逆襲のアムロ
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4話 天才の思惑 9.21 サイド6 6バンチコロニー
ホワイトベースに搭乗していたウォンがサイド6の6バンチコロニーに仕事都合で寄りたいという旨、
寄港していた。
このコロニーには中立ならではの国を超えた企業間のアカデミックな研究施設が建設されていた。
第3国として開戦時より中立を保つ上で双方の合意を得るに双方の都合や主張が入り交じり、
よりこのサイドの在り方が複雑化した。その典型がこの6バンチコロニーであった。
そしてそのコロニーは通称インダストリアル1と呼ばれていた。
コロニー内には大学も併設しており、様々な機械分野の専門家が連ねていた。そして、木星事業や戦時に主力のMSパイロットの養成にも一役かっていた。合法公認の下での無法地帯というべきコロニーであった。
* インダストリアル1 企業間研究施設内
アムロ、テム、ブライトは私服に着替え、ウォンの後に付いていった。
その場所は機動兵器研究所という大型施設だった。
「なんて陳腐なネーミングだ。中立を唱っているのに兵器研究とは」
ブライトは露骨に嫌な顔をした。アムロは苦笑し、テムは興味津々で周囲を観察していた。
ハービック社、ヴィックウェリントン社、ブラッシュ社、ヤシマ重工
ホリフィールド・ファクトリー・ウエポンズ社、ジオニック社、ツィマッド社、MIP社、
その他関連企業すべてのスタッフが共通の仕事着で各々の研究室を持ち、共同研究をしていた。
この施設自体は開戦してからの開業だとウォンが教えた。
そして、ブライトは疑問に思った。
「なぜ、ジオンは有利なモビルスーツの技術をこうも露出するのか?」
「ブライト君は軍人だから理解しがたいのだろうな。我々企業は昔より国の法に縛られながらも国に囚われないで商売をすることが基本だ。有利な技術を生み、特許を取り、世に売りさばき、そしてまた新商品を創造する。そうして企業は成長していくものだよ」
ウォンの説明にブライトは最もと思い、このコロニーの在り方を理解した。
そしてウォンは3人を連れ、とある応接間へ案内した。
応接間のドアの前に立ち「失礼します」とウォンが言い、部屋に入っていった。
3人もその後に続いた。
その応接間には1人の恰幅の良いスーツの中年男性が居た。
テレビでも有名な顔だった。アナハイム・エレクトロニクスの社長
メラニー・カーバインその人だった。
「紹介しなくとも理解できよう。こちらが弊社の代表取締役社長カーバインだ」
「よろしく。メラニーだ。君たちの活躍は既に聞いている」
テムはこちらこそと挨拶をし、アムロ、ブライトもそれに倣った。
「そちらのソファーに座ってください」
メラニーに促されると、3人は座り、ウォンはメラニーの隣に腰を下ろした。
「さて単刀直入だがガンダムの戦闘詳報には実に興味深いことがある。アムロ君。君の操縦センスだ。
君の細やかなマニュピレイトがここの研究者には一番の関心事だ。君には彼らにそれを教導して欲しい。できるかね?」
アムロはためらった。このセンスとその知識は13年掛けて培われたものだからだった。その破壊力創造力は計り知れない。可能性については高々13年だ。この当時の演算処理装置でも2年で13年分の技術躍進が可能と思っていた。そしてこのリスクは果たして早期決着に持ち込めるか否かを。
「戦争を早期終戦に持っていくためにはやぶさかでないか・・・。分かりました社長。やらせていただきます」
メラニーは顔がほころんだ
「そうか!テムさんも優秀な息子さんお持ちで誉れ高いでしょうね。あなたにもアナハイムの技術顧問として連邦より出向要請が出ております。参加していただけますか?」
「ええ。よろこんで。共に時代を創りましょう」
テムはメラニーとガッチリ握手を交わした。
その光景にブライトは唖然とした。
「少佐は予備役に入るのですか」
「ブライト君。私は軍命に従い、アナハイムへ出向するのだ。既に私宛の異動通達が届いていた」
「なんと・・・小官は。ホワイトベースはどうすれば・・・」
ブライトは困惑した。特命もフォン・ブラウンまでだったからだ。
「ブライト君はフォン・ブラウンに着き次第、新たな軍艦に乗艦し、艦長についてもらう手筈になっている」
メラニーはブライト見つめそう言った。
「私に艦長を・・・」
「そして、その後地球へ降りてもらうことになる。ジャブローが先のガンダムとホワイトベースのデータにより、量産化を始めた。プラントをフルスロットルで生産を始めれば1週間でモビルスーツが50体は生産できよう。」
「50体も・・・」
「そうだ。そのペースはあっという間に上がるだろう。そして我がアナハイムも新型製品の開発で支部のキャルフォルニアを動かす。ジオンの勢力圏だが、反攻作戦の一環として、キャルフォルニアの解放をブライト君らにその担い手として任せたい」
ブライトはいぶかし気にメラニーを見た。要人だが軍関係者ではない民間人が軍事のことを語っていることに違和感を感じた。
「政治と経済は昔から結びついているものだよ。私らも平和を願っているのだよ。さもないと主力商品の日用雑貨・家電が売れないんだ。戦時では」
メラニーは冗談交じりで微笑みながら答えた。ブライトはため息をついた。
「分かりました。そこまでお膳立てするには何か勝算がおありなんでしょう?」
「流石だ。私の見込んだ軍人だ。これを見たまえ」
メラニーは傍のプロジェクタースクリーンに今後の行程を映した。
「まず、フォン・ブラウンへ向かう。テムさんとはここでお別れだ。本社の技術部主任に就いてもらう。ブライト君とアムロ君らは弊社の用意したペガサス級ホワイトベースの後継グレイファントムに乗ってもらう。それにガンダムと弊社の製作した試作機を搭載して、1か月間フォン・ブラウンで訓練してもらう。その後、ジャブローの各方面とアナハイムの生産したMSを連邦軍に多数取引した後、地上と宇宙同時に反攻作戦を開始する流れだ」
テムとアムロはその作戦の投影されたスクリーンを見つめていた。ブライトは汗ばみ手に力が入る緊張さ加減だった。
「大体2ヵ月でおおよその勢力圏が変わるだろう。すべての地域に大軍を用いるのだ、これ以上の陽動はあるまい。それでキャルフォルニアは手薄になる。その隙にブライト君らはキャルフォルニアのジオンの拠点を空から電撃攻略する。未だかつて大気圏投入できる艦艇がジオンはないと思っている。が、ペガサス級はそれを可能とする艦艇だ。そこで不意をつけるわけだ」
メラニーは説明終わると一息ついて、どうかねとブライトへ回答を促した。
「よい作戦だと思われます。何よりも軍上層部の統一見解であるわけでしょう。従いざる得ません」
ブライトは首をすくめて、困った表情をした。それを見てアムロが笑った。
「ブライトさん。やっと余裕が出てきたみたいだね」
「茶化すな」
「いや、その余裕はきちんと大局が見れている証拠だよ。俺達はこの数日間でいろいろ変化しては成長できているよ。そのことは大事だよ。」
アムロがそう言うと、テムも頷いた。
「そうだな。なんかブライトくんの凝りも多少は解れたと思う」
ブライトは2人にそう解釈され、少し微笑んだ。
「では、恐縮ですとでも言っておきましょう、レイ少佐」
「指揮官で大切なことは状況判断だ。どうすれば生き残れるか、それだけ考えれば死なずに済む。戦争なんて生き残ったものが勝ち組だからな」
テムがブライトにそう話すとメラニーが相槌を打ち、閑話させた。
「さて、アムロ君。君に技術者に教えろと伝えたが、動作関係のことで十分だ。それ以上は知らないと言い切りなさい」
アムロは釘を刺された。メラニーとしてもアムロの潜在能力が計り知れないと踏んでいた。アムロはためらいの理由をメラニーに悟られ、かつ彼の考えも一応は理解しておきながらも敢えて質問をした。
「なぜですか、メラニーさん」
「君は、君の技術は確かにあらゆる企業に恩恵を与えるだろう。しかし、戦争の早期決着を望むなら、我がアナハイムだけにすべきだ。我々がジオンを凌駕する戦力を生み出せば戦局は自ずと知れたことになるだろう。とりあえずアナハイムも1企業だ。私らだげ有利な材料を持っていては、皆の顔を立てないとならないのでね。」
「確かに。分かりました。では、早速済ませてきますが・・・」
「わかった。ウォンくん」
「はい、社長」
「アムロ君を案内して差し上げなさい」
「かしこまりました」
そう言って、ウォンはアムロを連れて各研究室へ案内して行った。
* 同研究施設内 ヴィックウェリントン社第19研究室内
ヴィックウェリントン社のある研究室に研修で来ていた優秀な研究者がいた。
飛び級で航空学・宇宙工学を修め、パイロット養成も兼ねてこのインダストリアル1に
弱冠18歳で訪れていた。
「ふむ。で、私にこのMSのテストパイロットも兼ねて製作に携わって欲しいと」
「そうなんだ。君の論文を読ませてもらった。君のジョイントのフレーム技術は
あらゆる作業する上でかなりの精度があるが、如何せん私らの知恵だと理解がついていかない」
「フッ、ならば用はない。まだその技術も紙面では可能だが、実際にはまだできない技術だから。
私の方もまだ詰めなければならないし、君たちもそれまで勉学に勤しむべきだよ。では、失礼する」
「あっ、待ってくれ」
そう言う前にその男は翻して研究室を後にしていた。
* 同所内 ラウンジ
窓際でカップのコーヒーを飲み干すと、窓を通して外を眺めていた。
「ここも、この程度か。。。何かあると思ったが気の迷いだったようだ」
そう思うと、ファイルの中から木星事業団の参加申込書を手にとった。
「地球圏にいるよりはマシか・・・」
そう記入しようとしたとき、スーッと頭に軽く電気が走った感じがした。
改めて周りを見渡すと1人の男に目が留まった。15,6歳ぐらいの茶髪のくせ毛の子だった。
しかし、その男は何か興味が湧いた。
「あの若いの。ただならぬ雰囲気を感じる。私の勘はこれだったか」
男はかすかに微笑み、自室でその茶髪の男子がアムロ・レイということが分かった。
そして、軍籍に身を置いているということ。幸い予備役だがその男も中尉という肩書を
もっていた。何かとエリートやら天才がこんな風に役立つとはと思った。
それからの行動が早かった。あっという間にメラニー・カーバインにたどり着き、
ホワイトベースへの乗艦を取り付けた。
9.22 サイド6宙域 * ホワイトベース 艦橋
9月22日、ホワイトベースはウォンとメラニーを乗せ、フォン・ブラウンへ出港した。
もちろん1人の男も乗艦した。そして、メラニーがその男を艦橋にて皆に紹介した。
「1人クルーが増えることになった。機械や宇宙工学に飛び級でかつ博士号も取得している。そしてパイロット養成でインダストリアルにも出向し並々ならぬ成績を残している。私も学科の教員も太鼓判な優秀な人材だ。入りたまえ」
そう言うと、一人の長身の均整とれた若い男性が艦橋に入ってきた。
「予備役だったが、このたび中尉で軍籍に復帰することになったパプテマス・シロッコくんだ。仲良くしてやってくれ」
「紹介預かりました。パプテマス・シロッコです。お見知りおきを」
シロッコは皆に握手をして回った。アムロにも握手を求めてきた。
「アムロ君だね。よろしく。君にいろいろ教わりたいと思っている」
「そう。よろしく」
アムロは突然のシロッコの襲来にリアクションが返せなかった。
厄介事が増えたのか減ったのかが今の自分には見当が付かなかった。
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