魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico39転移門ケリオンローフェティタ~Road to Alfheimr~
前書き
ちくしょう! 今回でもまだ終わらなかった!
†††Sideフェイト†††
ハート3を辛くも撃破した私たちは重傷を負ったフィレス二尉を、ここ天空城レンアオムっていうリンドヴルムの本拠地にまで乗せてくれた、管理局の次元航行艦ジャスミンの医務官と一緒に搬送した。
「フィレス。あとは私とルシルで何とかするから、ゆっくり体を休めてね」
「申し・・わけ・・・ありません・・・」
ストレッチャーに乗せられて運ばれるフィレス二尉にそう伝えるシャルロッテさん。フィレス二尉は肋骨や両腕、右足の骨を折っていて、喋るのも辛いはずなのに「あと、は・・・お願い、します・・・」頷き返した。そして医務室へと直行したフィレス二尉のストレッチャーを見送った私たちは・・・
「では彼女を護送室へお願いします」
「「「「はい!」」」」」
次に機動一課の前線部隊の1つ、フレア分隊に連行されてるハート3の方を見る。あの人はシャルロッテさんの一撃を受けて気を失ったのに1分としないで目を覚ました、正しく怪物。でもシャルロッテさんとフィレス二尉の魔術のダメージが抜けきっていないこともあって、なんとか自力で歩ける程度の様子。だからたとえ暴れても、あの様子に神器無しなら今の私でも勝てる。
『ふ、ふふ・・・私を倒したところで意味は無い・・・。ボスやシュヴァリエルさん、戦力としてのハート2が居れば、リンドヴルムは死なない・・・! アハ、ハハ、アハハハハ!』
ハート3は狂気に駆られたような笑い声を念話を使って上げ始めた。何故念話かというと、口が閉じられないようにタオルを頭に巻かれているから。これまで逮捕したリンドヴルム兵はこぞって奥歯に仕込んだ毒薬で自害してる。それを阻止するために私たちは、ハート3撃破の直後にタオルを巻いた。
「おい、黙るんだ!」
フレア分隊の人が念話止めさせようとしていると、『こちらブリッジです。状況報告いたします』ジャスミンの通信士から通信が入った。
『先程、ハート2とセレス一士班の戦闘が終了。これでハート1とルシリオン捜査官の勝利を合わせ、ドラゴンハートの全滅を確認しました』
ドラゴンハートの全滅。それはとても喜ばしい報告だった。反面ハート3にとっては聞きたくなかった報せで、『そんな・・・馬鹿な・・・』力なく床にへたりこんだ。そんなまるで人形のように体を弛緩させたハート3を、フレア分隊は護送室へと連行して行った。
「ルシル君・・・。シュヴァリエルさんに勝ったんだね・・・。良かったのに、嬉しいはずなのに・・・」
なのは、それにアリサやすずかは、シュヴァリエルと何度か顔を合わせたり話をしたりしたみたいだし、素直にシュヴァリエルの敗北・・・死を喜べないんだと思う。しんみりする中、ここエントランスのトランスポーターに転送の際に生まれる光が発せられた。転送されて来たのは、ハート2の撃破を任されたすずかやはやて達だった。私たちはお互いの勝利と無事に喜び合ったんだけど・・・
「あの、お姉ちゃんは・・・?」
セレスがこの場に居ないフィレス二尉の姿を捜す。フィレス二尉と一緒に戦ってた私となのはが少し沈んだ表情を浮かべたことで、「お姉ちゃんに何があったの!?」セレスが詰め寄って来た。
「命に別条は無いから安心して。今は医務室で治療中よ。セレス、あなたも怪我を負っているようなら行って来なさい」
「え、あ、はい・・・」
シャルロッテさんがセレスを一瞬にして宥めた。外見は10歳のイリスなのに纏う雰囲気は大人の、不安な状況でも安心できる包み込んでくれる温かさというか優しさがある。セレスは「じゃあ、私、ちょっと行ってくる」私たちに一度お辞儀して、医務室へと駆けて行った。
セレスを見送ってすぐ、遅れてまた別の転送反応。転送されて来たのはゲイル分隊とストレッチャー1台。乗せられているのはハート2の正体のホムンクルスだった。天使化している時は彫像のようだけど、普段のホムンクルス時は皮膚の色は気色悪いけど普通の男の人の物。大事な部分が隠れるように首から下にタオルケットが掛けられている。
「イリス捜査官。ハート2の事ですが、護送室の方が良いでしょうか? それとも医務室へ?」
「どれどれ・・・。あれまぁ、上手に焼けちゃって。神器書はどうしたの?」
布団を捲ってハート2の全身を確認したシャルロッテさんの問いに「天使が燃やしたんやけど・・・」はやてが答えた。シャルロッテさんは少し考える仕草をした後「そう。なら護送室へ」ゲイル分隊に指示を出した。ゲイル分隊は敬礼してハート2が載せられたストレッチャーを護送室へ運んで行った。
「さてと。ハート2もハート3も、そしてハート1のシュヴァリエルも倒れた。あとはリンドヴルム首領を探し出して捕縛。それと神器をアールヴヘイムへ返す。それで私たちの戦いは終わる」
私たちみんながその言葉に頷き返す。そんなところに通信士から『こちらブリッジです。ルシリオン捜査官からの通信をそちらにも繋げます』そんな連絡が入って、私たちの前にモニターが1枚と展開された。映っているのはルシル1人だけど、場所はレンアオムの景色じゃない。どこかの建物の中みたい。
『先ほどブリッジから連絡を貰ったよ。誰も犠牲になることなくハート2とハート3に打ち勝ってくれたようですごく安心した』
「ルシル君も無事そうで何よりや! 無茶とか無理とかしてへんか?」
『俺は大丈夫だよ。シュヴァリエルもなんとか救えたし、今の俺は最高の気分だ。まぁ、シュヴァリエル戦の映像記録は年齢制限を掛けざるを得ない程の血生臭だけどな』
そう言って微笑むルシルだけど「もう! 心配する方の身にもなってな、ルシル君!」はやてはお怒り。一度シュヴァリエルに負けて瀕死にされてしまっていたルシルの姿を思えばそんな気持ちになるのも判る。そしてルシルが『ごめんごめん。で、これからの事なんだが――』ここまで言いかけた時・・・
『マイス――じゃなかった、ルシル♪ ステガノグラフィアがラレス・ウィアレス2番艦の制御プログラムのクラックに成功したよ♪』
モニターの画面外から女の子の声が聞こえてきた。どこかで聞いたことのあるような声なんだけど思い出せない。なのは達もそんな顔。でも「この声・・・おい、まさか!」ヴィータや「ええ、そうよ!」シャマル先生、あのシグナムですら思いっきり「間違いない!」表情を輝かせていた。
『こっち、こっち』
ルシルが画面外に向かって手招きをする。すると『な~に~?』リインくらいの小さな女の子がルシルの側に飛んで来た。以前敵として出会って戦い、友達としてお別れしたアイル・ザ・フィアブリンガーと同じ真っ白な子で、腰の辺りから一対の白い翼を生やした・・・
(思い出した。古代ベルカ時代でのシグナム達の家族だった融合騎・・・!)
「「「「アイリ!!」」」」
シグナムとヴィータとシャマル先生、それにザフィーラがその子の名前を呼んだ。ヴィータとシャマル先生に至っては嬉し涙を流してる。
『っ! シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ♪ うわぁーん、逢いたかったよぉ~!』
アイリという子も嬉し涙で顔を濡らしちゃった。シグナム達とアイリの再会に私も心が温かくなる。ルシルは『アイリも無事に奪還できた。あとは首領と神器の返却だけ』そう言って、シャルロッテさんの方を見た。
「私はすぐに出られる。けど、フィレスとセレスは戦力外通告。フィレスが重傷。一応骨折だけだけど休んでもらってる。セレスはその付添いね」
モニターが2枚になって、1枚はシグナム達やはやてとリインが喋り合って、もう1枚でルシルやシャルロッテさん、私たちが話し合う。とは言っても私たちはもうやる事は無い。私たちのリンドヴルム攻略戦は、ハート2とハート3を撃破した時点で終わった。ハート3は想定外だったけど、ハート2や3との戦いで私たちが消耗しきることは作戦の内に入っていた。
(悔しいけど、実際に神秘カートリッジは使い潰したし、これ以上の全力全開による戦闘続行が出来るだけの魔力も無い。出来ることと言えば・・・)
『そうですか。今、俺とアイリはアールヴヘイムへ向かうための策としてロストロギア艦のシステムのクラックを終え、特捜課の先輩たちの協力のもと神器を搬入しています』
「了解。私もそっちに向かうわ。首領は?」
『いいえ。1番艦を調査しましたがその姿は有りませんでした。スノー分隊とアース分隊がレンアオム下層の捜索をしてくれていますが、未だに発見の報せはありません。最悪アールヴヘイムにすでに渡った可能性が・・・!』
「捜索の手が足りない、か・・・」
そう、出来ることと言えば「私も捜索に参加します!」それくらいだ。私が挙手すると「私も!」なのはや「あたしも!」アリサ、「わたしらもや!」アイリと喋っていたはずのはやて達もいつの間にかこちらに合流して挙手していた。
「ルシル。どうかしら?」
シャルロッテさんが私たちを一度見回した後、ルシルにそう確認した。するとルシルは『動けるのであればお願いしたい』私たちに頭を下げた。私たちはそんな行為をすぐに止めさせたいから「もちろん! 今すぐに!」即答してモニターに背を向ける。
「ブリッジ。私たちも出ます! 転送よろしくです! あぁ、私はルシルの元へ!」
『あ、はい! イリス捜査官はルシリオン捜査官の元へ。なのはさん達は捜索がまだのところへ転送します!』
「そうだ。みんな、首領を見つけたら戦闘を仕掛けないって約束してね。あと、一応はリンドヴルムの戦力は壊滅したけど、私たちの知らない戦力がまだ居る・・・かもしれない。だから単独行動は厳禁ね」
転送の光が発生する中でそう言ったシャルロッテさんに私たちは「はい!」頷いて応えた。そして視界が真っ白に染まって、光が治まればそこは瓦礫と化したレンアオム。シャルロッテさんだけが居ない。ルシルの元へ転送されたんだ。
「さて。どうする。集まって捜索するのは不効率だが・・・」
「それなら2手に別れましょうよ」
というわけで、私となのはとアリサとすずかとアルフ、そしてルミナ。はやてとシグナムとヴィータとシャマルとザフィーラ、そしてベッキー。2つのチームに分けて首領の捜索に入った。
私たちが担当することになったのは転移門“ケリオンローフェティタ”に最も近い遺跡のような場所。円形状の石畳に、縁に沿うように立ち並ぶ円柱状の石柱が数十本。周囲に建造物は無くて、200m先で動きがあれば気付きそうな程にだだっ広い空間だ。
「・・・捜索するも何も捜すような場所ないんじゃない」
「遺跡みたいなところだし、何か仕掛けとかないかな・・・?」
アリサが愚痴を零して、なのはが石畳をコンコンと“レイジングハート”の柄頭で叩いて歩く。私も周囲に並立している石柱を直に触ったり“バルディッシュ”で叩いたりしながら何かしらのギミックが無いかと確認する。
「スノーホワイト。サーチお願い」
≪かしこまりましたわ≫
「さすがに匂いじゃ判んないね~」
「ぶっ壊せば何か出て来るかな~?」
すずかは探査魔法を発動、アルフは狼形態になって匂いを嗅いで、ルミナはパンチ1発で石柱を粉砕した。そんな風に首領が隠れられるような場所を探して数分。アルフが「うお? なんだい!?」変な声を上げたから、私やなのは達は何かと思ってそっちに振り向いてみる。転移門を背に、真っ白な光が発生していた。
「敵の攻撃・・・?」
私たちは一斉にデバイスを構えて光を囲う。そんな中、「え・・・?」すずかが警戒を解いてその光へ向かってヨロヨロと歩み寄り始めた。止めようとした時、「す、ず、か・・・」光から声が発せられた。
「ケリオン君・・・!」
「ケリオンの声だわ!」
「じゃあ、この光は・・・!」
光が少しずつ人の形を取り始めて、「ケリオン君!」「ケリオン!」の姿になった。すずかとケリオンが同時に駆けだしてお互いの両手を取った。私たちも遅れて2人の側に駆け寄る。
「ケリオン君! 無事だったんだね!」
「心配したわよ!」
「ちゃんと助けるから心配しないでね!」
「うん! シュヴァリエルももう居ないから大丈夫!」
私たちはケリオンを安心させるべく声を掛けていく。でもケリオンの表情は晴れることなく、小さく首を横に振って「お別れを言いに来たんだ」泣き笑いを浮かべた。
「お別れ・・・?」
「ごめん、すずか、みんなも。元はと言えば僕のシステムが乗っ取られて、こっちの世界とアールヴヘイムが繋げられなければこんな大事にはならなかった・・・」
「そ、そうだとしても・・・、それじゃ私たちはケリオン君に出会えなかったんだよ!」
「なのは。元より会うべきじゃなかったんだ、僕たちは」
「んなっ!? ふざけんじゃないわよ!」
「アリサ。ごめん・・・。でも本当の事だから。無関係な人がたくさん死んだ。僕が本来在るべき世界の武器が、こっちの世界の生命を蹂躙したんだ」
「それは、リンドヴルムが悪用したからであって・・・!」
神器は武器だけど、それは使い方によって凶器になる。今回は使う方が犯罪集団だった。だからあんな酷いことになったんだ。
「フェイト。それは結果論だよ。僕がしっかりしていれば良かっただけなんだ。だから、もうお別れにしようと思ったんだ。今、神器お――・・・ルシリオンとシャルが神器を以ってアールヴヘイムへ帰還する。それを最後に僕もアールヴヘイムへ帰るつもりだ。そして、二度と開かないように自己封印を掛ける。だから・・・お別れ」
私たちに背を向けたケリオンに「嫌!」すずかは抱きついて逃がさないようにした。それと同時ジャスミンのブリッジから、リンドヴルム首領を発見、ルシルとシャルがアールヴヘイムに向かった、との報告が入った。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
アールヴヘイムから奪い取られて来た39個(これで全部じゃないがな)の神器を、電子戦用魔術ステガノグラフィアによって俺の支配下に置いたラレス・ウィアレス2番艦というロストロギア艦に運び入れ終え、そして今は転移門“ケリオンローフェティタ”への出向準備を整えている最中だ。
ブリッジは艦体に合わせての三日月状で、操作盤らしいものは何1つとして無い薄ら暗い空間だ。操作盤は無いが、曲線を描く壁に沿って90cmほどの円柱が7本と立ち並ぶ。断面には幾何学模様があり、ソレに触れることで操作できるようだ。艦長席には四角柱の柱があり、コレが本艦のメイン操作システムとなる。コイツにステガノグラフィアを潜り込ませることでシステムを乗っ取ることが出来た。
「マイス――コホン、ルシル~♪」
シュヴァリエルから奪い返すことが出来た家族、アイリが俺の元へと飛んで来た。小さな体で俺の頬に寄り添って頬擦りをしてくる。そんなアイリは「ねぇねぇ、やっぱりマイスターって呼んじゃダメ~?」何度目かの確認をしてきた。
「ああ、ダメだ。今の俺はオーディンではなくルシリオンだ。そこは区別しておきたい」
「変なの~。アイリは、オーディン、って呼んでるわけじゃないんだよ? アイリを御する資格を有するから、マイスター、って呼んでるだけなんだし。ルシルはこれからアイリのマイスターになる。ほら、マイスター呼びでも良くない?」
「それは・・・」
即座に言い返せない。今後の俺の事を考えれば、アイリのマイスターははやてにしておきたい。そのために今の内に俺への執着を弱らせておきたい。
(バンへルド、グランフェリア、シュヴァリエルの3機を救うことが出来た・・・)
ガーデンベルグとリアンシェルトの二強は未だに俺を悩ます問題だが、約2年で2機を救えたんだ。この調子で行けば10年内に俺は“堕天使エグリゴリ”全機を救えるだろう。
(シュヴァリエルめ。厄介な置き土産を遺してくれたものだ。奴がアイリに俺の真実を伝えなければ、こんなに悩む必要はなかったのに・・・)
オーディンとルシリオンは別存在としておきたかった。アイリは、外見からして俺をオーディンと重ねるくらいはあってもマイスターとは呼ばなかっただろう。俺への執着もはやてやリイン、シグナム達の存在によってそんなに強くはならないはずだった。だが、俺がオーディン本人であると知った今、アイリは俺への執着はかなりのものになっている。
(近い将来、ガーデンベルグと戦う時、アイリに別れを告げようとも今度は死ぬまで俺について来るだろうな)
最強の“エグリゴリ”、ガーデンベルグとの戦いは正しく俺の存在を消費して闘うことになる。となれば俺の側、ユニゾンしているアイリは確実に死ぬ。そうならないために、俺への執着を弱めておきたい。だからマイスター呼びではなく名前呼び。とは言っても、これでも弱めることが出来ないかもしれない。いや、真実を知った時点で俺の策は成らない。そう、もう考えるだけ手遅れなんだ・・・。
「(最悪の手段・・・記憶を消すしかない・・・か)・・・じゃあアイリ。俺と2人きりの時はマイスター呼びでいい。が、それ以外の時はルシルで頼む」
「アイリとマイスターだけの秘密の約束?」
「ああ、俺とアイリの2人だけの秘密だ」
「っ! ふふ、うふふ、やったね♪ マイスターの真実を知ってるのもアイリだけ、この約束もアイリだけ、こんなに嬉しい事、幸せな事なんてないよね!」
今はもうアイリの好きなようにさせよう。満面の笑みで万歳を続けるアイリが俺の頭の周りを飛び回る。シグナム達とゆっくり話も出来たし、アイリにとってこの短時間で幸せいっぱいになったんだろうな。数百年。あまりにも待たせ過ぎたもんな。
「アイリ・・・」
「ひゃわっ!?」
俺の目の前に来た時にアイリの頭を撫でてやった。最初は驚いたアイリは「はにゃ~❤」破顔して、俺が出した右手の平のちょこんと座りこんだ。とそんな時、「ちょっといい?」ノック3回と一緒に声を掛けられた。
「騎士シャルロッテ・・・?」
アクアブルーの長髪にアザレアピンクの瞳をした少女、シャル(もしくはイリス)がブリッジへ入るためのスライドドアの側に佇んでいた。彼女は「シャルロッテの方よ、ルシル。イリスはちょっとお休み中」ウィンクして、俺の座る艦長席の側まで来た。
「お休み中って。トロイメライをやはり使ったのか。あれだけ無茶はするなと言っただろう」
「許してよ。ハート3の神器が本気でまずかったんだって。光翼と誓鎧と不傷剣、そして魔剣アゾートのフル武装だったんだから」
「光翼までもリンドヴルムの手に渡っていたのか・・・」
「ありゃ? あんまり驚いてない?」
小首を傾げるシャルに、「コレを見たらな」そう言いながら展開したモニターに表示した左舷貨物室の様子を見せる。雑な動きでも崩れないように壁に固定してある数ある神器の中、簡易のベッドの上に寝かされた少女が1人映り込む。
「女の子? この子も人化できる神器・・・?」
「ああ。神造兵装の第38位、天裁サテッリス・ラーディウスだ」
「ぶふっ!? は、はあ!? 天裁!?」
シャルは思いっきり唾を噴いて驚きを見せる。アイリが「すごいの?」って俺に訊いてきた。俺は頷いて、“天裁”の恐ろしさをアイリに話す。“天裁サテッリス・ラーディウス”。衛星軌道上から神罰クラスの砲撃を雨のように降らすというものだ。威力も砲速もとんでもなく、俺の最高の防性術式・多層甲冑ゴスペルでも防げないし迎撃も出来ない。狙われたらそこで終了。そんな神器だ。
(大戦時に一度だけアールヴヘイム魔術師が100人がかりで使ったが、その魔力消費の大きさにそれっきりとなったな・・・)
シュヴァリエルがなりふり構わず“天裁”を使っていれば確実に俺は死んでいた。
「そんなにすごい神器だったんだね」
「ところで。その子がリンドヴルムに捕らえられていた融合騎なんだよね」
身震いしていたアイリにシャルが歩み寄りジロジロと全身を舐めるように見ると、アイリは「な、なに・・・?」身を引きながらシャルの全身を見た。
「あはは。怖がらせたんなら謝るよ。私はシャルロッテ・フライハイト・・・なんだけど、この体の持ち主であるイリスの前世の意識なの。この体の持ち主であるイリス共々これからよろしくね♪」
「前世・・・」
「それと、ルシルがお世話になってるようで。これからも彼のこと助けてあげてね」
「アイリはアイリ・セインテスト。そんな当たり前のこと言われなくても判ってるもんね」
シャルから求められた握手をアイリはジッと見た後、その小さな手で握手に応じた。そんな2人を微笑ましく眺めていた時・・・
「「っ!!」」
悪寒が走った。俺は急いでブリッジの全面にパノラマモニターを展開して、艦の外を映し出す。そして表示するのは直感的に感じた“ケリオンローフェティタ”の扉部分。その巨大さゆえにサーチャーは12基が分布されている。12の分割映像をシャルやアイリと一緒に確認して・・・
「マイスター! シュヴァリエルが、ボス、って呼んでた人!」
アイリが一番端の映像を指さしたためその映像を拡大、そしてその映像以外を消す。今まさに転移門を潜ろうとしている人間が映りこんだ。ローブを羽織り、頭部がフードで隠れている。離れていても判るこれほどの神秘。どんな神器を持っているのだろうな。
「こちらルシリオン! ジャスミン、アールヴヘイムへ単独飛行中の首領を発見した! ラレス・ウィアレスも向かいます!」
『あ、はい、了解です! お気を付けて!』
「ルシル! 本艦周囲から特捜課員の退避を確認! いつでもどうぞ!」
「ああ! ラレス・フィアレス・・・、テイクオフ!」
俺の周囲に展開された空間モニタータイプの操作ボードのキーを叩き、ラレス・フィアレスを離陸時のGが全く無いまま発進させる。ようやく俺は、俺と関わり深い世界へと帰ることが出来るんだ。感無量とはこういう事を言うんだろうな。
「そう言えばさ、ルシル。未回収の神器なんだけど、どうすんの?」
機動一課隊舎より逃走した“ブリード・スミス”や、クー・ガアプ課長の情報で未だに5つの神器が回収されていないのだと言う。この1回で全て返したかったが・・・。
「転移門の開閉システムと座標設定システムの管理権を借りることが出来れば良いんだが、それが無理だった場合は・・・俺が直接持って帰るさ」
ガーデンベルグを救い、アースガルドに封印されている俺の肉体に掛けられた不死と不治の呪いを解除し、“界律の守護神テスタメント”の任を終え、肉体に還ることが出来れば、アールヴヘイムに戻ることも可能だ。それまでは“神々の宝庫ブレイザブリク”に取り込んでおけばいい。
「そう・・・」
「???」
重い空気になってしまった。俺がアースガルドに帰れば、おそらくシャルやはやて達とは永遠に会えなくなるだろうしな。寂しげな表情を浮かべるシャルの頭を一撫でし、「アイリ、ユニゾン頼む」アイリの頭も撫でる。
「っ!! ヤヴォール❤」
満面の笑みと一筋の涙を流すアイリが元気よく返事してくれた。アイリから差し出された小さな右手を取り、「融合!」彼女とユニゾンを果たす。彼女が俺の内側に居る感覚、とても懐かしい。安心感があると言うか・・・。
『マイスターの中、本当に久しぶりだね☆』
「少し無茶をさせるかもしれない。すまないな」
ラレス・フィアレスをオートパイロットモードにして、「シャル、頼めるか」彼女の隣を通り過ぎならブリッジの出入口へ向かう。
「愚問だよ、ルシル。そのために私も、イリスも頑張っているんだから」
「ありがとう」
「どういたしまして♪」
(シャルが側に居てくれると言うのも大きな安心感を得られるな)
そして、黄金に光り輝く超巨大な転移門、その僅かに開いている扉から溢れ出す純白の閃光へと艦が進み、「あぁ、ただいまだ」転移門を潜った。アールヴヘイムに戻って来たことが判るほどに全身に神秘の魔力を感じた。シャルも「懐かしい、この感じ」感慨深げに小さく息を吐いた。パノラマモニターに、約2万年ぶりのアールヴヘイムの世界が映った。
「ルシル、泣いてるの・・・?」
「え?・・・あ、あぁ、すまない」
シャルに指摘されて気付く。気付かないうちに俺は涙を流していた。袖で涙を拭い、「さぁ、行こう。首領とご対面だ」ブリッジ両舷にある2つの出入り口の1つから艦内の主要通路へと出る。三日月状の全翼型の艦体であるため、通路も艦体に沿って左右に向かって曲線を描いている。
「シャル。カートリッジを渡しておく」
「ありがと♪ ハート3との戦いで消費しちゃってたから助かるよ」
通路を歩いて中央(ちょうど艦長席の真後ろだな)へ目指し、そして1つのスライドドアを潜る。そこが外界と艦内を隔てる出入り口であるエントランストランスポータールームだ。パネルを操作して転送機能を起動させると足元が光に溢れる。
「ルシル」
「ん?」
「勝つよ」
「ああ!」
『アイリのことも忘れないでよね!』
「おっとごめん、ごめん♪」
最終決戦前の空気が少しだけ緩くなった。そして転送が始まり・・・終わった。視界内が真っ白な光から黄金の光が満ちた世界であるアールヴヘイムへと変わる。
――瞬神の飛翔――
――真紅の両翼――
上空を覆う上層雲海と地表を覆う下層雲海の狭間、俺たち“アンスール“メンバーの姿が彫刻された黄金の支柱が左右に並び立ち路を作っている広大な空間が視界に入る。何もかも懐かしい。このアールヴヘイムをこれ以上好き勝手させるものか。
俺が設定したオートパイロット機能によってラレス・フィアレスがかつて住民が住んでいた浮き島の1つへ向かい始める。今もその島に人が居れば、着陸したあの無抵抗の艦から勝手に神器を運び出してくれるはず。たとえそこに住民が居なくても別の島から、何かあった、として来てくれるだろう。
「ミスター・リンドヴルムッ!!」
拡声術式で何倍もの声量にしたうえで首領に呼び掛ける。するとすぐに「こうして直接話すのは初めてだなランサー、いや神器王!」呼び掛けに応じた首領が俺たちの目の前に現れた。
『ルシル。コイツ・・・ヤバい・・・!』
『ああ。直接相対してよく判ったよ。コイツは・・・俺たちと同類だ!』
明らかに現代に存在していいような神秘持ちじゃない。“エグリゴリ”ではない。神器でもない。となると間違いなく魔術師。しかも大戦に参加していても何らおかしくないほどの圧倒的な実力者。誰だ。首領の正体はいったい誰なんだ。
「ミスター・リンドヴルム。シュヴァリエルは消滅し、ホムンクルスも撃破された。リンドヴルム兵も全員が逮捕され、拘置所へと連行された。お前のリンドヴルムは壊滅した。諦めて捕まるといい!」
「馬鹿を言うな、神器王! 私はロストロギアが好きだ、神器も好きだ、あらゆる財宝が好きなのだ! アールヴヘイムの神器は実に美しく素晴らしいものだった! なれば別の世界の神器はどうなのだろうな! まだ見ぬ美しき神器があるだろう! 心が躍る躍る!」
「説得は無理みたいね」
「みたいだな。アイリ、頼むぞ」
『張り切っちゃうもんね!』
“エヴェストルム”の神秘カートリッジを2発とロード。シャルもデバイスの“キルシュブリューテ”の神秘カートリッジを1発ロード。警戒から臨戦態勢に移行。
「神器王。君の精神世界にも数多くの神器が眠っていると聞いた。ソレらも渡してもらおうか!」
首領がローブを脱ぎ捨てた。アイリの言うようにその外見は初老の男性。燕尾服にアスコットタイといった服装で、出で立ちは正に紳士と言った感じだ。だが人間には無いはずの物が首領の異質さを物語らせていた。
「翼と尾・・・!」
「馬鹿な、魔族だと!! くそっ、今頃になって・・・!」
首領の背中からは黄金の輝くコウモリのような翼が一対、腰と臀部の狭間からは黄金の鱗に覆われた太い尾が生えていた。そこでようやく俺は思い出すことが出来た。どこかで感じた神秘なのかを。首領から感じ取れていた神秘はかつての大戦時、それに魔界へ訪れた際に何度も身に感じた魔族の脅威。自分の間抜けさには本当に殺意が湧いてくる。
「まずは圧倒的な力量差を見せつけてくれよう! そして私に・・・、我が偉容に屈服せよ神器王!」
――顕現――
首領の体が紅蓮の炎に包まれ、そしてその炎の中から首領の真実の姿が出現した。ビリビリと肌に感じる存在感、魂まで燃やし尽くされそうな程の熱波、俺をちっぽけな人間に落とす強大な神秘。目を疑った。信じたくはなかった。現実であっては欲しくない、と・・・。
「ねぇ、ルシル。私・・・夢、見てるのかな・・・?」
「あぁ、しかもとびっきりの悪夢だ・・・」
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「「っ!!」」『ひゃあああああ!』
単なる雄叫びで俺とシャルは吹き飛ばされ、「ぐはっ!?」数百mと離れていたはずの転移門の扉に叩きつけられた。
「見よ、我が黄金に輝きし美しき肢体を! 聴け、我を最強と讃えし厳かなる名を! 畏れよ人間、敬えよ人間、讃えよ人間! 我が名はスマウグ! 魔界最下層にてあらゆる財を蓄え護る、宝を司りし竜王なり!」
竜王スマウグ。別名黄金竜。それがリンドヴルム首領の正体だった。本来は火竜であるため鱗は真紅なのだが、護るべき宝の1つでもある黄金が自身の炎や熱で溶け、鱗にこびり付いてしまっていることで黄金に輝いている。その全長は約70m。翼を広げた全幅は140m。その巨体さだけで圧倒してくる。
「ダメだ、勝てない・・・、戦いにならない・・・」
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