MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士
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036話
「後一歩……お前が倒れるのは遅かった俺の負けだった………否今でもお前の勝ちだ。称えよう、竜騎士よ―――そしてすまない」
既に勝負はつきカルナの勝ちは覆らない。倒れ伏したジークに敬意を払いつつ謝罪したカルナは残った右腕に握られていたARMを発動させた、それは粘性を持った闇を生み出し動く事の出来ないジークへと絡み付いていく。
「ジ、ジーくん!!!待ってて私が!!!っ!?ど、どうして、どうして身体が動かないのよ!?」
恋人の危機に真っ先に飛び出そうとしたドロシーだが既に限界以上の魔力と精神力をファヴニールへと捧げていた影響で疲労はピークを迎えていた。動かそうと必死になっても指一本動かすことが出来ない。
「俺の主からの命は竜騎士を死なない程度に蹂躙し我が元に連れて来いという物だといった筈だが。あまり気は進まないがな」
「いやぁやめてぇえええ!!!」
次々と闇が取り付いていくジークをただ見る事しか出来ない不甲斐なさと恋人を奪われてしまうという絶望感が一気に押し寄せてくる、泣き叫び連れて行かないでと懇願するが闇は止まる事を知らず遂にその身体を覆い尽くしてしまった。
「ジークを離せぇえええええ!!!バッボ!!」
「うむ!!行くぞギンタァ!!」
「私も行くよギンタ!!」
唯一まだ戦ったおらず魔力も体力もMAXなギンタとスノウが飛び出しカルナへと襲い掛かる。バッボと共に地面へとおりジークへと手を伸ばすがそこへ仮面の男、イアンが妨害に入る。
「ギンタ、お前の相手はこの俺だと言った筈だ」
「イァアアアンッ!!そこどけよ!!」
「断る。お前を倒すまでな、おいカルナお前さっさとどけよ」
「言われるまでも無く俺は消える、これで主からの命令も完了だ」
腰に繋がれている最後のARMを発動したカルナ、そのARMによって闇は転移させられジークは消えた。そして同時にカルナの肉体にも薄れていき消えていく。既にジークとの戦いで限界を迎えていたのかそのまま消滅していった。
ディメンション系のARMだとアランは気づくがそれ以上に拙いのはメルの最高戦力である"ジーク"が連れて行かれた事とその行き先。恐らく行き先はチェスの駒の本拠地であるレスターヴァ城。
「ジ、ジイイイイクゥウウウウウン!!!!!!!!!!いやああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「ド、ドロシーしっかりしろ!!意識を保て!!」
「しっかりしやがれこの野郎!テメェがしっかりしねぇでどうすんだ!?それでもあいつの恋人か!!」
ジークが消えた事で絶叫を上げてショックを起こすドロシーを必死に抑えなんとか正気に戻そうとするアルヴィスとアラン。悲しみと絶望、そして自分自身への憤怒が溢れきったその表情を見たアランは苦虫を大量に噛み潰し、彼女の首へ手刀を入れた。
「いや……ずっと、い……ょってい、ったのに………」
「ア、アランさん………」
「こうするしかなかったんだ、勘弁しろよ」
そこへ同じく苦虫を噛み潰しているギンタとバッボが戻ってくる。
「ドロシーは………?」
「強引だが寝かせた、お前はいいのか」
「まずはスノウが戦うって……」
「ギンタ、気持ちは解るが耐えるんじゃ。今は早急に勝負をつけるしかない」
「解ってる……!」
「アイスドアース!!」
「シャボンレオ!!」
継続されるウォーゲームはスノウ対マジカル・ロウという男との戦いとなった。幼い頃の自分の子守役立った男との戦いにスノウは戦い難いかと思われていたが覚悟を決めていた上に目の前で大切な仲間が連れて行かれたという現実がスノウに強い信念を宿らせていた。
「ふむ、これも一撃ですか」
「本当は貴方と戦いたくないけど私はジークさんを助けたい!だから、全力で貴方を倒す!!!」
「………本当に、頼もしくなられましたね姫」
愛する妹の成長を喜ぶ兄のような表情をするマジカル・ロウ。迫りくる氷の刃を防御もせずにそのまま受け続ける。これまで使用してきたARM シャボンレオやフレア・ウォールなども一切使用せずに攻撃を受け続ける。
「どうして防御しないの……!!罠!?」
「(私は確かにディアナ様に忠誠を誓っております。しかしこれでもなんと言うのでしょうねぇ………長年貴方のお守りをしてた影響か)」
「ウンディーネ!!」
―――貴方の事を好いてしまったのですよ姫。
『アクアニードルス!!』
地面から噴出す水の槍を甘んじて受けるマジカル・ロウ、高所から地面に落下し満足げな笑みを浮かべてから目を閉じる。
「勝者、スノウ!」
「マジカル・ロウ……貴方」
「竜騎士は、かの城にて女王の手に………お急ぎになってください姫」
そういって消えていくマジカル・ロウに複雑な表情を向けてから皆の元へと戻るスノウ。兎も角このバトルを終わらせなければならない。
「ギンタァ……さあやろうぜ………!!」
「イアン……!!」
「カルナ、最後に下僕としていい働きをしたな」
闇に身を預け揺蕩うジーク。そんな騎士へと手を伸ばす女王、未だに意識は戻らず深い傷は塞がっていない。その傷に手を伸ばし血を拭い口へと運ぶディアナ。
「………ぁぁ……やっぱりお前こそ……!!」
胸元からARMを取り出し傷を治癒させ更に手を伸ばそうとしたが何かが自分を拒んでいる。ジークの意思とはまた違う何かがジークを守ろうと健気で弱弱しい反抗を続けている。
「そうかドロシーの思いなのねこれは。羨ましいわね、こんなに互いを愛し愛されている関係なんて―――そんな関係が欲しい」
更に新たなARMを取り出し額へと押し当てていく。ARMからは激しい光が溢れていき様々な物を映し出していく。ドロシーとの出会い、ギンタとの出会い、修練の門後のドロシーとの触れ合い、互いの気持ちを素直に吐露した夜。ARMが映し出していくのはジークの記憶。この世界で体験してきた全ての事柄であった。
「そう貴方にとってドロシーはそれほどの存在なのね。守るべき人、共に歩みたい人。―――ならその全てを私が奪う」
変わっていく。今まで体験してきた記憶の全てが書き換えられていく、ドロシーとの出会いが砕けていく。彼女と交わした口付けが消えていく。互いの身体を抱き締めあった事が溶けて行く。身体を重ね本当の愛を囁き合った事が、置き換わっていく。
「もう貴方は私の虜、永遠に共に私と共に過ごす騎士になるのよ。愛しい私だけの騎士」
記憶とはそれまでに培ってきた人生の全て。それらを失うだけではなく置き換えられるという事は全く違う人間になるに等しい事、もうジークは彼ではなくなってしまった。
「ディ、アナ………探し、たよ………」
「さあ来てジーク。私の元へ」
瞳を開いたジークにはディアナしか映っていなかった、何の躊躇も無くディアナへと歩みその腕で彼女を抱きしめその体温を愛しそうに味わっている。長年愛に会えなかった恋人のように、女王を甘く尚且つ強く抱きしめる。
「もう、君を放さない……傍にいるって誓ったのに遠くにいて、ごめんな」
「いいのよジーク、もういいの。さあ愛を、確かめ合いましょう?」
―――邪悪な竜を打ち倒した騎士は、愛すべき女性の元へはもう戻れない。何故なら、彼の瞳には最初から魔女しか映っていなかった。
「おめーに大切なモノを失った気分が解るか?あぁ!!?解るのかよギンタァア!!!」
「ハァハァ………」
激しい戦いが続くギンタとイアンの対決。ダークネスARM 悪魔の絆によって魔力を血として流し続けている現状、だがそれ以上に毒々しくも禍々しい魔力を纏ったイアンの激しい攻撃にギンタは終始圧倒されていた。
「大切なもの……俺にだってある!!目の前で親友を連れ攫われた、俺は絶対にドロシーの為にもジークを助けるっ!!!!」
「ぐっ!!」
「バージョン4、アリス!!」
「しょうがないのぉ、本当は嫌なんぢゃがな」
聖なる力を発揮する形態に変化したバッボによってダークネスの呪いは解除され悪魔も絆は外れる。
「一刻も早くジークを助けるんだ俺は!!それにそもそも大切なものを失う羽目になったお前達がチェスに入ったからじゃないのか!!」
「うるせえええええ!!!!」
「あんたはもう解ってる筈だ。だから自分を許せない」
「それ以上言うんじゃねぇええええ!!!ガーディアン!!ぺリュントン!!!」
召喚されたガーディアンは正しく悪魔の巨人、自分を許す事が出来ず怒りのままに前に進む男の心を具現化したかのようなガーディアン。それに対抗するように出現した悪魔。悪魔対悪魔、だがそのうちに秘めている思いが二体の悪魔の大きな差となっている。
ぺリュントンは腹部にある巨体な口を開きそこへ魔力を集中させていく、ガーゴイルもそれに対抗しリングを離しそこへ魔力を集中させていく。ぺリュントンとガーゴイルは一際大きい咆哮を上げた。ガーゴイルの咆哮はリングによって増幅されていき破壊エネルギーを伴った強力な光線と化し、ぺリュントンの口からも強力な光線が放たれた。
「お前はギドを思う気持ちで強くなった。そんで、俺がジークを助けたいって気持ちは同じぐらい強いんだ!!」
その言葉と同時に一瞬爆発的に高まった魔力によって強化された光線がぺリュントンを貫いた。
「………魔力が…尽きた……」
「お前のする事決まってるだろ?ギドに酷い事した奴…倒すんだぜ!」
魔力切れで倒れこんだイアンへと話しかけるギンタ。疲労で倒れているイアンだがその声は非常に清々しくなっていた。
「勝者ギンタ!これよりにウォーゲーム7thバトルの勝者、メル!!」
「イアン!!ジークはレスターヴァに居るんだな!?」
「それは恐らく間違いないっしょ。ディアナの手の中に居るはずだね」
「(ディアナ……ドロシーの姉ちゃんでスノウの継母……!待ってろよジーク!)」
「ジーくんは………レスターヴァに………」
「てめぇ起きてたのか!?」
「絶対に、助けるから……!!」
「あとアラン、後で思いっきり殴らせてね」
「げぇ!?」
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