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ある戦車兵の手記

作者:島原
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ヴェーザー演習作戦[デンマーク侵攻]

 
前書き
ドイツが作戦を進めるうえで重要だとされていたデンマーク。
その侵攻作戦を行う戦車隊の中に一人、配給食糧と持ち込みの食べ物を片手に日記をマメにつける者が居た…。 

 
ミュラー・レオン/ドイツ第三帝国機甲化師団第25機甲化師団、一号車車長

1940年4月8日

デンマークへの道中

―――――――――――――――――――――――――

「しかしこの一号戦車、今現状の装備で足りているから問題は無いがこの先他国も戦車を開発してるとするなら一気に性能不足に悩まされるぞ…。」

銀色に鈍く光る缶を取出し、蓋を開ける男。
彼の名はミュラー・レオン。親衛戦車大隊に配属された若兵。
階級は曹長、身長はちょうど170センチで体躯も程よく、小柄な1号戦車に体系がよく似合っている。

「今現在、ドイツは戦車開発を『していない』という体で過ごしていますからね…。まぁ、それも残すところ数時間といったところですが…。」

同じく銀色の缶から液体飲料と思われるものを取出し、水分補給を図る男。
彼の名はフリードリヒ・シュナイダー。ミュラーの直属の部下で階級は1等通信士
身長167センチとミュラーよりは低めでこれもまた小柄な1号戦車にあう体系をしている。

彼らの搭乗する戦車は1号戦車A型。
第一次世界大戦に敗れたドイツは兆がつくほどの多額の借金を背負わされ、一時は札束が紙くずも同然の価値になるまで経済が衰退した。
そこから、連合軍への復讐心を絶やさず臥薪嘗胆の意で軍事力を秘密裏に高めていった。
その一環として計画されたのが戦車開発。
当初は【農業用トラクター】の技術開発として他国を欺き、構造がよく似たトラクターを3両英国から輸入することに成功。
これを元に開発されたのがLeichttraktor(独語で軽トラクターの意)である。
しかし、近代戦車としては性能が不足しすぎていることから不採用、量産は見送られ新基準に基づいて各社改良を重ねた車両がこの1号戦車A型である。
武装は7.92ミリ機関銃を砲塔正面に二門装備。
装甲厚は一番厚い部分でも13ミリと薄い。
機動力も最高時速37キロを誇るが、それはカタログスペック上の話で実際は毎時30キロ出ればいい方とされていた。

「もっとも、上の方じゃこの戦車は技術習得用らしいからすぐに新型を作るとは思うんだが…」

戦闘糧食を食べ終えたミュラーに、無線通信が飛び込んできた。

「こちらA39拠点、ここから2キロ離れた都市でデンマーク軍と衝突した。かなり数が多い。
ついては機械化師団の支援を要請したい。繰り返す、A39地点だ。」

「おっ、早速ドンパチやりやがったな。A39地点は…ここから約25キロ離れてるな。
シュナイダー、アクセル全開だ!」

「そ、そんな!今だって毎時20キロで巡航してるのに全開なんてしたら…」

「いいから黙ってアクセル全開にしろ!」

水平対向エンジンが唸りを上げるとともに1号戦車は急加速しながらA39地点へと進んだ。








―――――――――――――――――――――――――
1940年4月8日
午後一時三十分、A39地点
―――――――――――――――――――――――――

「A39地点、聞こえるか?こちら第25機甲化師団長、ミュラー・レオン。
指定地区に到着、指示を請う。オーバー。」

「こちらA39地点指揮拠点、そこから十二時の方角へ一・五キロほど進んでくれ。そこが最新の報告から弾き出した予測交戦ポイントだ。気をつけろ、パンツァーファウストの所持を目撃した兵士も居る。」

パンツァーファウスト(対戦車兵器)か…。この一号戦車にシュルツェンを着けるような余裕も無い。なるべく、歩兵で無力化をしてほしいが無理な場合はこちらで何とか対処する。」

「分かった。では武運を祈る。」

通信が途切れたことを確認するとミュラーはヘッドセットを近くへかけた。

「シュナイダー、お前の操縦の腕を頼りにしてるぞ。相手はパンツァーファウストのおまけつきだ。」

「そ、そんな!勘弁してくださいよ!」

「大丈夫、お前の普段通りを見せてやればやられることはない。向こうだってまだ戦車は保有してないはず。そうともなればせいぜい無反動砲だろうぜ。」

「分かりました…。」

ミュラーはかけてあったヘッドセットを再度とり、僚車に通信を送った。

「各車伝達!心して聞け。
すでに報告に上がってるとは思うが、こちら側の戦力はA39地点制圧に割いた歩兵戦力が二百、野砲三十に我々第25機甲化師団の一号戦車が十両。対して相手は歩兵戦力三千の内の約六割が壊滅。だがまだ相手は動ける上にパンツァーファウストのおまけつきだ。各車弾薬配分のチェックを怠るな。そして横の連絡を密に取れ。いいな?」

一呼吸間を置いた後、張りのある声で

Panzer Vor!!(戦車、前へ)

と叫んだ。
 
 

 
後書き
と、まあこんな感じでふっと頭の中に浮かんだので初投稿です。 
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