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MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士

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038話

「ヴィーザルとあの猿、どちらが勝つと予想するかしら?」
「勝負は時の運だ。勝負中に様々な要素が重なって何が起こるか解らん」

レスターヴァ城の一番奥の暗闇の中にポツンと浮かんでいる光の玉に映し出されるレスターヴァ城で行われている最後のウォーゲーム第一戦"ジャック対ヴィーザル"。互いに一歩も譲らない戦いは激しさを増して行きヴィーザルは天に常に成長を続ける魔性の植物"ユグドラシル"を発動しその木の上で戦いが続けられている。

「6年前のウォーゲームでもこのような対決があった。その時はヴィーザルが勝ったが」
「今回はどうなるだろうな」

チェスの駒の女王(クイーン)たるディアナとそのディアナを守護し愛を誓った騎士(ナイト)たるジーク。戦いを見守るジークは疼くような体を押さえ込むように腕を抑えている。

「戦いのかしら?」
「ああ。俺も戦士だからな………戦いのさ」
「ふふふっ近くで見てきてもいいのよ?」
「なら、少ししたら見てくるさ。今は君の傍に居よう」

愛おしそうに彼女の手を取りそこへキスを落とすジーク、偽りの記憶によって産み出された愛情だが彼にとってそれが本物の愛と恋人。ディアナの記憶の改竄に穴は無い、例えドロシーと戦ってもジークの心は揺らぐ事がないように。じっくりとジークの心を取り込みその中にあった一番大切な存在の価値を無くすのではなくどん底に叩き落す。

「愛してるわジーク」
「俺もだよディアナ」

ドロシーという価値は彼の中では転がっている石ころと同価値になってしまっている。


「ゆけいスネーキーボーン!」
「こっちも行くっすよ!メヒィトス!!!」

場面は切り替わりレギンレイヴ城の決戦場、大樹ユグドラシルの枝が無数の頭部を持つ大蛇のように襲い掛かってくる太く巨大な枝の怪物たち。それを迎え撃つはカルデアで貰い受けたARM"メヒィトス"。超巨大な食虫植物であるガーディアンはユグドラシルに巻き付きながら向かってくる枝の大蛇に巻きつき圧し折っていく。

「ほっほう!やるのぉ」
「まだまだ負けないっすよ!!メヒィトス、シードブレス!!」

食虫植物と瓜二つなガーディアンはその口から真っ黒な種のような玉を砲弾として次々を発射しヴィーザルへと攻撃を仕掛けていく。

「ほほっぉう種、か。ならば、ブラインディングバード!」

ユグドラシルへと突き刺さろうとしていた種の砲弾はヴィーザルが繰り出したガーディアンによって一瞬で腐敗させられてしまった。植物使いの本能が拙いと囁いたのか直ぐにメヒィトスを後退させジャック。シードブレスが一瞬で腐るなど普通は有り得ない現象が起きている事から今のは植物使いにとっては天敵とも言えるARMが発動していると判断したからだ。

「予想以上に冷静じゃなジェイクの息子や。これが私のガーディアン"ブラインディングバード"じゃ」

ヴィーザルの頭上で羽ばたく枯れ木の巨鳥。その巨鳥が触れた植物全てが腐り崩れ去っていく、つまりジャックのような植物使いにとって天敵のARM。

「このブラインディングバードは敵が出す全ての植物を腐らせる事が出来るARMじゃ。さあ如何するジェイクの息子よ?お前の父ジェイクもこの力の前に敗れたのじゃ」
「こいつが……!」

植物を主にしその力を借りて攻撃防御をする植物使いにとってそれを腐敗させる力は最大の敵。火などに強い植物は存在するが植物自体の腐敗は正に天敵。

「おいらは負けないっす!!ジークさんを救い出すためにも、そして故郷で待っている母ちゃんの元に返るためにも爺ちゃんを倒すっす!!これがおいらの奥の手!!!」

右手に嵌めていた大粒の宝石がはめ込まれている指輪を取りそれを強く握り締めながら一気に魔力を込めていく。ジャックの体から溢れかえっていく魔力が次々と指輪に吸い込まれていくかのように消えていく様は正に異様そのもの、ある種ファヴニールの召喚の際にも似ているような印象を受ける。

「余りにも強力すぎて大爺様も封印するしかなかったARM!その名も」
「鬼火属フォレ!目覚めろ!!」

カルデアの大爺もファヴニール級に厳重な封印を施していたARMが魔力による枷が解かれ今目覚めた。

「呼っばれて飛び出てじゃんじゃぁ~んのぽよよよぉ~ん!!!」
「へ?」
「え?」
「ひょ?」

……ドロシーの恐ろしげなARMの説明を聞いていた一同はどれほど強大で恐ろしいファヴニール級のガーディアンが出てくるかと思っていたら現れたのは妖精(ベル)サイズの小さな男のような姿をしたガーディアン。

「あれが恐ろしいガーディアン………?」
「メッチャキュートやな」
「あっれ~?私も見るのは初めてで~」
「いやあれとんでもねぇARMだぞ」
「ああ、凄まじい勢いでジャックの魔力を吸っておる」

アランとガイラの言葉通り発動してからジャックは明らかに苦しげに膝を付いている、メヒィトスもARMに戻している所を見ると魔力がすごい勢いで消費され続けていることになる。

「(可笑しいっす……こ、こんなに小さいのに……なんて魔力を………!!)」
「ご命令をボス!イッヒヒヒヒ!!!」
「あ、あいつを……倒すっす!!!!」

悪戯小僧のように笑うフォレに指示を出すジャック。これほど小さい為に不安にもなるがただ出しているだけで此処までの魔力を喰らっているという事実がガーディアンの凄さを物語っている。

「了解しましたーはい!(パチンッ!!)」
「なっなにぃ!?」

フォレが一度指を鳴らすとブラインディングバードの体が一気に炎上し10秒もしないうちに燃やしつくし灰にし地面へと落とした。たった指を鳴らすだけでそこまでの大火力、これがファヴニールと同じだけの封印を施される理由。

「爺ちゃん覚悟するっす!!次はこの木をやっちまうっす!!!」
「はい~!それじゃあボス魔力お願いします~!」
「任せるっす!!このためにガイラさんに長い間門の中に入れて貰ったんだぁあああああ!!!!」

炎のガーディアンに驚かせはしたもののヴィーザルは落ち着いていた。この魔性の大樹(ユグドラシル)は決して燃えぬ事は無い、魔力の源を断たなければ破壊は困難。養分が人々の憎しみや悲痛といった負の感情というマイナスの力が充満した樹木はこの世に存在するあらゆる物よりも硬くどんなエネルギーにも強い。

溜めに溜めた水を排出するダムのように魔力を放出するジャック、凄まじい魔力の奔流がフォレに力を与えていく。使い続ければ命すら危うくなる程魔力を吸い上げるARM 鬼火属フォレだがジャックの魔力はそれを十二分に運用できるだけの魔力を確保していた。

「この大樹、ボスから送られてくるこれだけの魔力と思いがあれば。ちょいっとな!!」

燃え上がっていくフォレの肉体、金と赤に輝く炎がフォレの手によってユグドラシルへと叩き付けられた。通常の炎なら確かにヴィーザルの思った通りユグドラシルは耐えるだろう、だがその炎は普通ではない。

「ユ、ユグドラシルが………燃えている!!?」
「そうっす!!爺ちゃん言ったすよね、この木は人々の憎しみや悲痛を養分にするって!!!ならその逆の力を送り込むまでっす!!」
「逆……!?」

燃やされていくユグドラシル。それだけではなくユグドラシルの表面はボロボロと腐りながら崩壊し炎が中に浸透していく。ジャックからフォレへと流れていったのは魔力だけではなく喜びや笑い、楽しさといった正の感情。今日までメルの仲間達と過ごしてきた楽しい記憶、それを燃やしユグドラシルを枯らし燃やす最高の炎を生み出した。

「まさかユグドラシルを燃やすとはのぉ………ふぇっへっへっへ………」
「爺ちゃん、おいらは自分の力で空にまで届く植物育ててみせるっす!!」
「ふぇっへっへっへ……そうか………わしの、負けじゃな」

ウォーゲーム最終決戦第一戦 ジャック VS ヴィーザル

勝者 ジャック 
 

 
後書き
鬼火属フォレ

ジャックがカルデアでもらったガーディアンÄRM。ファヴニール同等の封印がされていた危険なARMであり使用者の魔力を尋常ではない速度で吸い上げるので長時間使用すれば使用者は死に至る。がそれに見合う火力を発揮する。火力だけで言えばファヴニールに近い物をもる。 
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