無人列車
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3部分:第三章
第三章
「少なくとも今みたいじゃなかった」
「患者さんもそりゃ誰でも受け入れるのはいいですよ」
隆之はそれはいいというのだ。
「診療拒否が問題になってますしね」
「それはな」
医療ミスやそうしたことが問題になって久しい。
「けれどそれでもですよ」
「入院が必要なのかという患者さんまで入院させてだ」
「それでおまけに、ですからね」
「課題だのレポートだのだ」
「あの院長何を考えてるんですかね」
隆之は首を傾げさせながら話した。
「俺達もう皆へとへとですよね」
「それでも病院の名声も収益もあがっているそうだがな」
浩成は今度はこのことを話した。彼は比較的無表情で話し隆之は不平不満をそのまま顔に出してそのうえでお互いに話をしていた。
「それでもだ」
「俺達はもうそろそろ限界ですよね」
「全くだ。何とかならないものか」
「院長はいいですけれどね」
「俺達が持たない」
「全くですよ」
そんな話をしながらその終電を待っていた。するとであった。
彼等から見て左手に出て来た。その終電がだ。二人はそれに乗った。
まずは誰もいなかった。二人だけがだ。浩成はそれを見てまず隆之に言ってきた。
「これからなんだな」
「はい、これからです」
二人並んで席に座った。どの席も空いているので好きな場所に座れた。そのうえで話をするのであった。
「出て来ますから」
「御前以外の人達がだな」
「そうです。そろそろですね」
「来るか」
動く電車の中での話だった。そうしてだった。
二人から見て右手からであった。そちらの扉が開いた。そうしてそこからまずは年老いた一人の老婆が杖を持ってやって来たのである。
隆之はその老婆を見てだ。そのうえで浩成に問うた。
「おかしいですよね」
「終電にお婆さんが乗っているなぞ有り得ないな」
「ええ、どう考えても」
「そうだ。有り得ない」
これは確実に言えた。
「絶対にだ」
「それにですよ」
そしてだった。その老婆の次には詰襟の学生が出て来た。今度は中学生らしい。まだ幼い顔立ちがそれを何となくだがわからせた。
「ほら」
「今度は学生か」
「やっぱりないですよね」
「こんな時間に中学生がうろついているものか」
それも制服で、である。幾ら不良であろうとも終電に中学生が乗っていることなぞ有り得ない。それでわかることであった。
「それに次はか」
「子供ですよ」
小さな女の子だ。幼稚園のものと思われる制服を着ている。
しかもだ。そこからも延々と続く。若い女だったり中年のサラリーマンだったりするが彼等がぞろぞろとやって来るのだ。そのうえで二人の前を通り過ぎていく。
「何だ?これは」
「これを毎日終電で見るんですよ」
ここでまた話した隆之だった。
「毎日ですよ」
「異様なものだな」
「何度も言いますが電車の中にいるのは俺だけですよ」
「確かめたんだな」
「何なら全部の車両を見回りますか?」
浩成に顔を向けての言葉だ。
「それですぐにわかりますよ」
「ああ、そうしよう」
浩成も強い顔で応える。
「さもないとこちらも納得できない」
「じゃあ」
まずは隆之が立った。続いて浩成がだ。そのうえで二人で向かいだ。全ての車両を見回した。それも端から端までだ。しかしいるのはやはり二人だけだった。あの老婆も学生も子供も誰もいなかった。二人だけであった。
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