした。
「それはいい。だがな」
「やはり御気になられるのですね」
「うむ。それは否定しない」
 きっぱりと告げます。
「だが。今ここで言ってもだ」
「仕方がありませんか」
「まずは無事西の国まで辿り着こう」
 そうなのです。まずは辿り着かなければその褒美もないのです。今ここであれこれ言っても仕方のないことなのです。
「いいな。それで」
「ええ。それでは」
「櫂を早めよ」
 船乗り達に指示を出します。
「そうして港まで急ぐぞ。いいな」
「はい」
 船を急がせ西の国に向かいます。途中で風が出たこともあり航海は順調に進みました。何事もないまま西の国の港に辿り着くともうそこには王様が家臣達を連れて待っていました。
「叔父上」
「よくぞ戻ってきたな」
 王様は船から降りてきた騎士を笑顔で迎えます。その後ろから従者や船乗り達が次々と降りてきます。皆ほっとした顔になっています。
「無事で」
「はい。しかし」
 港での思わぬ出迎えです。騎士も戸惑いを隠せません。王様はその戸惑う騎士に対して威厳と優しさに満ちた低い声で言うのでした。
 
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