座敷牢
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2部分:第二章
第二章
「謹んで考えさせてもらいます」
「そうしてくれ。何時何処を見回ってもいいからな」
主はお墨付きまで与えた。こうして彼は実質的に家の婿養子にも認められた。それから家の中での彼の待遇はさらによくなった。
そしてである。彼は屋敷の中を何度も歩き回る。その時にだ。
家の外れの方に倉が幾つもあることはもう知っていた。しかしその一番奥の倉にだ。屋敷の、それも最も長く仕えている婆やが時々出入りするのを見つけたのだ。
最初は何も思わなかった。しかしだ。
あまりにも頻繁に、一日に数回かは出入りしているので彼もだ。次第に不思議に思った。それで使用人の一人にだ。ふと尋ねたのである。
しかしだ。その使用人にその倉のことを聞いてもだ。こう返すだけであった。
「さて」
「さて?」
「私は何も知りません」
青い顔で言うのであった。
「本当に何もです」
「知らない!?」
「はい、知りません」
その青い顔での言葉である。
「ですから何も」
「知らないというのか」
「何も御答えできません」
また言う彼であった。
「ですから。これで」
「そうなのか」
使用人はここまで話すとすぐに逃げる様に立ち去った。この時は何もわからなかった。
だが大学にいる時にだ。ふとだ。こんな話を同じ学生仲間から聞いたのである。
「君は今四賀家にいるな」
「そうだが?」
「そうか、あの家にか」
その仲間、友人と言うべき彼はだ。代々この辺りに住んでいる。それでここの生まれではない彼に対してこの土地のことを色々と教えてくれたりするのである。
その彼がだ。ここであることを話してきた。それはだ。
「あくまで噂だ」
「噂か」
「そう、僕も子供の頃少し聞いてそのうえそれから一度も聞いていない噂だ」
こう前置きしてからの言葉であった。
「あの家にはだ」
「何かあるのかい?」
「出るという噂があるんだ」
こう話すのである。
「あそこにはね」
「出るのかい」
「まあこうした噂は何処にでもあるな」
友人はここまで話したうえでこうも述べたのであった。
「実際にな。あそこまで古い家ならな」
「あるか」
「あるものさ。具体的に何が出るというとな」
「君も知らないか」
「ただの噂さ。子供の頃に聞いたな」
友人はここで笑顔になった。そのうえでの言葉であった。
「だからだ。信憑性についてはだ」
「全くないか」
「ない。まあふと思い出した戯言だと思ってくれ」
そしてこうも話すのであった。
「そういうことだ」
「わかった。それではだ」
彼もそれを受けてだ。その時は聞いただけだった。しかしそれでも興味を持たないと言えば嘘になる。彼が今実際に住んでいる家だからだ。それも当然だった。
それでだ。その日から屋敷の中を時間があれば見回してみた。しかし怪しい場所はこれといってなかった。何しろ使用人の多い屋敷だ。昼にも夜にも何処にでも人がいる。これでは不気味な場所なぞありはしない。
庭も同じだ。常に誰かが掃除をしている。使用人達は最近では彼の顔を見ると悪戯っぽく笑ってだ。こう言ってくるのだった。
「若旦那様、どうも」
「おはようございます」
既に婿入りは決まっているようなものだった。そんな状況にもなっていた。
とにかく広い屋敷だ。しかし何もおかしなところはない。酒蔵もそれを造る場所もだ。何処もおかしなところはない。何かが出ると言われてもだ。全く何もない。
それで彼も諦めかけていた。そんな時であった。
ある日の夜だ。彼が家の使用人達と共に飲んでいた。干物をつまみとしてそのうえでだ。酒を楽しんでいた。
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