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座敷牢

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4部分:第四章


第四章

 そしてだ。金之助はここでまた話すのだった。
「ですが。勉強しましたから」
「だからですか」
「おわかりになられるんですね」
「はい、何とかわかります」
 こう話すのだった。
「最初読んだ時はかなり戸惑いましたが」
「いや、流石ですね」
「本当です」
「全くです」
 使用人達はここで彼を褒めだした。何割かはお世辞が入っているにしても実際に彼のその教養を認めてそのうえでの言葉である。
「この家を継がれるだけはありますよ」
「やっぱり教養が必要ですからね」
「そうですよね」
 こう話してであった。彼等は楽しく飲んでいた。
 そうしてだ。彼は頃合いを見てだ。その蔵に向かった。既に見当はついていた。
 見れば蔵に主が入ろうとしていた。それも見えた。
 一旦物陰に隠れてだ。様子を窺う。主は蔵の中に入っていく。
 彼は意を決して彼も蔵の中に入ることにした。蔵に入るとまずは中に大小幾つかの荷物や道具が置かれていた。それを見るとごくありきたりな蔵だった。
 しかしである。その奥に階段があった。下に向かう階段がそこにあったのだ。
 すぐにその階段に向かう。そうして下を覗く。するとであった。
「元気か?」
 主のあの声が聞こえてきたのだった。
「元気でいるな。ならいい」
 こう言うのである。
「ここでいる分にはな」
「元気で?」
 金之助はそれを聞いて首を傾げさせた。
「誰かいるのか」
 それでだ。中をさらに覗く。階段も降りる。
 そしてその下の階を見るとであった。まずは木造の座敷牢が見えた。木の厚い柵が見える。
 その向こうに何かがいた。目を凝らして見るとだ。
「これは・・・・・・」
 目が一つしかない。そう、右目があるだけで左目はない。それに右手もない。肘からないのだ。そして両足は足首からない。しかもその片目の表情は虚ろな感じだ。彼はそこから白痴めいたものも感じていた。
 それを見るとであった。彼は思わず声をあげそうになった。
 だがそれを何とか止めた。だがここでだった。
 座敷牢の前に立っている主がだ。こう言ってきたのである。
「いるな」
 気付いていたのだ。背を向けたままだが確かに言ってきた。
「そして見たな」
「・・・・・・・・・」
 答えはしない。しかしそれはもう手遅れであった。
 そしてだ。主は彼にさらに言ってきたのである。
「どのみち知ってもらうつもりだった。来なさい」
「は、はい」
 その言葉を受けて下に降りる。そしてその座敷牢の中をあらあためて見る。見れば服は青い男物だ。ざんぎりの乱れた髪でその白痴めいた右目で彼を見ていた。
 歳は十かその辺りだ。彼を見てだ。金之助は思わず言った。
「あの」
「何かだな」
「この子は一体」
「息子だ」
 彼はその片目の男の子を見たまま金之助に答えた。
「これはだ。息子だ」
「御子息だったのですか」
「生まれた頃からこうだった」
 このことも話すのだった。
「本来は跡継ぎになる予定だった」
「跡継ぎにですか」
「そうだ、跡継ぎになる予定だった」
「そうだったのですか」
「しかしこうではだ」
 とてもだというのである。その片目片腕で両足がない。しかも白痴ではというのだ。
 
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