戦国異伝
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第二百二十九話 隠されていたものその五
「ここはあ奴にも話すか」
「そうされますか」
「そしてじゃ」
「そしてとは」
「あ奴の話を聞くか」
こうも言うのだった。
「ここはな」
「と、いいますと」
「その虎穴にじゃ」
まさにそこにというのだ。
「入るかどうかな」
「奥方様もですな」
「共にな」
「ううむ、それは」
「止めた方がか」
「それがしは殿もです」
信長も、というのだ。
「そうしたことをされることを」
「望まぬな」
「だからお止めしているのです」
今もというのだ。
「危ういことは」
「そこは爺じゃな」
「はい」
その通りだとだ、平手も答える。
「賛成出来る筈がありません」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「殿のやり方では、ですな」
「ここはじゃ」
あえてというのだ。
「中に入りな」
「その虎の穴の中に」
「相手が来た時にじゃ」
「その時こそ」
「仕掛けるのじゃ」
「そうされますか」
「生きてな」
「では帰蝶様も」
「一つ誘ってみる」
信長は笑ってまた言った。
「その様にな」
「ではこれより」
「帰蝶のところに行ってな」
そのうえで、というのだ。
「話をしてくる」
「では」
こうしてだった、信長は帰蝶のところに行き実際にこの話をした。すると信長の話が終わったその時にだった。
帰蝶は笑ってだ、こう信長に自ら言って来た。
「では私も」
「まだ問うてはおらんぞ」
「しかし私ならばです」
やはり笑って言う帰蝶だった。
「こう言うとわかっておられたのでは」
「ははは、そう言われるとな」
信長も笑って返した。
「その通りじゃ」
「では」
「では行くか」
「はい」
帰蝶はここで頷いた。
「上様と共に」
「それではな、しかしじゃ」
「しかしといいますと」
「相手に気付かれぬ様にな」
「その者達に」
「それは気をつけておいてもらおう」
「では具足は持ち込まずに」
帰蝶は自身の武具のことを言った。
「陣羽織も」
「薙刀じゃな」
信長も答える。
「それ位じゃ、わしもじゃ」
「具足は持たれずに」
「刀と槍、そしてな」
「弓矢ですな」
「そうしたものは用意するがな」
具足まではというのだ。
「それ位じゃ」
「若し具足まで持って行けば」
「相手も怪しむ」
「読まれているからこそ具足まで持って来て備えている」
「そう思われてはかからぬ」
その相手がというのだ。
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