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妄執

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3部分:第三章


第三章

「そしてだ」
「そして」
「このまま死に妄執が残ればだ」
「それでまことに」
「餓鬼になり果ててしまうかもな」
「では和尚」
 小僧は蒼白になったままの顔で恐る恐る彼に問うた。
「どうすればいいのでしょうか」
「どうすればか」
「はい、このままでは」
 彼は言うのであった。
「キンさんはやがて」
「だが言って聞くならばだ」
「聞くならば」
「最初から鬼にはならない」
 こうも言うのであった。
「それならばな」
「ではあの人が死ねば」
「考えておくか」
 和尚はまた言った。
「その時のことはな」
「どうされるのですか?」
「何、ちょっとしたことだ」
 今はこう言うだけだった。
「妄執を絶つにはだ」
「それを絶つには?」
「妄執だ」
 それだというのである。
「毒には毒ということじゃ」
「毒ですか」
「そうじゃ。今はとにかく」
「様子見ですね」
「それしかない」
 こう話されて今は動かないのだった。しかしその間もキンの金への妄執は続き彼女は金を集め続けていた。そうして遂にであった。
 呆気ないものだった。すぐに死んでしまった。集金に自分からせかせかと動いていたがその途中にであった。ばったりと倒れてしまったのだ。
 急性心不全である。それで死んでしまった。身寄りもいないので寂しい葬式だった。和尚と小僧が名乗り出てそれで開いた葬式だった。
 社員達は流石に着ているがそれでも寂しいものであった。葬式の飾りは贅沢であったがそれだけだった。寒い葬式の場であった。
 通夜が終わりと残る者はいなかった。誰もである。和尚はそれを見て呟いた。
「誰もいないな」
「そうですね」
 小僧もそれを見て言う。
「これがあの人の人生か」
「誰も残らずに残ったのは」
「何もない」
 その装飾だけの葬式の場を見て話す。
「お金というものはあの世に持って行くことはできないからな」
「ええ」
「明日またここに来よう」
「お葬式ですか」
「それだ。それが終わればだ」
「それでキンさんはですか」
 小僧の声も寂しいものだった。その誰もいなくなり静まり返った場を見回しながらだ。
「無縁仏にですか」
「お墓はこちらで用意してある」
 和尚が述べた。
「お寺にな」
「そうなんですか」
「せめてお墓だけでも周りに誰かいていいだろう」
 そしてこう言うのである。これは和尚の温情であった。
「だからな」
「では明日は」
「はい、明日ですね」
 葬式の話もしてで、であった。彼等も場を後にした。そうして誰もいなくなった。
 筈だった。しかしであった。
 棺が動いてきた。そうしてである。
 不意に銀行が破られた。強盗であった。誰もいないその場所にである。
 翌朝そのことが早速ニュースになった。大騒ぎであった。
 テレビでも新聞でもである。ニュースになり。和尚と小僧もそれをテレビで聞いた。
「とんでもないことが起こったみたいですね」
「そうじゃな」
 二人は朝の読経の後で今は朝食を食べていた。その時にテレビを見ていた。
 
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